個人的にテンマの掃除力は一家に一台欲しい。
僕たちが異界からでて家に戻ると、家の中がいっきににぎやかになった。
「最初に織鬼と雷象の名前を決めないとな」
「おりっ!」
「ぞう」
「織鬼は……織物の一種から名前をとって綾でそうだろう? 読み方はそのままアヤだな! 雷象は立派な牙があるから雷牙でライガだな」
「おりっ」
「ぞう」
アヤが手をあげるとライガは鼻を持ち上げてハイタッチしている。
どうやら一発で名前が決まったようだ。
それからは色々手分けをして片づけや作業をしてくれることになった。
家の中に入るなりテンマはそのまま水回りの清掃を始めてくれたようだ。
最初に一番汚かったトイレを高圧洗浄ばりに汚れを落としてくれていっている
汚れが落ちるスピードもすごいが、なにより驚いたのが汚れを落としただけではなく新品のような輝きを取り戻していることだった。
古びてくすんだステンレスでさえキレイになり、新品同様になってしまった。
水回りが終わるとテンマはそのまま部屋の中を飛び回りながら家の中の汚れをすべて落としていく。
全部水びだしに一度してから、よくわからないがそのまま水をコントロールして排水していくため掃除が終わると綺麗な部屋だけができあがっていく。
洗い終わった布製品は乾燥したてのようにパリッとしている。
そして、汚れた水はそのまま下水へと流してくれるため、本当に手間いらずだ。
僕があっけにとられていると、アヤは僕の肩へ来て、カーテンを指さしている。
「おり」
古びたカーテンはテンマのおかげで新品同様になっている。
「これをアヤは欲しいのか?」
「おり」
大きくうんと頷くアヤに、外からは見られなさそうな場所のカーテンを取り外し渡してやる。これは不動産会社からも捨ててしまっていいと言われているので、アヤがそれで何か失敗しても原状回復の時に文句を言われることはない。
アヤに渡すとカーテンがあっという間に服に仕上がっていく。大きさ的に俺の羽織のようだが、いささか派手だ。
だけど、アヤの作るスピードに目を奪われている間にあっという間にできあがってしまった。
アヤはそのまま小さな体で服を持つとジャンプして僕にそれを羽織らせた。
あの小さな身体にこれだけの力があることにビックリするが、それ以上にしっかりとつくられた羽織が素晴らしい。
鳥が教わらずに飛べるように織鬼もきっとできるようになっているに違いない。
あとはこれをどれだけ伸ばしてあげられるかだろう。
「すごいですね! もっくんぴったりじゃないですか!」
ゆかがあやの作ってくれた服をみて褒めてくれる。ちょっと恥ずかしいが嬉しくて頬が緩んでしまう。しっかりとした生地を買ってくれば、望みの服を作ってもらえるかもしれない。
「うらやましいな」
ポツリとゆかは僕に聞こえるか聞こえないかのような声でつぶやく。でも、すぐに自分で首を横にフリ、何も言わなかったように笑顔になる。
幽体のゆかの服はいつも同じ白のワンピースだった。もちろん汚れることはないけど、きっと年頃の女の子がオシャレをしなくないわけはない。
「ゆか、今僕にはここにいるアヤとかをこっちの世界でも見えているけど、他の人たちからすると彼らはどうやって見えているの?」
「ほとんどの人からは最初は見えないと思います。ただ、この家の中ならもしかしたら感の鋭い人は見えるかもしれないですけど。彼らって私とは違って実体はあるので、ただここの世界になじんでないだけなんですよね」
この世界に馴染んでくればいずれ他の人からも認知されるようになるってことだろうか?
「もし、マシロの服とかを現実の世界で作ったらどうなる? 服だけが動いているように見えるってこと?」
「そうですね……マシロちゃん服も霊体と一体になると、見ようと思わない人には見えなくなると思います。でも、できるなら幽霊横丁の生地とかの方がいいと思いますよ。安くて丈夫で、何より傷みにくいですから」
「なるほど。見ようと思わない人には見えないってことね」
「ライガと同じで、誰にも認識されないものはないものと同じになります。服ももっくんが着れば実体に近づくいて見えるようになると思います。ただ、その辺りの認識は結構難しいのでやって見て確認の方がいいと思います」
「そうだな。それならもう一度幽霊横丁に行って生地を買ってくるか」
「せっかくアヤがいるので沢山生地を買ってあげるのといいと思いますよ。あっちなら生地も数十円で買えますから。使い分けをするとするなら例えば誰かが来たときように普段使いのものテーブルクロスとかはこっちの素材、マシロちゃんが着る服は向こうの素材とかで分ければいいと思います」
「わかった。ありがとう」
僕たちが立ち話をしていると部屋の電気が勝手についていく。
「あっ電気がつきましたね。ライガちゃんが上手くやってくれたみたいで良かったですね」
部屋が明るくなるとなんとも文明に近づいた気分になってくる。
電気は不思議なもので僕の気分まで明るくさせた。
「本当にこれは助かるな」
僕のところにライガが飛んでくる。褒めて欲しそうな感じで僕のまわりをくるくると飛び回ってきた。
「よしよし! 偉いぞライガ!」
僕が雷象を褒めているとテンマもアヤも僕の方へやってくる。みんな褒めて欲しいらしい。めちゃくちゃ可愛いじゃないか。
みんなを褒めていると、部屋の角からマシロが頭だけをひょっこりだし、そしてすぐにいなくなってしまった。マシロも褒めて欲しいのか?
マシロを追いかけてリビングに行ってみると、そこには段ボールが2つ置いてあった。
マシロはその段ボールの横に座っている。
「段ボール……?」
1つの段ボールを開けるとそこは冷蔵庫のように温度になっていた。開けるとすこしひんやりって感じだ。もう一つは瞬間冷凍できそうなほど冷たい。
「冷蔵庫と冷凍庫を作ってくれたのか?」
マシロは少し恥ずかしそうにうなずく。
「段ボールで作らせるのにはもったいないですね。何か他の代用できる入れ物とかあるといいんですけど。今度考えてみましょ」
ゆかはそう言って他の部屋へ探しにいったが、何もなければ壊れた冷蔵庫をもらってきてもいいと思う。電気に繋がっている必要はないのだから。
「マシロありがとうな」
マシロも嬉しそうに僕をギューッと抱きしめてきた。優しく頭をなでてやる。
あとは、サラマンダがいれば料理とかもできたんだけど……僕の貯金残高を確認するとそれは厳しそうだ。
「もっくん! ねぇ外から変な音がするんだけど……ちょっと来てくれる?」
「なになに?」
僕が外にいくとそいつはちょこんと座って僕の方を見ていた。