絵の中でのお茶会は意外と楽しいものだった。
絵の中に入ると、そこには美味しそうなクッキーが置かれ浮かび上がったポットが人数分のカップに紅茶をいれているところだった。
絵の中のはずなのに紅茶とこんがり焼かれたバターの香りがする。
「さぁそんなところにつっ立ていないで座ってくれ。大丈夫だ。この世界には私たち以外誰もいないし、見られることもないからな」
丸いテーブルにすでにベアとゆかは座っていた。
ゆかはふわふわせずにまるで実体があるようだった。
「ゆか……身体?」
「あっこの世界だと、私も実体を持てるようになるんです。まぁ正確には実体ではないんですけどね」
「まぁ、人間にその内容を話したところで理解は難しいだろう。それよりも知っているか? 紅茶は60度から70度が一番おいしい温度なんだぞ。冷めないうちに飲んでくれ」
「はっ……はぁ」
「なんだその気の抜けた返事は? 人間がこの絵の中に入るなんて光栄なことなんだぞ。過去にここへ入れたのはほんの数人なんだからな」
ベアはどこか遠くを見つめ、少し懐かしむように口元を緩ませ紅茶に口をつけた。
「さぁ飲んでみろ」
僕はゆっくりと席についてびくびくしながら紅茶に口をつける。
「……美味しい」
「そうだろ? 最高級のお茶葉を準備してあるからな」
紅茶には渋みも少なく、口から鼻をぬけていく香りは何とも言えない素晴らしいものだった。僕は少し落ち着きを取り戻し質問をしてみた。
「ここはどこなの?」
「ここは絵の中だよ。時間と空間の狭間の世界。本来なら誰も入れない。誰もでれない世界」
「閉じ込められるとかってことなのか?」
「それはない、ない。あんたを閉じ込めるメリットがないだろ。安心しろ危険はない」
「それは確かに……」
辺りを見渡すと中には芝生が一面に敷かれ、遠くに蝶が飛んでいる。絵の中の世界なのに頬に柔らかい風が当たる。気持ちいい。
なんか非常に懐かしい気持ちになり眠くなってくる。先ほどまでの緊張感がなくなってくる。
ふと見るとケルベロスは蝶を追いかけてジャンプしている。
「ケルベロスって怖いのかと思ったけど、可愛いな」
「だろ? ずっと私と一緒にいてくれる相棒なんだ。付き合い自体はゆかよりも長いからな」
「ベアってこの絵の中にずっと住んでいるんでいるのか?」
「呼び捨てじゃなくて、様をつけろ。年上には敬意を払うものだぞ」
「あぁ悪かったベア」
「グヌヌヌ。まぁいい。私はお前と違って寛大だからな。私はあの洋館と絵の中に住んでいる。外との時間の流れがまったく違うからな。まぁゆかの友達ということであれば何かあればいつでも訪ねてくればいい。もちろん入り方がわかればだけどな」
ベアは紅茶をゆっくりと口に含み勝ち誇ったような顔をしている。
「ベアちゃんは本当にすごい魔法使いなんだよ。もっくんも仲良くしてあげてね」
「ふん。人間ごときに仲良くしてもらうつもりはないがな。それでもゆかがそこまでいうなら仲良くしてやってもいい」
どうやらツンデレ要素もあるらしい。
「あぁ、俺もどうしても仲良くなってくれとは言わないが、ゆかの紹介だからな。仲良くしてやってもいい」
「ふん。うるさいやつだ。だが、嫌いではないぞ」
僕がベアの方に手を差し出すと、ベアは嫌がるかと思ったが僕の手を握った。
その瞬間僕の意識は大きな何かの流れの中に流されていった。