のっ……覗いちゃダメですよ?
僕たちが買い物から帰ってくるとゆかはまだテンマと家の掃除をしていてくれていた。今度は外観をキレイにしているようだが、古びた壁がペンキ塗りたてのように復活している。
不動産屋がみたらきっとビックリするに違いない。まぁ塗りなおしましたって言っておけばいいだろう。
「もっくんおかえりなさい」
「ただいま。ちょっとアヤと一緒にシーツとかいろいろ2階で作ってるね」
「はい! お願いします。床で寝ているの辛そうでしたもんね。いい布団とか作ってもらってください。私はもう少し外回りキレイにしてますので」
そういうと彼女はそのまま掃除をはじめた。
ゆかはここの家が彼女にとってパワースポットというだけで、移動できないわけではない。
今までも自分だけでこの街をウロウロしていたらしい。ただ、ポルターガイストみたいな念動力を使った時はここの家で回復をする必要があるみたいだ。
充電式の車みたいだねというとゆかは笑っていた。
家のまわりくらいはまだ影響力が及ぶ範囲のため、今も外で箒が勝手に動いているが、ご近所さんには見つからないようにだけ注意してもらいたいものだ。
まぁ近くに家なんてないから誰か来たらわかるだろうけど。
僕はゆかが外にいる間にサプライズでアヤに頼んでゆかの服を作ってあげることにする。
昨日ゆかは僕がアヤに新しい服を作ってもらっていたことを本当に小さな声だけどうらやましいと言っていた。
ゆかは幽霊だから本来着替えるとか必要ないのかもしれないけど。
でも、必要ないからやらないのと、やらなくていいのは別のことなのだ。
年頃の女の子なんだから変えの服があってもいい。
それでなくても、ゆかが生きていた頃よりも今の子たちはカラフルで可愛い服を沢山着ている。
ゆか自身それを見てわかっている。ゆかは多分亡くなった時に来ていた白のワンピースだけなのだから。
「アヤ、ちょっと大変かもしれないけど、頼むな。イメージとしてはこんな感じだ。生地があまったらあとはセンスに任せる」
僕はスマホで最新の女性服の売れている服の中からゆかに似合いそうなものをチョイスする。
実は昨日の夜入念にリサーチをしたので結構自信がある。ゆかにばれないようにスマホを見ながらどんな服が可愛いかを探していたのだ。
まぁ気持ち悪いと思われるかもしれないけど、でもゆかには本当にお世話になってるからサプライズで喜ばせてあげたいんだ。
アヤは自分の胸を任せてと叩くとさっそく生地を切り分けていく。
どういう理屈でなっているのかはまったくわからないが、織鬼が記事を空中に広げると滑らかに生地が切り分けられ、そしてまた空中に広げると糸で縫われていった。
織鬼の才能は身体の大きさで決まるとか、色々言われていたけどこれだけできれば十分過ぎるスキルだ。
他の織鬼にと比べる必要はないけど、きっと負けていないに違いない。
アヤはあっという間にゆかの体型にあった着物と数着の服を作り上げてくれた。
どの服もとても可愛くてゆかに似合いそうだと思う。
あとは選んだ僕のセンスがなさすぎるなんて落ちにならないことを祈るだけだ。
それにしても、普通にこれだけの服を作ろうと思ったら何日かかるかわからない。
「アヤありがとうな。きっとゆかも喜んでくれるに違いないよ」
「おりっ!」
アヤもとっても嬉しそうだ。
ゆかの服を作った余った生地で今度はマシロの服やいろいろな小物、バック、財布などをどんどん作っていく。
何かインスピレーションが降りているのか、沢山の物を勝手に作っているが、生地の値段がものすごく安いし、なんだかんだで使いそうなものを作ってくれているのでそのまま任せて置くことにする。
あっという間に数点の作品を作り上げると、そこにはマシロにおそろいの服を作成し、持ちあるく小物もオシャレに統一されていた。もちろん悪目立ちするような感じではなくてだ。
アヤのセンスはもう抜群だった。
アヤがひと段落したところで、僕たちはさっそく、作ってくれた服をゆかにプレゼントしにいく。
「ゆかー! どこにいる?」
「はーい! 今台所ですよー」
外の掃除が終わってゆかは台所で食事を作ってくれているようだった
「どうしました? もう布団が完成したんですか?」
「布団はまだなんだけど……先にこれをゆかにプレゼントしようと思って。幽霊横丁の生地ならゆかも着れるでしょ?」
僕の手の中にはアヤが作ってくれた可愛い服が沢山あった。
ゆかは服を見たまま固まってしまい、そして急に顔が歪む。もしかして勝手に服を作ってしまったのがまずかったのだろうか。
僕はやらかしたと思った。よく考えればわかるはずだ。男のチョイスと女性のチョイスではセンスがまるで違うのだ。
「ごめんね。僕のセンスじゃゆかのセンスにはあわなかったよね。アヤ悪いけど、もう一度ゆかのセンスにあわせて作り直してもら……」
「おりっ」
アヤはどうしたらいいのか、右往左往している。
「違うんです! これって……本当に……私にですか?」
ゆかは僕が持っていた服にゆっくりと手を伸ばす。
「そうだよ。アヤが作ってくれたからサイズはゆかにぴったりになっていると思うけど……ゆか……?」
ゆかは服を抱きしめながら大号泣していた。
「ありがとう……ございます。私……亡くなってから服なんて……全然で……このままずっと……同じ服しか着れないと思っていたから……すごく嬉しい……んです」
「そんなに喜んでくれたならよかったよ」
「ぐすっ……さっそく着替えてきますね」
ゆかは服を持ったまま廊下を飛んでいき、部屋に入る前に振り返る。
「のっ……覗いちゃダメですよ?」
顔を赤くして言っているのがなんとも可愛く、こっちまで顔が熱くなってくる。
「だっ……誰がのぞくか」
「でも……ちょっとならいいですよ?」
「謹んでご遠慮願います」
「それはひどいですよ! ヘヘヘッ」
ゆかは本当に楽しそうに笑っていた。
「いいから、さっさと行ってこい」
いつのまにか僕たちもつられて口角があがっていた。
それから、ゆかはアヤが作った服を全部着替えて見せてくれた。
マシロも一緒に着替えて小さなファッションショーとなった。アヤは二人が喜んでくれるのが嬉しいのかずっと僕の頭を軽くパチパチと叩き、テンマやライガ、ハクビは2人の動きに合わせてそれぞれが魔法で演出をしてくれた。
こういう小さな幸せをみんなで共有できるのが、本当に幸せだなと思う。
いつまでも、この幸せが続きますように。僕はそんなことを願わずにはいられなかった。




