7-1-53(第542話) 虹無対戦~無の国編その16~
(まさか、ここまで疲弊しているとはな)
彩人はクリムの様子を見て驚愕する。まだ【虚空】に捕らわれてそこまで時間は経過していないはずなのだが、その僅かな時間で物凄く疲弊している様子だった。
(いや、疲弊しているだけじゃないな)
一体何があったらここまでボロボロになるんだ、と聞きたくなるくらいボロボロだ。よほどくるものがあったのだろう。
彩人は、クリムの首を絞めようとしている手を離させる。
「どう、して・・・?」
俺は理由を聞かれた。
(どうして?ああ、助けに来た理由を聞いているのか)
助けに来た理由?そんなの、決まっている!
「助けたいからだ!」
全員でこの戦いを乗り越え、誰一人欠けることなく幸せに過ごしたい。それが、今の俺の願いだ!
「だからクリム、お前を助けに来た!」
「ですが私は、人に助けてもらえるような人じゃ・・・、」
クリムは心をやられていた。クリムだけではない。【虚空】に閉じ込められたルリ達もまた、心をやられていた。その為、彩人からの呼びかけにも難色を示す。
(まるで昔の俺を見ているようだな・・・、)
彩人は、傷心しているクリム達を見て、かつての自分と重ねていた。かつて、いじめられて引きこもったかつての自分と。
だから彩人はクリム達を放っておかず、手をとる。かつて、自分の両親が自分にかまってくれたように。
「多分、俺一人じゃあこの【虚空】を突破することは出来ない。確かあいつの魔法は、一人だと無効になる・・・だったか?」
彩人は、リーフが言っていたカラトムーガの魔法の性質を思い出しながら話す。
「だからクリム、お前の力が必要なんだ。俺と一緒に・・・、」
「私には無理よ。私にそんな力はない。だって私、アヤトが辛い思いをしていた時に私は・・・。だから・・・、」
クリムは彩人の顔をまともに見ることが出来ないのか、目を下に向け、彩人と顔を合わそうとしない。
「そんなに自分の力を信じられないのか?」
「信じられるわけないわ!だって私、アヤトがずっと耐え続けてきたことに私は・・・、」
「なら自分自身のことは信じなくていい。その代わり、」
俺はクリムの言葉に重ねる。
「クリムのことを信じている、俺を信じてくれないか?」
「・・・アヤトのことを、ですか?」
「ああ!クリムが自身のことをどう思っているかは分からないし、俺がここで何を言っても自分の気持ちがそう簡単に変わらないことも分かる」
彩人は自身の過去、気持ちを振りかえる。俺も人の言葉を、両親の言葉を聞かなかった。その結果、俺は長いこと孤独になっていた。周囲の支えがあったにも関わらず。
(今度は、俺が支える)
俺の両親が、俺を支えてくれたように。
俺が、助ける!
「さぁ、行くぞ!」
俺は【赤色気】を発動させた後、【蒼炎】を発動させ、拳に纏わせる。
「【蒼炎拳】!」
俺はクリムを見る。
「一緒に、だ!」
クリムはゆっくり立ち、自身の拳に炎を纏わせる。その炎の色は赤からゆっくり蒼へ変化していく。
「一緒、に!」
「ああ!」
俺はクリムの横に立ち、
「「【蒼炎拳】!!」」
【蒼炎拳】を【虚空】に向けて放つ。すると、何かがぶつかったような、そんな感触が発生する。
(この感触、壁を思いっきり殴っているような感覚だな。だったら・・・、)
俺は直感で理解する。今の俺なら、今の俺とクリムなら、この【虚空】を破壊出来るのだと。
「うおおおぉぉぉ!!!」
「はあああぁぁぁ!!!」
ピキ。
何かが割れたような、破損した音が聞こえた。
(いける!もう一押しだ!)
俺は【蒼炎拳】に力を込める。
すると、破損する音が大きくなり、【虚空】にヒビが見え始める。
(クリムは!?大丈夫か!!??)
俺はふと、クリムが心配になり、クリムを見る。そうしたら、クリムも俺を見ていた。
(まさかクリムも、俺と同じように心配を・・・?)
そう考えてしまったら、二人共同じなのだと思い、少し笑ってしまった。その直後、俺達は更に力を込める。
そして、【虚空】のヒビから光が差し込み、崩壊した。
崩壊した【虚空】から出てくると、本体の俺がいた。
(まだ俺は無事なようだな。最も、本体の俺が死んだら、【色分身】で増えた俺達も死ぬと思うのだが)
周囲を見ると、他の【虚空】も破られたらしく、他の色の俺達が見えた。
(どうやら他の俺達も上手く助けることが出来たようだな)
俺は安堵し、本体の俺を見る。
(さぁ、次はお前だ、俺!)
次回予告
『7-1-54(第543話) 虹無対戦~無の国編その17~』
生きて出ることが出来ない魔法、【虚空】から生きて出てくることに成功した彩人達。【色分身】の彩人達は本体の彩人の元に戻る。その時、【色分身】の彩人達から声援を受け、自分が護られていると自覚する。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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