7-1-30(第519話) 虹無対戦~緑の国編その5~
緑の国。
「・・・どうやらここは緑の国の首都、シンペキのようですね」
「そうなのですか?私は訪れたことないので、ここが目的地なのかどうなのか判断出来かねますが」
「いえ、間違いなくここはシンペキです。この風景、見覚えがあります」
「そうですか。それならよかったです。それと申し訳ありませんが、今の私に戦闘能力はありませんので・・・、」
「いえ、ここまで連れて来てくれただけでも感謝しています。ここからは、私の領分です」
リーフはシンペキを見る。
「まずはカーナ達に応援を頼みましょう。その後、アヤトの元へ向かいましょう」
リーフは、カーナ達がいると思われる場所へ急ぐ。
「・・・リーフ様、それは本当ですか?」
「ええ。私独りで行っても、今も戦ってくれているアヤトの足を引っ張ってしまうかもしれない。だから・・・!」
「もちろん、私達から隊を組み、その地へ行かせてもらいます。というより実は少し前から準備をしていたんですけどね」
「え?それはどういう・・・?」
リーフが質問する前に、カーナはある書類をリーフの前に置く。
「・・・見ても?」
カーナは首を縦に振る。
「・・・魔獣の増加・・・既に隊を組み始めて、出撃の準備を進めている、と」
「ええ。準備も後少しで完了しますので、出来次第行ってもらう予定、でした」
「でした?」
カーナは席を立ち、近くに置いてあった武器を手に取る。
「私も出ます。私達の恩人が命をかけて戦っているというのに、私だけここに座っている、なんて真似は出来ません」
「そう、ですか。ですが、死なないでくださいね?あなたが死んだら悲しむ人がいます」
「もちろん、死にいくつもりはありません。これから行う戦いで、誰一人死者を出すつもりはありません」
「それならよかったです。それじゃあ私は一足先に失礼します」
「私も出来るだけ急ぎます」
「それでは、戦場で」
「リーフ様、お気をつけて」
「カーナも、ね」
リーフは急ぎ足で城を出た後、
(確かアヤトのいる場所は・・・こっちね)
足に力を入れる。
「【緑色気】」
目の色を緑に変え、足を動かしていく。
森の中を走り続けてしばらく時間が経ち、
(まだアヤトの姿が見えない)
リーフの目にアヤトの姿が映らず、走る速度を上げていく。
(!?これは血の匂い!!??もしかしてこの辺りに・・・!?)
リーフは速度を落とし、周囲を注意深く見渡す。
(この匂いの濃さ・・・この近くにいる!)
リーフは匂いから、向かう方角を修正する。
「風の精霊、アヤトの居場所を、この近くにいる人を見つけて」
風の精霊にお願いしつつ、自分でもアヤトの居場所を探し続ける。
「!?」
リーフが見つけたと同時に、風の精霊がリーフに、アヤトの居場所を教える。
「ありがとう」
リーフは風の精霊に対して、小さな声で感謝の言葉を伝える。
そして、
「アヤト!!」
リーフはアヤトに大きな声をかける。
そのまま近づき、アヤトの容体を確認する。
「酷い怪我!?でももう大丈夫よ!一人で飲むことは・・・難しそうね。なら失礼して・・・、」
リーフは、回復薬を口に含み、アヤトの口を通し、体内に届かせる。
「これで大丈夫ですか?」
返事はなかったものの、傷の回復している様子が目に見えた。が、まだはっきりとした意識を感じることが出来なかった。
「・・・どうやらまだ意識が朦朧としているようですね。仕方がありません。ならそこで見ていてください」
リーフは自身の細剣を手に取り、
「これ以上、アヤト独りにだけ辛い思いはさせませんから!」
単身、魔獣の軍勢に突っ込んでいった。
「どうして、ここに・・・?」
俺は今、とても驚いている。その理由は、ここにいないはずの女性、リーフがここにいるからである。
「今、魔獣達を間引きしますからお待ちくだ、さい!【緑色気】!」
そして、魔獣共を相手に奮闘している。
「駄目だ。やめてくれ」
もう逃げてくれ。俺が独りで戦うから、だから、もういい。いいんだ。
「やめてほしいのなら止めてみなさい。止められないのなら諦めて静観していてください」
「駄目だ。その数を独りで相手にするなんて、死んじまう・・・」
本当はリーフを止めたい。止めたいのに、体が動かねぇ。
(まだやらなきゃやらないことがあるのに・・・!)
俺が本調子なら、今のリーフを止めることが出来ただろう。だが、そんな仮定の話をしたところで今の俺の状況がよくなるわけではない。
「それなら、アヤトはどうなのですか?」
「え?」
「私が戦うまで、アヤトはずっと、独りで戦い続けていたのですよ?そんなアヤトが言えたことですか!?」
リーフは俺と話しながら魔獣共を倒していく。
「私達に何も言わず、アヤト独りだけ死ぬ思いするなんて、そんな事実、許容出来ません!」
「いいじゃねぇか。俺の事は空気だと思って放っておいてくれよ・・・」
俺独りが犠牲になり、みんなが幸せに過ごせるのなら、それでいい。俺の事は空気だと、幻だと思ってくれれば・・・、
「今、自分の事をどうでもいい、死んでもいいなんてくだらないこと、考えましたね?」
いつの間にか俺は誰かに胸倉をつかまれていた。掴んでいたのはリーフだった。
「アヤトが死んで、私が喜ぶと、本気で思っているのですか!?」
リーフ、まさか本気で・・・?
「そこで見ていてください。私達がそのふざけた考えを吹っ飛ばします」
リーフは風を巻き起こし、周囲の魔獣共を吹っ飛ばす。
「さぁみんな!準備はいい!?」
「みんな・・・?」
一体誰の事を・・・?
そう考えていたら、魔獣の一匹が突如切られて倒れる。
(リーフがやったのか?)
だが、リーフがやったにしては少し位置がおかしいというか、遠くなかったか?緑魔法で風の刃を飛ばしたのか?いや、それにしたって・・・。
「やっぱりここにいたわね!」
「みんな、盾を構えつつ魔法を準備!」
なんだろう?どこかで聞いたような声が・・・。俺が振り向くと、
「さぁ、これからお掃除の時間よ!」
「魔獣一匹漏らさず倒します!」
そこには、エーガンとタンカがいた。
「間に合ってよかったです」
カーナまでいるのか!?
「ここは危険だ!早く俺独りに任せて逃げ・・・!」
「魔法部隊、魔法放て!」
俺の話を無視しているのか、タンカが他の人達に指示を出し、魔法を放つ。
「盾部隊!」
タンカの指示で、盾を持っている者達が一斉に盾を構える。その直後、魔獣共の攻撃が盾に直撃する。
「近接部隊、突撃!」
その言葉の直後、武器を持った者達が一斉に盾の後ろから飛び出し、魔獣共との戦闘を開始する。
「駄目だ、やめてくれ・・・、」
本当は、俺独りが全部片づけなくちゃいけないのに!みんなに手伝ってもらっている・・・!
「このままだと死人が出るから、だから・・・!?」
「死にませんよ?」
俺の言葉に反応したのは、緑の国の女王、カーナだった。
「死なない、だと?」
それはあり得ない。
だって相手にはカラー種が複数匹いる。ヌル一族ほどじゃないにしろ、一匹だけでも強敵なのにそれが複数匹。俺ですらその軍に死にかけたというのに、カーナは死なないと断言した。
「根拠はなんだよ?俺独りでも死にかけたんだぞ!?」
「・・・確かに、私独りだったら無理だったかもしれません。私はアヤト様ほど強くありませんから」
「なら・・・!!」
「ですが、私は独りじゃありません。この国の民、みなさんがいます」
「!?」
・・・確かにそうだ。俺独りなら難しかったことでも、これほどいれば・・・、
「いや、足りない」
まだ足りない。俺の見立てでは、もう少し手数が必要だ。今のカーナ達の他に別の戦力があれば・・・、
「なら、私達が加われば満足かしら?」
「!?」
この声、まさか・・・!?
「私達フォレードも参戦するわ!文句は聞かないから、ね!」
フォレードの一匹、ウッドピクシーが魔獣共に向けて鋭利な木の枝を飛ばす。
「ふんす!」
「森の糧となるがいい!!」
人面樹、お前達まで・・・!
「どうでしょう?これでもまだ、不安ですか?」
直感で分かる。
この場はもう、カーナ達に任せても問題ないと。
俺がこの場にいなくともなんとかなる。そう判断出来た。
(でも、本当に任せてもいいのだろうか?)
俺が心配性だからか小心者だからなのか不明だが、まだ不安が拭えない。大丈夫だと思う反面、もし何かあったら・・・そんな心配が頭をよぎってしまう。
「大丈夫!」
俺の不安を拭い去ってくれたのは、カーナだった。
「ここにはアヤト様だけじゃない!エーガンが、タンカが、フォレード達がいます!みんな、みんな大切な民で、強い味方です。だから信じてください。みんなを!」
「みんな・・・、」
確かに、今も俺を・・・いや、自分達の居場所を守る為に戦っている。その姿を見ると、先ほどまで抱いていた杞憂が薄れていく。
「それじゃあ、みんなに、任せていいかな?」
その言葉を待っていたと言わんばかりに、
「「「もちろん!!!」」」
全員がはっきりと返事する。
「なら、ここは任せる。後は頼む」
俺は頭を下げた後、この場を離れた。
次回予告
『7-1-31(第520話) 虹無対戦~緑の国編その6~』
緑色の彩人が緑の国から去った後、リーフは緑の国で魔獣の軍勢をなんとかしようと、カーナ達、フォレード達と協力し、立ち向かう。そんななか、更なる援軍がリーフ達の元に現れる。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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