7-1-43(第532話) 虹無対戦~無の国編その6~
「・・・ふぅ。だいぶ話してしまったな」
「・・・」
「おや?もう死んでしまったかい?」
「・・・死ぬわけ、ねぇだろ」
俺は、セントミアから長い話を強制的に聞かされた。
簡単にまとめると、自分は、自身の力に恐れた周囲の人間が嘘をついて大罪人に仕立て上げられたこと。そして、追われに追われ、この城跡に辿り着いたこと。この城跡には、かつてこの地で行われた大きな戦いが繰り広げられていたこと。
「アヤト、お前には分かるはずだ。長いこと虐げられ続けてきた者の気持ちが」
そう言い、セントミアさんは何を思ってか、俺に手を差し伸べた。
「・・・どういうつもりだ?」
「私と共に、新たな世界に住まないか?」
「新たな世界、だと?」
俺は、セントミアさんの言っている言葉が分からず、セントミアさんに質問する。
「ああ。この世界を一度滅ぼし、この世界に住んでいる人も、土地も、植物も全て無にする。無にした後、何もない世界から私は世界を創る。その世界の創造に、君なら協力させてもいいと言っているんだ?どうだい、協力してくれるかい?」
「・・・一つ、確認したい」
「もちろん構わない。なんだい?」
俺は攻撃を一時やめる。
「もし俺が協力すると言った時、俺の仲間はどうなる?」
「君の仲間か。そうだな~・・・、」
セントミアさんは少し考えた後、こう答えた。
「新たな世界に不要だから排除するかな。それが何か?」
さも当然のように。俺の仲間を消すことが必然のように。
だから俺は、
「そうか。なら俺は、セントミアさん、今のあなたに協力は出来ない」
セントミアさんに剣先を向ける。
「だから俺は止める」
俺はセントミアさんに向けて直進する。
「・・・そうか。君となら新しい世界で、と思っていたのだが。残念だよ」
セントミアさんの鞭が俺に向かっていく。俺はその鞭を無視して直進する。その結果、どうなったかというと、
「!?」
「ほら見たことか。これで君は終わりだ」
俺の胸に鞭が刺さる。普通なら、これで俺の命は終わりだ。その点は、セントミアさんと同感だ。
「普通なら、な!」
「!!??」
俺は、鞭が刺さっているにも関わらず直進し、セントミアさんの元へ到達し、魔銀製の剣を振る。
(ち!)
剣は当たらなかったものの、初めてセントミアさんの動揺した姿を見た気がする。
「・・・まさかお前、死ぬ気か?」
「死ぬ気?違うね」
俺は刺さっている鞭を無理矢理引っこ抜く。かえしみたいな機能がついているのか、抜こうとすると激痛がやばい。
「俺はセントミアさん、あなたに勝つ為、生きる為にここまでしているんだ」
考えた結果、俺は捨て身で突進することにした。俺が自殺同然で突っ込んでくるとは思わなかっただろう。出来ればこの突進一回で決めたかったのだが、相手がセントミアさんだから仕方がない。
(後はいつまで俺の命が持つか。それと・・・俺の度胸だけ)
何度も死ぬような想いをして、心が死なないようにしないと。
「狂っているな、お前」
「そりゃどうも。こちとら格上の相手に勝つ為、必死なんだよ!」
こうして、俺の命をかけた死闘が始まる。
(凄い。これならなんとかなるかも)
俺は今の戦い方に希望を見出していた。
今の戦い方というのは、相手の鞭による攻撃を無視し、セントミアさんに接近して攻撃する、というシンプルな作戦である。
この戦い方で最もリスクな事は、セントミアさんの鞭による攻撃が俺の胸を貫いていも一切怯んだり臆したりしてはならない。そんなことをしていたらセントミアさんに攻撃が届かなくなる為である。要は、防御を捨てて攻撃に全振りしろ、ということだ。
この作戦でセントミアさんと対峙し続けた結果、
「そんな戦い方、いつまで続けていられるのかな?」
「いつまでも続けるつもりはないさ、そちらこそ、息が上がっているんじゃないか?」
セントミアさんに変化が見られた。俺の攻撃がセントミアさんに当たり始めたのだ。そして、俺の体から流れる血の量がさっきより爆上がりしている。
「お前のその状態よりマシだと思うがな」
確かにセントミアさんの言う通り、セントミアさんより俺の方が危険だ。俺の方が出血しているし、体もボロボロ。どうして今も生きているのか自分でも不思議なくらいだ。
(今は、今だけは生きるんだ!)
後の事なんて、この戦いの後の事なんてどうでもいい。この戦いに勝つ事だけ考えろ!俺は今も鞭に体を貫かれながらセントミアさんに攻撃を続けている。
(やばい、意識が・・・。意識を、意識を、もて!)
正直、今にも気を失いそうなのだが失うわけにはいかない。今気を失ったらそのまま死にそうだからだ。
「・・・どうしてだ」
「?」
突如、何かが聞こえてきた。声の主は分かっているのだが、なんて言っているのか分からない。
「どうして、ここまで私に抗う!?」
「!?」
まさかセントミアさんがここまで気を荒げるなんてな。
(抗う理由、か)
そんなの、決まっている。
「セントミアさんが望む未来、その未来はきっと、俺達がいない未来だ。だから俺は、その未来を変える。その為に俺はここにいる!」
俺は出血している自身の胸部を無魔法で回復しながらセントミアさんに返事する。
「その体で、この力の差で何故ここまで抗う!?さっさと死ねば楽になれるというのに!」
「・・・」
「普通なら、もう死んでいるはずだ!既に何回、何十回も胸を刺した!!それなのに何故・・・!?」
「何故、か・・・、」
正直、自分でもどうして無事なのか分からない。体のつくりや構造、理屈なんて知らない。けど、心当たりならあった。
「・・・3650。この数字が一体何を意味するのか分かるか?」
俺はセントミアさんに質問する。
「・・・なんの数字だ?」
「この数字は・・・、俺がここ十年間で体験した死の体験数だよ」
次回予告
『7-1-44(第533話) 虹無対戦~無の国編その7~』
3650。
彩人はこの数字を、死の体験数と言い放つ。生きているはずなのに3650もの死を体験しているという矛盾。その矛盾にはあるカラクリがあった。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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