7-1-29(第518話) 虹無対戦~青の国編その6~
彩人がいなくなった直後、
「それじゃあ、お兄ちゃんが行っちゃったことだし、さっさと片付けようっと」
ルリは魔獣達に向けて青魔法を放つ。放たれた青魔法によって、魔獣達は氷漬けにされる。
「ち」
ルリの青魔法を事前に察知したのか、ルリの攻撃を躱し、反撃体制をとっている魔獣達がいた。ルリはその魔獣達に対して舌打ちをする。
「僕に任せて!」
ラピスは、ルリの魔法を免れた魔獣に対し、魔法の詠唱を始めていた。
「【氷柱】!」
地面から突き出た氷の柱は、魔獣の何匹かを貫通し、血で染まる。
「・・・ルリちゃん、お願いがあるの」
「?なに、ラピスお姉ちゃん?」
ルリは魔獣の視線で追いつつ、ラピスの言葉に耳を傾ける。
「アヤト君の元へ行って、アヤト君を守ってあげてほしい」
「・・・大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。例え大丈夫じゃなくても、大丈夫」
ルリの質問の意図を、ラピスは理解していた。理解していたからこそ、自信満々に答える。
ルリの質問の意図は、ルリ自身が抜けたことによる戦況の変化である。
現在、今の戦力でなんとか魔獣達の軍勢に優勢な状態である。その状況で、主力の一角となっているルリが抜けたらどうなるか。間違いなく劣勢になるだろう。そのことをルリは危惧しているのである。
「あいつ一人に任せると、例えこの元凶を倒したとしても、あいつ自身が生きて帰ってくるとは限らない。あいつ、自分の命なんかどうでも いい、みたいな雰囲気だしていたしな」
「本当にね。あの子は強いけど、一人にすると危ないわ」
「だからルリちゃん、アヤト君の事、任せてもいいかしら?」
「こっちの事は僕達に任せてよ。僕、頑張るから!」
ラピスはカラー種のオーガの棍棒を真っ向から受け止める。が、どこか押され気味である。
「ラピスお姉ちゃん!」
「待って!」
ルリがラピスに加勢しようとしたところで、ガナッツがルリを止める。
「ど・・・!?」
ルリがガナッツに言う前、事は起きる。
「加勢するぞ!」
「ありがとう、ドナッドさん!」
ラピスにドナッドが加勢したのである。
「「【水球】!!」」
「!?」
突如、明後日の方向から【水球】がカラー種のオーガに向けて放たれる。
「ありがとう、父さん、母さん!」
ラピスは魔法を放った者、ダイモスとマリアナに感謝する。
「隙を作るか、ら!」
ドナッドは一瞬の隙をつき、カラー種のオーガの棍棒を力づくではじき、のけ反らせる。
「いけ!」
「うん!」
ラピスの突きは、オーガの体を貫く。貫かれたカラー種のオーガは倒れ、そのまま動かなくなる。
「一人で倒すことが出来なくても、俺達で力を合わせればカラー種はなんとか出来る」
「だからルリちゃんはアヤトを助けてあげてほしいの」
「お願い。アヤトと生きて会う為に」
「でも・・・、」
ルリは少し迷っていた。
本当にこのまま行っていいのかどうか。
自分が抜けたことで、この優勢な戦況が崩れないのか、その心配がルリに迷いを生じさせる。
「なら、私達がいればどうでしょうか?」
「え?」
どこからか声が聞こえてくる。その声の主は分からないが、ルリには聞き覚えがあった。
「この声・・・クロミルお姉ちゃん!?」
「いえ、私はクロミルではありません。ですが、」
ルリ達の前にいた魔獣の一部が突如切り刻まれる。
「同胞です」
「「「!!!???」」」
姿を見たルリ達は驚愕する。
なにせ、その姿は牛人族。しかも、青が混ざったカラー種が複数いるのである。ほとんど人前に姿を現さない牛人族がカラー種で人前に現れたのだから、驚かない方が無理だろう。
「私達がカラー種の相手をさせていただきます。それなら問題ありませんか?」
「ない、けど。どうしてここにいるの?」
「我が一族の中に、この戦いを予言した者がいまして。こうしてはせ参じたわけです」
牛人族は一列に並ぶ。
「まずは遠距離で魔法を放ち、敵をかく乱します。遠距離部隊、準備・・・放て!」
カラー種の牛人族から放たれたのは、氷の球。その氷の球を、オーク達魔獣は簡単に躱す。魔獣に躱された氷の球はだんだん降下し、そのまま地面と接触する。すると、氷の球を中心とした広範囲で氷の棘が発生し、魔獣達の体を貫く。
「近距離部隊、行動開始!」
そして、カラー種の牛人族が武器を持って魔獣達の軍勢に突っ込む。
「【牛閃】!」
牛術の一つ、【午閃】を発動し、魔獣を切り刻んでいく。
「すげぇ」
「これが牛人族の力。カラー種があっというまに倒されていくわね」
「私達だけではありません」
「え?」
牛人族は指を上に向ける。
ラピス達は上を向くと、そこには翼を持った生物がいた。その生物は少しずつ降下し、ルリ達の近くに着地する。
「ど、ドラゴンだと!!??」
「この数の魔獣の軍勢にドラゴンも相手にしないといけないとか・・・、」
ドナッドとガナッツが絶望している状況の中、
「・・・もしかして、助けに来てくれた、の?」
ドラゴンはラピスの質問に対し、首を縦に振る。
「我が同胞を助けてくれた恩を少しでも返す為、こうして我ら全員で各国に赴き、助力している事だろう」
「「「!!!???」」」
ドラゴンの発言にラピス達は驚きを隠せない。
「本当なの、レンカお姉ちゃん?」
「少々お待ちください・・・確かに各国でクロミル殿と同じ牛人族、ドラゴン達が加勢しているようです」
「そうなんだ」
ルリは改めて戦況を見る。
そこには、ラピスや国の兵士、冒険者だけでなく、カラー種の牛人族やドラゴンまで魔獣の掃討に尽力している。
「それよりルリ様、早く牛雄様の元へ行ってくださいませ」
「?どういうこと?」
「予言した同胞曰く、ルリ様は牛雄の近くで戦っていたそうです」
「ルリがお兄ちゃんの近くで?」
「はい。相手までは分かりませんでしたが、もし相手が牛雄一人で敵わないのだとしたらまずいかと」
・・・確かにそうかも。
「なら、ここはお姉ちゃん達に任せようかな」
「おお、そうしろ」
「うん!」
「ルリ殿、6か国にいたそれぞれのアルジンが1か所に集結したようです。なのでいつでも転移可能です」
「ありがとう、レンカお姉ちゃん」
ルリは改めてこの場にいるラピス達を見る。
「それじゃあラピスお姉ちゃん達、ここは任せたよ!」
「あ、ルリちゃん、ちょっと待って!」
「?」
ラピスはルリを呼び止め、ルリの近くによる。そして、
「・・・何、しているの?」
「・・・思いを託したの。アヤト君のこと、お願いね?」
ラピスの言葉に、
「ありがとう!確かに受け取ったよ!」
「それじゃあ終わったら、アヤト君とあわと会わせてね」
「分かった!じゃあね!」
「うん!」
「おう!」
「任されたわ!」
それぞれの返事を聞いた後、ルリはその場から消えた。
次回予告
『7-1-30(第519話) 虹無対戦~緑の国編その5~』
彩人の危機に駆けつけたリーフ。リーフは連れてきた緑の国の者達と協力し、魔獣の軍勢に立ち向かう。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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