苦くない青椒炒肉絲
「はい、そこまで!」
先生の声を聞くと同時に、僕はテスト用紙から手を離し、使った鉛筆と消しゴムを筆箱の中に入れた。
一番後ろのクラスメイトがそれを回収しに来るのを待っている間に、僕は少し周りの様子を見た。
そろそろテスト期間が終わりを迎えて、クラスメイトたちがウキウキしている。
テスト用紙が既に回収された教室の後ろからヒソヒソと声が聞こえ、『飲み会』や『カラオケ』という単語が耳に入り、これが大学生だなと、少し感心してしまった。
最後の列からテスト用紙を受け取り、先生が出席人数を確認して、テスト用紙の枚数を二回数えた。
両方の数が合っていると分かり、先生は満足そうに頷き、そして、先生は僕たちを見て、真剣な顔でそう言った。
「まだ時間があるから、次の教室へ向かってもいいし、この教室に残って自習してもいい。」
隣のクラスメイトがグッと拳を握っているのに気づき、僕は少しだけ驚いたか、すぐに先生の声が聞こえて、僕は先生の方を見た。
「ただし、隣のクラスがまだテスト中だから、くれぐれも騒がないように。以上、解散。」
そう言い終わると、先生はテスト用紙とカバンを抱えて、急いで、しかし、とても静かに、教室から出て行った。
先生が教室の扉を閉じた瞬間、後ろの方から机と椅子がぶつかる音がして、素早くバッグを背負い、教室から飛び出していく人が見えた。
僕の隣のクラスメイトもカバンを掴んで、勢いよく彼は立ち上がったが、その時、僕の机にぶつかり、僕の筆箱が落ちそうになった。
スっと彼が手を伸ばし、床に落ちる前に僕の筆箱を捕まえて、少し申し訳なさそうに、彼は小声でそう言った。
「あっと、すんません。」
「いえいえ、大丈夫です、ありがとう。」
少し驚いたように彼は目を見開き、そして彼は教室の後ろを見て、こっそりと彼は僕にそう言った。
「もしかしたらあんたなら狙われないかもだけど、すぐに教室に出た方がいいよ、じゃ、俺次のテストあるから。」
意味深の事を言うだけ言って、カバンを抱えたまま教室外へ走っていった彼を見て、僕は少し困惑した。
『狙われる』ってなんの事だろうと、そう思いながら、僕が教室を見渡した。
その時、もうみんな次の教室へと向かったのか、妙に人が少ない事に気づき、僕の疑問は更に深まった。
そして、その直後、僕はその理由がわかった。
一人、同じクラスじゃないから多分先輩、の人と目が合い、向こうはビックリしたような顔をした後、こっちに向かって来た。
その切羽詰まってる表情を見て、何があったんだろうと考えていたら、いきなり頭を下げられて、その人は僕に言った。
「君が転入してきた後輩って奴だろう?週末に時間ないか?土日、いや、一日だけでもいい!助けてくれ!」
突然そう言われて、驚きと困惑がいっぱいになったが、『助けてくれ』という言葉を聞き、僕はそう聞き返した。
「あの、時間はあるんですけど、その『助けてくれ』ってのは、一体なんの事ですか?」
「時間はあるんだな!?一日?二日!?」
よほど緊急な何かがあったのか、『時間がある』と聞くと、その人は僕の机を叩き、大声でそう聞いてきた。
隣がまだテスト中である事を思い出して、僕は人差し指を唇の前に当て、そして、しっかりその人を見て、僕は大声にならない程度に、ハッキリと言った。
「週末の予定はまだですけど、家事もしなければなりませんので、一体何を頼むのか、先に聞かせてくれませんか?」
僕の言葉を聞き、ハッとその人は我に返り、自己紹介を含めて、その人は説明してくれた。
「すまない、うちは農家で、あ、留年した農民先輩って言ったらわかるかな。実は最近は野菜の収穫期なんだけど、うちの叔父さんが腰をやってさ、動いちゃダメなんだって。」
「ああ、先輩の事なら聞いた事があります。で、叔父さんは大丈夫ですか?」
「あー、安静にしとけば大丈夫だけど、収穫収穫って言っててうるせんだよな。」
「なるほど、それで収穫の手伝いさんを探している感じ、ですか?」
「そうそうそれ!」
先輩の話はちゃんと聞いていたが、それでも最初に『農民先輩』という単語を聞いた時、僕は少し驚いた。
何個も上のはずだけど、家の手伝いで欠席しがちで、未だに留年が続いている先輩がいる事を聞いた事がある。
その先輩の、あだ名なのかな?が、『農民先輩』だった。
単位を落としがちなので、一年や二年の科目もまだ受けていて、僕が受けている必修科目も、今年で二回目らしい。
そして、毎回欠席すると、必ず誰かが『先生、きっと最近は収穫期だよ』と言い、先生も『おいしい作物の為に仕方ない』と言っている。
『農民先輩』を担任した事がある先生たちは、もはやその欠席状況で一部の野菜や果物の収穫期を覚えたと、そう噂に聞いた事もあった。
だから、軽く有名人の噂の『農民先輩』が目の前にいるのは、正直に言うと、やはりちょっと不思議な気分でいた。
しかし、先輩の話を聞くと、僕みたいな素人の手でも借りたいと言うのは、余程の事だと、僕はそう思った。
最近洗濯物も溜まってきたし、週末二日全部は厳しいけど、一日くらいなら大丈夫かと考えて、僕は先輩にそう返事した。
「先も言ったんですけど、僕は家事をしなければいけませんので、二日は厳しいですか、一日でしたら大丈夫ですよ。」
「お、おお!マジか!ありがとう後輩!なら土曜日に来てもらっていい?交通費も給料も出すからよ!」
「えっ、給料をもらえるんですか!?」
「おうよ!まあ、つっても現物支給がメインかな、形の悪い野菜とかで申し訳ないんだが、その代わり、新鮮さは保証するぜ。」
先輩は少しバツが悪そうに頭を下げたが、野菜がもらえると聞き、正直に言うと、それがとってもとても助かる。
量によってはだけど、スーパーや市場に行く回数は確実に減るから交通費が浮くし、献立の方向も絞りやすくなる。
そして何より、雨季の野菜はビックリするほど高いのに、タダでもらえるなんて、それはもう、最高です。
そう思うと、僕は先輩の方へ向き、感謝の気持ちを込めて、僕はそう言った。
「大丈夫です、元々見返りを望んでないし、それに、交通費と野菜が貰えたら、家計も少し楽になるし、もう充分です。」
僕の言葉を聞き、先輩は驚いたように口を開き、しばらく考え込んだ後、先輩は僕の肩に手を置き、すごく真剣な声で先輩は言った。
「あー、頼んといてなんだけど、仕事を頼まれたら、ちゃんと報酬を貰わないと、自分だけ磨り減ってしまうぞ。今回はこっちも緊急だからなーんも用意できねえのが悪いけど、本当はこういうの割に合わねえから、やめた方がいい。いやまあ、来て貰うけど。」
すごく真面目な話なのに、最後の一言で思わず笑い出してしまい、先輩を見て、僕はそう答えた。
「先輩、ありがとうございます。では、今回は初回お試し価額って事にしましょう。」
僕の話を聞いて、先輩は吹き出してしまい、笑いに体を震わせながら、先輩はスマホを取り出して、僕の方へ向けた。
「じゃあ、土曜日迎えに行くから、先に連絡先を交換しよう。」
「そうですね。」
そうして、僕は先輩と約束を交わし、土曜日、その実家の方でお手伝い、いや、バイトする事になった。
スマホを取り出して、まだ既読がつけられていないメッセージを見て、僕はキーボードをタップし、父さんへ新しいメッセージを送った。
『土曜日は朝から先輩の所の畑仕事を手伝いに行く。夜は遅くなるかもしれない。』
と、文字を送ったのはいいけど、相変わらず読まれる気配のないメッセージを見て、また仕事で忙しいのかと思い、僕はスマホを仕舞った。
『返事を遅れてごめんなさい。土曜日の事はわかった、気をつけて。』と、父さんから返事が来ていた。
送信時間は土曜日の三時、深夜?早朝?の三時だった。
それに気づいたのは、待ち合わせしている先輩のおばさんと会い、トラックに乗っている時だった。
長い間既読も付けなかったから、不安だったのもあり、本当は父さんに不満を抱いていたが、返信の時間を見て、逆に『また無茶してんじゃねえか!』と、頭を抱えたくなった。
運転しながらも僕の反応に気づいたのか、こっちを見ることはなかったが、心配しているように、僕は先輩のおばさんにそう聞かれた。
「あら、どうしたの?体調わるいの?」
「いいえ、大丈夫です、ちょっと父さんへの返事を考えていただけです。」
「あらまあ、いいお父さんじゃない。」
「えっ?」
驚いて声を上げ、運転しているおばさんの方を見ると、ハンドルを握り、どこか嬉しげにおばさんは僕にそう答えた。
「今朝の五時前でしょう?こんなに朝早く連絡をくれるなんて、きっと心配しているのよ。」
「そう、ですか?」
「そうよ。それに今の子供は大体畑とか触った事ないでしょう?それで気になったんじゃない?」
「……そうかもしれませんね。」
「ね。」
黙って道路を見つめて、僕は過ぎ去る景色を眺めながら、少し考えてみた。
確か父さんの実家は漁師だったと、すごく昔に聞いた事があった。
船を持って、漁に出て、天気と海で収穫が大きく影響されるから、神様のおかげで食べているよと、父さんはそう言っていた。
海と畑じゃ全然違うだろうけど、もしかすると、何か共通する物があるかもしれない。
そう考えると、僕は今日一日は真剣に頑張ろうと思い、父さんへの返事を書き始めた。
「いいか?ピーマンはな、枝が折れやすいから気ぃつけ、ハサミを使え、で、切るのはここだここ。」
「ここですね。」
先輩のお父さんから話を聞き、僕は貸してもらったハサミでピーマンを切った。
すると、満足したような表情になって、先輩のお父さんが僕の肩を叩き、嬉しそうに彼は言った。
「そうそう、ここだここ。なんだ、結構見る目あんな!大きさの選択もいい。っとそうだ、この種類ぁ軍手の指三本以上なら収穫していいぞ。」
そう言いながら、お父さんが手を伸ばし、軍手をつけた人差し指、中指と薬指をくっつき、僕にその大きさを見せた。
「はい、わかりました。」
「おうおう、飲み込みが早えな!んじゃピーマンを収穫出来たら、ここぉカゴに入れるんだ。あ、もし水が飲みたい時は離れて飲め、だが我慢するな、我慢は体を壊す!無理すんじゃねえぞ!」
「は、はい!」
先輩のお父さんは声が大きいけど、その分真っ直ぐに彼の心配は声と一緒に届き、僕は少し安心した。
初めて見る相手に初めての場所、そして、初めてする畑仕事。
本当に僕にできるのか本当に心配だったけど、思ったよりも丁寧に説明されていたし、周りの人達も色々教えてくれて、僕はなんとか収穫を手伝えた。かも。
途中に休憩を挟むと、『お昼休憩に入って』と先輩のお母さんに連れられて、僕は家の中にある大きなテーブルに座り、一緒に食べる事になった。
「んじゃあんた、結構遠い場所から引っ越してきたんじゃないの!てか訛りとかないから、気つかなかったわ。」
「はは、よく言われます。」
行儀は悪いけど、お母さんと一緒に話しながら、僕は箸を手にした。
先輩本人は別の場所で瓜を収穫している話を聞きながら、テーブルにある料理へ取り分け用のお玉を伸ばし、とある料理が僕の目に止まった。
「あら、どうしたの?」
「いや、この料理、……名前は何かなっと思って。」
「ふふ、この料理ね、青椒炒肉絲よ。」
「ちんじあ……ん?」
「チンジャオシャオロースよ、ちょっと言いづらいわね。つまり、ピーマンと刻んた肉の炒め物だよ。ピーマンは好き?」
「あ、はい、好きです。」
「あらまあ珍しい、うちの子は高校生になるまでピーマンが嫌いだったのよ。」
ふふふと笑い、先輩のお母さんは青椒炒肉絲の皿へ手を伸ばして、僕の前に置いた。
「でも、この青椒炒肉絲だけはいつも食べてくれてね、私ピーマン好きだから、嬉しくてまた作っちゃうの。さあ、食べてみて。」
「はい、では、いただきます。」
初めて聞いた青椒炒肉絲という料理に好奇心を抱き、僕はほどほどの量を取り分けて、それをご飯と一緒に食べた。
「……おっ、ピーマンの苦味がほぼない!肉も柔らかいし、ソースもすごくご飯と合います!」
「ふふ、ちょっとしたコツがあるのよ、聞きたい?」
「是非!よかったれレシピも教えてください!」
「あらまあ、嬉しいわ。」
先輩のお母さんは嬉しそうに笑い、彼女は料理のコツを一つ一つ丁寧に教えてくれた。
レシピの材料とつくり方を慌ててスマホで記録していたら、彼女は穏やかな笑みを浮かべて、僕にそう聞いてきた。
「ねえ、誰に作るの?」
「父さんに作ります!」
すぐにそう返したら、先輩のお母さんは暖かく笑い、手を伸ばしてきて、彼女は僕の頭を撫でた。
なんだかとても照れくさくなったが、その手を退かそうという考えは、どうしても起こらなかった。
恥ずかしいけど、僕はそのままご飯とおかずを一気に食べて、空になった茶碗と箸をテーブルに置き、僕は先輩のお母さんにそう言った。
「ご馳走様です、とっても美味しかったです、ありがとうございます!」
それを一気に言い終わると、僕は貸してもらった軍手とハサミを持ち、カゴを掴んで、畑に戻った。
そんなこんなで、なんとか一日の手伝いを終えた。
畑のそばに立ち、たくさん収穫されたピーマンと他の作物を見て、僕は少し驚いた。
たったの一日だったけど、たくさんの人が一緒に働くと、広い畑の中から、こんなにも立派な野菜たちが集められた。
どれほどの努力と心遣いがあれば、これだけの物作れるのか、僕にはわからない。
けど、艶のある野菜を見て、それが後スーパーや市場で並べられると思うと、僕はそれがとても凄い事だと思った。
感情のままに野菜を写真に撮って、今の感動と一緒に父さんに送ってみた。
すると、すぐに既読がつき、そして入力が始まる表示が出て、僕は少し驚いた。
『お疲れ様、ピーマン綺麗だね。』
『そうだよ。ピーマンもだけど、作物たちも畑も綺麗だなってビックリした。』
『いい経験が出来たな。』
そう返された父さんのメッセージを見て、僕はすごく帰りたくなった。
文字でじゃなくて、今日の一日の事を、ちゃんと僕の口で、父さんに聞かせたくなった。
そう考えながら、帰ろうと僕が振り向いた瞬間、先輩のお父さんと目が合った。
突然振り向いた僕に驚いていたが、それでも彼はしっかり声を張り、その大きいな声で僕にそう聞いた。
「母さんがご飯食べていかないって言うんだけど、もう帰るのか?」
「はい、家に帰って、今日の事をすぐに父さんに話したい!」
「……そうかい、んじゃ今日の給料ぉ渡さねとな、ついてきな。」
「はい。」
給料という単語を聞き、心が少し震えた。
正直今日一日で、自分はちゃんと手伝えたのか、少し自信はなかった。
けど、言われた通りカバンを持って、トラックへ歩いた時、そこに『おいしく食べてね』と書かれた二つの大きいダンボールを見て、僕は驚いた。
何も言えずに立ち止まっていると、肩を強く叩かれて、言葉と同時に、僕は一つの封筒をもらった。
「お前さんは仕事が丁寧で早いから大変助かった。こっちゃ帳簿の関係上色は付けられねえが、代わりといっちゃなんだが、野菜をたっぷり詰めた、もちろん、ピーマンもな。」
「え、いいんですか?こんなに頂いて。」
「もちろんいいさ、形が悪ぃから売れねえけど、味も鮮度も自慢な野菜だぜ!母さんから聞いた話にゃ料理もできるみてえだ、じゃあ無駄になんねえし、俺ぁ安心だ。」
強く肩を叩かれながらも、僕はその顔を見た。
何故だかわからないけど、胸が暖かい何かでいっぱいになった。
お父さんの方へ向き、僕は頭を下げて、自分が出せる一番大きな声で、感謝の気持ちを込めて、お礼を言った。
「今日一日お世話になりました!本当にありがとうございます!」
言い終わった時、僕は頭を上げた。
すると、先輩のお父さんの顔が真っ赤になったのを見てしまった。
そしてすぐに大きな手で背中を押されて、僕は助手席の前まで歩かされた。
何か見ちゃいけない物を見た気がして、そのまま押されていると、とてもか細い声で零された言葉を、僕はしっかり聞いた。
「なかなか熱ぃじゃねえか、父さんと仲良くな。」
驚いた僕が振り向こうとした時、彼はもう離れてしまった。
その背中を見送り、トラックへ目を向けると、運転席でニヤニヤしているおばさんと目が合い、何を言ったらいいのか分からないから、僕は黙ったままトラックに乗った。
帰りに貰った野菜がダンボール二つ分もあるから、一人じゃ運べないと思い、僕は父さんにメッセージを送った。
驚いたのか、父さんから誤変換したメッセージが返されたけど、それが『家の近くで待つ』と、僕はなんとなくわかった。
そして家の近くまでトラックが止まり、ダンボールを一緒に下ろした後、先輩のおばさんはそのまま帰っていった。
少し待っていたら、父さんが迎えに来た。
その時、誰から借りてきたのか、父さんが結構大きい台車を持ってきた。
驚いたように二つのダンボールを見た後、父さんは僕を見て、不思議そうにそう聞いてきた。
「これ、まさか全部貰ったの?」
「うん、お給料につけた色だって。」
「……今度その先輩に会ったら、代わりにお礼を言ってほしい。」
「わかった。そうする。」
そして、父さんと力を合わせて、僕たちは野菜二つ分のダンボールを台車に乗せた。
家に帰って、とりあえず二つのダンボールを一度厨房まで運んだ。
野菜を冷蔵庫にしまう前に、下処理などもしなければいけないが、まずはご飯だ。
そう思って、炊飯器の方へ目を向けると、既にご飯が出来上がっていた。
ビックリしたせいで固まっていると、少し照れたような父さんの声が聞こえた。
「いつもは作ってもらってばかりだから、なんか作ろうと思って、ご飯を炊いてみたけど、冷蔵庫を見ても、何を作っていいのか思い浮かばなかった。」
そう言われて、僕もちょっとだけ照れてしまった。
元々は手抜きで済まそうとは絶対に言いたくなくて、僕はあたかも知っていたかのように両手を腰に当て、父さんにそう言った。
「実はこの野菜立ちを待っていたんだ!思ったより量は多いけど問題ない、テーブルを用意してもらってる間にさっと出来上がる!」
「そ、そうか、なら、テーブルは私に任せて。」
「はい、お願いします!」
本当の事を言うと、父さんが長い間残業やら泊まり込みやらで、なかなか帰ってこなかったから、週末はちょっと手抜きで作ろうと思ってた。
つばり!『ご飯炊いただけ!』、『肉焼いただけ!』、と『卵載せただけ!』って奴。
だから、冷蔵庫にはお肉があって、それならせっかくだから、青椒炒肉絲にしようと僕は思った。
そうと決まったら、僕はダンボールから必要な野菜を取り出し、改めて調理台と向き合った。
野菜を切って、一度レンジで加熱したあと鍋へ突っ込んで、味付けをして野菜スープにする。
そして、一瞬迷ったけど、食べきれなかったら冷凍するか弁当にしたらいいと思い、僕は肉とピーマンを多めに切っった。
似た大きさで縦切り、肉には下味つけて、そして、炒める順番は肉が先。
先輩のお母さんが教えてくれたコツに従い、さっと火が通るまで炒めて、塩コショウを加えたら、青椒炒肉絲が出来上がった。
思ったよりも簡単に出来上がって、僕は最後の味見にピーマンを食べて、少し噛み締めていると、ふっとそう感じた。
あれ?このピーマン、甘い?
一切砂糖は加えてないのに、この感想が出ることに、僕は驚いた。
苦くない青椒炒肉絲は果たして青椒炒肉絲と言っていいのかわからなかったけど、父さんの反応が見たくて、僕はちょっとワクワクしながら大皿を取り出して、それを盛り付けた。
最後に鍋の方を確認して、野菜スープをボールに分けると、大きな容器をトレーに載せて、僕は思わず大きいな声を上げて、食卓の方へそう叫んだ。
「今日は新鮮な野菜尽くしだよ!」
炊飯器を運び、僕の分のご飯をよそってくれた父さんは僕の声を聞いて、すごく驚いていた。
そして、僕がトレーを運んだ時、様子を見に来た父さんは様々な野菜達を見て、楽しそうな声でそう言った。
「野菜のパレードみたいんだな。」
「確かに!野菜の宴だね。」
そう父さんと顔を合わせて、笑いあった後、僕は席に着き、父さんと一緒に手を合わせた。
『いただきます!』
新鮮な食材たちで、次は何に挑戦しようかな。