ベアの過去 顔面パンチと女好きのおっさん
「本当にこの子がご迷惑をおかけしました」
「いえいえ、むしろよく自分一人で猪兎を倒しましたよ。怒らないであげてください。私の顔面に一撃いれるのもなかなかの技量がある証拠ですし」
ベアに殴られたおじさんはロベルトは殴られた頬をずっと撫でている。彼はベアの母親にベアを叱らないようにと話をしていた。
「ベア、でも本当に森はダメよ。特に今森の深部で変な魔力があるって言われているんだから」
そう声をかけてきたのは、長い黒髪の女性で年齢はベアと同じくらいだろうか。シルバーの鎧を着ているが、他の人よりも気品があふれる。僕は彼女を見た瞬間、胸の奥に何かが突き刺さったような衝撃を受けた。とても懐かしいような、それでいて悲しいような複雑な感情が浮かび上がってくる。
触れたら壊れてしまうような。そんな言葉にできない儚い気持ちが心の中を走り抜ける。
「ごめんなさい。エルザに迷惑をかけるとは思っていなかった」
「違うわよ。あなたを助けにいくことなんて全然迷惑じゃないの。あなたが私の知らないところで勝手に死んじゃったら悲しいって話よ」
エルザはベアを優しく抱きしめる。
「ありがとう。本当にごめんなさい」
「でも、ベアすごいわね。私直属の4騎士の隊長を不意打ちとは言っても殴り飛ばすんだから」
「隊長は可愛い子に弱いからな」
「本当、本当、エルザ様一筋って言ってる割に可愛い女の子見るとすぐに優しくしちゃうからな。こないだも街中で……」
「バカお前ら、余計なこと言ってるんじゃない。エルザ様こいつらは後でしっかり指導しておきますから」
「ロベルト……ベアに優しくしてくれるのは嬉しいけど、他の女性にも優しくしているってどういうことかしら?」
「エルザ様、美しい女性には均等に接するのが私の信条ですから」
「もう! ロベルトなんて知らない!」
エルザは頬を大きく膨らませる。ロベルトは躊躇せずにエルザの頬を指で押し潰す。
パカパカとロベルトを殴るエルザはとても楽しそうで、いつもこういったふざけたことをしているのだろう。
ロベルトを見るエルザの目は恋をしている、そんな目をしていた。
「ロベルト様、エルザ様そろそろおふざけはこの辺りにして、そろそろ本題に……」
「そうだったわね。ロベルトは後でしっかり指導しておきますから」
エルザはわざとロベルトが部下に言ったことをそのまま使って注意をしておく。
「最近この近くの国境で敵国が軍備を整えているという情報が入りまして、気を付けて欲しいと思いまして」
「エルザ様自らありがとうございます。でも私たち魔女の一族はそう簡単にやられたりはしませんから、ご安心を頂ければと思います」
「それは十分承知しておりますし、なにかあればすぐに私たちも助けに来るつもりではありますが、万が一ということもありますので」
「そうね。忠告感謝しますわ」
そしてまた場面が変わる。