7-1-44(第533話) 虹無対戦~無の国編その7~
俺が地球にいた時、いじめに遭っていた。それはもう、今でも想像したくないくらい酷かった。そんな俺に待っていたのは更なる地獄だった。その時は、いじめられ始めて少し経った夜だった。
俺は突如、誰かに殺された。
「!!??」
その直後、俺は大量の寝汗をかきながら飛び起きる。
(ゆ、夢!?)
そして、さきほどの出来事は夢だったと気づく。
(き、気のせい、かな?)
そう自分の中に落とし込み、時間も確認せずに眠る。
その夢を最初に見た次の日から、それはもう地獄だった。
毎日毎日、誰かに殺され、その直後に目を覚ます。夢の中とはいえ、毎日毎日臨死体験していたらどうなるか。
「彩人、大丈夫か!?」
「彩人、しっかりして!彩人!!」
倒れて病院に運ばれる事態となるのである。両親が見守る中、彩人は病院に運ばれ、倒れた原因を特定する。その結果、睡眠不足と断定される。
「え?でもうちの子はそんな夜更かしなんて・・・、」
「確かしないはず・・・、」
そう言いながら母さんと父さんは俺を見る。心当たりはあった。というか、心当たりしかない。だが、その心当たりを言うことは出来なかった。出来ないというより、言葉に出来なかった、に近かったかもしれない。というのも、当時の自分がまだ6,7歳くらいだったことも話せなかった理由かもしれない。
その後、俺の父さんと母さんは病院から帰宅後、何故寝ていないのか聞かれた。俺は俺なりの言葉で両親に伝える。まだ子供だったから、言葉が所々おかしかったと思う。それでもちゃんと俺の言葉を聞いてくれた両親は、
「もう学校に行かなくていい!行かなくていいわ!!」
「自分の体を最優先にしてくれ。お前は、この世界に一人しかいないのだから」
そう言われ、俺はたびたび学校を休むことにした。休学にしなかったのは、休学してしまうとそのまま一生学校に通わなくなってしまうのではないか、そう思ったからだ。なんとか学校に通おうと頑張ったものの、やはり学校を休んでしまう日は多かった。原因は分かっていた。その原因は睡眠不足と、睡眠不足により精神が不安定だったことである。
親に話した後も改善されることはなく、毎晩誰かに殺される夢を見て、殺された直後に夢から目を覚ます。そんな悪循環が続いていき俺の体調はどんどん悪くなり、次第に安眠が出来なくなる。体を十分に休めることが出来なかった俺は何度も倒れてしまい、そんな状態の中学校に行かせることが出来ない、ということで俺は休学することになった。休学直後、俺は両親に対し、とても申し訳ないと思っていた。
普通の子は学校に通うことが出来るのに、どうして俺は出来ないのだろう?
どうして俺はいじめられるのだろう?
そんなことを考えてしまい、情けなくなってしまった俺は、悔しくて何度も泣いた。俺は両親にも泣きっ面を見せないようにしていたが、生正直ばれていたと思う。そしていつの間にか、俺は包丁を持っていた。その包丁を自分に向けた時、たまたま母さんが俺の姿を目撃した。その姿を見た母さんは包丁を俺の手から奪い、抱きついて号泣した。当初の俺は包丁を手に取って見ていた過程でたまたま包丁を自分に向けただけだったのだが、母さん視点からすれば自殺する我が息子、という風に見えてしまったのだろう。その後、俺は両親と一緒に寝ることとなった。最初、俺は断った。が、
「大丈夫」
「俺達が傍にいるから。だから任せろ」
そんな両親の言葉に、俺は思わず号泣してしまった。
両親と一緒に寝ることになっても、俺は変わらず殺される夢を見てしまう。
何度も、何度も殺される。
撲殺、射殺、凍死、焼死、窒息死、圧死、爆死、病死、中毒死、溺死等、様々な方法で殺される。
殺される度に俺は滝のような汗をかきながら目を覚ます。そして目を覚まして数秒後、
「眠れないの?」
「眠れないのか?」
そんな温かく接してくれる両親に、俺の心は決壊した。
何度も殺されて心が何度も壊れていっても生きていたのはきっと、母さんと父さんのおかげだろう。壊れた心をなんとか現世に繋いでくれた、俺の命の恩人なのだから。
何度も生と死の狭間を行き来しながらなんとか生活していたある時、俺は母さんに呼ばれる。
「一緒に料理、しようか?」
当時の俺は何も出来ず、ただただボーっとしていた。そんな俺を見かねた母さんはこのような提案をしてくれた。台所に向かった俺はあるものを見て、思わず足を止めてしまう。
そのあるものは、包丁である。
俺は様々な人から何度も包丁で射殺された。そのトラウマがあったからか、包丁を見ただけで足がすくんでしまう。
「大丈夫。包丁は今日、使わないから」
そう言い、母さんは包丁をしまう。
「包丁を使わない料理?何作るの?」
当時の俺はまだ子供だったので、料理に包丁の使用は必須だと思い込んでいた。なので母さんのこの発言に驚く。
「う~ん・・・、」
母さんは少し考えてからある料理名を言う。
「ホットケーキを作ろうか」
「ホットケーキ?」
当時の俺は、ホットケーキという料理を知らず、どんな料理なのかも分かっていなかった。そんな様子の俺を見た母さんは、ホットケーキはどんな料理なのか説明しながら、一緒に作ってくれた。
「こういう料理はね、計量が大事でね・・・、」
「かき混ぜるときはこれを使ってね・・・、」
「きちんと焼かないと・・・そうそう、上手い上手い!」
一緒に作った結果、母さんのおかげで上手く作ることが出来た。俺独りだったら、きっと形はボロボロで、丸焦げのホットケーキが出来ていたと思う。
「それじゃあ食べようか?」
母さんは俺を椅子に座らせ、台所から蜂蜜やジャムをとってテーブルの上に並べる。
「?何しているの?」
「ん?なにって写真を撮っているのよ」
「?どうして写真なんか撮っているの?」
「ふふ♪大人に、親になれば分かるわよ♪♪」
「?」
俺は母さんのこの言葉の意味がよく分からなかった。そして食べようとした時、
「待って」
母さんが俺を止めた。
「どうして?」
俺は突然止めた母さんに疑問をぶつける。正直、当時の気持ちとしては何故止めるのか理由が分からず、一刻も早く食べたかった。
「もうすぐ帰ってくるから、ちょっと待っていて、ね?」
「?なにが・・・?」
俺の言葉が言い終える前に、玄関の扉が開く。
「ただいま!」
その声は何度も何度も聞いた声だった。
「父さん!」
「おう!それよりこれが・・・!」
「ええ。私も手伝ったけど、れっきとした、彩人が初めて、作った料理よ」
「そうか・・・、」
何故か父さんも携帯を手に取り、内蔵されているレンズを料理に向ける。
「父さんまでどうして写真なんて撮っているの?」
「何故って?そんなの・・・、」
父さんと母さんはしばし見つめあう。
「親になれば分かるさ」
「??」
当時の俺には分からない言葉だった。そして、
「美味しい」
「ねぇ?」
「ああ、愛する母さんと彩人が作ってくれたホットケーキ、最高だ」
こうして、俺の初めての料理は無事に成功した。この日の夜、夢の中で殺された回数は普段より少なかった。この日を境に、母さんは度々俺を料理作りに誘い、一緒に料理を作るようになった。そして一緒に作った料理を、父さん含めた三人で食事するようになった。
(もっと、もっと笑顔が見たい)
俺は、母さんと父さんの笑顔が見たくて、料理の他の家事も手伝うようになった。
「ありがとー♪」
「いつも助かるわ♪♪」
「彩人がいてくれて良かったわ♪♪♪」
母さんの笑顔を見ることがとても幸せな気持ちになった。そんな気持ちになっても、未だ殺される夢を見る。
金属バットで殴られて撲殺。
銃に撃たれて射殺。
ある会社の業務用巨大冷凍庫に一週間以上閉じ込められて凍死。
焼却炉の中に投げ込まれて焼死。
喉と鼻を完全に塞がれて窒息死。
工場のプレス機に挟まれて圧死。
爆弾がある部屋に閉じ込められた後、爆弾の爆発に巻き込まれて爆死。
複数の合併症を発症したものの、誰も助けず、診てもらうことなくそのまま病死。
致死量以上のカフェインを無理矢理摂取させられて中毒死。
水に長時間無理矢理顔をつけられて息が出来ずに溺死。
これらの行為を同じ学校に通っていた同級生、先輩、先生達にやられていた。その影響で、俺は外に出ようとすると足が止まってしまう。
(外に出なきゃいけないのに、どうしても足が・・・!)
俺が玄関で足を止めていると、母さんが後ろから抱きしめられ、
「無理しなくていいのよ?大丈夫、時間が解決してくれるわ」
そう優しくしてくれた。その優しさに俺は甘え、しばらく家から出ず、引きこもり状態となった。
数日経過。
(ただ、引きこもっているだけじゃ駄目だ)
そう思った俺は、家にいる自分でも出来ることを探した。
そして見つけた。
(料理を手伝おう)
家にいながらでも出来ること、それは料理だと分かった。
だから俺は出来るだけ料理を手伝い、最終的には一人で料理出来るようになった。そして、両親の朝ごはんと夜ご飯を作るまでになった。
「ありがとう♪」
「彩人が作ってくれた料理、最高に美味いよ♪♪」
こうして俺の両親は喜んでくれた。その夜、俺は同級生に一度撲殺されただけで夢は終わった。
その後、成長していく内に俺は、だんだん外に出ることが出来るようになり、いつしかコンビニに買い物、両親とお出かけ、極稀に登校、という感じで外出出来るようになっていった。
俺が最初に殺される夢を見始めてから約十年。毎日最低でも一回以上は殺されてきて、精神がおかしくなっていただろう。そんな狂った状態でもこうして生きることが出来ているのは、きっと両親の支えあってだろう。そんな俺は、恩人の両親に何も恩返し出来ずに、この異世界にやってきたのだった。
次回予告
『7-1-45(第534話) 虹無対戦~無の国編その8~』
生きているにも関わらず、3650もの死の体験をした理由は、夢の中だったから出来たことなのであった。彩人は死を恐れない戦法で格上のセントミアと戦っていく。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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