Q水中から馬を捕まえてください。リスク:足の指の損失……できるか!!
僕たちは露天商がやっていた広場から少し離れた川へ来ていた。
川へ来る途中にもさまざまな変わった魔物や生き物たちが沢山いたが、ゆかが言うには今は必要ないということなのでそのままスルーしてきた。
豚や猪に似た動物もいれば、二足歩行のワニのような生き物に、背中に羽の生えたカエルのようなものまで。
見るものすべてが新鮮だった。
ゆかが言うには、火山や森林、海、砂漠などによってもまた違った生き物が生活しているということだった。
こちらの世界から向こうの世界に捕まえて連れていけるものもあるけど、人の世界では人間には認識できないものもいるらしい。
昔はそれでいたずらをする妖怪などもいたそうだが、最近ではそんないたずらをする暇人はこっちの世界でもいないということだった。
科学の発展で説明できない異常な現象というのはもしかしたら、ここの生物がやっていたのかもしれない。
「さて、それじゃあ水馬を捕まえる方法を説明しますので、もっくんよろしくお願いしますね」
「えっ? 僕が捕まえるんですか?」
「もちろんですよ。あんな危ないことをマシロにやらせるつもりですか?」
「いや、危ないのかよ。それなら捕まえなくてもいいんじゃないか?」
「危なくないですね」
手がねじ切れそうなほどの手の平返しだった。絶対に危ないに決まっている。
「ソッカ……危なくないなら、やり方くらいは聞いてみようかなー」
一応わかっていても罠にはまってやるのが流れというものだろう。
「さすが! 捕まえ方は簡単です。川の中に入ると水馬は人間を餌だと思って襲い掛かってきますので、それをタイミングよく蹴り上げるだけです。そのまま水の上にだせれば仲間として認められます。上手くすれば足の指1本くらいですみますので」
僕はゆかの顔を見ながら優しく微笑む。女の子じゃなかったら頭を思いっきり叩きながらツッコミをいれられてもおかしくない。それは世間一般では危険っていうんだよ。
僕の無言の圧力にもゆかは屈することはなかったので僕が結局諦める。
「だから、こえぇんだって。普通に考えてよ。足の指1本でも相当痛いからね」
「えっ? ダメですか? 考えてみてください。足の指1本で今後の人生、水で困らなくなることを考えたらお得だと思いませんか? 例えば砂漠へ行っても水には困らないんですよ」
そう言われると確かに……ってなるか!
「一瞬騙されそうになったけど、上手くすれば足の指1本だろ。それ詐欺師が使う奴だからな。悪くすると一体どうなるんだよ?」
「どんなに下手な人でも、足のくるぶし辺りで捕まえられますよ。人は痛みを感じて成長するものですから」
「そんなところで足をかけてまで成長したくないわ! 却下」
「えぇーダメなんですか?」
「ゆか普段優しいのに発想が怖いんだよ」
「幽霊になってしまうと、身体の概念がまた違ってくるので欠損くらいだとそれほど気にならなくなってしまうので。人と話をするのも、もっくんが久しぶりなので、からかうのって楽しいいですね」
「それ本人に言っちゃダメなやつだからな」
ゆかは悪気があるのかないのかわからないが、発想が怖い時がある。
僕とゆかが話をしているとマシロが川の中に手を入れる。
「マシロ危ないよ」
僕が声をかけた時には、もうすでにマシロのまわりに水馬や魚たちが沢山集まってきていた。その中でも一番動きが激しいものにマシロは目につけたようだ。
その水馬に手を寄せていくと、なぜか急に大人しくなり、むしろ自分から接近してきてマシロの手の中に入ってきた。マシロはそのまま川の中から持ち上げる。
その水馬にはペガサスのような羽が生えている。なんとも胸躍る魔物だ。
「嘘! この辺りではほぼ幻と言われているペガサス水馬よ! 私も噂だけで初めて見た。すごく希少価値が高いの」
そのペガサスはマシロの手から飛び出すと楽しそうにマシロの周りを飛ぶ。マシロのまわりに水の螺旋ができマシロはそれを氷にしていった。
空中に浮かぶ氷の螺旋階段のようなものが瞬時にできあがる。
そしてそれはサラサラと空気中に光の輝きを残して消えていく。
元々水と氷で相性がいいのかもしれない。
ペガサスはそのままマシロの肩に乗り、頬をすり寄せ愛くるしい表情をしていた。
マシロも優しく首筋をなでてあげており、とても嬉しそうだ。
「信じられない。こんなにも簡単に伝説の水馬がなつくなんて。本来はもっと危険な生き物なのよ。ペガサス水馬の攻撃力ならもっくんの身体半分は一瞬でかき消されるわね。良かったわね! やらなくて」
さらっとめちゃくちゃ怖いことを言われた。
次の捕まえるチャレンジは絶対に安全がわかってから挑戦しよう。
「それにしても……マシロはすごいんだな」
僕がマシロの頭を優しくなでると、その手の上に水馬がジャンプをしてきて、僕の手をなめてくれた。どうやら、僕も嫌らわれてはないようだ。
マシロが片手をあげてくるので、ハイタッチをすると満面の笑みで喜んでくれた。
「まぁ怪我しないで仲間にできてよかったね。次も絶対に危ない奴はやらないからね」
「それはそうなんですけど……普通はありえないことなので……まぁでもそうですね。もっくんがベアに会えたことも、ここにいることも普通では考えられないことですからね。考えるだけ無駄ですね」
「そうなのか?」
「そうですよ。普通の人間にはここの世界は認識すらできない場所ですからね。もっくんは元々こっちの世界との親和性が高いんだと思います。それじゃあこの調子で雷雀を捕まえにいきましょう! 雷雀は今回のようには行きませんからね! 油断はしないでくださいね」
「わかった。それよりペガサスの名前はどうしようか?」
「ペガサスですから、安直にペガはどうですか?」
ゆかの提案にペガは首を振る。
どうやら気に入らなかったらしい。
「それなら天の馬と書いてテンマは?」
「ペガ!」
独特な鳴き声のようだ。ゆかの時と違い首を横に振られないということは気に入ってくれたってことだろう。
「よし、今日から君はテンマだ」
「それじゃあ行きますよ」
ゆかが僕を認識できない場所に連れて行こうとしたってことは……深くは考えないことにする。
別に怪我もなく普通に来れているからな。ただ今後はさらに慎重さを身につける必要がありそうだ。
「マシロ次も頼んだぞ」
僕はゆかにばれないようにこそっとお願いすると、マシロは嬉しそうに僕の手を強く握ってきた。
頼られているのがわかってくれているようだ。
僕たちはそのまま雷雀を捕まえに行くことにした。織鬼の迎えもあるので、早めに雷雀を捕まえられたらいいんだけど。