幽霊横丁の冷蔵システムも変わっていた。結構可愛い。
「あっつ……くない?」
目の前でその小さな雪ん子が僕の顔にかかったお茶をさらさの緑色の雪に変えてしまった。
緑雪はそのまま風に流されて何もなかったかのように消えていった。
「お客さん、大丈夫かい? 悪いな。この野郎! お客さんになんてことするんだ! だからてめぇは返品になるんだよ!」
今まで優しかった店主はその子に聞くも堪えないような罵詈雑言を並べ立て、いきなり雪ん子の頭を殴りつけた。雪ん子はそのまま地面に転がり、頭を押さえている。
「おじさん、大丈夫だよ。別に怪我してないし。それよりもその子は特別な子じゃないの? 他の子は動かないけど動いているわけだし」
「いや、本当にお客さん申し訳ない。この子は雪ん子の中では外れなんですよ。本来自我なんて持たないんですけどね。こいつは生意気にも自我を持っちまった奴なんですよ」
今まで紹介された雪ん子はみんな自我はなかったが、これから自我を入れてもらうとかっていうわけではないらしい。
力が強いと言われていた子たちは悪霊を自動で撃退はしてくれていたが、どの子も自分の意思を持ってはいなかった。
「数百年やっているとたまにこういうのがいるんですよ。人間界のスキー場とかならいいんですけど、でもこっちで自我を持ってしまうのは本当にやっかいで。これだと売るに売れないし。本当に困っちまうんですよね。俺も悪徳業者のように人間界に不法投棄でもできればいいんでしょうが、そういうわけにもいかないですからね。本当に正直者が馬鹿をみる困った世の中ですよ」
まるでゴミでも見るような目でその雪ん子のことを見ている。
「ちなみに、この子はいくらなんですか?」
「いや何をおっしゃるんですか。お客さんこの子はダメですよ。自我のある雪ん子なんて本来の役割を果たせないばかりか、こうやって何をやらせてもダメですから。雪ん子は本来自我がなく、霊力が強くて低燃費なものが最高とされています。こんな自我があるのなんて不良品以下ですから」
なにを基準にするのかは、それぞれあると思うが自我ができてしまったからといってこんな扱いをされるのは可哀想で仕方がない。
「ゆかはどう思う?」
「私ですか? えっ別にいいと思いますけど。この子は普通に冷やすことはできるんですよね?」
「あぁ、冷やすのは別に問題はないけど、自我持ちだぞ」
「じゃあこの子でお願いします」
「おいおい兄ちゃん本気で言ってるのか? そこまで言うなら売らないことはないけど……後悔するなよ? 嬢ちゃんは止めなくていいのか?」
「うーん。だってもっくんさんがその子がいいって言うならそれ以外の選択肢はないので」
雪ん子の彼女は自分が買ってもらえるなんて思っていないのか驚きの表情をしてこちらを見ている。
店主は一度、雪ん子の方を見てため息をつく。
「この不良品でいいって言うなら譲ってやろう。千円でいいぞ。そのかわり一切のクレームは受け付けないからな。返品には応じるが返金には応じない。わかったか」
「もちろん。大丈夫です。よろしくな」
僕が手を出すと彼女は少し戸惑った微笑みをしながら僕の手を握ってきた。彼女の手は雪ん子と呼ばれている割にゆかと同じで温かかった。