2-1-9(第81話) 大切な者を失わないために…。
「「「私達もやります!!!」」」
「おわっ!?」
急にイブ、クリム、リーフが声を上げる。
「…大切な旅の仲間のため、頑張る」
「はい!もちろんです」
「まずはその村に行く方法から考えないとですよね…」
リーフに至っては、もう予定を考え始めていた。
「ねっ♪ルリの言う通りだったでしょ?」
「はい。そうですね」
急に仲良くなったルリと牛人の2人は最早一言二言言うだけで気持ちが通じ合っていた。
…羨ましい…。
「それより、イブ達はそれで良かったのか?」
今更ながら、こんな質問をする俺もどうかと思うが、それでも、確認は必要だろう。
「「「当たり前です!!!」」」
予想以上に力強い返事が返ってきた。
「むしろ、よくここまで1人で頑張ってきましたね」
「…ん。偉い偉い♪」
「牛人さんは私達のことを考えて言わなかったんでしょうけど、もうそんな我慢はしなくていいんです。困ったことがあったら、是非相談してください。そういうの、得意ですから」
「み、みな様。あ、ありがとう、ございます…」
牛人の目から流れていく涙。
だが決して悲しみや苦しみからきた涙ではないだろう。
今度から、そういう涙を流していってほしいと思う。
そう思いながら、俺はその襲撃のことについて、考え始めた。
「それでだ。まず出発する前に今後の予定を決めようと思う」
「「「「「はい!!!!!」」」」」
あれから俺を除いた5人は牛人を囲むような形で寝たらしい。
本人曰く、
「こ、困ります」
と、言っていたが、どうやら心から嫌、というわけではなく、単に恥ずかしいからだろう。
ルリ達は、
「いいからいいから♪」
と、この言葉だけで牛人を説得させて、一緒に寝たらしい。
魔法の言葉だな、いいからいいから。今度使ってみようかな…。
「まずは牛人の村の場所なんだが…」
「はい。牛人の村はここから数十キロ離れた場所に位置しています」
と、言われても、現在地と向かう場所が詳しく分からなければ、向かうことはできないんだよな。
牛人は場所が分かっているからいいと思うが、俺達にも分かるような地図か何かが欲しい。
かといって、ここで俺の腕の機能を使えば、みんなは奇怪な目で俺を見るだろう。
「あ。私、この周辺の地図、持っています。ちょっと取ってきますね」
「あ。悪いな、リーフ」
「いえいえ。私も牛人さんのために何かしたいですから」
そう言って、リーフは自分の鞄から1枚の紙っぽいものを取り出し、みんなの前で広げる。
「このぐらいの地図しかないけど、これで大丈夫?」
「はい。ありがとうございます、リーフ様」
「気にしないで♪」
「はい。それでは続けますね。まず…」
こうして、俺達6人は今後のことを話し続けた。
「と、こんな感じですけど…」
「…うん。大体分かった」
要約すると、ここから北の方角にある約60キロ離れた牛人の村に5日以内に着き、何者かの襲撃に備えなくてはいけない、ということだ。
正直に言うと、その何者かというのが一番怖い。
なんせ、こんな力の強い牛人が、他の人の力を借りなければいけなくなる状況とか、想像できない。
おそらく、黒ランク以上の魔獣か何かだと思うが、どちらにせよ、対策は必要である。
その前に、牛人の村に着かなきゃ話にならないけどな。
ペース配分は、1日12キロ走ればいいが、力の許す限り距離を稼いで、対策を練る時間を長めに取りたい。
「えっと…まず、何から話そう?」
決めることが多すぎて、1人では決められないので、まずは何について考えるか教えてもらおう。
「まずは牛人の村にどうやって行くか、から決めましょうか?」
「分かった」
俺はリーフの意見に賛成する。
「賛成です!」
「…ん」
「それでいいよ!」
どうやら、イブ達もそれでいいらしい。
「とりあえず、このまま馬車で向かう。ペース配分は1日12キロ以上走らないとだから、昨日みたいにのんびりできないと思う」
昨日まではちょくちょく休憩をはさみながら楽しんでいたからな。
今日からは急がないとな。
「…別に構わない」
「いいと思います」
「それで、アヤトや牛人さんの体力は持つのですか?」
「ん?ああ。そのことについては気にしなくていい。俺と牛人の2人、それぞれ1人ずつ引っ張って行くから」
「分かりました」
「それでお兄ちゃん。それで5日以内に着いたとしても、その何者かについてはどうするの?」
「…そこはまだ何も考えていない。というより、どう対策すればいいのか分からないんだよ」
その何者が何を使ってくるのか分かれば、少しは対策を練ることができるのだが、その何者かについて、何も分かっていない。
「牛人。何か特徴無かったか?何でもいいんだが…?」
「いえ。特には…ありました!」
あるのかよ!
って、突っ込んでいる場合じゃない!
「その特徴って?」
「はい。確か、杖を持っていて、その周りに魔獣がたくさん現れていました」
「え?」
何それ?
もしかして、魔獣って召喚みたいなことができるのか?
魔獣を召喚、か。
「それってもしかして、【メイキンジャー】のことじゃないですか?」
「「え??」」
【メイキンジャー】?何それ?
「炊飯ジャー?」
「違いますよ。メイキンジャー。魔獣を召喚できる魔獣です。特徴としては魔獣を召喚して、その魔獣を使役するんです。欠点としては、メイキンジャー単体だとすごく弱いということですね」
うわー。
ゲームとかで最初に倒さないと後々面倒になるやつだ。
しかも、自分は魔獣に守られながら観戦か。
やる分にはいいが、やられる側としては、イライラすることこの上ないな。
「それでは、そのメイキンジャーを倒せばいいってことですか?」
クリムが牛人に質問する。
確かに、そのメイキンジャーを倒せば終わりな気はするけど、なんか嫌な予感がする。
「そうなんですけど、そのメイキンジャー?は黒いんです」
「…ってことは、ブラックメイキンジャー?」
「となると、召喚される魔獣も冒険者ランクの黒相当じゃないですか!??」
リーフが牛人の情報に驚く。
黒相当の魔獣なんかまだ倒したことは無いが、きっと手強いのだろう。
まぁ、このぐらいは覚悟を決めなくては。
「後は…確か、胸のあたりに紋章?みたいなものがありました」
「「え??」」
俺とルリは驚き、目を合わせる。
「牛人!その紋章ってどんな模様だったか覚えているか?」
「はい。確か赤、青、黄、緑、白、黒の6色が輪っか状に並んでいて、中央には何もなかった…みたいな模様だったと思います」
「「やっぱり…」」
俺とルリは確信してしまった。
胸の紋章の形、色を1日だって忘れたことが無い。
だってあの紋章は、あの黒い一つ目巨人にも付いていたものなのだから。
「?どうしたのです?その紋章に見覚えが…?」
「ん?いやいやいや、そんなことないって、なぁルリ?」
「う、うん!そうだよねお兄ちゃん!あは、あははは…」
クリムのいきなりな質問に慌てて、変な感じに返してしまう。
「「「………」」」
イブ、クリム、リーフの3人は俺達の返事に違和感があるようで、俺達のことをじっと見つめてくる。
「な、なんでもないからな。ほら、気にしないで話の続きだ」
「「「…そうですね」」」
3人は納得していないみたいだ。
だが、今はこんなことを話してもしょうがないので、今はそのメイキンジャーのことだ。
「悪いな。話が少し逸れてちまったな」
「いえ。それでは話の続きを…」
「待った。俺に案がある」
「?…案って?」
イブが俺に聞いてくる。
「そうだな。イブ、クリム、リーフ、ルリの4人で、牛人の村の住人を助けてやってくれ。俺はこの牛人と一緒にブラックメイキンジャーの近くまで案内してもらった後、俺1人でそのブラックメイキンジャーを叩く。牛人は俺を案内した後、4人に加勢してくれ」
「ルリも一緒に…!」
「駄目だ」
「なんで…!」
「…もうそろそろお昼か。昼食の準備でもするか」
「お兄ちゃん!まだルリの話は終わって…!」
「今日から軽めの昼食にするか。牛人、手伝ってくれ」
「…はい」
「「「………」」」
俺達6人に不穏な空気が流れる。
理由はもちろん俺だ。
だが、今回ばかりは行かせるわけにはいかない。
行かせたら、殺されてしまいそうで怖いから。
この日の昼食はいつも通りの味なのだが、全然美味しく感じなかった。
そして、そんな重たい空気のまま、彩人達は牛人の村へ馬車を走らせる。
今回の最後の方は暗い感じになりました。
次回は重たい空気の中、スタートします。




