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僕と父さんの食卓  作者: マサ
8/13

病気の時のお粥

朝が来て、ゆっくり目を開けると、いや、ごめん、嘘です。


朝が来たのは本当だけど、目を開けることは、正直できなかった。

体の奥の奥から鉛を注ぎ込まれているようで、呼吸する事すら、とても辛かった。


そう言えば、夏休みに入ってから、バイトもしていたし、地震やら台風やらで、色々と忙しくなっていた。

通常の仕事の他に、後始末の掃除や警報の前の予防対策の準備、そして、初めて大雨の中で、雨漏れになった窓の補強をした。


その他にも色々やっていて、それで給料は若干増えたが、気がついたら、学校が始まる前に、病気になってしまっていた。


ずっと父さんには『体を壊すまで仕事しないで!』と言っていたのに、こうして夏休みを理由でバイト三昧していると、逆に自分が倒れた。

本当に、面目ない。

けど、休みで学校に行かなくてもいいし、もう大体の短期バイトも終わったあとだし、少しくらいゆったりしてもいいじゃないかと、僕は思っていた。


しかし、案の定というか、熱があるせいで、まったりできるというよりは、ゆっくりしているだけでも辛かった。


息を吸うだけでも、喉がズキズキと痛くなってくる。

とりあえず何か飲みたくて、なんとか手を伸ばすと、手の甲がペットボトルに当たり、僕はそれを手に握った。


重さがあるそれは多分中身があると思い、必死にそれを開けて、なんか色々こぼした気がしたけど、ともかく、何か飲みたくて仕方が無かった。


口の中に液体が入ってくるとき、味とか全くわからなかった。

けど、もう少し飲んでいると、少し甘いなと、ぼんやりとそう思えてきた。


気が付くと、ペットボトルの中身を飲み干してしまい、喉は潤したけど、何故か疲れが一気に寄せてきた、僕はそのまま睡魔に身を委ねた。



「起きろ、おーい、起ーきーなーさーい。」


体が揺らされているような気がして、少しずつであるが、意識が戻ってきた。

額と頭の後ろになんかひんやりとした物が当てていて、それがとても気持ちよくて、僕はもうちょっと寝ようとしていた。

けど、また体が揺らされていて、仕方ないから、僕は目を開けた。


「気がついたか。」

「……父さん?」

「ほら、アイスだぞ。」


父さんの顔を見た時、まだ頭はうまく回らなかった。

けど、好きなメーカーのアイスとスプーンを渡されて、突然お腹が空いてきたのを感じた。

父さんの手を借りで、少し体を起こしたら、視線がどこかぼやけたままでも、僕はアイスの蓋を開けた。

好きなメーカーのアイスはちょっと高いから、普段はあまり食べることができない、だから、ちょっとだけワクワクしながら、僕はアイスを食べた。


なんかアイスがいつもよりも冷たくて、いつもよりも甘い気がして、黙々と食べていたら、小さなアイスの容器はすぐに空になった。

何もなくなってしまったアイスのカップを見て、もっと食べたいと思っていたら、突然悲しくなって、僕はそのまま泣いた。


どうして悲しくなって、泣きたくなったのか、僕にはわからなかった。

父さんの前なのに、泣いてしまうのがとても恥ずかしくて、本当は止めたかった。

けど、一度泣き出してしまったら、もう止められなかった。


そうして、僕が泣き続けていると、父さんは僕にマグカップを渡し、そして、僕の顔をタオルで押しながら、父さんはそう言った。


「食欲はなくても、何か食べた方がいいよな、粥を作るから、少し待ってて。」

「ひっく、うぅ、うん、わかっ、た。」


ボロボロの声だったが、僕は反射的に父さんにそう答えた。

僕の返事を聞き、父さんは立ち上がって、そのまま僕の部屋から出ていった。


最初は泣いてる顔を見られなくて済むと思って、僕は少し安心した。

けど、父さんに任せると、本当に僕の分の粥だけ出てきて、父さんは自分の食事を忘れそうだから、僕は少し無理をして、なんとか立ち上がった。


思ったよりもお腹当たりが痛くて、足が震えてるから、一瞬ベッドに戻ろうかなと思った。

けど、汗で体がベタベタで気持ち悪いし、どうせベッドも同じように濡れてる。

それなら、いっそのことやるべき事を済ませてからベッドに倒れてやろうと、僕はそう決めた。

マグカップの中身を飲み干して、僕は空になったマグカップと、記憶にないが、いつの間に二回分無くなった薬の袋を抱えて、なんとか部屋から出た。


廊下を裸足で歩くと、床がとても冷たくて、気持ちが良かった。

ぼんやりと厨房の方へ歩き、僕はコンロの前にいる父さんの隣に立った。

メガネをかけてなかった、というかかけ忘れたけど、思ったよりも量が多かったお粥が目の前にある事を、僕は何故か把握できた。


どうやって話せばいいのか僕が悩んでいると、僕のことに気づき、父さんは驚いた声を上げて、すぐに父さんは僕を風呂場の方へ押そうとした。


「寝てていいって言ったのに、どうしてここに来るんだ?歩けるなら風呂場に行きなさい、湯は沸かしている。」

「あ、うん、分かった。」


本当は何か別の話もちゃんとしようと思ったけど、父さんの勢いに押されて、僕は言いたいことを忘れた。

しかし、多分大事なことだったらすぐ思い出せるし、僕は言われた通り、風呂場の方へ歩いた。


一度風呂に入ると、体が楽になったような気がして、髪の毛を拭き、僕はちゃんとキレイな服に着替えて、もう一度だけ僕は厨房へ向かった。


いつの間にか二口のコンロはどっちも使われていて、両方の鍋に入った粥に気づき、少しだけ僕は笑いたくなった。

けど、笑うほどの余裕が僕の喉にはなくて、何も言えず、僕は棚からふりかけと醤油を手に取った。

そして、冷蔵庫を開けた後、中から卵を取り出して、僕は鍋の方へ歩いた。

卵を直接片方の鍋の中に落として、箸で掻き混ぜたあと、両方の鍋にふりかけと醤油を入れた。

不思議そうに父さんは僕を見ていたが、僕がやっている事を理解すると、父さんは少し落ち込んでいるように頭を下げた。

そんな父さんを見て、僕はなんとか声を絞り、火を止めた後、僕はそう言った。


「お腹すいたから、もう食べよう。」

「あ、そう、そうだな、うん。」


僕の手からふりかけと醤油を取り、いつも僕が使ってるトレーにそれらを粥と一緒に乗せたあと、父さんはどこか吹っ切れた声でそう話した。


「じゃあ、食卓に行こう。」


優しく背中を押されて、僕は父さんの言うとおりに厨房を出た。


本当のことを言うと、そうして父さんが料理すること自体が少し心配だった。

案の定、量がよく把握できず、二つの鍋のお粥が出来上がった。

けど、食卓につき、目の前に鍋入りの粥が暖かな湯気を漂っているのを見て、僕は少し安心した。


結局僕は父さんと一緒に食べられるのなら、なんでもよかったのかもしれない。

そう思って、一緒に席に着くと、僕は父さんと一緒に手を合わせ、レンゲを握りながら、僕は父さんと同じ言葉を言った。


「いただきます。」


さって、元気になったら、また一緒に何か食べよう。

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