気になる人の異性の知り合いってなんであんなに気になるんだろう
服を作ってあげてからゆかは前にも増して楽しそうにしている。
ゆかが喜んでくれるだけで僕もとても嬉しくなっている。なんとも心がほっこりする。
そんなある日の昼下がり彼がやってきた……。
「ゆか、そろそろご飯を食べるよ」
「はーい。ちょっと待ってて。水をあげたらすぐに行くから」
「待ってるよ」
ゆかは僕が食事をする時、いつも僕の食事を眺めるのが日課になっていた。
彼女は食事をしなくてもいいんだけど、眺めているだけで食事をしているような気分になるといつも同じ時間を共にしてくれる。
僕がリビングへ行こうとすると庭から知らない男の声が聞こえてきた。
「ゆかどうしたんだい!? 庭の手入れなんかしていて! 外で力を使っているのを人間に見つかったらどうするんだい!?」
「よしがみさん! 久しぶりです!」
ゆかの嬉しそうな声が庭から聞こえてくる。
「最近これてなかったけど、いったい何があったんだい? ゆかも会えなくて寂しかっただろ?」
僕が庭に戻ると、ゆかがその男に抱きしめられていた。
ゆかは少しびっくりしたように身体を硬直させている。
なぜか見てはいけないものを見てしまったような気がしてすぐに隠れる。
心臓がドキドキとして締め付けられるように苦しい。
こっちの世界でゆかが抱きしめられているということは、あの男はこの世の者ではないのだろう。
「やめてください……よしがみさん……」
ゆかの弱々しい声が聞こえてくる。
「あっごめん。つい久しぶりだから感情を抑えられなくて。服変えたんだね。とっても似合ってるよ」
ゆかはよしがみという男に口説かれていた。そりゃベアがいるくらいだから、幽霊だとはいっても他に知り合いもいるだろう。僕のような人間とは生きている時間がそもそも違うのだから。
僕の常識の範囲でわかることなんてほんの一部だ。時間の流れも死への価値観も違う。
その時、台所の方から走ってきたアヤが僕の頭を思いっきり蹴り付ける。
「痛い! 何すんだよアヤ!」
僕は追い出されるように玄関へと飛び出す。
「まさか。この家に人間が住んでいるのかい? 人間が嫌がるトラップをしかけて置いたのに作動しないのか? 待っていて僕がいますぐ追い出すから」
「違うの! よしがみさん。この人は私のことがしっかり見えるのに優しくしてくれるとってもいい人なんです」
僕はアヤに頭を蹴られたせいで変な感じで登場することになった。
真正面からよしがみという男を見る。
よしがみはイケメンと言われるような顔だちをしていて僕とは全然違う。だけど……瞳の奥に何か嫌なものを感じた。それが何なのかはまったくわからないが。
上手に言えないが腹の底から何かゾワゾワと嫌な感じがしてくる。
いつのまに来たのか僕の手をマシロとハクビが握ってくれる。その手の温かさが僕を正気に戻してくれた。
「ゆか、その人は?」
「もっくん、紹介しますね! こちらがよしがみさん。私にここの龍脈があることを教えてくれた神様で、いろいろと助けてくれてる人なんです。こちらもっくん、人間なんだけど私のことが見えたりしてすごいんですよ」
「神とは言っても成り上がりの神だから、それほど力はない方だけどね。初めましてもっくんさん。ゆかがお世話になっているようで」
「初めましてよしがみさん。ゆかとはどういった関係なんでしょうか?」
言葉が少し強くなっているような感じがする。
マシロとハクビが僕の手をさらに強く握ってくれる。
よしがみは両手を前にだして、争うつもりはないという意思表示をしてくる。
「ゆかさんとは数百年来の友人ですよ。ちょくちょく様子を見にこさせて頂いているんです。ここを紹介したのも私ですし」
「そうなんですね。僕の方こそなんかすみません。よしがみさんはお茶とは飲めますか? こんなところで話をするのもなんですからどうぞ中へ」
「いや、今日のところはやめておきます。こうやってゆかの可愛い顔も見れましたし。こう見えても忙しい身なのでまたゆっくり時間を作ってからきますね」
「えっ? よしがみさん帰っちゃうんですか? せっかくなら新しいお友達も沢山増えたし会って仲良くしてもらいたかったのに」
「ゆか残念だけど、その新しいそのお友達たちは僕のことをあまり好いてくれていないようだからね」
いつ来たのか、ライガとテンマが空を飛びながら身体のまわりに雷と水をまとっている。
まるで何かを警戒しているような怯えているようにも見える。
「ちょっと、みんな何してるのよ。この人は悪い人じゃないわよ?」
「仕方がないよ。下等な生物には僕は神に等しい存在だからね。警戒しているんでしょ。それじゃあ、ゆかまたくるね」
「えっちょっと待って! よしがみさんそんな急いで帰らなくても!」
よしがみはそのまますっと消えていった。まるで最初からそこには誰もいなかったようだ。空間のゆがみも何も見えなかったのが余計に怖い。
「もう、みんなひどいです。よしがみさんはすごくいい人なんですよ。次来たら謝ってくださいね」
みんなは頷いていたけど、いつもにこやかなみんながどうしてあんなに警戒していたのか、警戒するだけの理由があることを僕はずっと後になってから気が付くことになった。