四話
「それでは、貴方が私との決闘を受けるということで宜しいですか?ええと、ラウ…さん?」
「そウ。アンタ、なにカ不満でモ?」
強すぎるオーラでの威圧をするラウに反論なんてできる訳もなく、メグも気圧されて首を縦に振るしか無かった。 多分相手の男も同じ心境だったのか、
「よし、分かりました。では準備時間を設けましょうか?」
と話を先へと進めた。
すると、それを狙っていたかのように今までの強大な威圧感がすっと消え、いつものゆるーい感じのラウへと戻った。
あまりの突然の変化にメグとナオ、そして野次達や相対する男までもが驚きと疑問の混ざった表情をせざるを得なかった。
そんな周りを気にもせずラウは話を進めた。
「ンー、別に準備しなクてもいけルぞ。そういうアンタは大丈夫カ?」
「ええ…勿論。…あぁ、名乗るのを忘れていました。私はクロ。よろしくお願いしますよ。」
と、変化に戸惑いつつ男は槍を構えたが、ラウを見て直ぐに構えを解いた。
「貴方、まさか素手で戦うつもりで?」
「ン、そうだケド。だめカ?」
「いやいや、私の事を舐めすぎでは無いですか?武器を持った私に対し、貴方は素手でしかも女性。肉体的な差がある上に私はかなり強い槍術士と来ています。だから…」
「んだヨ、性別であーだこーだ言うナ。それから一応男だカラ。見た目で判断スルな。そレから忠告しテおくガその考え方ヤメたほうガいいゼ、イツか損すルぞ。」
「おっと、気に障ったならこれは失敬。しかし、丸腰の相手と相見えるのは少し抵抗があります。さ、強がるのはやめてこれでも使って下さい。」
とクロは予め用意していたと思われる槍を投げて寄こした。
それに対しラウは少し困ったのか、ガッカリした様子で、
「イや、別に強がリじゃなクテ…」
「では使ってくださいよ。あ、槍術が出来ないのですか?」
「でキルけどヨ、でモ…壊シタら…悪いカナって…。」
「は?」
野次達とクロが揃って疑問の声を発した。
少しの沈黙を挟み、クロが疑問を投げかける。
「壊すって、どういう事ですか?もしかして、地面が抉れる事を心配しているのですか?」
「イヤ…こノ槍…オマエのだシ…」
「……フフッ、その槍がそんな壊れそうに見えますか?仮に使い古された物だったとしても…材質が分からないのですかぁ?」
クロの言う通り、ラウが持っている槍はぱっと見た感じだと金属っぽく見える。 さらに言えば、そこまで使われたような感じでもないため、ナオ達からすればラウの発言が全くもって理解出来なかった。
「イヤ、多分こノ槍鋼鉄製ダろ。そんナに使イ古されテも無いしナ。」
「……?……ツッ、アッハハハハハハ!!」
「ン?なンか可笑シイか?」
「失礼…じゃあ、良いですよ。どうぞお好きに壊して下さい。出来るものならね!!」
「ン、いいノカ。じゃ、ン!」
と、ラウは手元にあった槍をあたかも針金かの様にぐにゃっと曲げた。
野次馬やナオ達はおろかクロまでもが驚きを隠せない表情をしていた。 しかし、ラウは周りの反応を特に気にすることもなくクロへ曲げた槍を投げ返した。
「うシ、始メっk」
「いやいやいやいや!!!ちょちょちょっと待って下さいよ!!」
「ンだよ、壊してイイつっタのそっちダぞ。」
「いや、そうじゃなくて!!どんな技術を使ったんですか!!?」
「ドーでもイイだロ。はヨやんぞ!」
「ええ…分かりましたよッ!!」
言い終わるや否やクロは今までの戸惑いが嘘かのように間合いを即座に詰め、ラウの顔へと槍を突き出した。流石のラウも反応出来なかったのか「ガコン!」と鈍い音が響き、モロに一撃を貰った。
クロはチャンスだとばかりに連撃を繰り出しラウの体に槍を突き立てて追い詰めていく…筈だった。
突然、クロの槍が吹き飛んだ。 防戦一方だったラウがクロの槍の軌道を見切り、左腕で弾いたのだった。
武器を一時的に封印されたクロは一度引いて武器を拾い直し、体勢を立て直した。
その時、ラウが突然ガクリと膝をついた。
その場にいた誰もが、ラウが自身の体に受けたダメージによって立てなくなってしまった、俗に言う劣勢なのかと思っていた。が、ラウの発した一言により、真相が明らかになった。
「ア゛ーー!!仮面壊すナヨーーー!」
そう、ラウが膝をついた理由は体へのダメージが大きかった訳ではなく、付けている仮面が壊れそうになったのを庇おうとしただけであった。
呆気に取られている周りを尻目にラウは顔を上げて続ける。ラウが立ち上がった途端に仮面は崩れて落ちていき、話し出す時には半分以上顔が露出していた。
「オイ!!ココに来ルまでニ襲わレまくっテ壊シまくっタかラモウ予備ねぇンだヨ!!バレたらドーすんダ!!ア…。」
焦りに任せて言葉を発していたラウが冷静さを取り戻し、咄嗟に顔を隠したがもう時すでに遅し、あたり全員に顔を見られてしまっていた。
ナオはラウの発した「バレる」という発言が引っ掛かりつつもクロの方に目を移すと、ダラダラと冷や汗をかいていた。 よく見ると、槍を握る両手は震えていた。
野次馬達が途端にざわつき始める。ナオは何が何だか分からなくなってメグに顔を向けると驚きとも憧憬ともいえない顔をしていた。
暫くの静寂の後、口火を切ったのは野次馬の一人だった。
「…あの旅人、もしかしなくても…<天聖>?」
周りの野次馬からやっぱり!やそんな偶然は…なんて声が聞こえ始めたが、やっぱりナオには何が起こっていて、ラウが何者なのか、<天聖>とはなんなのかはさっぱり分からなかった。
そんなナオを周りの時間は待ってくれるはずもなく、ラウが顔を手で覆いつつ話を進めた。
「イヤー、ソノー、エトー、チ、チガウヨー。」
もう狙ってるとしか思えない程にカタコトになったラウの前でクロはまだナオが見たままの状態でフリーズしていた。
やっとの事でクロが発した一言は、
「まだ…続けるんですか…?」
だった。それを聞いたラウは顔を手で隠したまますっとクロに向き直り、
「決着着くマデやル。当たリ前だロ?」
と言った途端にクロが訳の分からない雄叫びをあげて槍を振り上げた。
「一閃瞬撃ッ!」
ラウがそう叫んだ瞬間、クロの体が後ろへととんでもない速度で吹き飛んだ。
元々クロがいた位置にラウが移動していたため、一瞬で移動して蹴り飛ばした事が理解できた。 ナオは自分の感覚がおかしくなってきた事に目を伏せて苦笑いしつつ、ラウへと目線を移そうとしたが、もう既にラウはその場から居なくなっていた。
辺りを見回してみると、どうやって野次馬達から抜け出せたのかは分からなかったものの、宿にダッシュで入っていくラウの後ろ姿が一瞬だけ見えた。 メグにその事を伝え、ナオはラウを追いかけて宿へと戻った。




