すべてのはじまり
朝の日差しが私の肩を持って励ましているような気がする。
でも、もうそんな事はどうでもいい。もう心に決めている。
「お早うセカイ。そして、さよならセカイ。」
そんな事を呟きながら屋上から飛び降りた。
別に死後の世界に期待してる訳では無いけれど、自分の最期の言葉にはこれが一番しっくりくる気がした。
飛び降りを決めた原因はいじめではない。 友達が居ない訳でも無い。仲のいい友達も幼なじみも居る、と言うよりかは「居た」という表現が正しい。
そう、彼女は仲のいい友達二人を、そしてクラスメイトを亡くしてしまったのだった。 原因はこの廃れたセカイが生んだ悲劇というしか形容出来ない。自然の脅威に一人、狂気の産物の凶行によってクラスメイト、そして幼なじみを……。
その上、彼女にはそんな時に話せる人ももう居なくなってしまっていた。唯一の生き残りとして毎日のように古傷を抉られる始末。
そんな彼女の決意を止められる者など居ただろうか――。
あーだこーだ考えている内に衝撃と激痛を感じ、そのまま目の前が真っ暗になった。
どれ程経っただろうか。目を開けると真っ暗な空間にいた。
目の前にはえらく顔の整った男性が立っている。しかし服装はかなり奇抜で、左手に大きな辞典の様なものを持っている。
混乱しかけている思考をまとめ、取り敢えず現状がどうなっているのかと聞こうと立ち上がった。
口を開いて声を出そうとした時、待ち構えていたかの様に男性が話しかけて来た。
「やっと話せるようになったか。」
「あの…ここどこで貴方は誰ですか…?」
「お主の察し通りここは死後の世界じゃな。お主らの世界では冥界と呼ばれているようなところじゃ。」
「お名前は…?」
「わしの名前などどうでも良かろう。とにかく。お主は死んだ。さあ、ここからはどうするつもりなのじゃ?」
「えっ…なんにも考えてないです、ごめんなさい。」
「や、謝る必要はない。ここに来た大体の奴は考えてなど居らぬからな。」
「じゃあなんで聞いたんですか…?」
「もし、考えてたらわしらは楽やからじゃな。そう言えばお主、名前は?聞き忘れとった。あと、生前の職業は何じゃった?」
「阿神 奈央です。職業は、学生…でいいのかな?」
「よし。では、お主にクジを引かせてやろう。当たりを引けたら新たな世界に生まれ変わるか、ここに残るかお主が決めて良い。ハズレなら有無を言わさず新たな世界行きじゃ。さあ、はよう引k」
「新しいところに行きたいです。」
「え?今…なんと?」
「だから、新しい世界に行きたいです。」
「本当に良いのか!?ここではダラダラ居てもなにも言われん…あっ、言ってしもうた。」
「それでも新しい世界に行きたいです。」
「…そうか。」
男性はにっこりと笑う。
「よし、お前さんの事気に入ったわ!!!せっかくやし、ちょっとわしがお話し聞いたるわ!なんでも話しや!」
突然の変貌にまたまた混乱していると冥界の事情等を色々教えてくれた。
現在のココは人数が多すぎて飽和しかけていること、男性は結構偉い人だと言うこと、普段は全然違う事をしているということ、そして生前の事まで話してくれた。
だから、彼女、奈央も自分についてぽつりぽつりと話した。
元々の自分、死を決意した理由、親友と幼なじみについて等色々と。
彼は奈央の話の間、ただただ頷いていてくれた。話のタネが無くなると、すかさず彼がまた話し始めた。
話し方が上手いのか、つい聞き入ってしまった。ふと脱線している事に気づき、声をかけると本題へと入った。
「さて、お前さんとずっとお話してたいけど、そうもいかんな………。」
「でも、この時間は多分新しい世界に行っても忘れないですよ!」
「そうか。そんな事言うてくれんのはお前さんだけ。さて、名残惜しいが行きましょか。」
「はい。向こうでも、頑張ります!」
「よし。わしもいつかいくからな、そんときまで待っててくれや。…なんてな。心の整理がついたら教えてな。送る準備万端やし。」
大きく深呼吸をする。新しい世界への期待が高まっていくのがわかる。
「行けます!!」
「よっしゃあ!行ってこい!!」
目の前で指をパチンと鳴らす。奈央の体が浮遊して空間の外に飛んでいく。
そんな奈央を見送りながら彼は呟く。
「永遠の別れ哉。一期一会ってやつやな。」
一息つこうとした時、何かが近づいてくる。新たな魂か、と立ち上がると、
それは奈央だった。
「お兄さぁぁぁぁん!!!!待ってぇぇぇぇ!!!!」
戻ってきた事に驚きつつも声をかける。
「なんやーーー!忘れもんかーー!!」
「質問ですぅぅぅ!!!鷹直 伊那と夜月 枢朱ってここに来てましたかぁぁぁ!!来てたら何処に行ったか教えてくださぁぁぁい!」と叫ぶ声がきこえる。
「あぁ、お前さんの幼なじみ達かーー!!ごめんなーー!あんま覚えてないけど多分こっちには居らんと思うわーーー!!」
「ありがとうござい………」声が途切れた。
「行ってしもたか。えっとぉ………。」
手元の辞典をパラパラとめくる。
「あ、おった。…良かった。二人とも元気にやっとるわ。」
笑い声をあげながら暗闇へと彼は消えていった。