1.
やあ。
私は兎。
名前はまだない。
ずっとないままかもしれない。
まあ、いい。
君達は、幼い頃を覚えているか?
母の乳を吸い、全てを他者に依存していた頃だ。
そうか。わからない、か。
私は、まだ忘れられない。
欲望のままに母の乳に吸いつき、
兄弟達と身を寄せあっていた頃を。
半月前の事だしな。
ん?
なんだ?
ちょっと待ってくれ。
食事中だ。
・・・ニンジンじゃないぞ。
体に優しい、大自然そのままサラダだ。
ただの雑草と侮ることなかれ。
超貴重な薬草だ。
咲く花の蜜は、万病を完治させる万能薬に。
葉の汁は、体を元から頑丈にする健康薬に。
根は、奇跡を起こすエリクサーに。
そのまま食べても魔力は爆発的に増加するし、
知恵なき魔物が食らえば賢者と呼ばれるほど賢くなる。
神に為るためにも必要不可欠だ。
幻の、とか伝説の、とか。
それぐらい、貴重な薬草だ。
なぜそんなに貴重な薬草を食べているか?
うまいから。
たくさんあるから。
食べても食べてもなくならないから。
なんだ、その目は。
別にいいだろう。
誰も採りにこないし。
最近は、欲しがる奴も少なくなってるらしいし。
ふう、ごちそうさまでした。
なんだっけか。
ああ。
兎に自我があるのか?
兎が人の言葉を解するか?
兎に薬という知識があるのはなぜか?
こんなところか?
答えは、否。
断じて否だ。
魔法ありスキルありチートありの異世界でない限り。