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僕と父さんの食卓  作者: マサ
10/13

野菜たっぷりインスタントラーメン

「とりあえずは……ここまでかな。」


誰も聞いてないのはわかっているけど、それでも思わずそう声が出た。

それだけ厨房を片付けることで疲れたのと、ちょっとだけ休もうと、自分に言い聞かせる意味もあった。気がする。


実は、季節の変わり目に、ひどい風邪を引いた。

学校を休んでもいいけど、ここの大学だけなのか、それとも他にもいるのか、欠席回数を見て、生徒を落とす先生がいる。

だから、本当は休みたいのに、単位の事を考えると、気軽に休めなかった。

それで、風邪薬を飲んで、マスクとして、無理に学校に行った結果、病気が何週間も長引いて、家事するやる気は、どうしても出なかった。


一応父さんも家事はしているけど、残業や出張で出来ない事も多いし、家にいる時間はやはり僕の方が長いから、結局、大体の家事は僕がやらないといけない。

とは言え、洗濯とごみ捨て以外、必要性が高い家事はなく、買い物も毎日買いに行く事で、負担を減らしてみた。

中間テストを凌ぎ、なんとか体調も戻ってきて、今はもう病み上がりとは言えないけど、やはり体はどこか怠い。

体が鈍ってるような感覚を振り払うために、僕は両手を一杯に伸ばして、大きく伸びをした。


そして、一回深呼吸をした後、息を吐き捨てて、僕は目の前の光景を見た。


厨房の片付けはもうあらかた終わっていた、冷蔵庫も棚も整理したし、洗った数日分の食器も全部元の場所に戻した。

たった一つぐちゃぐちゃになっているのは、今調理台に並んでいる、保存期限がちょっと不安な物たちだけだ。

野菜類とお肉は正直のところ、油と塩コショウを使って、チャーハンなどの炒め物にしてしまえば解決できる。

普段なら、連日チャーハンとかの炒め物で味気ないじゃないのかと、心配するところだったけど、最近なら、その心配はない。

何故かと言うと、二ヵ月前から父さんは何か大きいなプロジェクトを進行しているらしくて、残業もするし、時々出張もするから、あまりに家にはいない。

だから、少し手を抜いても、大した問題ではない。

とは言え、『そろそろ仕事も一段落できそうだ』と、前に深夜帰りでフラフラの父さんから聞いたから、何かを作るかと、少し真剣に考えてみよう。

父さんにとっては、ここに引っ越してからの大きいなプロジェクトだし、景気付け的な意味で、何か特別な物がいいような気がした。

と、ここまで考えて、目の前にある食材たちの存在を思い出した。

炒め物にしても、面倒くさいから漬け物にしても、食材の下ごしらえをしないと駄目なので、とりあえず先に調理しようと、僕は包丁を取った。



食材の下ごしらえを済ませて、そして干した洗濯物を取り込み、自分の服と父さんの服の中から、何枚の服を取り出した。

時々、僕と父さんの洗濯物にはシャツが入ってる。

アイロンを掛けないといけない、なんて事はないが、掛けた方がいいのも事実だ。

特に、父さんは仕事で他部門との打ち合わせだったり、違う会社でのミーティングに参加したり、結構色んな場所へ行くから、見た目的にも、しっかりやった方がいい。

まあ、僕もアルバイトの時にシャツを着るから、ついでにやってやるの気持ちが、ちょっとだけある。一人分も二人分も、そんなに変わらないから。

だから、今回のアイロン掛けが必要な服と全部取ったら、僕はアイロンを使うためのスペースを作った。

テレビやマンガで、日常生活として、アイロン掛けという行動が、たまに見かける事がある。

それで、アイロン掛けのシーンを描写していると、大体は片手にアイロンで、服はなんかいい感じの板の上で置かれてて、そこでやるけど、うちにそんな物はないから、僕はいつもソファーでやっている。

もしかしたら、ソファーでやるのは駄目かもしれない。

でも、確かにソファーのバイ菌とかが心配なら、アイロン掛けたらいいという話も聞いた事があるし、大丈夫だと思う、多分だけど。

それに、冬の日でアイロンを掛けるのは、ちょっとだけ楽しいんだ。

何故かと言うと、アイロン掛けが終わった時、しばらくの間、ソファーが暖かいからだ。

全部のシャツにアイロンを掛けたら、暖かくなったソファーに座り、僕は目立ったシワがなくなったシャツと服を畳んだ。


普段はあまり気にしてなかったけど、洗濯してみると、僕と父さんの服の色がだいぶ違う事に気づく。

僕の服は基本的には黒か白で、時々アクセントで派手な色や柄があるくらい、でも父さんの服は青色のものが圧倒的に多かった。

青の服は僕も好きだったけど、時々父さんが間違って持っていくから、間違えられないように、今は主にモノクロトーンの物にしている。

いや、別に僕の服を持って行った事自体はいい。

ただ、ふっとした瞬間、今日はあの服が着たいなーとか思ってるのに、どこを探してもなくて、父さんが出張先とかに持って行ったと知った時、結構凹んでしまうし、テンションも下がる。


一応言っておくけど、僕と父さんの体型は近くない。

けど、父さんは大人で会社勤め、社会人の基本なのか、いつもピッタリの服を着ている。

それに対して、僕はダボダボしている感じのファッションを好むので、買う服のサイズは若干大きめの物が多い。

そのせいか、サイズだけ見ていると、どれがどっちのか、案外見分けが付かない事が多い。

まあ、この事も二人暮らしになってから、初めて気づいた事なんだけどな。


と、いろいろ考えながら、家事とかを終わらせた時、もう夜になっていた。

掃除に使っていた掃除機を片付ける時、父さんから送られてきた『遅くなるから先に食べて』のメッセージはもう読んでいたので、今日は適当でいいや!的な気持ちになった。


本音を言うと、半日くらいしかやってないとは言え、もう何もしたくないという、若干怠惰というような気持ちになった。

しかし、今日は沢山体を動かしていたので、ガッツリ食べたい気持ちもあって、どうしたらいいと考えていると、僕はインスタントラーメンの存在を思い出した。

厨房の中に入り、鍋の中に水を入れて、それをコンロの上に置いた。

そして、冷蔵庫の扉を開けて、野菜炒め物にしようと思って、もう切ってあった野菜が入ってる容器を取り出し、それを鍋の中に突っ込んだ。

火をつけて、それが沸騰するまでに僕はインスタントラーメンのパックを手に取り、そのままそれを開けた。

調味料のパックを先に出して、鍋の水が沸騰したのを見て、まずは麺を入れる、そして、袋を逆さまにして、中に残ってる麺の欠片も一緒に入れた。


その時、突然に、本当に突然に、昔の事を思い出した。


一時期、僕は学校の寮に住まい、寮生活を送っていた。

自分で自分の事をしなければならないけど、他人も自分の事を過干渉しないのは、とても自由で、すごく勉強になった。

確かあの時、初めてカバンとか、日記とかは家族が勝手に覗かない物だと理解し、少し驚いた記憶もあったな。

同じ部屋にいる一つ上の先輩は少しだけ潔癖症なところもあって、片付けとかも掃除とかも結構色々教えてもらった。

でも、料理の時だけは違う。

理由は知らないけど、先輩の料理センスは驚く程壊滅的で、結局いつもコンビニ弁当で済ましていた。

でも、せめてインスタントラーメンくらいは作れるようになりたいと言われて、二人で一緒に研究していた。

で、試しに試した結果、食材を全部茹でて、それでインスタントラーメンも入れて、後は調味料にお任せするスタイルになった。

味が薄く感じても、決して鍋には余分の調味料を入れない。

と言うか、あまりにも先輩が適当に入れるせいで、塩辛くなったり、塩っぱくなったり、言い得ないような味になるから、入れちゃダメだと僕が何回も言っていた。

どうして人はまずい料理を生み出したのか、未だに謎だけど、そういう人もいると、納得するしかなかった。


そう言えば、あの時の先輩は、今はどうしているんだろうか。

連絡先は一応交換してあるし、SNSでも繋がってるから、後で聞いてみよう。


『ガチャッ』


いきなり扉が開く音が聞こえて、持っていた箸をうっかり落としてしまった。

どうしてこの時間に、と言うか入ってくるのは誰?


と、動揺していたら、ひょっこりと扉の方から父さんの顔が現れて、僕のことを見て、いたずらっぽく父さんは笑った。

「ジャン!今日の食事会はキャンセルになったから、フライドチキン買ってきたぞ!」

「そ、そうなんだ、あっ」

箸を拾って、それを洗おうと調理場へ視線を向けると、僕は気づいた。

父さんが夕食の時間には帰って来ないと言ったから、すごく適当にインスタントラーメンを作っていたんだけど、冷蔵庫を片付けていた事もあって、すぐに食べられる主食系の物はない。

どうしたらいいのかと悩んでいると、父さんはコンロの方へ歩いて行き、鍋の中を見て、父さんは僕にそう聞いた。

「今日はラーメンを作ったのか、他に何かあるのか?」

「えっ、いや、今日はこれだけだけど。」

「じゃあ、チキンを半分あげるから、そのラーメンを半分頂戴。」

父さんにそう言われた瞬間、野菜しか入ってないから、多分味は薄いよと思った。

けど、味が薄いなら、ちょっとだけ調味料を入れたらいいと思い直して、僕は父さんにそう答えた。

「うーん、わかった、食器を用意するから、先にテーブルに行ってて。」

「わかった!」

少し弾んだ声でそう答えた後、父さんは買ってきたと言っているチキンの容器を抱えて、食卓の方へ歩いて行った。


チラッと父さんの手元を見ただけだけど、あのチキンの容器、ファミリーサイズな気がする。

僕たち二人しかいないのに、どうしてファミリーサイズなんて買ってきたんだろうか。

でも、フライドチキンを食べるのもすごく久しぶりだったし、今日作ったインスタントラーメンも野菜ばかり入っていたから、丁度よかったのかもしれない。

そろそろ麺もいい感じになったから、ちょっとだけ塩とネギを足した後、僕は味見をした。

もうちょっとだけネギと入れて、最後に味を確かめた後、僕はコンロの火を止めた。

食器棚を見て、そこから二人分の食器を取り出し、いつも使ってるトレーに乗せた後、鍋も一緒に持って、僕は食卓へ向かった。


厨房を出て、食卓にたどり着くと、既に父さんがコップと飲み物を用意して、フライドチキンの容器も開けられていた。

容器の横に鍋を置くと、父さんに大きいなお椀と箸を渡して、僕は父さんの向かいに座った。

「じゃあ、食べようか!」

「今日はテンションが高いね、何があったのか?」

「フフ、それはまだ秘密、さあ、早く。」

「わかったわかった分かりました、じゃあ。」

『いっただきます!』


手を合わせた後、嬉しそうに鍋へ箸を伸ばす父さんを見て、僕はちょっとだけ苦笑いした。

結構手を抜いているのになと思ったけど、たまにならいいかと開き直って、僕は先にコップに飲み物を入れた。

フライドチキンをセットで買ったからか、普段とは違う飲み物もテーブルにあって、その飲み物は炭酸だった。

炭酸とチキンとラーメン、この組み合わせがちょっとだけギルティ!的な感じがするけど、試してみないと分からないと言う考えなので、僕は敢えて炭酸を選んだ。

コップの中になみなみと満たされていくサイダーと音を聞いて、自分の気分も一緒に盛り上げられていく事を感じてしまった。

容器の中を覗くと、少なくともチキンは五つ以上あると分かり、僕はちょっとだけ冷静に考えた。

もしフライドチキンが残ったら、それで明日何か作ろうと。

そう考えながら、父さんが鍋を戻したのを見て、僕も野菜と麺を取ろうと箸を伸ばした。


さて、明日のメニューは一体何になるだろうか。

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