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みんなで入るお風呂はとても楽しかった

「あれ? さっきの子狐じゃないか。どうしたんだ?」

 それはケパブ屋の前で餌をあげた子狐だった。尻尾が9つあるため別の狐ってことはなさそうだ。


「もっくん知っているの?」

「あっさっきケパブ屋の前で食べていた時に俺のケパブをあげたんだよ」

「野生の魔物に餌付けとかダメですよ。どんな凶暴な魔物がいるかもわからないんですから」


 二度目の忠告だったが反論は特にしない。俺も次からは気をつけようと思う。

 異界ではちょっとした油断が命取りになるのだから。


「反省してる。次から気を付けるよ」

「人間の世界と一緒ですよ。まぁついてきてしまった以上は仕方がないですけど。あとで幽霊横丁に戻しに行ってきましょう」


「こいつ、ついて来ちゃったんだろ? 一緒に飼ってやるってことはできないの?」

「飼えないことはないですけど……甲斐性の問題かと……」

 非常に痛いところをついてくる。僕は今無職だ。

「仕方がないな」


 子狐は慌てたように何かを訴えだす。まるで僕いろいろできるよって言わんばかりだ。

 とはいっても……それでなくともいっぱいいる。


「もっくんがもう少し頑張ってくれれば……ごめんなさいね。うちの旦那には甲斐性がないんだよ」

「それは言わない約束だろ。ゆか。貧しくても仲良く生きていくのが一番じゃないか」


 ゆかは俺の顔を見ながらため息をつく。ここは冗談としてのるべき時ではなかったらしい。

 うーん。確かに……何も言い返せない。


「でも、この子たちはここの龍脈の力を使えばごはんとかは必要ないんだろ?」

「ごはんは必要ないけど、こっちの食べ物をたべられないわけではないからね。特にこの子の場合は妖怪に分類されるから食事はとれるはずですよ」


 そう言われると確かにケパブを食べていた。アヤは食事食べられないかもしれないが、他は食事がとれるのか。

「他の子たちは?」


「他の子たちもご飯を食べられますよ。食べ物ってもともと生き物だから、それを霊力に変えることができるのよ。もちろん効率は悪いけど。でも、食べる喜びはまた別じゃない?」

 食べる喜びと言われてしまうと、そういう考えもある。でも……ゆかは……幽霊は食事をとらない。


「コーン」

「あっ忘れてたわけじゃないよ。君は……」

 僕の足元にすり寄ってくる。普通の狐には感染症の恐れがあるというけど妖怪ならその心配もないだろう。


「コーン」

 うるうるした目で僕の方を見てくる。

 こんな目をされたら……。


「飼うしかないわね」

 まさかのゆかが先に折れた。ゆかの顔を見ると僕の後ろを指さす。

 そこには他の子たちが目を輝かせている。


「みんなはこの子が一緒に……」

 僕が聞く前にみんなが大きく食い気味で頷いてきた。もう飼わないという選択肢はないようだ。


「わかったよ。これからよろしくね」

「コーン」

 九尾の狐は立ち上がり前脚を僕の方にだしてくる。僕は優しくその手を握ると上下にフリフリとふってくる。

 この子も可愛すぎる。


「さて、それじゃあ家に入ろうか」

 僕が家に入ると子狐を早速マシロが抱っこしていた。

 よく見ると子狐の身体が汚れている。

「とりあえず風呂に入れないとだな。テンマお風呂に水ためられるか?」

「うま」


 テンマは頷くとそのまま羽を羽ばたかせてお風呂の方に飛んでいく。

「もっくん! お風呂に水をはるのはいいけど……水風呂よ」

「あっそうか。ってここの風呂ってどうなってるんだっけ?」


 僕はまだここの家に来てからお風呂をみたことがないことを思い出した。

 なんだかんだで後回しになっていたのだった。

 色々あったからこれは仕方がない。

 僕がお風呂を見に行くと、そこには大きな釜があった。

 これって……五右衛門風呂ってやつだろうか?


 テンマがキレイに掃除をしてくれていて、水も張ってあるため使うには問題がないが外に行って火をつけないといけないようだ。

 外に薪とかあるのだろうか?

 なければ薪を手に入れるしかない。


「私が外で火をつけましょうか?」

 ゆかは壁をすり抜けそのまま外へいってくれる。

「ゆか近くに薪とかありそう?」

「あっ……少しはありますけどお湯を温めるくらいまでの薪はなさそうですね」

「コーン?」


 子狐がお風呂のふちに飛び乗ると、尻尾をクルクルとまわす。

 尻尾のまわりには青白い炎が浮かび上がってくる。

「ゆかちょっと戻ってきてくれ!」

「はい?」


 ゆかが壁から顔をだす。

「おぉーこの子狐火が使えるんですね」

「狐火?」

「コーン」


 子狐がさらに尻尾振ると炎がそのまま水の中に入って行く。

 そして、あっという間にブクブクと水が沸騰しだしていく。

「すごいな」


 ある程度温まると子狐がお湯の中に手をいれる。

 その姿はまるで職人のような風格がある。

 そして僕の方をみて自信満々な表情で頷く。

 僕もお湯を触ってみるとちょうどいい温かさになっている。


「それじゃあお風呂に入るか」

「コーン」

「あっその前に子狐の名前を決めないと」

 白い狐で尾が沢山あるから……。

「よし、それじゃあ白尾と書いてハクビにしよう」

「コーン」


 そのあと僕は人生初めての五右衛門風呂を堪能した。

 途中から全員がお風呂に乱入してきて、寂しがったゆかまでも入ってきたせいで全裸を見られたのはちょっと恥ずかしかったけど、とても楽しい時間だった。

 色々大変だったけど、ここに引っ越してこれて幸せだなー。

もっくん「お風呂に水いれられるか?」

テンマ「うま」

もっくん「なんだライゾウも何かしたいのか」

ライゾウ「ぞうっ!」

いっきに罰ゲーム風の雷風呂になった。


少しでも面白ければブックマークと評価よろしくお願いします

★★★★★


同作者作品大絶賛発売中です。近くの本屋でぜひ手に取って頂ければと思います。

『幼馴染のS級パーティーから追放された聖獣使い。万能支援魔法と仲間を増やして最強へ!』


絵転さん

挿絵(By みてみん)

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