1-3-12(第62話) 彩人とルリの知らない戦い
今回はのメインは彩人ではありません。
メインは…。
ブラッド=エン公爵が決闘に負け、しばらく沈黙が続いた後、最初に口を開いたのは、
「こんな決闘は認めない!」
ガドン伯爵だ。
どうやら、エン公爵の従者として参加していたガドン伯爵達貴族はこの決闘の結果を認めないらしい。
そもそも、王族の参加を禁止する以外、何でもありのはずなのに、イカサマだの汚い手を使うだの、そんなことはありえないはずだ。
むしろ、数多くの人を連れてきたエン公爵の方が汚い手を使った、と言われても反論できないほどだ。
だが、この言葉に、スレッド国王やクリム王女は表立って反論できなかった。自国の貴族なので、下手に反論し、反乱でも起こされたらたまったものではない。審判を務めていたギルドマスター、リゼも何も言わず、ただ見守っていた。
「…これ以上、アヤトさんの侮辱は許しません」
「…あなた達、何様?」
その貴族達に反論したのは、リーフ=パールとイブだ。
彼女達はアヤトがすごいことを知っている。まさか赤魔法の中でも最強の【蒼月】を消し飛ばすなんて思わなかった。
それほどまでに、アヤトの実力は常軌を逸していたのだ。
だが前回、青の国との戦争で大活躍したのだが、そのことについて私達はほとんど称賛するどころか、あのエン公爵が無かったものにしようとしていたのだ。
それではアヤトの頑張りがすべて無駄になってしまう。そんなことはさせない。
だから、きちんとアヤトを称賛するまで、アヤトの話を聞くまで、アヤトが頑張ったことを否定するのは、どうしても許せなかったのだ。
「ぎ、ギルド職員風情が口を挟むな!」
「そこのガキも調子に乗るんじゃない!」
かろうじて軽傷で済んでいた騎士達がリーフとイブに剣を向ける。
「そんな剣で私を殺せると思っているのですか?」
「…不愉快」
「なんだと!?」
騎士達はリーフとイブの挑発にのり、切りかかろうとする。
だが、
「なめているのですか?」
「…そのままだと、死ぬよ?」
リーフは緑魔法で風を起こして騎士の持っている剣を飛ばし、隠し持っていたレイピアで、今にも騎士の目を貫こうと構えている。
対してイブは、自分の魔力で形成した腕で物理的に剣を折り、その腕で今にも殴ろうとしている。
どちらも、騎士達を圧倒していた。その上で二人とも言っているのだ。
これ以上やるなら殺すぞ、と。
「どうした!?早くあの子娘どもを殺れ!」
ガドン伯爵はさらに喚くが、その言葉をまともに聞く騎士達はいない。
それはそうだ。騎士達は今、二人の女性によって、死に際まで追いやられているのだから。
「そう仰るなら、あなたが直接来ますか、ガドン伯爵?」
「ちぃ!おい、そこのガキィ!王族ならわかるだろ!?早く私を助けろ!」
「…どうして?」
イブは驚いていた。
イブにとって、ガドン伯爵は赤の他人だ。それに対し、アヤトは自分の兄の愚行を止め、その原因を突き止めてくれた恩人だ。どっちを取るかなど、火を見るより明らかだろう。
「何故だ!?何故私を…」
「そこまでだ、ガドン伯爵」
「…スレッド国王…」
ここでスレッド国王がガドン伯爵の前に立ち塞がる。
「貴様の蛮行に目を瞑るのもそろそろ限界だ。その辺でやめてもらおうか」
「何故です!?はっ!?まさかこの者達が国王様に洗脳を施したのか!?」
「…そこまで堕ちたか、ガドン伯爵よ」
「な、なにを言って…」
スレッド国王はある紙を広げ、ガドン伯爵の前に突きつける。
「そ、その紙は…!?」
「そうだ。貴様がエン公爵と共に裏で青の国と密会し、ヒュドラの祠に細工をした証拠だ」
「「「!!!???」」」
この訓練場にいる全員がガドン伯爵を見る。
ガドン伯爵の顔から血の池が引いていく。
ただ見守っていたリゼやクリム王女が一瞬だけガトン伯爵を睨みつける。
ガトン伯爵はこの世の終わりを目の当たりにしているかのような顔になり、膝から崩れ落ちる。
「…それでだ、とりあえず、手を引いてはくれないか?イブ王女とリーフ=パールよ」
「………わかりました」
「…………わかった」
「ほっ」
スレッド国王は安どの息を漏らす。
実は密会している紙を取り出した瞬間、イブとリーフから、すさまじい殺気を感じたのだ。その殺気に当てられ、立ったまま失禁する騎士が続出するほどだ。
それに、もしアヤトやあの少女、ルリが聞いていたら、確実にガドン伯爵とエン公爵は殺されるだろう。
スレッド自身、そのことは全然構わないのだが、国を担う者としては駄目だ。きちんと罰を与え、今後の国の利益に貢献できるよう、再教育していかなければならないからだ。
「何をしている!?刃を向ける者を間違えるな!早くエン公爵とガドン伯爵を連行せよ!」
「「「はっ!!!」」」
訓練場の端でずっと見ていた騎士達がエン公爵とガドン伯爵を連れていく。
ガドン伯爵の目に光は無かった。
だが誰も慰めることはしない。
「残りの者はアヤトとこの少女の治療を最優先にしろ!これは王命だ!」
「「「はっ!!!」」」
残っていた騎士達がアヤト達を医務室に連れていく。
「それじゃあ我は先に失礼する」
「私も失礼する」
スレッド国王とリゼは訓練場を後にする。
残ったイブ、クリム王女、リーフ=パールの三人は、お互いを見て、
「今回のことで、アヤトさんの無実は証明されるでしょう」
「良かったです。これでアヤトさんも少しは報われます」
「…ん」
…。
三人とも、それ以上の言葉が出なかった。
本当は、もっとアヤトのことについて語りたかったが、それはしなかった。
三人の目から流れ出ている液体が、いかにアヤトを大切に想っているかを証明していた。
「これからも、アヤトさんの味方でいられるように…」
「…ん」
「はい!頑張って行きましょう!」
リーフ、イブ、クリムの順に意志表明する。
前回、アヤトがヒュドラと戦いに行ったときに行われた和やかなものだが、明らかに違うものがある。
「私達で…」
「…アヤトを…」
「ルリちゃんと一緒に…」
「「「幸せにする!!!」」」
それは強くなる覚悟だ。
今回のことで、私達三人はとアヤト達との力の差をいやというほど理解した。
今後、アヤト達と一緒にいるために、もっと強くならなくてはならない。
アヤト達と一緒にいるため。そして、幸せになるために。
「それでですね。まず始めにアヤトさんのことを知る必要があると思うのです」
「確かに…」
「…一理ある」
リーフを主体とした会話が続いていく。
「なので、これからアヤトさんについて知っていることを三人で共有しませんか?」
「「賛成!!」」
こうして、乙女達は話を始める。
まず、ブラックゴブリンキングを倒したことから、魔王と戦い、見たこともない魔法を使って勝ったこと、そして、
「「「ホットケーキ!!!」」」
アヤトのの作るホットケーキがいかに美味しいか、一人ずつ語った。
最後はアヤトさんがどんな料理を作ってくれるのか予想までしていた。
こうして、乙女達の絆は深まっていった。
いかがでしたか?これで決闘編は終わりです。
次から、新編です!
と、言いたいところですが、少し休憩して、日常編を少し挟みます。
内容は彩人を…する話です。




