お茶会からの買い物。楽しいことになるはずが幽霊横丁って!?
「どうしたんですか? 顔色がやけに悪いですよ」
「本当だぞ。顔が悪いぞ」
ゆかとベアが近くにきて俺のことを心配してくれる。
ベアにあっては顔が悪いと言い出しやがった。
俺の手は強く握られ、肩に痛いほど力が入っている。呼吸が荒く、めまいでも起こしそうなほどふわふわしていた。
「どうした?……女性の手を握って気持ち悪くなるとは失礼な奴だな」
「いや、申し訳ない」
僕はゆっくりと手を離す。ゆかは心配そうに僕の顔を覗き込んできてくれた。フッと頭の中に何かが一瞬走るがそれが何かわからない。
ベアはまた紅茶にゆっくりと口をつける。
「うん。やっぱり私がいれる紅茶は最高だ」
ケルベロスは相変わらず幸せそうに蝶をおいかけている。
「楽しそうだな」
「楽しそうだろ? ここは時間と空間の狭間の世界だからな。お前も辛い時にはここへ逃げこんできていいぞ」
「ありがとう。意外といい奴なんだな」
「当り前だ。ゆかの知り合いで悪いやつなんかいるわけがないだろ。まぁゆかと仲がいいだけで嫉妬してお前の命を狙う奴はいるかもしれないがな」
「やめろ、それ。そんなんで命を狙われたらたまったもんじゃないだろ」
「まぁゆかが近くにいる限り大丈夫だ」
「言ってることあべこべだけどな」
「もっくんとベアちゃんが仲良くなれたみたいで良かったです」
ゆかは優雅に椅子に座りながら紅茶に手をつける。
「ここだとゆかも食事ができるのか?」
「そうなんですよ。私もここなら食事ができるんでよくベアちゃんに会いに来ながらお食事をさせてもらっているんです」
「本当にすごい空間なんだな。幽霊まで実体できるなんて」
ベアがもう一度紅茶に口をつける。会話があまりはずまない。
先ほどのことも聞いてみたいが、もし知りたくないことや思い出したくないことだったらと少し気が引ける。
「さて、そろそろ買い物へ行くか」
「もう行くのか?」
「引っ越しをしてきたばかりで整理も終わってないからな」
「そうか、わかった。ゆかを泣かせるなよ」
「もちろんだ」
「それじゃあリア充たちはさっさと帰れ」
僕はベアに頷くとまた目の前の景色がぐにゃと歪む。帰りはその場から一瞬で転移してきたようだ。そこにはベアの屋敷がなくなっておりただの押入れがあった。
「ゆか……ベアの屋敷は?」
「普段は見えないようになってるんですよ。ベアちゃんのお屋敷はどこにでもありますし、どこにもありません。だから簡単に呼び出せるんですけど、それはベアちゃんの許可があればですね」
なんとも不思議な気分だった。
「それじゃあ買い物へ行きましょうか! あれ冷蔵庫とかもないですよね?」
「もちろん。着の身着のまま来てるからな」
「ちょうどよかったです。それならいいのがいますから、霊界横丁へ先にいきましょうか?」
「霊界横丁? それは……?」
「めちゃくちゃ楽しいところですよ」
僕はその霊界横丁という響きにドキドキを抑えることができなかった。