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アイマイレガシー  作者: 呉留
序章
7/7

六話

王都をダッシュで出て幾分か歩き、やっと下ろしてもらえ、それなりに気持ちの整理がついたナオは質問の続きをラウに聞くつもりだったが、その前にとあることに気づいた。


「あの…顔、隠すのどうするんですか?」


それを聞くや否やラウラはかなり焦った顔をして、


「ヤっべ、忘れてタ。」


となんとか顔を隠せないかと割れた仮面を色々といじって試行錯誤していたが、その内諦めたのかしょんぼり顔でナオに向き直った。


「ウーン…なんカ、いい案無イか?」


「そう言われても…。あ、それなら出来るだけ人気の無い場所を通ったりするとか、とにかく人との接触を限りなく少なくした方がいいんじゃないですかね。」


「ン!それデいこウ!天才だナ、ナオは。」


「根本的な解決になってない気がしますけど…。」


「ア、そうダ。言い忘れてタけド基本的にハ[師匠]って呼んでクレ。あんまり名前デ呼ばない様にシて欲しいんダ。」


「…分かりました。師匠。」


「オッケイだゼ!」


なんて会話を続けていっていたナオ達は気づくと森のような所に入り込んでいた。

辺りはあまり陽の光が入って来ないのか薄暗く、かなり不気味な雰囲気を醸し出していた。

それに耐えきれなくなったナオがラウに聞く。


「ラ…師匠、なんか…ここ、じめじめしてて、怖くないですか…?」


「ンー…そうカ?これくらいの所ナラこの世界ニごまんトあると思うゼ。」


「そう…なんですね。 ところで魔物ってどんなのなんですか? 直接見たことないんです。」


「ウーン、説明するのガ難しイんだよナー。 色んナ見た目の奴が居るからナ。 そういヤ思い出シたケド、ここいらにでっけェ気持ちワリーのが居たかラ気をツケろよナ。」


「え!?で、デカいってどれくらいなんですか…?」


「エ、アレぐらイ。」


ラウラが指さした先には建物の様な高さの「何か」が居た。 音もなく近づかれていたことにもドキリとしたが、よくよく見なくても、よくよく考えなくても、話の流れやパッと見で分かる。 でっかいでっかい魔物だった。 しかも芋虫みたいな。

嫌いなものがデカくなって突然目の前に現れるという悪夢さながらのような状況に陥った人間が行うことは決まっている。


「(文字に出来ない悲鳴)!!!!!!!」


悲鳴に気づいたのか、こちらに突進してきている魔物を避ける余裕は今のナオにはあるはずがなかった。


「ナオ!!!危ねェ!!!」


流石としか言いようのない反応でナオを拾い上げて突進を避けたラウラだったが、次の展開を予想している暇がなかったらしく、ラウラは大きく体勢を崩してしまった。 魔物はそこへまた大きな口を開けて容赦なく突進をして来ている。 今度は本気で二人を腹の足しにしてやろうとしているのは目に見えている。


「…ッ。コんのヤローが。」


大きな口が目の前へと迫ってくる中、ラウラはナオを投げ飛ばした。

「!」

驚いたナオが声をかけようとする間もなく険しい顔のラウラは目の前から消えた。

とんでもない事の連鎖にすっかり腰を抜かしてしまったナオが次の追撃から逃げれる程の余裕はなかった。


(え、死ぬの?こんなところで?何もしてないのに?え?え?え?え?)


色々な考えが頭を巡る。 冷や汗が顔をつたう。 息が荒くなる。

引きつった顔しか出来なくなったナオには大きな口のようなものが目の前に迫ってくるのをただ眺めることしか出来なかった。

最後のあがきで目をつぶったナオに待っていたのは…


「…?」


︎︎"︎︎︎︎死"︎︎じゃなかった。

目を開けたナオが見たのは何故か小刻みに震えて止まる魔物の姿。 更新された情報によって余計に訳が分からなくなったナオはとにかく生存本能で逃げようとしたのだが、突如謎の「波動」を受けたような圧を感じた。

直後、異常な恐怖と殺気、そして逃げなければという焦燥感を感じた。

例えるならば、そう、風邪を引いた時の幻覚を抽出して百倍にしたような感覚。 訳が分からなくても、これは幻覚だと分かっていても振り払えず、抗えないあの感覚があった。

そんな風に感じたものを今の状況で回避できる訳もなく、またまた腰を抜かしたナオは、真後ろからとんでもない爆発が起こったのを感じた。


「もう…イヤーー!!!!」


早くも弱音を吐いたナオに爆風が襲いかかる…





…はずだったが、何故か軽い火傷で済んでいた。

五体満足な事を確認したナオは、自分が死から二回も生還したのをよくある転生した世界で実はチート能力持ちでした!的なことが自分にも起こっているのかと想像して振り向いたが、そんなことはなかったらしい。


そこには謎の青髪の青年が居た。

服装などを見た感じ、特別違和感を抱くことは無かったが明らかに常識を逸したことがただ一つだけあった。 それは、その青年の前に半透明な壁の様なものが張られていたことだった。 どうやらそれを使って自分を守ってくれたらしい。


「大丈夫ですか?」


「え、あ、はぃ。」


ナオがこんな気の抜けた返答だったのはさっきの感覚を受けた後だというのもあるが、一番の理由はその奥で伸びをしてるラウラが見えたからであった。

安心したのもつかの間、身体の力が入らなくなり、そのままぱたりと倒れてしまった。 暗くなっていく視界の中、二人が焦った顔をしているのが見えた。





誰かに呼ばれたような気がして目を覚ました。

はっと辺りを見渡すと、そこは見覚えのある場所だった。

前の世界の教室そっくりの空間がそこにはあった。 辺りにはどんよりとした空気が立ち込めており、人の気配は全くと言っていいほどなく、不気味なほどに静かだった。

その雰囲気にただただ立ちつくしていたナオは、とあるおかしな事に気づいた。

自分の服装が変わっている。もう着ることなんてないと思っていた制服に。 とにかく情報を得ようとそこを出て、色々な所を走り回ったうちに、その行動がなんの意味もない事に感じ、とにかく時間が過ぎるのを待つことにした。

外は暗くもなければ明るくもない。 あれだけ走ったのに汗もかいてない。 暑くも寒くもない。 季節感や時間が分かるような感覚が何一つなかった。

既に、ナオは明らかに自分がおかしな場所に迷い込んだ事を自覚はしていた。 だからなんだという訳ではない。 ただ「自覚」しているだけで、その後の行動のプランなど浮かんでくるはずもなかった。


…どれくらい経っただろうか。 五分程度な気もするし一時間以上な気もする。 とにかく思考が半分停止していたナオをまた来たばかりの時へと引き戻したのは…


「音」だった。


「誰かの歩く音」が僅かながらに聞こえた。

それにより、一瞬で思考力を取り戻したナオはその音の元を辿ろうと立ち上がった瞬間、それに反応したかのように音が近づいてきた。 その音の主を探そうと走り出そうとした。 が、その必要はなかった。

そいつが目の前に飛び出してきたからである。

正体は意外以外の感想が出てこないものだった。


「…は?…なんで?」


言葉が荒くなっても仕方ない。 目の前には自分がいたのだから。

顔も、服装も、髪型も、少し前に廊下にあった鏡で見た自分そのもの。 身長だけ少し高いような気もするが、そんなことはどうでもよかった。

もう一人の自分は怪訝そうにこちらを下から上まで一通り見て言う。


「貴方、どうやってここに?」


「わかってたらこんな事になってないと思うんですけど。」


「…とにかく、ここは貴方の居ていい場所じゃない。即刻、ここから立ち去りなさい。」


「だから…その方法が分かってたらこうなってないですって!」


「…。」


もう一人の自分は大きくため息をした。 まるで厄介な客を相手にする店員のように気だるげに。

流石のナオもこれには腹が立った。 それなりに温厚な方だと自覚しているし、喧嘩なんかした事ない。 けれど正直、出来るならば相手に一撃入れてやりたくなっていた。


「…OK。貴方、怒ったでしょ。」


「別に…。」


もう一人の自分はナオを鼻で笑う。


「気分を害したなら謝るわ、ごめんなさいね。バイバイ。」


パチンと指を鳴らされた瞬間、ナオは背中側から何かにぐいっと引っ張られた。 反応するまもなく、段々と視界が真っ暗になっていった。

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