1-3-14(第64話) 彩人、看病される。~リーフ編~
さて、日常編の始まりです。
といっても短めにしたいと思っています。
まずはこれです。
あれから俺とルリは三日間、それはそれはもう、手厚い看病を受けた。
リーフさん、クリム王女、イブの順で、一人一日の交替制で看病を受けた。
ちなみに俺達の怪我はそこまでひどくない。半日も寝とけば治る程度だし、その間に魔力も回復する。
なので、完全回復したルリは看病を始めたその日のうちにクリム王女、イブと一緒に外に出かける。
俺も完全回復したので、外に出かけようとしたら、
「まだ治ってないでしょ?ほら、早くベッドに戻って」
と言うのだ。
いや、もう治ったし。元気満タンですよ。
俺が元気アピールしようとしたら、
「これ以上口答えするなら、その口を私の口で塞ぎましょうか?」
なんて言ってきたので、即座に黙った。
その脅し文句、流行ってるの?
そして俺がベッドに戻ると、リーフさんは他愛のない世間話を始めた。
リーフさんの生まれ故郷であるエルフの里のこと、リーフさんの小さい頃の話や、あの街、「スカーレット」に行くまでの話や、受付嬢の仕事の内容等、実に面白い話だ。
なんでも、ギルドの受付嬢をやる前は、冒険者として活動していたらしい。
是非とも、その腕を見せてほしいと頼んだら、
「そんなに大したものじゃないですよ」
と笑いながら言った。
そんな世間話も疲れたのか、俺は話の途中で寝てしまう。
そしてふと、目を覚ますと、
「お加減はどうですか、アヤトさん?」
「!!??」
同じベッドに入って、俺の隣にいるのだ。
童貞の俺としては、この時、どう対応すればいいんかなんてわかったものではない。
なので、できるだけ冷静になって、このベッドからどくように言った。
「あ、あの、リーフさん。早く俺から離れてくだしゃい。あしぇ臭いでしょう?」
実に噛みまくった言葉だ。
「ぷぷっ♪そ、そんなこと、ないですよ、ぷぷ」
リーフさんも俺が噛んだことに気づいたらしく、笑いをこらえようと頑張ってはいるが、それでは丸わかりだ。俺も恥ずかしい…。
こんなことが何回か繰り返され、日が完全に落ちた頃、リーフさんは急に真面目な口調で俺に話しかける。
「アヤトさん」
「は、はい」
俺はリーフさんが急に真面目なトーンで俺に話しかけてきたので、俺も身構えてしまう。
「今回のことで、私、気付きました」
「えと、何をです?」
「アヤトさんのことです」
「俺の?」
「はい」
リーフさんが少し俯き、深呼吸をする。その後顔を上げて、俺の顔を見て話し始める。
「アヤトさんは本当に凄いことを成し遂げてくれました」
「そ、そうかなぁ?」
まさか真正面から褒められるとは思わなかったので、思わず顔をリーフさんから逸らしてしまう。
「そうですよ。だって、あのスレッド=ヴァ―ミリオン国王様ですら、一度に相手にできるには精々百人くらいですもの」
「それでも一度に百人は相手にできるんだ…」
すごいな、あの国王。もしかしたら、魔王といい勝負ができるんじゃないか?
「ちなみにその時、国王様は赤魔法を一切使用していません。自分の腕と経験だけで騎士達百人を相手にしたそうです。あくまで噂ですが…」
「…マジで?」
スレッド国王やばいな。どんだけ自分の体を鍛えているんだよ。
もし魔法無しって言われたら、五十人でも俺は無理だぞ。
「話が逸れましたが、いくら魔法有りとはいえ、アヤトさんは戦争の時、何人を一人に相手したのですか?」
リーフさんは「一人で」を強調して、俺に問いかける。
「えっと…、五人?」
「真面目に答えてください!!」
「はいいぃぃ!五、五千人ですううぅぅ!」
俺がちょっと冗談のつもりで嘘をついてみたのでが、怒らせてしまった。まぁ、俺が悪いんだけどさ。にしたって、怒り過ぎじゃないですかね、リーフさん?
「そうです、五千人ですよ、ご・せ・ん・にん!あの国王様以上の強さを持っていると言っても過言じゃないんですよ!?」
「いやでも、ルリだって…」
「私はアヤトさんの話をしているんです!」
ひえぇ!?なんか今日のリーフさん、めっちゃ怖いんですけど!?カルシウム足りないんじゃないですか。牛乳でも飲んで、落ち着いてほしいものだ。
「大体、ルリちゃんはヒュドラじゃないですか!?人間とヒュドラの強さを比べるなんて馬鹿にも程がありますよ!それこそ、ゴブリンとサイクロプスくらいの差ですよ」
「ゴブリンとサイクロプス?ってなんですか?」
「もしかして、知らないんですか?一種の物の例えです。全然違くて、比較にならないことを「ゴブリンとサイクロプス」って言うんです」
「へぇ~。勉強になります」
なるほど。つまり地球で言う、「月とすっぽん」っていう意味の慣用句か。こうして話していると、俺の知らないことはたくさんあるんだと、つくづく実感するな。
…そういえば、ゴブリンとサイクロプスの共通点って何だろう。後で聞いておこう。
「…また話が逸れましたね。つまり、アヤトさんの功績は素晴らしいんです!」
「…はぁ」
正直、それだけ言われても、あまり実感が無い。
自分はすごい人間だと己惚れる気は無い。
かと言って、この世界の一般常識もろくに知らないから、比較対象も無いからな。あとで検索して出てくるかな…。
「それなのに私達はアヤトさんの強さに甘えてしまい、気付こうともしないで…」
「り、リーフさん!?」
急にリーフさんは自分の顔を覆う。
ちょお!?急に泣かれても反応に困るんですが…。
俺は様子見という手段を使った。
…決して、声がかけられなかった訳ではない。
「あの時、アヤトさんも気付いたはずです」
「あの時?」
「はい。公爵と決闘する前に話をしたじゃないですか?あの時流した…」
「あ、ああ。あの時の…」
正直、思い出したくない思い出だ。
女の胸で泣くなんて、他の人に話でもしたら、笑い者にされるだろう。
…まぁ、そんなくだらないことを話し合える人なんていないのだが。
「おそらく、アヤトさんが抱いている本当の気持ちに、アヤトさん自身も含めて考えようとしていなかったのでしょう。だから、自分が泣いているのにも気付かなかったのではないのでしょうか?つまりアヤトさんは、心に深い傷を負ったまま、そのままにしているのです」
「いや、俺は元気ですよ。ほら」
俺は力こぶを見せつける。
この世界に来てから、色々と修行していたからな。筋肉も多少ついていると思う。
「体じゃないです。心の問題です」
また怒られてしまった…。
俺が少ししょげていると、リーフさんは俺の体に抱きついてきた。
ちょおぉ!?そんなことされたら勘違いしちゃうからやめてほしいんですけど!
「あの時も言いましたが、アヤトさんが想っていること、感じていることを全て私に教えてください。そうすれば、きっと心の傷も癒えていくと思いますよ?」
「俺は別に…」
「お願いします」
「…」
「お願いします」
「わ、分かりました!分かりましたから、そのリピートはやめて下さい!」
ほんと、トラウマになっちゃうから!
「分かりました。それでは私の約束、守ってくださいね?」
「え?約束ですか?」
「守りますよね?」
「は、はい!」
だから、そうやって威圧するのはやめて!
「それでは、今日ももう遅いので、私はもう…」
「あ、あの!」
「?何でしょう?」
俺はリーフさんを呼び止める。
ちょっと声が裏返ったかもしれない。
けど、この言葉は今、言わなくちゃ駄目だ。
「今日はありがとうございました。今はまだ難しいですけど、必ず…」
「…それでしたら、まずはお互い、敬語をやめるところから始めませんか?」
俺はびっくりした。
俺の予想では、そのまま「お休み」と言うだけだったのに、まさか、リーフさんからこんな提案をしてくれるなんて思わなかったからだ。
「わかりまし、いや、わかったよ、リーフ」
「ふふ♪お休み、アヤト♪」
俺はその後、ベッドの中で何度も悶えながら眠りについた。
いつも読んでくれてありがとうございます。
ちなみに、まだまだ彩人は看病されます。
病人じゃないのに…。




