7-1-47(第536話) 虹無対戦~無の国編その10~
(やばいな)
俺は内心焦っていた。何故かというと、既に満身創痍で余力がないからである。
(相手の出方を見ている余裕はなさそうだ。なら、【無色気】で一気にかたをつける!)
俺は【無色気】を発動する。
「ふん」
カラトムーガから余裕が感じられた。俺の【無色気】に対して一切動揺しないな。少しは動揺し、ミスしてくれれば嬉しいのだが。
(一気に行くぞ!)
俺はカラトムーガとの距離を詰め、カラトムーガに向けて剣を振り下ろした。
「・・・え?」
俺は驚いた。何故かというと、カラトムーガに俺の攻撃が直撃したはずなのに、その感触が全くなかったからである。
「どうした?我に何かしたのか?」
カラトムーガからは依然としてニヤケ顔を崩さない。俺は何度もカラトムーガに向けて剣を振り続ける。
その結果、
「さっきから貴様は何をしている?子供の遊戯の真似事かね?」
俺の体力が無駄に消費されただけだった。
(なんだ?どういうことなんだ?)
何故俺の攻撃がカラトムーガに届かない?
(まさか、物理攻撃を無効化する魔法でも発動しているのか?)
だとすれば、次に俺がとるべき行動は・・・。
「次は魔法を使うつもりなのかね?無駄だと思うがやってみるといい」
「!?」
こいつ!?俺の次の行動を読んだのか!?なら、このまま魔法を使うのは危険か?
(だが、一度確認しないとどうにもならないか)
俺はカラトムーガの読み通り、魔法を使うことにした。俺はカラトムーガから距離を取り、カラトムーガを中心として爆発する魔法を発動する。
(これでやられてくれれば万々歳なのだが、どうだろうか?)
無理、だろうな。
(追撃してみるか)
俺は魔力の塊を、カラトムーガに向けて複数個放ってみる。地面に当たったのか、魔力の塊が爆風を生む。
(構えよう)
この程度でカラトムーガが倒れるほど弱くないだろう。これで死んでくれたらセントミアさんとの戦いも死にかけることはなかったぞ。
「煩わしい」
砂煙の中、カラトムーガは姿を現す。カラトムーガの体には傷一つついていなかった。
(予想通りとはいえ、ちょっときついな)
魔法を発動するにも魔力は消耗する。俺の魔力量の残りは僅かな上、無魔法の魔力消費量は他の色魔法より多い。しかも見た感じ、魔法は効いてなさそうだな。
(物理も魔法も効かないとか、一体何が効くんだ?)
俺が次の有効打について考えていると、
「来ないのかね?ならこちらからいかせてもらおう」
「!?」
空気の変化に俺は内心ビビるも、警戒心マックス状態のまま、カラトムーガからの攻撃に備える。
「我が剣よ。我の前に立ちはだかる邪魔者を貫け」
「!?」
カラトムーガの言葉の後、カラトムーガの周囲に剣が無数に出現する。無数に出現した剣の剣先は全部俺に向けられたかと思うと、その剣全てが俺に向かってきた。
(全部を避けるのは不可能だな。ならこの剣で受け止める!)
俺は向かってくる剣を躱しつつ、躱しきれなかった剣を、自身の剣で受け流そうとした。
(!?)
俺の直感が叫んできた。剣で受け止めるな、躱せ、と。俺は剣で受け止めることを止め、躱そうと体を動かす。元々、躱しきれないから剣で受け止めようとしていた為、何本か剣を体に直撃させてしまう。
(!?なんだ、今の違和感は!!??)
俺はカラトムーガの攻撃にどこか違和感があったものの、その違和感の正体が分からなかった。
「ほぉ?これで死なないか。なら、」
そう言い、カラトムーガは手をあげる。
(まさか・・・?)
俺は顔を上げる。すると、さきほどの剣が無数にあった。
(ち!)
俺は【反射障壁】を展開し、守りの体制を整える。
(!?)
瞬間、俺の直感が叫ぶ。
【反射障壁】は無意味だと。
このままだと死ぬぞ、と。
俺はすぐに【反射障壁】を解除し、剣の攻撃範囲から外れようと移動し始める。
「遅い。やれ」
この言葉の後、宙に浮いていた剣が俺に向かって飛んでくる。
(全部躱さないと!)
俺は向かってくる剣を躱して躱して躱しまくる。
が、
(駄目だ!躱しきれない!!)
俺は、自身の剣で受けようと構える。
そして、さっき感じた違和感の正体が判明した。
(!?この剣、さっきも!まさかこいつの攻撃、俺の防御をすり抜けるのか!!??)
カラトムーガの攻撃はどういう理屈なのか、俺の防御をすり抜けて攻撃してきたのだ。
(ふざけやがれ!)
一体どういうカラクリで俺の防御をすり抜けているんだよ!?
(カラクリを暴く余裕はない!)
ひとまず、カラトムーガの攻撃は全て回避必須、という事は分かった。生半可な守りは無駄だ。出来れば回避に尽力したいところだが、回避に専念したところでカラトムーガに勝てるわけがない。
(とにかく、回避能力を上げる為にも、【無色気】は必須だな)
俺は【無色気】に集中する。そして、カラトムーガに向けて直進する。
「愚かな」
そんなカラトムーガの声が聞こえたかと思ったら、指を上に向けた。
(!?下から何か、来る!!)
俺は咄嗟に今いる場から左右方向に避ける。すると、さきほどまでいた場所に、土の棘のようなものが生えた。
(あれが直撃したらひとたまりもないな)
回避した後、地面から不穏な魔力の動きを感じた。その動きはまるで、俺の動きを先読みするような、俺を値踏みするような動き。
(この野郎が!)
俺は全力で回避に専念する。相手の地中からの攻撃を、魔力の動きだけで先読みし、なんとか躱していく。
「必死に回避する姿は実に滑稽だ」
「うっせぇ!」
俺は咄嗟に、【火球】を発動し、カラトムーガに向けて放つ。
(!?馬鹿野郎が!!)
つい勢いで魔法を使っちまった!貴重な魔力を無駄なことに使いやがって!俺は自身の行動に後悔する。
(ち!)
【火球】はカラトムーガに直撃した・・・のか?
(当たったと思うのだが、感触がないな)
この感じだと、おそらくカラトムーガが俺の【火球】を躱したか、無効化したのだろう。
(・・・いや、待てよ?)
さっき見たところ、俺の【火球】はカラトムーガに直撃したところは見たはず。であるならカラトムーガは、俺の【火球】を無効化したことになるな。
(まさか・・・?)
あいつ、俺の防御をすり抜けるだけでなく、俺の攻撃を無効化する魔法も使っていると言うのか!?
(そんな魔法、あるのかよ!!!???)
「!?や・・・!?」
俺が衝撃の事実に驚いていたら、現在進行形で襲い掛かってきている魔法まで気が回らなかった。気づいた時には、地面から棘が俺に向かって伸びている最中だった。俺は必死に躱そうと体を捻るが、土の棘が俺の体を掠めてしまう。
(なんとか直撃は回避出来たか)
本当に危なかった。一瞬でも他の事を考えた瞬間、その思考が命取りになる。それに、直撃は回避出来たものの、俺の横っ腹を掠めている為、鮮血が体外に放出されている。
「ぐ・・・!」
俺は横っ腹を抑えながら無魔法で体を回復させる。あまり魔力を使いたくないのだが、このまま血を流し続けていると命に関わりそうだからな。
「これで分かっただろう?我と貴様の力の差が。どうやっても貴様は我に勝つ事は出来ないのだ」
そう言い、カラトムーガは俺に気色悪い笑みを俺に向ける。
(そう、だな)
どうやら俺の攻撃は全てカラトムーガに通じないようだし、カラトムーガの攻撃は俺の防御を貫通してくる。そのメカニズムを紐解いて対策しない限り、俺に勝利の二文字はあり得ないだろう。
(そして、魔力がほとんどなく、メカニズムを紐解く時間も対策する時間もない、と)
・・・詰んでいるな。
けど、悟られちゃいけない。
諦めちゃいけない。
(俺が諦めたら、このカラトムーガを倒せる奴なんて、この世界にはもういないのだから)
例えいたとしても、この世界に何人もいないだろう。
なら、俺がするべきことは一つ。
「いや、まだ策はあるさ。お前に勝つとっておきの秘策がな」
俺は虚勢を張る。この虚勢でカラトムーガが去ってくれたら嬉しいのだが・・・。
「そうか。ならそのとっておきの秘策とやらを使い、私を凌駕するといい。出来るものならな」
(!?こいつ、分かっていて言っていやがるな!!??)
俺にはもう、こいつを倒す策も時間もないことを。こいつは確実に自身の勝利を確信している。
(どうにかして俺はこいつに勝ちたい。勝ちたいが、こいつに勝つ方法が何一つ思い浮かばん)
どうすればいい?どうすれば俺はこいつに、カラトムーガに勝てる?
「・・・ああ、やってやるさ」
案なんて何一つ思いつかないし、死ぬ未来が容易に視えた。そんな状況の中、俺に出来ることはこれしかない。
(頼むぞ、【無色気】!)
俺は【無色気】をかけ直す。
「またその魔法か。その魔法を使ったところで我に勝てぬことをどうして理解出来ぬのだ?」
「・・・勝つさ」
勝って俺はあいつらと順風満帆な生活を送る。そう決めた!
「理解不能だ。負けが分かっていても尚立ち向かうとは」
分からなくてもいいさ。分かってもらおうなんてはなから思っちゃいない。
(相手が俺より格上な以上、長期戦は避けたい。なら、速攻で決める!)
俺は速度重視で決めようと動き始める。
次回予告
『7-1-48(第537話) 虹無対戦~無の国編その11~』
カラトムーガとの戦いの中、彩人は自身の敗北、そして死の未来が視えた。その未来を回避する為、僅かな可能性を模索し、カラトムーガに抗おうとする。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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