7-1-32(第521話) 虹無対戦~黄の国編その5~
黄の国。
「ここは黄の国・・・で合っているのでしょうか?」
「はい。どうやら転移は無事に成功したようです」
「そうでしたか。こんな素晴らしい魔道具を使わしてくれてありがとうございます、レンカさん」
「いえいえ。それよりモミジ殿、後の事はお任せします」
「はい。次は、私が頑張る番です!」
深夜の中、自身の髪を揺らしながら、モミジは移動し始める。その移動には焦りの感情が見えていた。
夜。
モミジはある者の元の前に姿を現していた。
「・・・何か用か?」
その者はザッハ。黄の国で王となった最高ランクの冒険者である。
「今、アヤトさんが大変なんです!!」
「!!??」
ザッハはモミジの尋常じゃない様子に執務作業を止め、改めてモミジの表情を見る。その表情から、モミジの精神状態が危ういように見えた。
「何かあったんだな。そういえばアヤト達はどうした?近くにいるのか?」
ザッハは周囲を見渡すものの、モミジ以外の人影が見えない。
「・・・他のみなさんはそれぞれ別の国に行っています。アヤトさんを助ける為に」
「アヤトを助ける為?一体どういうことだ?あいつに何かあったのか?」
「実は・・・、」
モミジはザッハに事のあらましを伝える。途中、モミジは自身の不甲斐なさに涙してしまうものの、レンカが助け船を出したことにより、なんとかザッハに事情を説明することが出来た。
「そうか・・・、」
ザッハは席を立ち、窓から空を見る。
「本当はもう少し準備してから行くつもりだったんだがな」
その後、近くに置いてあった自身の武器を手に取る。
「それで、あの・・・、」
「ザッハ殿に協力してほしいのです。アルジンを助ける為に!お願いします」
レンカはザッハに対して頭を下げる。
「お願い、します。不甲斐ない私に協力、してください・・・」
モミジは涙しながら、レンカと同じように頭を下げる。
「何もお前達に協力しない、なんて言っていないぞ?」
「「!!??」」
「それってつまり・・・!?」
「・・・お前達には多大な恩がある。その恩を少しでも返すことが出来るというのなら、俺はいくらでも力を貸すさ」
剣を軽く振ってから武器を置く。
「だが、最低限の時間だけくれ。これから俺は他の冒険者や兵士に声をかけ、森に向かうよう指示を出す。俺が出発するのはそれからだからな」
「ありがとう、ございます」
モミジは、ザッハが協力してくれることに喜び、涙を流す。
「モミジ殿、あまり泣いていますと、アルジンが心配してしまいますよ?」
「そう、ですね」
モミジは自身の目を手でこすり、涙を拭く。
「それではザッハさん、私達は一足先に向かいますので、これで失礼します」
「分かった。俺も指示を出し次第、すぐに向かう」
「はい。それではまた」
モミジはザッハに対して頭を下げ、部屋を後にする。
モミジとレンカの退室後、ザッハは常駐している兵士や冒険者達に、至急森の奥に行くようお願いする。兵士や冒険者達は、どうしてこの時間に、真夜中にわざわざ出撃する必要があるのか質問した。
「・・・俺と、俺の家族を助けてくれた恩人の命が危険なんだ。そいつの助ける為に、早急に向かう必要があるらしいんだ。だから頼む」
もちろん、無理強いはしない。行きたくないのなら、国の防衛を引き続き頼む。
そのようなことを言った後、ザッハは独りで森の奥に向かおうとした
が、その足はすぐ止まる。
「水臭いこと言わないでくださいよ」
その言葉を言ったのは、ある冒険者だった。
「そうっすよ」
「俺達、雷砕のザッハに憧れて冒険者になったんすよ」
「そんな憧れの冒険者様のお願いなんざ、聞く以外ありえませんぜ」
「「「それな」」」
「お前ら・・・、」
冒険者達は出発する準備を終えたのか、各々武器の調子を確認する。中には武器を鳴らし、音で武器の調子を確認している者もいる。
「「「ちょっと待ったーーー!!!」」」
「「「!!!???」」」
男だらけの冒険者とは異なり、若くて何度も聞いた女性達の声。冒険者達はその声の主を知っていた。
「どうしてお前らがここにいるんだ!?」
ザッハが驚いている理由、それはここに来るはずないと思っていた人物が登場したからである。その人物こそ、さきほどの女性の声の主である、
「もちろん・・・、」
「アヤトお兄さんを・・・、」
「助ける為だヨ!」
ヤヤ、ユユ、ヨヨの三人である。三人は各々武器を携え、戦闘準備を終えていた。まるで今から森の奥に向かうような、そんな装いだった。
「駄目だ!お前らは大人しく・・・!」
「「「嫌!!!」」」
ザッハの言葉に、ヤヤ、ユユ、ヨヨは即拒否の返事をする。
「どうして・・・?」
その言葉に、ヤヤが答える。
「「「私達にとって大切な人だから」」」
三姉妹が声を揃って発言した。
大切な人。
その言葉がザッハの胸に突き刺さる。
(俺だって、あいつは俺にとって・・・!?)
ザッハは悩みに悩んだ結果、
「・・・最前線で俺が戦い、後方から支援する形で頼む。これ以上は譲らないからな!」
「「「!!!???うん!!!」」」
ザッハの返答が嬉しかったのか、三姉妹は嬉しい感情を前面に押し出す。
「それじゃあお前ら、行くぞ!」
「「「おう!!!」」
「「「うん!!!」」」
こうして、黄の国の者達は出発する。
(待っていろよ、アヤト!)
魔獣達から黄の国を守る為。
今も戦っている独りの少年を助ける為。
「にゃお~ん」
ある魔獣も、ザッハ達の後をついていく。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・、」
私は暗い森の中を縦断する。縦断している理由は、大事な恩人を見つけだし、助けることです。
「いました!」
私は恩人、アヤトさんを見つけます。
(嘘!!!???)
そして、アヤトさんの様子に驚きを隠すことが出来ませんでした。今のアヤトさんは、片腕を失い、全身ボロボロ。いつ息絶えてもおかしくないほどの重症でした。私はそんな様子のアヤトさんにわき目もふらずに近づきます。
「アヤトさん!無事ですか!!??」
・・・返事がありません。
「危ない!?」
今のアヤトさん、自分で立つこともままならなさそうです。私は植物さん達にお願いして、アヤトさんの下に植物をしきつめ、フカフカにします。
「怪我は・・・ひどい。植物さん達、私の魔力でアヤトさんを癒して!」
私は植物さん達に魔力を渡し、植物さん達と協力してアヤトさんを回復させます。
(・・・本当は、このまま私もアヤトさんを回復させたかったのですが、仕方がありませんね)
「その間に、周囲の魔獣達には消えてもらいましょう」
私は植物さん達に、更に魔力を渡します。
「植物さん達、私の魔力を使って倒して!」
とはいえ、私だけ何もしないわけにはいきませんね。私はアヤトさんの回復を止め、周囲にはびこる魔獣の姿を視界に映します。
「私もやります。これ以上、アヤトが傷つくなんて我慢出来ません!」
まず私は周囲を簡単に掃除しようと、【三樹爪撃】の準備をします。
(アヤトさんを、助ける!)
その想いを胸に込め、この魔法を放ちます。
「【三樹爪撃】!」
私のこの魔法で魔獣が何匹か倒れたようですが、まだまだ魔獣は大勢いるようです。
「アヤトさんは絶対、死なせません!私が、助けます!」
「ど、どうし、て・・・?」
僕は驚いていた。何せ、もう死ぬことを覚悟していたのに死んでおらず、二度と会えないことも覚悟していた人物、モミジを目にしているのだから。
「どうして、じゃありません!」
あの魔法、【三樹爪撃】か。モミジは【三樹爪撃】を放つ。
「あなたが、アヤトさんが心配だからに決まっているじゃないですか!!」
「!!??」
その言葉が僕の胸に突き刺さる。モミジ達を魔の国に置いていった罪悪感に呑まれそうだ。
(だが!)
僕は植物達を優しく撫で、立ち上がろうとする。
(!!??)
思わず声が出そうになるくらい痛い。が、植物達が回復してくれたおかげで、死の危険から回避されたようだ。本当、モミジには感謝だな。だけど、これまでだ。
「モミジ、ありがとう。おかげで楽になった」
俺はモミジの肩に優しく手を置く。
「後は僕に任せて、モミジはゆっくり休んでいてほしい」
「・・・ふざけているのですか?」
僕の言葉にモミジは怒りを覚えたらしい。何故だろう?僕はモミジに休んでほしいと言っただけなのだが・・・。
「さっきまで死ぬか生きるか分からないくらい重症だった人が何を言っているのですか!?」
モミジは僕に近づく。その迫力は、僕の胸倉をつかむんじゃないか、そう思うくらい近く、迫力がある。
「いいですか!?私は怒っているのですよ!どうしてアヤトさんは独りで死のうとしているのか!どうして独りで全て背負ってしまったのか!!」
「・・・この戦いは、僕独りで全て終わらせなくてはならない。だから俺独りで、俺、独りで・・・、」
そう判断していたのだが、痛みが考えを歪ましていく。
「僕独りで終わらすために目立って、それで・・・それで、」
僕は何を言いたいのだろう?
「独りで全部やって、その後独りで死ぬつもりでしたか?」
「!?」
確かに、この戦いの後の事は考えていない。その証拠に、今モミジにそのことを指摘されたら何即答することが出来なかった。
「い、いや・・・、」
そんなことはない。そう答えたのだが、
「嘘ですね」
速攻で僕の答えを否定されてしまった。別に嘘をついた自覚はないのだが・・・。
「アヤトさん、この戦いで死ぬ気だったのでしょう?だからたった独りで誰にも言わずに戦い始めた。違いますか?」
「・・・」
別には死ぬつもりはない。ないが、この戦いに巻き込んだら確実に死ぬ。そう確信したから独りで戦い始めた。だからモミジの言い分も間違いではないと思い、黙ってしまった。
「どうして、どうして独りで行ってしまったのですか!?私達、そんなに頼りないですか!?弱いですか!!??」
「いや、頼りにしているし強いと思っている。だから・・・、」
「嘘です!本当だったらどうして私達を呼ばなかったのですか!?どうして私達に、助けて、と言ってくれなかったのですか!!??」
今のモミジは僕の言葉をことごとく否定してくるな。それほど僕の意志が、行動がモミジ達を傷つけてしまった、ということなのだろうか。
「私は、もっともっとアヤトさんと一緒にいたいです。アヤトさんからまだ教えてほしいこと、聞きたいことはたくさんあります。だから・・・!」
「!?」
モミジと僕を襲おうとしていた魔獣共が突如、茨に貫かれて絶命する。
「助けに来ました!もう、アヤトさんのお荷物になるつもりはありません!」
「!!??」
何故だろう。
今までだって、何度もモミジに助けられたことはあるし、モミジの戦闘シーンだって何度も何度も見てきた。見てきたはずなのに、今の姿が一番頼もしく見えた。
「アヤトさん、今は体を休めてください!必ずこの魔獣の軍勢は、私達がなんとかしますから!」
「そんなの無理だ!」
僕はモミジの前に立とうとする。が、さっきまで死にかけていたからか、体を上手く使うことが出来ず、倒れそうになってしまう。
「危ない!!」
そんな僕を、モミジは優しく支えてくれた。
「無茶しないでください!」
「だけど、僕が目立たないと、僕が最前線で戦わないとモミジが、みんなが・・・!」
「大丈夫」
「!!??」
モミジの大丈夫、という言葉に、僕の力がどんどん抜けていく。まるで、もう頑張らなくていいよと教えられているような、そんな感じだ。
「私達がいます。今すぐ安心出来ないかもしれませんが、私達の戦いぶりを見て、気を休めてください」
「モミジ一人にこの魔獣共の軍勢をどうにか出来るなんて・・・わたし、たち?」
モミジに反論しようとしたが、その途中でモミジの言葉の違和感に気づく。
「たちって誰?今はモミジ一人じゃないか」
僕がそう言うと、モミジは顔を緩ませてこう言った。
「今はそうです。ですが、私一人ではアヤトさんのように止めることが出来ません」
いや、僕も出来ていない。出来ていないからこそこうしてボロボロになり、モミジに助けてもらうという情けないところを見せてしまったのだから。
「だから、協力を呼びました」
「きょう、りょく?」
カラー種のゴブリンが僕に近づき剣を振り下ろそうとしているな。僕はそのゴブリンの動きに対応しようと体を動かすが、
(!!??)
体に激痛が走り、対応が遅れてしまう。
やばい!!??
そう思った時には既に遅く、僕はゴブリンの攻撃に対して目を瞑り、死を覚悟する。
(モミジとの話に気をとられ過ぎて、周囲の警戒がおろそかになってしまった僕の責任だ)
そんな後悔をしたところで遅いのだが。
だが、覚悟した死はいつまでも訪れなかった。
「間に合ったか?」
「ええ、ばっちりです」
「?・・・!?お、お前は!!??」
僕はゆっくり目を開けると、そこにはさっきまでいなかったはずの者がいました。
「・・・随分な目に遭ったみたいじゃないか」
その者、ザッハは僕の体を一通り見た後、僕に近づき一言。
「お前、ふざけるなよ?」
そう言い、胸倉を掴まれる。
「大切な人を残してなに死のうとしているんだよ?お前は冒険者だろうが!冒険者は生きてなんぼだろうが!!」
「!?」
ザッハの言葉が僕の胸に突き刺さる。
「いいか!?俺にもお前にも大切な人がいるんだ!!簡単に死ぬなんて言うんじゃねぇぞ!お前が死んで悲しむやつが、少なくとも今、目の前にいるだろうが!!」
「!?」
僕はザッハの言葉に対し、モミジを見る。
(確かに僕が死んだら、モミジは悲しんでくれるかもしれない)
「俺にもヤヤ、ユユ、ヨヨの三人と、なにがなんでも守りたい大切な人が、少なくとも3人はいる。お前にだって大切な人が、なにがなんでも守りたい大切な人がいるはずだ」
「!?守りたい、人・・・、」
僕の視線が自然とモミジに向く。
「だから、死ぬ、なんて簡単に言うんじゃねぇ。あいつらが悲しむからな」
「あいつら?」
僕は、ザッハが向いた方角と同じ方角を向く。
「ヤァ!」
「ユ!」
「ヨォ!」
その者達は、片手剣、弓、拳で魔獣共を倒す。
「まさか・・・!?」
「ああ。意志が強かったからな。連れてきた」
「連れてきたって、こんな危険場所に・・・!」
ここにはカラー種がわんさかいるんだぞ!?カラー種の強さを知らないのか!!??
「危険だからヤよ!」
「!?」
僕の言葉を聞いていたのか、僕の言葉にヤヤが反応する。
「そうユ!」
「そんな危険な場所にお兄ちゃん独りだけなんて、そんなこと出来ないヨ!」
「お前ら・・・、」
本当はヤヤ達を黄の国に戻したい。けど、それ以上に、助けに来てくれたことが嬉しくて何も言えない。
「ヤヤ達だけじゃないぞ?」
「・・・まだお前に妹がいるのか?」
ヤヤ達の他に妹がいるなんて話は聞いたことなかったが、僕にも話していない妹がいるのかもしれないな。
「・・・お前は何を言っているんだ?あいつらだよ、あいつら」
ザッハの視線の先を見ると、
「やるぞ、お前ら!」
「「「おおお!!!」」」
複数の成人が武装し、魔獣共に攻撃を始めた。
(まさか、ザッハの同業者か!?)
ありえない。僕ですら死を覚悟したこの戦いに参戦するなんて、命がいくつあっても足りないし、依頼として受けるなんて馬鹿過ぎる!
「やめるんだ、お前ら!」
僕の言葉に、冒険者達はこっちを見る。
「見ての通り、ここにはカラー種が何匹もいる。だから、命がいくつあっても足りないくらい危険なんだ!だから、分かるだろう?」
「「「・・・」」」
「だからこのまま帰ってくれ。ザッハ達も、だ。ここは僕独りに任せてくれれば、僕が全部倒すから。だから・・・な?」
「「「・・・」」」
出来ればこれで帰ってほしい。
が、
「【雷、砕】!」
「!?」
ザッハは魔獣共に攻撃を仕掛ける。
「野郎共!俺に続け!!」
「「「うおおおぉぉぉ!!!」」」
僕の想いを裏切り、冒険者達は魔獣共に突っ込んでいった。
「どうして・・・?」
「みんな、守りたいものの為に戦っているんだ。お前の言葉一つで止められるわけないだろう?」
僕の疑問に応えたのはザッハだった。
「確かに俺はお前より弱いし、お前より強い冒険者はこの国にいない。けどな、守りたいという想いはアヤト、お前に勝るとも劣らないだろう」
「・・・死ぬかも、知れないんだぞ?それでも、行くのか?」
「死ぬ可能性は確かにある。が、みんな死ぬ気はゼロだ。その証拠にほら、みんなの目は死んでいない」
「・・・だな」
ここで僕は諦めることにした。
諦めるというのは、独りで戦うことだ。
(みんなと、モミジ達と戦おう)
僕は・・・独り、じゃなかったんだ。みんなと戦って、よかったんだ。そう納得出来ると、自然と楽になった。
「なら、ここは任せてもいい、かな?」
僕は申し訳なく聞く。
「もちろんだ!」
「はい!」
ザッハとモミジ、返事が力強いな。
「おう!」
「俺達に任せな!」
「あの3姉妹は、俺が死んでも守る!!」
「ばっかおまえ!俺が守るに決まっているだろう!!!???」
冒険者達の返事も頼もしい。
「それじゃあ、後は頼む」
僕はみんなの頼もしい返事を聞き、その場を後にした。
次回予告
『7-1-33(第522話) 虹無対戦~黄の国編その6~』
黄色い彩人が黄の国から去った後、モミジは黄の国で魔獣の軍勢をなんとかしようと、ザッハ達家族と冒険者達と協力し、立ち向かう。そんななか、更なる援軍がモミジ達の元に現れる。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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