2-1-16(第88話) 牛人の村での戦い~その6~
まだ続きます。
今回はいつもより長くなってしまいました。
それでも、最後まで読んでほしいです
「…ふむ。こんなところですか…」
「こ、こんなに召喚して、どうするつもりだ?」
「さっき言ったじゃないですか。処分してもらいますって」
こんな多いとは聞いてねぇよ、とは言えず、俺は下唇を噛む。
数は…30匹くらいだろうか?
このくらいなら…いけるのか?
だが、俺がやらなければ意味が無い。
「あ。ちなみに、この洞窟の中にもたくさん爪牙狼がいるので、そちらもお願いしますね」
「…」
一瞬、このメイキンジャーが何を言っているのか、理解できなかった。
否、したくなかったのだ。
なにせ、この目の前にわんさかいる色とりどりの爪牙狼だけでも勝てるかどうか怪しいというのに、まだ、あの洞窟内にたくさんの爪牙狼がいるというのだから。
そもそも、あのメイキンジャーの目的もまだわかっていない。
あいつの言葉を信じるなら、奴の言う、「処分」でもしていた、ということなのか?
だとしたら、何故こんな場所でしていたのだろうか?
「それでは、私はそろそろ次の実験をするので、これで失礼します」
「あ!おい、お前の目的はなんだ!?」
俺の言葉にメイキンジャーが反応する。
そして、こちらに振り向くと、ただ一言、
「全ては我が主のため、です」
そう言って、メイキンジャーは消えた。
俺は似たような言葉を聞いたことがあった。
それは、
「あの黒い一つ目巨人も似たようなことを言っていたな…」
だった。
だが、俺がこのことについて考える余裕は無かった。
それもそのはずだ。
だって、
「「「グルルルル………」」」
多くの爪牙狼が俺を睨みつけ、今か今かと涎を垂らしながら待ち受けているのだ。
「ちぃ!!」
俺はこの圧倒的に不利なこの状況をどう乗り越えるかという思考にチェンジし、剣を構える。
そして、
「(これで全員倒れてくれると嬉しいけど、)食らえ!【毒霧】!」
瞬間、俺の周りに紫色の霧が発生する。
洞窟の中の爪牙狼には効いてくれるだろうが、
「ギャンギャン」
「ガァルアァ!」
洞窟の外にいる爪牙狼達は動き回ることによって、俺の【毒霧】を吸わずに霧散させたのだ。
「ちぃ!」
やっぱり、そう上手くはいかないか。
俺は次の手を考えながら、
「行くぞ!【身体強化】!」
魔法を発動させた。
だが、俺が【身体強化】の魔法を発動させる間にも、色とりどりの爪牙狼達は手加減する様子はなく、口から魔力を溜め、何か発射させようとしていた。
爪牙狼達の攻撃を躱しながら見ていたアヤトの額に冷や汗が流れる。
(あのブラックメイキンジャーがいなくなって良かったとは思うけど、このままじゃ死んじまうじゃねぇか!)
そして、ジャンプして攻撃を躱したところ、着地予定場所の近くに爪牙狼達が魔法を発射する準備をして、待ち構えていた。
(やっば!!)
そして、俺が着地する直前、
「ガウ!ガウガウ!」
「「「「「「ガ、ガウ!!!!!!」」」」」」
爪牙狼達の号令?によって、息の合った攻撃を俺に向けて放たれる。
チュドォォォォォォン…。
攻撃が当たった場所を中心に、爆風が巻き起こる。
その爆音に何匹か巻き込まれていたが、ほとんどの爪牙狼は、爆風の中心を見つめていた。
十中八九、俺がどうなったかを確認するためだろう。
だが、俺だって負けていない。
俺は着地する前、緑魔法で風を足元に発生させ、巻き込まれたふりをして、上昇していたのだ。
だが正直、この後のことは全く考えてなく、手詰まり状態だった。
(どうするか…?)
俺が上空で浮いていることがばれるのも時間の問題だろう。
さて、この爪牙狼達と、どう戦っていけばいいのだろうか。
(…あれでいくか…)
俺はとある魔法を頭の中で浮かべながら、ばれないように地上に降りて行った。
あの魔法を使うには、まず土が必要だな。
俺はまだ舞い上がっている土煙の中、地面に手をつき、魔法をイメージする。
「よし!【防壁・土】!」
この魔法を発動させると、俺の周りに半球体状の土壁が出現する。
よし。これで第一段階は成功だ。
俺が心の中でガッツポーズしていると、
「ガ、ガウ!?ガウガウ!」
「「「「「「ガウ!!!!!!」」」」」」
どうやら俺がまだ生きていることに気づいたらしく、
ガンガンガン!
ガキィン!
チュドン!
俺が作った土壁に攻撃してくる。
だが甘い。俺はこの魔法、【防壁・土】に残りの魔力を注ぎ込んだのだ!なので、そう簡単に壊れるわけがないと自負している。
俺は爪牙狼達の攻撃を凌いでいる間に、次の魔法を使うため、魔力池をアイテムボックスから取り出す。
(うっ。やっぱり少しくるな)
俺は魔力の大量摂取による酔いに若干苦しみながらも、地面に手を置き、魔法をイメージし始める。
「行くぞ!【付与・超振動】!そして、【地刺】!」
瞬間、土壁から土の刺が爪牙狼達を貫いた。
今までの俺だったら、緑魔法の【地刺】だけだったが、敵を確実に倒すため、白魔法で土に超振動を付与しておいた。これで掠っただけでも大ダメージを与えることが可能なのだ!さらに毒も付与したかったが、間違って自分で触ってしまったら大変なのでやめておいた。それでも、土が常に超振動しているので、間違っても触ったりしたものなら、流血間違いなしだろうけどさ。
だが油断はできない。
俺の発動した緑魔法、【地刺】でも倒しきれなかった爪牙狼がいるかもしれない。
なので、次にイメージするのは、魔法そのものを制御、つまり、【地刺】を自分のイメージ通りの場所に出現させたり、長さを調整したりすることだ。
今まで、こんな細かそうな制御はほとんどやったことはない。
ぶっつけ本番である。
だが、ここでやらなければ、俺は色とりどりの爪牙狼達の餌になってしまうだろう。
俺だって死ぬなら安楽死がいいのだが、だからと言って、今死ぬのは痛みを伴い、辛い死となるだろう。
そんなのは嫌だ!
俺は死ぬなら安楽死がしたい!
だから、こんなところで死ぬわけにはいかないんだ!
…なんか、後ろ向きなのか前向きなのか、分からなくなってくるな。
とにかく!俺は今、生き残るためにも成功させなくてはいけない!
俺はそんな後ろ向きな覚悟を持って、
「【地刺】!」
魔法を発動させた。
今回の魔法で求められているのは精密な魔力操作だ。
具体的には土の刺を左方向に3メートル伸ばしたり、今発動している土の刺に回転を加えたり等、針に糸を通すような感じで魔力操作しなくてはならないのだ。
ぶっつけ本番でここまで難しいことに挑戦するのもどうかと思うが、その心配は必要無かった。
日頃から魔法を使っていたためか、意外とあっさり出来たのだ。
だが油断は出来ない。
俺は細心の注意を払いつつ、魔法を行使し続ける。
最初の方は、スパ!とかギュイイイン!等の音が鳴っていたが、今ではほとんど音が聞こえず、逆に倒したのか心配になるくらいだった。
俺は土壁の中で、腕の検索機能を使い、他にまだ爪牙狼がいないか確認する。
………。よし!いないみたいだな。
これで、やっと、帰れるぞ!
俺は意気揚々としている中、白魔法で付与を解除し、土壁もただの土に戻した。
「う。うへぇ~。こ、これ、どうしよ?」
少し見渡しただけでも、色とりどりの爪牙狼達の死体がこれでもかとあった。
今回使用した魔法により、爪牙狼の色々な部分が切れた死体が見たくなくてもそこら中にあるのだ。
足を切断されているのはまだ大丈夫だが、頭や全身がきれいに真っ二つに切れている死体を見つけたら、
「!!?!??」
声にならない悲鳴を上げてしまった。
俺はそこまでグロ耐性はない。
むしろ、あんな放送禁止映像を生で見て、気絶しなかっただけでも褒めてほしいくらいだ。
そして、血の臭いがものすんごく充満していた。
それはもう、鼻の穴に直接血がたっぷり塗られているのでは錯覚してしまうくらいだ。
鼻をつまんでも臭ってくるのだ。もうどうすればいいんだよ!
俺は残った魔力で死体を全て土の中に埋める。
なんか、隠蔽工作をしている殺人犯の気持ちってこんなものなのだろうか、とついつい考えてしまう。
「これで全部、終わったのか?」
何か腑に落ちない。
さっき、腕の検索機能で調べたのだが、周囲には敵らしき反応もない。
なので、事態は解決した。
そう、解決したはずなのに、
「結局、あのメイキンジャーは何をしに…?」
そう、あのブラックメイキンジャーのことだ。
あいつは確か、
「魔獣の処分って言っていたな」
つまり、この爪牙狼達が使い物にならなかったってことか?
それとも、偶然にも、使役できる魔獣の数が超えそうだったってことか?
いや、偶然って言葉で片付けるのはやめよう。何か別の方法があるはずだ。
俺だったら、
「処分する予定の魔獣より役に立つ魔獣を使役し始めたから?」
この瞬間、自分が言った言葉に寒気がした。
もちろん、役に立つといっても、強さだけが全てじゃない。
だが、もし強さだった場合、あの色とりどりの爪牙狼より強い魔獣を使役できた、ということになる。
俺がこの考えにたどり着いた瞬間、全身が震えだす。
今回の戦闘で、直接的な怪我こそほとんどなかったのは、おそらく偶然だろう。
だが、今回戦った色とりどりの爪牙狼より強い魔獣が相手だったら?
今回みたいにうまくいくわけがないだろう。
下手すれば………!
「もう、このことについて、考えるのはよそう」
俺は首を振って、思考を切り替えようとする。
「さて、戻ってルリ達に報告しないとな。無事だとは思うが」
俺は腕の検索機能を使って、来た道を戻る。
だが、知ってか知らずか、彩人の腕は震えていた。
やはり、一度考えてしまうとそう簡単に忘れることができないのか、 無意識に、自分より強い敵が現れ、その敵に殺されるシーンが頭をよぎる。
(!?駄目だ駄目だ!今はルリ達に報告しないと!)
彩人は何度も首を振り、そのシーンを忘れようとしているが、一度考え始めると、なかなか忘れられずに頭に残ってしまう。
(ちぃ!!)
ガリッ!
思わず自分の腕をひっかいてしまうほど、心と頭が乱れていた。
そして、自分の腕を強く、強く握りながらルリ達がいる場所に彩人は向かう。
次第に、腕が赤くなり、内出血を起こし始めても、彩人は気にせずそのまま自分の腕を握りしめる。
それでも、腕の震えが止まることは無く、顔もだんだんやつれ始め、最終的には更年期直後の女性のような険しい顔になっていた。
そんな辛そうな顔になっているとは知らず、彩人はそれでも歩き続ける。
そして、
「あ、アヤト!?」
あれ?もしかして、この声はリーフか?
俺は少し顔を上げると、そこには、レイピアを構えたリーフが驚いた顔をしていた。
「あ。リ、リーフ」
「だ、大丈夫!?どこか怪我は…ああ!!腕が内出血しているじゃない!今は応急処置できないけど、確かルリちゃん達のところに行けば、包帯くらいはあったと思うから。さぁ」
そう言うと、リーフは手を差し出して、
「一緒に、帰りましょうか?」
俺はその言葉に、
「ああ」
としか返せなかった。
今回は長くなってしまいましたが、これで牛人の村での戦いはお終いです。
と言っても、まだ彩人の空気は暗いままです。
正直、このまま終わらせたくないのですが、続きは来週にしたいと思います。