意外と優秀? ハクビの値切り交渉のススメ
「イテテ……」
昨日、僕たちはかなりゆっくりとお風呂を堪能した。全員をキレイに洗ってやったりふざけていたら意外と時間がかかったってだけなんだけど。
五右衛門風呂は身体の芯から温めてくれてともても気持ちよかった。そのあとはそれぞれ自由に過ごしていたんだけど、僕は今日買い出しにいくために少しスマホで調べ物をしてから寝た。
スマホの充電はライガが充電をしてくれた。本当に万能だ。
もちろんまだベッドも布団も何もなかったから床に雑魚寝だったせいで、身体の節々が痛い。
ゆかは睡眠自体が必要ない身体みたいで、ずっと側で起きていたらしい。
寝顔をずっと見られていたのかと思うと少し照れる。
僕はゆっくりと身体を伸ばし首をまわす。かなり背中が痛くなっている。
「今日は何をするの?」
「まずは……最低限の買い出しかな。所持金が少なくて心配だけど、その前に生活環境を少し整えないと」
「こっち側にくれば働かなくてもよくなるよ」
「幽霊ジョークは本当に怖いからやめてー」
「へへへっ」
僕のお腹が盛大に鳴る。昨日はお風呂に入ってからすぐに眠りについてしまったため夕食を食べてなかった。
食料の買い出しと、とりあえず布団をどうにかしたい。
「ゆかは何をするの?」
「うーん。今日はこの子たちと一緒に部屋の掃除かな。結構使えるものもあるから、テンマに洗ってもらって最低限の生活環境を整えておくよ」
「昨日の、幽霊横丁へ行きたいんだけど、あそこって一人でも行けるもんなの?」
「あっ……いけますよ。二階のクローゼットから普通に……ただもっくん一人だと帰りが問題ですね。ちょっと準備します」
ゆかはそのまま天井をすり抜けて2階へ上がっていく。
僕が階段で追いかけると、突き当りの奥の部屋から何かゆかが呪文のようなものを唱えているのが聞こえる。
「なにしているの?」
僕が部屋に入ると黄色い魔法陣がクローゼットの扉に描かれ光輝いていた。
やがて光がやむと、そこには昨日みた村の入口があった。
「ここのクローゼットを開けると昨日の幽霊横丁を常時つなげている道を作ったからこれで簡単に行き来ができますわ。戻ってくる時はこの鍵を使ってください」
そう渡されたのは黄銅でできた鍵だった。
「これはどうやって?」
「幽霊横丁内の何もない空間にこれをさして回すとここのクローゼットに戻ってこれるようになってます。幽霊横丁範囲からでてしまうと難しいので注意してくださいね」
「すごっ! これってこっちの世界でも使えるの?」
「ううん。あくまでも異界とここを繋げる鍵だから、どこへも行けるピンクの魔法のドアとは違うわ」
「そうなのか。それはちょっと残念だな。海外とかいろいろ行きたいところは沢山あるんだけど」
「できなくはないけど……とりあえずは幽霊横丁で我慢しておきなさい」
「ははぁ。ありがたく頂戴いたします」
「よろしい」
二人でちょっとふざけた感じでやりとりをしたあと、僕はさっそく幽霊横丁へ行くことにする。
ついでに食材も幽霊横丁で買ってきてしまおう。それと……昨日のこともあるからな。
そうなるとアヤは連れて行った方がいい。
「アヤ、ちょっと一緒に幽霊横丁へ行くんだけどついて来てくれるか。あとは……」
ハクビが勢いよく手をあげる。そういえばこの子はどうやって幽霊横丁から来たんだろうか?
まぁこの子の場合は妖怪に分類されるわけだろうから、幽霊横丁とこっちの世界を行き来するすべがあるのかもしれない。
「ハクビも行くか。じゃあ他の子たちはゆかの手伝いを悪いんだけどお願いしてもいいかな?」
みんな任せてくれと頷いてくれる。
本当に頼りになる子たちだ。
「それじゃ、アヤとハクビは一緒に行こうか」
アヤは僕の頭の上に飛び乗り、ハクビは僕の手を握ってくれる。
ハクビの手は肉球がぷにぷにしていて、毛がさらさらで気持ちいい。
「それじゃあ行ってくるね!」
「気を付けていってらっしゃい」
僕たちがクローゼットを通るとあっという間に幽霊横丁についた。
本当に不思議な感じだ。
「まずは、食料とあとアヤにはいろいろ作ってもらうのに生地とか買いに行こうか」
ハクビが僕の手を握り先導していく。
ハクビは二足歩行のままお肉や野菜などが売っている市場まで案内してくれた。
お肉屋野菜などはどれも数十円から数百円とかなり安い。
「すごいな。どれがおススメなんだろうな?」
「コーン」
ハクビが任せてくれといった感じなのでお任せしてみることにした。
ハクビは、驚くことに指ささしながら店主と値切り交渉をしてくれてどんどん購入していく。現実の世界だと大変な金額になるが異界だと食料は本当に安かった。
僕たちはハクビが何を言っているのかまったくわからないが、店主にはわかるらしい。
まだまだ知らないことが沢山あるようだ。
「いや、お客さんもなかなかのやり手ですね」
「ハハハ……ありがとうございます」
ハクビはただの子狐だと思っていたけど、かなりやり手らしい。コンとしか言ってないので全然話をしているようには感じないがなにか独特のやり取りがあるのだろう。
そして、食料品の買い出しが終わると、ハクビが一度戻るようにジェスチャーを送ってきた。
こういう時話せないのは不便だが、ハクビはかなり表現が豊かで伝わらないことは地面に絵を描いて伝えるなど臨機応変に対応してくれた。
僕はできるだけ目だたないような場所で空中に鍵を指して回す。
『ガチャ』
本当に鍵をあけた時のような音と共に扉があらわれる。
「できた……」
僕たちが扉をくぐると一瞬で2階のクローゼットの前に戻っていた。なんだか、魔法使いにでもなったような不思議な気分になる。
ハクビは僕たちが買った食材を持つと、そのまま1階へ降りて行き渡してきてくれた。
「もっくん買い出しありがとうございます!」
「とりあえず食料だけだから、また買い出しに行ってくるね」
「はーい!」
下からゆかの声が聞こえる。ガサガサと音がしてくるので冷凍するものと、冷蔵するものをしっかりとわけてくれているようだ。
この子たちが優秀すぎるだろ。
確かに一瞬で戻ってこれる以上わざわざ重い物を持ち歩く必要はない。
「コーン」
ハクビはまた、僕の手を握ると戻りましょうかと合図をしてくる。
僕はそのままハクビ主導で生地などの買い物をしてきた。買値が数十円なのにさらに値切るハクビは本当にやり手のようだ。




