2-1-4(第76話) 夜のひと時
まだまだ続きます。
「ご主人様の料理、とても美味しいです!」
「そ、そうか…」
俺達は今、早めの夕飯を食べている。
体感で午後6時くらいだろうか。
俺は少し前までとある料理の試作をしていたので、お腹はそこまで空いていない。
イブ達の機嫌もホットケーキによって、少し良くなっている。
「ホットケーキ、美味しい!」
「…流石アヤト」
「本当にこれは美味しいですね!」
「お兄ちゃんはホットケーキの天才だね!」
天才。
それは本来、人を褒める時に使われる言葉である。
だが、俺は素直に喜べなかった。
ホットケーキの天才って………。
しばらく俺の頭の中で、ホットケーキの天才という言葉で一杯だった。
みんな食べ終わり、俺以外全員が食器を洗っている頃、
「じゃあ俺、風呂入ってくるから、後はよろしく」
「「「………はい???」」」
「うん!」
「かしこまりました」
さて、風呂の用意でもしますか。
俺はみんなから少し離れたに行き、
「まずは浴槽からか」
俺はまず、緑魔法を使って浴槽を形成する。
見た目は完璧だが、色は茶色になった。やはり、土から形成したらこんな色になるよな。流石にこんな色の浴槽を使うのはいやなので、白魔法で【色変化:白】を付与してみたら、白い浴槽に変化した。見た目だけなら家でよく見る浴槽だ。
だが、これは土で形成しているため、土の中に虫がいるかもしれない。なので、俺は浴槽を燃やした。もちろん、浴槽を灰にしない程度の温度でだ。
数分焼いた後、俺は青魔法で水を出し、浴槽の中に入れる。まだ浴槽が熱かったのか、水を入れただけなのに、ジュワー、と音と水蒸気を出している。
十分水を入れた後、俺は水の中に指を入れて温度を確かめてみる。
…うん。いい感じの温度になっているな。
後は浴槽の下に板や葉でも敷いておいておこう。浴槽が熱くて火傷したなんて、馬鹿にもほどがあるからな。
「よし!こんなもんか」
俺は出来上がった浴槽の出来に満足し、地べたに座る。
こんな場所に白い浴槽か。すげぇ目立つ。
だが、これでようやく入浴できる。
俺は服を脱ごうとした時、感じてしまった。
もちろん、性的な意味ではない。
「「「「「………」」」」」
5人の視線である。
おそらく、食器を洗い終えたのだろう。だから、浴槽作りを手伝ってくれるのかと思ったのだが、何故か見ているだけで、こっちに寄って来ようともしない。
…もしかして、浴槽を作っているところ、全部見られたのか?
それとも、浴槽自体、あまり見たことがないのか?
どっちにしても、見られながら作業するのは緊張する。と言っても、もう作業自体は終わっているのだが。
「えっと…何?」
「…アヤト、ここで何を…?」
「そうです!ここで服を脱いで何をするつもりですか!?」
「まさか、全裸を私達に見せつけて…!」
「?もしかして、お風呂?」
「そ。お風呂だよ、お・ふ・ろ!」
俺はみんなに言い聞かせるように声を大きめで言った。
全く!誰がこんな夜に全裸で露出プレイなんかするか!!
確かに、そういうちょっとハードなことをしたがる物好きもいるが、俺はそんな変態ではないからな!
…まぁ。女性の裸にはちょっと興味があるのは事実だが…。
ちょっと!俺をそんな変態に向けるような目線で俺を見ないで!
「「「…ふぅ~ん…」」」
3人は俺のことを信頼していなかった。
「だって、旅をするのだから、しばらくお風呂に入れないのかと…」
「…ん。クリムに同意」
「私はほとんど水浴びです。お風呂なんてあまり入りませんよ」
そうなのか。
やはり異世界と日本の文化で異なる箇所があるらしい。
だからといって、俺は今夜、入浴するけど。
郷に入っては郷に従えというが、全部が全部、郷に従わなくてもいいと思うんだ。
「それでどうする?俺は風呂に入るけど、みんなは…?」
「「「「はいる!!!!」」」」
「ご主人様が入れと仰るのであれば」
牛人はある程度予想できたが、この4人はそうまでしてお風呂に入りたかったのか…。
まぁ、この世界でも、女性は美容や健康に気を使うのだろう。
今度からは石鹸も買った方が良かったかもしれないな。
「じゃあみんなで先に入ってくれば?俺は後でいいから」
「「「いいんですか!!!???」」」
「!い、いいよ、別に」
俺はあまりの勢いに少し後ずさってしまった。
この迫力なら魔王倒せるんじゃね?と、思ってしまうほどである。
そういや俺がもう倒したんだっけ。
「じゃあルリはお兄ちゃんと一緒に…」
「牛人はルリと一緒に入ってくれないか?」
「かしこまりました」
「ちょっ!ルリはお兄ちゃんとお風呂に…」
「ルリ様、これから一緒にお風呂に入る準備をいたしましょう」
「あ、牛人のお姉ちゃん!わかった!わかったから手、引っ張らないでよー」
「それではご主人様、お先に失礼します」
「あ、うん」
牛人はルリの手をひきながら、俺の用意した浴槽へ向かった。
「それじゃあ私達も…」
「…ん。入る」
「アヤト。お先に失礼します」
リーフ、イブ、クリムも浴槽に向かう。
一応、大きめの浴槽を作っておいてよかった。
俺はみんなの入浴シーンを覗かないよう、浴槽の周りを土壁で覆っておいた。
「さて、みんながお風呂に入っている間、何してよっかな?」
俺は黄昏ていく夜空を見ながら今後のことを考えていた。
今週の分はこれでおしまいです。
ストックがないので、できるだけ早く続きを書きたいと思っています。
ちなみに今回でてきた「黄昏る」という意味は「薄暗くなる」や「衰える」という意味だそうです。
外等を眺めながらぽーっと物思いにふけっている人っていう意味ではないそうです。




