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ゆかじゃないとダメなんだよ

「こんにちはー織鬼はどうなりました?」

 織鬼の店に行くとまだ入口には準備中の看板がでていたが一応声をかけてみる。

 中からは返事がない。まだ、もう少しかかるかと思い露店に戻ろうとしたところで、ちょうど小さな織鬼をもった店主がやってきた。


「ナイスなタイミングだな。丁度織鬼に心が入ったところだ」

 織鬼は僕の顔を見ると思いっきりジャンプして僕の顔に捕まるとそのまま頭の上まで登っていった。


 ずいぶん元気な子供のようだ。

 僕は頭の上から織鬼を下ろし、目の前まで持ってくる。

 織鬼は人形とは思えないほど感情豊かに微笑みかけてきた。


「この子の前でこんなことをいうのは良くないかもしれないが、通常織鬼は小さい方がダメだとされているんだけど、この子はすごいぞ。かなりエネルギーがある。それに愛嬌も。もしかしたらすごい織鬼になるかもしれないぞ。その時はちゃんとうちで買ったと宣伝してくれよな」


「あぁもちろん宣伝するよ」

「それと一番大事なことだ。本当に大切にしてやってくれよな」

「もちろん大切にする。よろしくな織鬼」


 織鬼は頷きまた僕に抱き着いてきた。

 マシロも織鬼が仲間になったのが嬉しそうだ。

 織鬼も非常に可愛い。


 僕は店主にお金を払いゆかのところへ戻る。

 僕が何度か振り返ると、店主はいつまでも織鬼を見送っていた。

 本当に愛着がある子だったのだろう。


 僕たちがテンマを捕まえた川を越え、竹林へ向かっているとマシロが急に立ち止まり、強く僕の服を引っ張った。

 ちょうど織鬼も僕の髪の毛を強くひっぱり何かを訴えかけてくる。


「どうした? 何かあった?」

 次の瞬間、思いっきりマシロが僕を押しのけ、織鬼も髪の毛を引っ張り頭を動かした。

 ちょうど僕がいたところ辺りに光が走る。

 それは小さな雷だった。熱さを感じるかと思ったが光だけで全然熱くはない。


「攻撃を受けているのか? 危ないから逃げないと!」

 慌てふためく僕をよそにマシロと織鬼は冷静だった。

 織鬼はマシロの頭の上に飛び乗ると、二人は僕を置いて近くの茂みの中に走っていく。


 僕の頭の中は混乱しているだけで、なにをどうしたらいいのかまったくわからなかった。

 こんなところに一人残されて……。

 ゆかのところへ行くべきか、いや、でもマシロと織鬼を放置していくわけにはいかない。追いかけるべきか。よし、まずは様子を見よう。


 僕が恐る恐る茂みに近づいていくと、ちょうどマシロが茂みからでてきた。頭の上には織鬼も乗っている。

「よかった。いったい何があったのかと思ったよ」


 マシロは両手で何かを抱えるようにして持ってきていた。それは……ピンク色の……象だった。

 手乗りの可愛い象。今までも変な生き物は沢山見てきたがこちらもなかなかインパクトがある。


 ただ、この象の背中にも羽が生えていた。ペガサスの象バージョンってことなんだろか?

 その象はマシロの手の上から動こうとせず、横たわっているだけだった。

「弱ってるのか? 怪我か病気をしているってこと?」


 マシロは頷き、僕の目をまっすぐ見つめる。マシロは話すことができないが何を伝えたいのかはわかった。

 この象を助けてあげたいのだろう。でもいったいどうやって助けてあげればいいんだろうか。

 見たところ怪我とかはなさそうだ。


「ここで考えてもわからないから、ゆかのところへ持って行こう」

 僕が走り出すと、マシロも続いて走り出す。

 マシロは足場が悪いのにもかかわらず、僕よりも数段身軽に飛ぶように駆け抜けていった。


 身体の作りが違いすぎる。織鬼がマシロの頭の上に乗ったままなのにもかかわらず足が速すぎる。

 次から僕もマシロにおんぶしてもらった方が早いんじゃないかと思ったがさすがに情けなさ過ぎて声にだすことはできなかった。竹林はすぐ側だ。


 僕がマシロに少し遅れて竹林に着くと、ゆかとテンマが二人してどよーんとした感じで落ち込んでいた。

 どうやら雷トンボを捕まえることはできなかったらしい。

 マシロたちも声をかけているようなのだが、どうしていいのかわからないようだった。


「ゆかただいま。織鬼は無事に仲間になったんだけど、帰ってくる途中で問題がおこってさ」

「どうせ私は役立たず。死んだ方がいいんです。いやもう死んでるんでした。塵になりたい」

 気分の上がり下がりがだいぶ激しかった。


「ゆか、君の力が必要なんだ。これを見て!」

「ん? はぁ? ふざけんなし! そうですか。わかりましたよ。雷象じゃないですか。そうですよね。私が雷トンボも捕まえられないクズなのにもかかわらず、もっくんは雷象のレア種を捕まえてくるんですもんね。さぞ鼻が高いでしょう。象だけに。あっ座布団いらないです」


「これが雷象なのか。それよりもこの雷象がなにか調子が悪そうなんだ。だから助けて欲しいんだよ。それがわかるのはゆかだけだろ?」

 全員からの熱い視線がゆかへ集まる。

 ゆかはやっと自分が本当に頼られていることに気が付いたようだ。


「私で……いいの?」

「ゆかじゃないとダメなんだよ」

「よっしゃー! やってやるわよ! マシロちゃんちょっと見せて」


 マシロが持っている雷象をゆかが見てみるが諦めるのは早かった。

「うーん。これは……全然わかりませんね。怪我もありませんし。でも……幽霊横丁に雷象を専門に治療してくれる場所があるのでそこに行きましょう」


 そう聞くとマシロが幽霊横丁へ走り出し、そこへゆかとテンマが続いていく。

 そして僕だけが取り残された。僕は切実に待遇改善を訴えたい。

もっくん「マシロ待って! 早い」

マシロ「……」

もっくん(あっさり置いて行かれた)

どんな立ち位置なのか急に不安になってくるもっくんだった。


少しでも面白ければブックマークと評価よろしくお願いします

★★★★★


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挿絵(By みてみん)

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