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アイマイレガシー  作者: 呉留
序章
6/7

五話

ラウを追いかけて宿へと戻ったナオが部屋で見たものは、布団に顔を埋めて唸っているラウだった。

どう声をかけていいかわからず暫く眺め続けていると、唐突にラウが顔をガバッと上げ、


「どーしヨーかなァー…仮面は最後の一個壊シちマったシ…色々バレそウだシ…。アー…八方塞がリじゃネーかよォ…。」


と独り言をボヤいていた。どうやらナオが居ることに気づいていないらしかった。 次の言葉を発しようとしたのを遮るようにナオが自分の存在を知らせる為に咳払いをした。

それを聞くやいなやラウは驚いた猫の様に後ろに飛び退き、壁に頭をぶつけた。 痛がるような素振りもなく、顔が引きつっている上に目が泳いでいる。

ナオもどう声を掛けていいか分からず、ラウの事が心配になって追いかけてきたのに何も出来ない自分に少し複雑な気持ちになりつつも、とりあえず、


「あの…さっきので…怪我とかしてないですか?」


とナオの頭の中にあった疑問の中で一番気になっていた選択肢を口に出した。


「エー、ソノ………ん?」


途端にラウがいつもの気の抜けた顔になっていく。


「え、そんダケか?」


「いや、色々気になる事はありますけど…それ以前に怪我してたら手当てしないとですし…とにかく、痛い所あります?」


「ンー、特ニ無いケド…。」


「なら良かったです。あの…」


「ン?そんな顔シテどうしたんダ?…ア、何か聞きたイなら遠慮しナくて良いゼ。」


「じゃあ…もしラウさんが嫌じゃなければでいいんですけど、さっき誰かが言ってた<天聖(てんせい)>って何なんですか…?」


「………ン、天聖の事ホントに知らないノカ?」


「はい…。そもそもこのせ…あ、いや、なんでもないです。」


「そっカ。んジャ、説明スルの嫌イだかラ簡単に済ますゼ。まズ、天聖ってノは…」


その先を話そうとした瞬間、メグが部屋に銃弾のように突入してきた。


「ラウさん、いや、ラウラさん!!!!!」


「うわ、ビックリしタ!っテ、どうシたんダ?メグさん。」


「ほんっとーに!誠に!ありがとうございます!!!」


と頭を下げた。


「……エ?」


ラウは困惑した表情でナオの方を向いた。

ナオにも何が起こっているのか分からず、首を横に振るしか無かった。

それに気づいたかどうかは分からないがメグは現在の状況を早口で説明し始めた。

興奮していたせいか何度も同じ事を話したりしていたため少し理解しづらかったが、


「えート、つまり、アノ決闘して来タヤツがこの旅館を乗っ取っテ自分のモノにしよウとしテ、結果的ニアタシのせいデ失敗に終ワっタってことカ?」


とラウが話の本筋をまとめてくれた。


「そうなんです!!あの人はもう何もしないし、協力してくれると約束してくれたんです!!だから、ラウラさんには感謝してもしきれない!!!」


「ン、それは良かっタな!」


「だから、ラウラさん。もう、お代は結構ですので。」


「エ?ヤダ。」


「え?」


「イヤだかラ、それはヤダ。」


「いいえ、もう私は一切何も受け取らないので。」


「それハ駄目ダ。アタシは自分の為にやっタダケだシ…」


「それでも私は結果的に救われました。だから…」


「でモ、ソレとコレとは別ダ。だかラ…」


「いやいや…」


と二人の優しさ故の押し問答が始まってしまった。

完全に取り残されたナオはその光景をただただ眺めることしか出来なかった。

結局ラウが押し負け、お代はナシになった。

すると、ラウが


「ジャア、ちょっト待っててクレな。」


といって何処かへ行ってしまった…

と思ったが、顔を隠し忘れたことに気づき直ぐに戻ってきた。

その後、フード付きの服を借りてまた何処かへと走っていった。

ラウの言いつけ通りに待っている間、ナオは、自分の中に湧き上がる、「強くなりたい」という謎の感情について思案していた。

この世界に来る前はどこにでも居るちょっとインドアな学生でしかなかったし、ラウが戦闘したシーンを見て感激したとかそんな訳でもない。

何故かは分からない。 けれど確かに自分の意思なのはわかる。

この世界に来てからというもの、ただの学生の自分では思わないであろう考えばかり頭に浮かんできている。

よくある新天地で謎にテンションが上がる現象が自分に起きている訳でもないのに…と考えている間も、その感情はひとつの目的へと変化していっていた。


「大切な人を自分一人でも守れるようになりたい」


そんな考えに到達した自分に最早気持ち悪くなってしまっていたが、その気持ちが全くと言っていいほど収まることは無かった。

そんな中、隣にいたメグが口を開いた。


「あのね、ちょっと暗い話になっちゃうんだけど。いい?」


ナオのことを気にかけた質問だったのだが、ナオは今自分の身に起こっている不可解な現象に脳機能のメモリをほとんど取られてしまい、気の抜けた返答しか出来なかった。


「ん、あい。」


「…実はね、あの男の人…クロっていうんだけど、いわゆる…その、ライバルってやつなの。 あの人も旅館を経営してるんだけど…結果的に、私の旅館からお客さんはほとんど居なくなっちゃったの。 何をしたのかは分からないけど…。 で、あの人、私の旅館を合併して自分の物にしようとしてたの。 だから、決闘を挑んできたってワケ。 でも、ラウラさんのおかげで何とかなったから、安心ね!」


今のナオには「いやさっき聞いた」というツッコミは出来なかった。 口から出るのはやっぱり気の抜けた返答だけ。


「そう、ですね。」


「戻っタゼ!!!」


ナオが言い切ったタイミングでラウが戻ってきた。見知らぬ人を二人連れて。

訳の分からない状況にメグが質問する。


「ラウラさん?この御二方はどちら様なんですか?」


「お客サン。」


メグの頭にクエスチョンマークが出てきそうな程不思議に思っているのは目に見えてわかる。

それを置き去りにしたままラウは続ける。


「あのナ、ここノ王様ト話付ケて来タ。兵士サンが利用してくレルってサ。だカラ、お客サン。」


「………えええええ!!!!??」


漫画だったら目が飛び出てそうなほど驚くメグを尻目に兵士の二人が挨拶をした。


「こんにちは、メグさん。私はメルト、と申します。そして、こちらが弟の…」


「フェイルです。こ、こんにちは。」


「…あっ、い、いらっしゃいませ。」


やっとこさ理解が追いついたのか、分かってないけどヤケクソなのか、女将モードに切り替わったメグは二人を中へと案内して行った。


その状況を狙っていたのかは自分でも分からない。


「ラウさん、あの!私を、その、旅に一緒に連れてって貰えませんか!?」


ナオの口が勝手に動いた。言った後になんて突拍子も無く訳の分からない事を口走ったのかと恥ずかしくなり俯いたナオに、驚いた顔をしているであろうラウは答えた。


「…いいケド。」


「え?」


「別ニ、ナオが決めタってンなら構わナイ。 ケド、その道は確実に楽ナ道ジャないゼ。それでも良いのカ?」


今の自分であって自分じゃない自分の返答はもう自分でも分かっていた。


「それでも…良いです!!」


後は野となれ山となれ状態のナオが顔を上げると、ラウは笑っていた。


「…ッ。変わっタ人間ダナ、ナオは。でも、そういうノは嫌イじゃナイぜ。デモ、ちゃんとメグさんニ確認取ってキテからにシテくれよナ。待ってるゼ。」


もうなんか訳が分からないけど少し乗り気になったナオは案内を終えたメグに確認を取りに行った。

経緯を話し、是非を聞いた。


「…ナオちゃんはそれで本当に後悔しない?」


この質問に、ナオは一瞬ドキッとした。

確かに、こうなったのは自分の意図とは異なるかもしれない。 けれど、今になって考え直してみると、何故かそこまで後悔していない。 むしろそれを望んでいる自分がいる。



なんで? 始めはそれなりに生きたいという意思だったはずなのに。 それがなんで自身の強さを磨きたいとかいう格闘家みたいな考えになったの? というかそもそもメグとは会ってからまた一ヶ月も経ってないのになんで…なんでこんな…?



…でも、後悔はしてない。 絶対。



むしろせっかく貰った二回目のチャンスをここで活かさない手はないと思い始めている。

ナオの返答はもう決まっていた。


「はい。」


そんなナオを見て、にっこりと笑ったメグは、


「じゃあ、頑張ってきてね。…寂しくなったらいつでも戻ってきても良いわよ。その時は…しっっかりもてなしてあげる!」


「…短い間でしたけど…ありがとうございました。」


ほんの少しだけ涙声になっているメグに釣られて泣きそうな気持ちを噛み殺し感謝の気持ちを伝えたナオは、そのままメグを一瞥し、ラウのように外へと走っていった。

暇そうにしているラウにOKが出たことを伝えると、


「そっカ。ンじゃ、行くカ。」


とだけ答え、有無を言わさずナオをおぶり、王都からすごい速度で走って行ってしまった。



ナオたちが見えなくなった頃、メグが外へとゆっくり出てきた。

気持ちの整理がついたのかは分からないが、


「ちゃんと自分に正直に生きなー!頑張ってぇー!!」


と叫んでスッキリしていた。

静かになった旅館の前で空を見上げていたメグだったが、ふと視点を落とすと布製の袋が置いてあることに気づいた。

申し訳程度に付けられたタグを見てみると、そこに書かれていた名前は紛れもなく自分。

中を開けてみると、莫大な量の貨幣が入っていた。

目を丸くして驚いたメグは、中に紙が入っていることに気づき、取り出してみると、書きなぐったような汚い字で

「ハイ!アタシの勝ち!!残念だな!」

と書かれており、読み終えたメグはどこか悲しそうな顔をしたまま少し笑って、


「なんか…凄い人だったな…。」


と持て余したそれを奥へとしまい、新たに来た兵士さん達の応対を始めた。


こうしてそれぞれの日常は新たに変わり、時間は進んでいく。

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