2-2-3(第96話) 中毒の恐ろしさ
「え、え~っと。あなた達が追っているのは、女性一人では?」
「ふん!そこの女を匿っている奴は全員同罪だ!だから、我々がお前ら全員の身柄を確保する!」
「とか言いつつ、本当はお前らを犯したくてたまんねぇだけなんだろ?」
「まぁな。実際、捕まえられるのなら、何してもいいというお達しが来ていたからな。俺達が味見しても文句ねぇだろ」
「違いねぇ」
「「「ぎゃははは!!!」」」
と、男達は話しながら、リーフやクロミルを見ながらげすい笑みを浮かべていた。
だが、俺達はその男達の発言に目を見開いて驚いていた。
え?
このラピス=コンバールを匿う?みたいなことをすると、犯罪になるのか?
こいつは一体…?
いや、今はそんなことはどうでもいいか。
それより、
「リーフやクロミル達をそんな目で見ているんじゃねぇよ!」
俺はこいつらをどう捕まえるか考え、魔法を発動する。
「【空縛】!」
この魔法を発動させると、出てきた男達は少しずつ動かなくなり、宙に浮き始める。
【空縛】。
この魔法は、空気を濃縮させて形成した鎖で相手の動きを封じる、というものである。
また、対象物と地面との間に圧縮させた空気を挟むことで、浮いているように見えるのだ。
この魔法を食らっている奴らには、何が何だか分からないだろう。
「な、何だと!?何が一体!??」
「おいてめぇ!てめぇがこれをやってるんだろう!さっさとこれをときやがれ!!」
いや、といたら絶対に襲ってくるでしょ。
俺はさらに締め付けを強くする。
「ぐ、ぐぅ…!」
「ねぇ?なんで俺達を襲ってきたのか、理由を話してくれないかな?」
「ち…!は、話すわけねぇだろうが!」
「そ、そうだ!さっさと俺達を降ろしやがれ!」
まぁ、そう簡単に話すわけないよな。
どうしようかな?
「お兄ちゃん。この人達、どうするの?」
「…そうだ、京都行こう…じゃなかった。実験しよう」
「きょう…と?」
「いや、何でもない。それより、実験したい魔法があったから、こいつらで試そうかと…」
「…それは、ここで使って大丈夫な魔法なのでしょうか?なんなら、私達は離れた方がいいですか?」
「いや、大丈夫だ」
ここ数日、魔力制御の訓練をしていたおかげで、より精密に魔法の発動範囲を設定できるようになったのだ。
前は数メートル離れなければ被害をもらう危険性があったのだが、今では、魔法をかける対象物からおよそ1メートル離れれば大丈夫なくらいだ。
俺はある魔法のイメージを固め、
「【毒霧】、発動!」
俺の十八番の魔法を発動させる。
【毒霧】。
今までの【毒霧】は、吸えば死ぬ、という強力な毒をイメージしたが、今回の【毒霧】のイメージは違う。
「な!?なんだこの霧は!?」
「あ、吸わない方がいいよ。毒だから」
俺は奴らが十分に吸ったことを目で確認してから進言する。
「な、なんだと!?」
「俺達はこれでお終いか…」
「いや。これだけだと死ななないよ?」
「…は?」
「じゃあ何か?俺達がこれを吸っても何も問題ないってことか」
「とんだ無能だな!」
「「「ぎゃははは!!!」」」
「ご、ご主人様…?」
俺の発言でこの魔法を無害だと勘違いし、俺を罵りながら笑い始める野郎ども。
まぁ、今もこいつらに【毒霧】の霧を吸わせているから何も問題ないだけであって、この魔法の効果は、後々効くのだよ、クロソン君、リフソン君。
…久々に一人でぼけたな。
さて、クロソンリフソン、じゃなかった。クロミルとリーフが心配そうに見ているから、そろそろ見せるかな。
「クロミル、リーフ、大丈夫だ。」
「「でも…」」
「いいから。ただただ見ているだけでいいから♪」
「「??」」
俺は奴らに吸わせている【毒霧】を霧散させる。
さぁ、ここからが勝負だ。
俺はニヤリと笑いながら、効果が出るのを待った。
数分後。効果は表れた。
「…おい、貴様。俺様に何をした?」
「え?何もしていませんが何か?」
当然お前の体に何かしたが、俺は平然と嘘をつく。
「嘘つけ!てめぇが何かしたことくらい分かっているんだよ!!早く俺の体を元にもどせぇ!」
「…具体的には?」
「あ、あの霧だ!あの霧をもう一度!一度だけでいい!吸わせてくれ!」
「え?実は俺、もう魔力切れでもうあの魔法、使えないんですよねぇ~」
「「「え???」」」
急に【毒霧】を吸わせていた奴らの顔色が急変する。
最初は怒りの赤だったのだが、俺の発言を聞くと、次第に紫、青になる。
少したってから、
「た、頼む!あの霧を!少しでもいいから吸わせろ!いや、吸わせてくださいーーー!!!」
「うが!??が…が…が……」
「あああ…ああ…あ…」
急に野郎どもの様子がおかしくなり、顔色も白へと変わり始めていた。
ここまでくれば分かるだろうが、今回の【毒霧】は、中毒、をイメージしたのだ。
地球にいた頃、よくニコチン中毒によるたばこ依存の話は聞いていたので、その話を参考にしたのだ。
その結果がこれだ。
改めて、魔法はすごい、と実感してしまう。
ちなみに、【毒霧】を吸わせていない野郎1人を除いて、全員が泡を吹いて気絶している。
吸わなかった奴は俺を見るなり、震え始めていた。
なんか失礼だよな。まるで俺をどこぞのテロリストみたいな目で見やがって。
俺は襲われた側なんだぞ!
「…んで、お前は教えてくれるよな?」
「な、何を!?ですか…」
「え?そりゃ、このラピス=コンバールを襲った理由だよ」
今回のお話で、彩人が、
「え?実は俺、もう魔力切れでもうあの魔法、使えないんですよねぇ~」
と言っていますが、相手をより絶望させるための嘘です。
もしやられる側になると考えてしまうと…ゾッとします。