7-1-28(第517話) 虹無対戦~青の国編その5~
青の国。
「・・・ここ、見覚えある!」
「私、青の国を見たことないので分かりませんが、ここは青の国、で合っていますか?」
「うん!」
「ならよかったです」
どうやら無事青の国に来れたみたい。
これでお兄ちゃんのところに行ける。
お兄ちゃんを、助けられる!
「早くお兄ちゃんのところへ・・・!」
「ルリ殿、お待ちください」
「ん?なに?お兄ちゃんを助けたいんだけど?」
「まずは王都に向かい、応援を呼びましょう」
「そう、だね。なら、ラピスお姉ちゃんだ!」
そう思った私は、前に行った王城の元へ走り始めた。
王城に向かった私は、
「おい、そこの者止まりなさい。用があるなら・・・、」
「邪魔」
何か色々言ってきた人がいるけど、そんな人は無視し、ラピスお姉ちゃんを探していく。
「ルリ殿、あの門番達に話をしなくてもよかったのですか?しておいた方がよろしいかと思いますよ?」
「え~?話したとしてもすぐにラピスお姉ちゃんに会えるわけじゃないでしょう?だったら直接言った方が早くない?」
「それはそうかもしれませんが・・・まぁいいです」
なんかレンカお姉ちゃんがため息をついている気がするけど気のせいだね。
「あれ?もしかして・・・ルリちゃん!?」
「ラピスお姉ちゃん、見つけた!」
私はラピスお姉ちゃんを見つけたので、ラピスお姉ちゃんの近くまで走る。
「というか、どうやって城の中に入ったの?そう簡単に警備を突破出来るとは思えないのだけど?」
「無理矢理来た!」
「無理矢理!?・・・後で衛兵達に僕の方から詫びを入れておくよ・・・」
よく分からないけど、ラピスお姉ちゃんは呆れているみたいだ。
「それでルリちゃん、いきなり来てどうしたの?何かあった?」
「そうなんだよ!実はお兄ちゃんが・・・、」
私はラピスお姉ちゃんに事情を話した。途中、レンカお姉ちゃんも手伝ってくれた。
「・・・なるほど。実は僕もその森の調査を終えたばかりなんだよ」
「それでお兄ちゃんは!?」
ルリの質問にラピスは首を横に振る。
「そんな・・・!?」
それじゃあお兄ちゃんはもう・・・。
「ルリ殿、しっかりしてください。もしかしたらラピス殿がいなくなった後、アルジンが森の奥に向かったかもしれませんよ?」
「・・・そう、だよね。うん、きっとそう!」
「ええ。まだ間に合います」
「うん!それじゃあラピスお姉ちゃん、お兄ちゃんの為に人を動かしてね!それじゃあ」
「え?あ、ちょ・・・!?」
言いたいことは言い終えたので、私は城を出た。
「待っていてね、お兄ちゃん!」
今すぐルリが助けに行くから!
「はぁ」
僕ことラピス=コンバールはため息をつく。
なにせ、いきなりルリちゃんに会ったかと思ったら、すぐにいなくなってしまったのだから。
「せめてこっちの話くらい、少しは聞いてほしかったけど、状況が状況みたいだし、仕方がないかな」
それじゃあまず、
「騒がしくなり始めた城内をなんとかしよう。話はそれからだね」
僕は城内に常駐している兵士達に問題ないことを伝えつつ、父の元へ向かう。
父の元へ到着した僕は、調査結果とルリちゃんから聞いた話を伝えた。
「・・・そうか」
「だからお父さんは出来るだけ早く兵を連れて森の奥に行ってほしい」
「お前はどうするつもりだ?」
「僕?そんなの決まっている!」
僕は先ほどから持っている槍を軽く振り、地面に柄をぶつける。
「僕は一足先にアヤト君のところへ行くよ。そして助ける!」
「そうか。兵のことなら私に任せて行ってきてくれ。私もすぐに準備を済ませ次第出発する」
「それじゃあ行ってきます」
ボクはルリちゃんの後を追うように、急いで王城を後にした。
「ルリ殿、もうそろそろですので減速し始めてください」
「いや!このまま行く!」
急いでお兄ちゃんに会いたい!私はさらに足を速く動かす。
「!?見えた!!」
無事・・・じゃないみたい。お兄ちゃんの周りには赤い血がいっぱい地面にあるし、お兄ちゃんの体も血で赤くなっている。それに、魔獣がお兄ちゃんの命を狙っている!
(お兄ちゃんが危ない!?)
「お兄ちゃん!」
私はお兄ちゃんを狙っている魔獣達を氷らせる。
「お兄ちゃん、酷い怪我・・・でも大丈夫!回復薬があるからね♪」
私はお兄ちゃんの頭から回復薬をかける。そういえば飲ませた方がよかったかも?
「さて、もっとお兄ちゃんの状態を診たいんだけど・・・邪魔な魔獣を片付けないと。氷れ」
魔獣達が今も私達に向かっているからね。今お兄ちゃんを治療している大事な時だからね。邪魔しないでほしいかな。
「まだいるけど、これで少しは時間を稼ぐことが出来るね」
これで少しはお兄ちゃんとお話が出来る!
「お兄ちゃん、お待たせ!」
私はお兄ちゃんに抱き着く。
「ルリ・・・」
「!?」
私はお兄ちゃんの行動に驚いた。
何せ、お兄ちゃんは私を押しのけ、無理矢理独りで立ったからだ。
「ルリ、ありがとう。もう十分だ」
俺はルリの抱擁行為から離れ、独りで立ち上がる。さきほどかけられた回復薬のおかげか、さっきよりずいぶん楽だ。
「お兄ちゃん?」
「この戦いは、俺が独りで終わらせなければならない戦いなんだ。だからルリに手伝ってもらうわけにはいかない」
この戦いの発端はおそらく、俺がこの世界に来たことで起きた戦いだろう。だから、俺が独りで終わらせる。今も各国にいる俺が戦いを終わらせようと奮闘しているんだ。青の国にいる俺だけがルリに頼るなんて真似は出来ない。しちゃいけないんだ。
・・・最も、植物達に手伝ってもらった時点でどうかと思う自分もいるけど。
「そんなの知らない知らない!ルリは、お兄ちゃんと一緒にいたい!」
ルリが俺の背中に抱き着く。
「駄目だ。この先、俺より強い相手と戦い、死ぬかもしれない戦いをするんだ。そんな戦いにルリを巻き込みたくないんだ。そんな兄の我が儘を許してくれ」
「・・・嫌だ」
「え?」
「ルリはもう嫌なの!お兄ちゃんを失いたくない!死んでほしくない!ずっと、ずっと一緒に生きていてほしいの!」
「ルリ・・・」
俺はルリの本心を聞くことが出来て嬉しくなり、力が僅かに戻る。
「ありがとうな、ルリ。その言葉だけで十分・・・、」
「だから・・・、」
「!?」
瞬間、周囲の空気が凍てついたと思ったら、大きな氷が複数出現した。その氷の中にかなりの数の魔獣共が絶命していた。
「何が何でもお兄ちゃんを守るし、助ける!その為に、ここに来たんだから!」
「!!??」
巨大な氷の柱が何本も出現し、その氷の柱の先には魔獣が突き刺さっていた。
「それに、ルリ独りで来たわけじゃないよ?」
「え?」
独りで来たわけじゃない、だと?
俺がルリの発言に驚いていたら、後ろの気配に気づくのに遅れてしまう。
「!?」
気づいた時には、気配の正体であるゴブリンがすぐそこまで迫っていた。
(やば!?)
さっきまで気を抜いていた自分に後悔しても遅い。俺は自身の死を悟ったのだが、その悟りは無駄に終わる。
「どうやらアヤト君は無事みたいだね」
「!?」
俺はどこか聞き覚えのある声に、ある人物の名前を発する。
「この声、ラピスか!?」
「うん。久しぶりだね、アヤト君」
俺が青の国で出会った性転換者、ラピスだった。
「お前までこんな死地に足を運ぶなんて・・・正気か?」
「これでも僕は王族だからね。国にとって脅威となる魔獣の軍勢は放っておけないよ。それに、自ら死地に赴き、ボロボロになっている誰かさんにだけは言われたくはないかな」
「・・・」
俺はラピスの言葉に何も言い返すことが出来ない。
「まったく。こんなボロボロになってまで、この国の為に戦うなんて、本当に馬鹿、大馬鹿だよ」
そう言いながらラピスは俺に瓶を渡してきた。
「それを飲んで。アヤト君にとって気休め程度かもしれないけど、体力が回復するから」
「・・・悪いな」
俺はラピスからもらった回復薬を飲む。飲んだことで体力が回復する。
「それじゃあこれからは僕達の出番だね」
「だけど、ルリがいくら強いからって、ルリとラピスの2人じゃこの魔獣の軍勢を・・・!?」
瞬間、別の気配に気づき、俺は周囲を見渡す。そうしたら俺の読み通り、周囲にはゴブリンやオーク等の魔獣共がいた。
(さて、体力も回復したことだし、また【青色気】を・・・!?)
俺が【青色気】を発動しようとしたら、発動する前に魔獣共が倒れてしまった。
「あれ?」
俺、何もしていないぞ?なにもしていないのにどうして・・・?そう考えながら倒れた魔獣共の体を見る。その体には大きな切り傷がついていた。
(この傷、ルリがやったのか?いや、ルリは刃物を持っていないからラピスか?)
・・・いや、二人と魔獣共の位置関係からしてありえないな。となると一体誰が・・・?
「待たせてしまい申し訳ない」
「でも私達が来たからにはもう大丈夫ですわ!あなた達も行くわよ!」
「「「おう!!!」」」
そう言いながら、複数の男女が姿を現した。
「お前達は・・・!?」
俺の記憶に間違いなければ、青の国の王族じゃないか!!??
「どうしてここに・・・!?」
しかも、こいつらの後ろから、鎧を身に纏った者達や、様々な防具を身に纏った者達もいる。
(服装からして、国の兵士と冒険者か?)
どうしてこんな時間に、こんなところに!?
「みんな、自分達の居場所を守りてぇんだよ」
「お、お前は・・・!?」
・・・だ、誰だっけ?確かドから始まる食べ物の名前に似ている気がするな。確か~~~・・・あ!
「ドドリア、お前だったのか!?」
「誰がドドリアだ!!??俺はドナッドだ!!」
どうやら俺は名前を間違えてしまったらしい。
「・・・俺達はこの国を、というより、自分達の居場所を守る為に来たんだ。だからお前を助けに来たわけじゃないからな?勘違いするなよ!」
「こういう時くらい素直になったら?アヤトを助ける為に来たって」
「!?べ、別にそんなことまったく思ってねぇから!嘘じゃねぇから!!」
ドドリア・・・じゃなかった。ドナッドはそう言いつつ魔獣共の群れに突っ込んでいく。
「まったく。素直じゃないわね」
そう言い、先ほどからドナッドと会話している女性はこちらを向く。
「ここにいる冒険者達みんながみんな同じ理由じゃないけど、あなたの為に動いている冒険者は少なくないわ。かくいう私もその冒険者の一人よ」
どうして俺の為にここまでしているんだ?俺、こいつらに何かしたか?何もしていないのに命をかけるなんて、それこそ馬鹿のすることだろう。
「・・・大人でもない冒険者がたった一人で魔獣の軍勢に立ち向かっていると聞かされたら、大人の冒険者達が何もしないわけにはいかないわ」
「別にそんなこと気にしなくていいのに・・・」
というか、誰が冒険者達に知らせたんだ?
(ルリか?それとも・・・?)
俺はラピスを見る。ラピスは何も言わないが、背中を見てなんとなく察してしまった。
(そうか。ラピスが・・・)
だとしたら余計なお節介だ。
「死ぬのが、怖くないのか?」
「そりゃあ怖いさ。でも、死なない」
「どうして!?」
俺はドナッドの言葉に対し、逆切れに近い声量で質問する。
「俺にはガナッツがいるから、死ぬわけにはいかないんだ、よ!ガナッツ!!」
「分かった、わ!」
ドナッドは、カラー種のゴブリンの剣を思いっきり殴り、のけ反らせる。その隙にガナッツが青魔法で凍らせる。
「今の隙に・・・はぁ!」
ドナッドは氷を壊す。
(いい連携だ)
ドナッドが魔獣の注意を引き、ガナッツが氷漬けにし、ドナッドがとどめを刺す。
「どう?私達もやるでしょう?」
「・・・ああ」
まさか冒険者二人でから一匹だけとはいえ、カラー種を倒すことが出来るなんて。
「僕だ・・・て!【青色装】!!」
ラピスは【青色装】を発動し、カラー種のゴブリンの攻撃を真っ向から受け止める。
「この国出身でもないアヤト君が独りでこの国を守ろう、だなんてどれだけかっこつけるつもりなのさ!僕だってこの国を守りたいし、アヤト君を死なせたくないんだ!!みんなお願い!!!」
「「「おう!!!」」」
ラピスが魔獣の注意を引き付けている隙に、兵士達が様々な方向から魔法による攻撃をし、魔獣を倒す。
「でも、僕一人じゃ出来ないから、こうしてみんなに来てもらい、協力してもらっているんだ」
ラピスは俺の方に顔を向ける。
「だから、ここは僕達に任せてもらえないかな?」
「お前、この魔獣の軍勢を差し向けた元凶、知っているんだろう?そいつと戦う為に力は残しておけ」
「そうね。ここは私達に任せてくれないかしら?」
「・・・」
なんだろう。
最初は、俺独りで全て片付けるべきだと、そう思っていた。
けど、今の俺は違う。
流石にヌル一族との戦いを任せることは出来ないが、ここの魔獣共はラピス達に任せても問題ない。そう感じることが出来た。
それに、
(今の俺で後どれくらい戦うことが出来るだろうか?)
魔力も体力もほとんど残っておらず、体はボロボロ。そんな俺が冒険者達と協力して魔獣共と戦闘なんて出来るのか不安になる。
「・・・任せて、いいのだろうか?」
口に出すつもりはなかったのだが、つい口から言葉が出てしまった。
「うん!」
「ああ!任せておけ!!」
「行ってきなさい」
思わず俺の口からこぼれてしまった本音に対し、ラピス、ドナッド、ガナッツの3人は律儀に返事してくれた。
(頼もしいな)
三人の返事に思わず顔がにやけてしまうと同時に勝利を確信した。
「それじゃあ、後は任せたぞ」
俺の言葉に対し、
「うん!」
「おう!」
「任せなさい」
とても頼もしい三人の返事を聞いた後、
(それじゃあ、本体の俺のところへ行こう)
俺はみんなの勇姿を見ながら消えた。
次回予告
『7-1-29(第518話) 虹無対戦~青の国編その6~』
青い彩人が青の国から去った後、ルリは青の国で魔獣の軍勢をなんとかしようと、ラピス達王族と冒険者達と協力し、立ち向かう。そんななか、更なる援軍がルリ達の元に現れる。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
感想、評価、ブックマーク等、よろしくお願いいたします。




