サラマンダーが欲しいかったが異界でもお金が必要だった
「となると……火精サラマンダーは購入できなさそうですね」
織鬼を購入してから僕たちは広場の横にあるベンチに座りながら次何を買いに行くかを相談していた。
「サラマンダーっていうのは?」
「火の精ですよ。それがあればガスコンロがなくても生活できるようになるので。私が毎日一斗缶で火を燃やさなくてよくなります」
「ちなみにそれは1匹いくらするの?」
「えっと……ちょっと最近の値段はわからないですね。値段ちょっと見てきますね。ずっと歩き回っていますから少し休んでいてください。そこに猪肉のケパブサンドがあるのでそれでも食べててください」
ゆかが指差した先には猪肉の塊を少しずつ焼いてナンのなもので挟むケバブサンドが売られていた。
価格は……50円。
破格すぎるだろ!
「マシロもご飯を食べられるのか?」
マシロはゆっくりと頷く。
「それなら一緒に食べよっか」
僕は露店で猪肉のケバブサンドを2つ買ってきてマシロに一つを渡す。
マシロは俺に頭を下げて受け取るとそのままケバブに噛り付いた。
本来なら霊的な魔力があればいいという話だった。だが、食事もできるらしい。
僕とマシロが美味しくケパブを食べていと、どこからか鳴き声が聞こえてきた。
「コーン」
辺りを見渡しても声の主は見つからない。
「なんか鳴き声が聞こえないか?」
マシロも辺りを見渡し、俺の足元で何かを発見したかのように指をさす。
そこにはお尻から沢山の尻尾をはやした子狐が鳴いていた。
1……2……3……尻尾が全部で9本もある。
「お腹減ってるのか?」
「コン」
僕もお腹が減っていけど……。
自分のケパブと子狐を見比べる。子狐の愛くるしい目は僕をまっすぐ見つめてきていた。はぁ、50円ならまた買えばいいかと思い、僕の分のケパブを食べさせてあげる。
野生の動物にエサを与えることがいいことだとは思わないけど、あきらかに普通の動物じゃないから大丈夫だろう。
子狐は器用に僕たちが座っていたベンチに飛び乗ると、そのまま座り両手でケパブを食べ始めた。
「すごいな。霊界横丁の動物はしっかりしているんだな」
「コーン?」
マシロは優しく子狐の頭を撫ではじめた。特に警戒されたり嫌がったりはしないようだ。むしろ積極的にマシロの手に身体を押し付けてさえ見える。
「君は一人なの? 近くにお母さんか何かいるのかな」
「コーン」
子狐は少し寂しそうな感じで尻尾をたらし一鳴きして首を横に振る。どうやら近くに仲間はいないようだ。
「それは辛いな。でも悪いことばかりじゃないから。これからいいこともあるさ」
僕が励ましていると、マシロが自分の食べかけのケパブも子狐に与えてあげた。
子狐はそれを嬉しそうに受け取ると、マシロに頭を下げる。
二人の触れ合いはとても仲がよさそうで見ているだけでほっこりしてくる。
それからしばらく二人の様子を眺めているとゆかが戻ってきた。
「もっくん……残念なんですが、サラマンダは1匹10万円からなんですが、どうしますか?」
サラマンダは結構貴重らしく意外と値段がはった。
ガス料金使い放題はいいが……ちょっと今すぐならガスを契約した方がよさそうだ。
ちなみに安いサラマンダは、たまに暴走するらしく消し炭も残らないくらい燃え広がるため人間界への持ち込みができないらしい。
こっちでも安かろう悪かろうがあるみたいだ。
「火はガスを契約すればいいよ。そっちの方が安いから。それよりもこれを見て」
僕が子狐を紹介しようとするといつのまにかマシロだけになっていた。
「どうしたんですか?」
「いや、さっきまでここに子狐がいたんだけど……」
「むやみやたらに魔物にエサとかは与えたらダメですからね。可愛くてもここにいるのはほとんどが魔物ですから。どんな力を持っているかわかりませんし、それがいい力とは限りませんから」
「あっうん。そうだよね。気をつける」
「それじゃああとは……天然の手乗り水馬と雷雀を捕まえにいきましょうか」
「その二匹はなに?」
「手乗り水馬は主に自然の名水を吐きだしてくれる小さな馬ですね。きれい好きな馬で水回りを覚えさせればほぼ自動で掃除してくれます。雷雀は小柄な身体に大量の電気を蓄えている雀です。1匹家にいれば電気は必要なくなりますよ」
「なんでもありなんだな」
「普段人間が見ている世界と、私たちが住んでいる世界は全然違いますからね。こちらの世界を見てしまうともう人間界には戻れないと思います。こういった生活に便利な魔物がたくさんいるので、亜人たちにはお金を持つ必要があまりないので食料品とかは安いっていうのがありますね。それに私のように食事が必要ない者もいますし」
「いろいろな意味で恐るべしだな」
「さぁ、織鬼が出来上がる前に水馬と雷雀を捕まえにいきましょう」
ゆかの案内で僕たちはその二匹を捕まえにいくことにした。
だが、僕が思っている簡単なものではなかった。