ここで死んでは困る
主人公は何度でも蘇るのさ!!
特権ですよ。
――入ってきた人物とは?
真っ赤な髪の毛に少々青い髪の毛を……ではなく、よく見ると赤髪赤服の小人と青髪青服の小人が、どこかで見たようなお姉さんの頭や肩などによじ登ってたくさんくっついた状態で入室してきた。
ただし青い個体達だけ赤い個体達に蹴りおとされてるようだが、気にしたら負けだと心が語りかけてくる。
「あの、サティさんですよね? っていうか小人だらけ……。」
「人違いでしょ? いやしらばっくれる必要なんて本来無いわね。」
半ば諦めたような、してやられたというような表情をしながらそこら辺にあったパイプ椅子を開いては座り込むサティ。
ベッドと椅子以外なにもない寂しげな真っ白な部屋にギシッと小さく響いた。
「さて、と……。さっきは手荒にしてご……ちょっと曜精たちっ、全員身体から降りなさいッ!!」
真面目な話を始めようにもこの始末。
小人はピョーンと身体から飛び降りると、ほぼ大半は扉の下の抜け穴からスタコラスタコラと逃げていく形となって退出していったみたいだ。
頭に違和感があったのは自分にも菫色の小人が乗っかっていたからだが、どうやらこの個体は頭から離れる気はまんざら無いようで体育座りをしながらボーッとしているのが部屋の鏡から見てとれる。
「まず始めに話は反れるけど、コイツらは小人じゃなくて曜精ね。 曜日の力を具現化下やつ。 フレッチャーは……えーと、この生年月日だから土曜日生まれね。 どうりで土曜精に好かれてるわけねぇ。」
「曜精ねぇ。」
頭に手をかざしてやると何を言うわけでもなく手のひらに乗っかってきてくれる。
とても可愛いやつだけど……まぁ、全員顔は同じだけどもなぜか愛着がわいた。
「種族は七曜精で、基本の曜日を冠した七属性。 赤や青、緑に黄色……藍に橙と菫と言った基本の七色。 どの曜日にも当てはまらない異変種の冥曜精、天曜精、海妖精。 そしてこのすべてを司る純粋な七曜精。……これらの関連としては(以下略」
このあとこってりと30分は聞かされて訳のわからない単語だらけで頭が機能停止しそうになる。
要約するならばこんな感じ。
【コイツらは曜精と呼ばれ、各曜日の名前が入る】
【基本七タイプ、異変種三タイプ(後者のこれらはエクストラウィークフェアリーと呼ばれる)、その合計十タイプすべての能力を使える種族名そのものの純粋な七曜精が存在する。】
【人間は生まれた生年月日の曜日が曜力(この世界のMPのようなもの)というものを宿しては魔法などを使う】
といった点であるが、残念ながらこれらの力を使役できるのは【第七サーバー・七刻】の人のみ。
フレッチャーのサーバーは【第一サーバー・日本】なのである。
ちなみにこのサーバーというのはどこに集まるかではなく、どこから接続して遊んでるかによって変わるのだとか。
「つまるところ、コイツは土曜精なのか。」
頭の上にいる曜精は相変わらずボーッとしているが、フレッチャーが曜精を見るために上を見ようとしたのに気がついたのかこちらを覗き込むように頭を下げてきた。
生気の無い黄色い瞳で見つめられるとなぜだか心まで見透かされているような気持ちになるのはなぜだろうか。
「……じーっ。」
言わなくても見つめてくれてるのはわかる、わざわざ擬音をありがとう……とこちらも目を見て訴えてみたが、驚いたのはサティのようだ。
なぜなら本来曜精はほんのわずかなエネルギーと生命の集合体ゆえに数日しか生きられないほど弱いもので、そのくせ人間の言葉そのものの理解はできるのになぜか喋ることはなく、言葉を交わす個体はあまり存在しないとのこと。
ましてや土曜の個体は無口なのが多いためなおさら。
「驚いたわぁ、いや……ごく稀に喋る個体は湧いて出てくるけど、土曜がまさかねぇ。」
だけどなぜかわからないが頭の上に乗っかられると奇妙な重みが頭にあって心地がいく、疲れるようなものではないがとにかく一人程度なら延々と乗ってても構わないほど。
「うーん、曜精が他のサーバーのプレイヤーになつくのは見たことがない前例ねぇ。 ガチャで引き当てて契約を正式にしないと使役はできないはずなのに、この個体は……まぁ、物好きねぇ。」
サティはそう言いながら腰をトントンと叩き、長時間座っていたために腰の疲れを少しだけ癒しながら立ち上がると腰のポケットから何かのメモリチップのようなものを手渡してくれた。
どこからどう見ても機械などに使うメモリそのもので【UR】と表記された謎の一品。
「あのー、これは?」
こう見るとパッと見てはウルトラレアの略にしか見えないのだがこれはいったいなんなのだろう?
「チュートリアルも終わったしぃ、UR確定のガチャメモリよ。」
「おぉおおっ!! やはりとは思ってたけど、確定のヤツ貰っちゃったよ。 まぁ、チュートリアルで殺されてるんだけどさ。」
人間もろとも瞬間的に肉体すら残さず蒸発させるほどの熱波を受けて二度目の死を味わったのだが、これもチュートリアルの内容だと思うとなんともおぞましいものだろう。
受肉しているプレイヤーのフレッチャーとはいえ、画面の前のプレイヤーもこんな内容のチュートリアルは嫌に違いない。
「フレッチャーだけの特別なチュートリアルよ? アンタはこの世界では特異な存在なんだから。 さて、ガチャは一階のホールにあるわ。」
「あれ私限定のお話なのね……あー、まぁいいや。 とにかくガチャ引きにいってみるか。」
UR確定ガチャメモリをポケットにしまい込むとまたしても頭の上にいる曜精が気になる。
こんなにも気に入ったのにここで解散とは名残惜しいものだと……そう思っていた。
「……大丈夫よ、私はフレッチャーについていく。 契約はまぁ……めんどくさいからしなくても私が決めたからそれでいい。」
何も言わなくても頭に乗っかってる以上は通じあえてしまうようで、思念だけで会話が可能とはとても素晴らしいパートナーを得たと自慢したくなる。
事実、第七サーバー以外のプレイヤーがこちらに遊びに来て引き当てようとしても確率は恐ろしいほどに低いのだから数百万人程度のプレイヤーでも数十人居るかどうかすら危ういところ。
「さて、私はここで解散さ。 あとは自分のしたいように冒険して……たくましく生きるんだよ? そのあとはどうなるのかは神の溝知るってヤツさ。」
「曜精……いや、ヨウでいいか。 ヨウが仲間になってくれて助かったわ。 行き倒れするところだったよ。」
本来ならばこの世界で一人で生きていかなければならないストーリーだったのだが、どうやら話の分岐点が新たに変わろうとしている。
というのもフレッチャーがこの先ギルドに加入して仲間を作るならまた別なストーリーに分岐するらしいのだが、今は新たに得た頼もしい仲間のヨウをお供にこれから遥かなる旅道が始まろうとしている。
――さて、一階は相も変わらず戦場。
エレベーターで移動したかったのだが建物の中を詳しく知るためには多少疲れても動いて自分の目で見て確かめるのが一番。
ここは第七サーバーの本部であり今日もたくさんのプレイヤーが集まっているみたいだが、中にはチラホラと他サーバーからの旅行者も。
「本部って大きいなぁ、あ……こんなところに食堂が。 こっちは武器工房にブティックまで!? スゲーッ!!」
いかんせん自分は少女の見た目とは裏腹に心までは少年のままなのだから見慣れないものへの好奇心は爆発的な執着を見せる、それが男のロマンだ。
「うるさい……。」
ヨウはフレッチャーのアホ毛を引っ張ってきた。
その痛いの何の、わりと力強く引っ張るものだからこんな小さくても油断はならず静かにしなくては三日後にはハゲ頭間違いなし。
そう思いながら歩いて行くと本部の一階のにぎやかな場所にたどり着いた。
こここそがガチャが引ける夢と悪夢の詰まった場所である。
曜精が頼もしい助っ人になったぞ!!
頼もしい……のか?