異界でフレンドリーな熊に抱きしめられた
最初に結果から伝えよう。
非常に残念だったが、今回ゆかが言っていた雷雀を捕まえることはできなかった。
僕たちは川でテンマを仲間にしてから、その川を渡り今度は竹林へと向かった。
ここは雷雀の住処となっていて、ここに大量の雷雀が生活をしているという話だったからだ。
僕たちが竹林に着くとゆかが違和感に気が付いた。
「おかしい。この時間帯ならだいたい少なくとも数百羽の雷雀が雷の雨を降らせていてもおかしくないのに竹林が静かすぎるわ」
そもそも、竹林に雷を降らせた時点で火災になってしまいそうなものだが、この竹林は人間が知っている竹林とは似て非なるものらしい。
熱に非常に強く、ここの竹を使ってフライパンが作られたりするくらい強度があるということだった。もはや竹林と言っていいのかは突っ込まないことにする。
「いないみたいだね。どうする?」
「いや、そんなことはないと……」
俺たちが竹林の前で話をしていると、竹林の中から大きな鉈をもった熊があらわれた。
手には斧にひけをとらない爪がついており、あきらかに過剰戦力だろう。
「お前らあれか雷雀を探しにきたのか?」
「そうです。今いないんですか?」
「そりゃ残念だったな。雷雀は雷を探して移動する渡り鳥の一種だからな。今の時期はここから東の大陸に雷象の群れがやってくるんで全員で行ってるぞ。そうだなー雷雀が欲しかったら1カ月は待つしかないんじゃないか」
「えっ? もう雷象がでたんですか?」
「あぁ今年は例年よりもだいぶ早いらしい。本当に異常気象みたいでいやになってくるよ。それよりそこにいるのはもしかして人間か?」
「えぇよくわかりましたね。人間ですよ」
「こりゃまた珍しい。ここに人間がやってくるなんて滅多にないからな。幽霊は沢山いるけどね。よしハグさせてくれ」
僕は逃げるまもなく大きな熊から熱い抱擁をされてしまった。意外と獣臭いのかと思ったら、某有名なイチゴのシャンプーの匂いがしてビックリした。
「そんなに硬くなる必要ないぞ。人間にいたずらしようとするやつもいるからな。これで多分大丈夫だと思うけど、ここを出るまでは気をつけることだな。それじゃあな」
その熊は軽快にあいさつをしてそのまま幽霊横丁の方へ向かっていった。
「良かったですね。あの熊さんに抱きしめられるなんて幸運なことないですよ」
「良かったことなのか?」
熊に抱きしめられることなんてそんなに多くはないことだろうとは思うが、幸運かと言われると……。
まぁきっとこの世界では熊に抱きしめられるのは幸運なことんなのだろう。
「雷雀がいない場合はどうするんだ? このまま帰るか?」
「いや、せっかくですから雷トンボを探しましょう。雷雀よりは発電量が下がりますが、1カ月もすればまた戻ってきますから。その繋ぎで使えればいいので」
それから、僕たちは雷トンボの捕獲をすることにした。
竹林にはあまり目立たなかったが雷を帯電したトンボが何匹もいた。
だけど、この雷トンボ動きの速いことといったらなかった。
テンマとマシロも一生懸命捕まえようとしてくれるのだが、俺の視点からすればほぼ瞬間移動だ。気が付くと僕の横から数メートル先にいるのだから、移動先を予測でもできない限り捕まえるのは無理だ。
ゆかも一生懸命頑張ってくれていたが、打つ手がないらしい。
まぁ、唯一良かったのはテンマと違ってこの雷トンボにはまったく危険がないということだった。
絶対何かしらのデメリットがあるのかと思ったが、かなり大人しい種類らしくて捕まえることができればいいらしい。ただ、たまに移動先にいると貫通して死ぬ人がいるらしいが、トンボはよっぽどじゃなければ突っ込んでこない。それほど動きは早くてしっかりしているようだ。
当たらなければ大丈夫だ。僕はそう何度も自分に言い聞かせた。
捕まえることの難易度は水馬よりも高いということだった。
結構な時間、雷トンボを捕まえるために竹林の中を歩いていたが、結局一匹も捕まえられなかった。
「ゆかどうする? 雷トンボも大事だけど、そろそろ織鬼を受け取りに行かなくちゃいけないけど? 最初から待たせてしまうのも可哀想な気がするし」
「そうですね。そうしたら、私がここで雷トンボ捕まえておきますので織鬼迎えに行ってきてもらってもいいですか? まだ明るい時間ですからそれほど危険なこともないでしょうし。念のためマシロも一緒に連れていっていいので。テンマは私と一緒ね」
テンマは悲しそうに首を下げるが、ゆかを一人にさせるのもかわいそうだ。
「わかった。それじゃマシロ一緒に織鬼を迎えに行こうか」
マシロは僕の方に走ってくると手を握って積極的に織鬼の売っていた方へ走り出した。
どうやら迎えに行くのが本当に嬉しいらしい。
「それじゃあ行ってくる」
「帰ってくるころには大量に捕まえておおきますので期待しておいてください」
ゆかが任せてくださいといった感じで自分の胸を強くたたく。
今までの感じだと期待できそうにないが……さすがにそうは口にださなかった。
その横でテンマはすでに大きなあくびをしている。急にやる気がなさそうに見えるが気のせいだろう……。
「無理しない程度にな」
僕はマシロに引っ張られながら織鬼を迎えにいくことにした。




