7-1-26(第515話) 虹無対戦~赤の国編その5~
赤の国。
「・・・転移出来ました」
「・・・本当にできている出来ているみたいですね。レンカちゃん、ありがとうございます」
「いえいえ。それよりまずは戦力を確保しませんと。当てはあるのですか?」
「はい。お父様を頼ろうかと思います。それが駄目なら最悪独りでも行くつもりです」
「クリム殿のお父様、協力してくれるといいですね」
「ええ。それでは急いで行きましょう」
「はい」
クリムはレンカを連れ、赤の国の王城に向けて急いで向かう。
赤の国の王城。
その城内に入ったクリムはそのまま自身の父、スレッド=ヴァーミリオンの元へ直行する。
「お父様!」
クリムは自身の父を見つけることが出来、声を上げる。
「おお!!クリムじゃないか!?急に来てどうしたのだ?いや、私個人としてはとても嬉しいのだが生憎今は忙しくてだな・・・、」
「少しでいいのです!少しだけ、私に時間をもらえませんか!?」
クリムの必死な説得に、
「・・・分かった」
スレッドは、クリムの話を聞く時間を作る。
「・・・なるほど」
スレッドはクリムから話を聞き、事情を理解する。
「なので、この国からも戦力を割いてほしいんです!」
「・・・」
スレッドは黙る。
そして、ある決断をする。
「・・・今、兵士の一部を編成し、派遣している。私も返事が来次第、魔獣討伐に向かうところだ」
「それじゃあ・・・!?」
「ああ。私も行くぞ。なにがなんでもな!」
「本当、この国の王だという自覚、ないですよね・・・、」
宰相の気苦労なんて王族二人は出かける準備を
「それじゃあお父様、後から来てください。私は先に行きますので!」
「あ、おい!」
クリムは、スレッドが止めているにも関わらず走り出す。
「・・・本当、国王様に似ましたね」
「まったく。アヤトがどこで戦っているのか、戦況はどうなのかとか、色々話すべきことがあるだろうに」
スレッドはため息をつく。
「失礼します!」
全身鎧に包まれた兵士の一人が入室する。
「どうした?」
「はい!森の奥の方で何者かが大量の魔獣と戦闘していますので、ご報告に参りました!」
「「!!??」」
スレッドと宰相は互いの顔を見つめる。
「この首都は任せる。国王命令だ」
「はっ。国王様、どうかご無事で」
宰相はスレッドの変化に対応し、頭を下げる。
「いつも迷惑をかけてすまないな」
「そう思うのであれば、今回の戦いが終わったらやり残した公務、やってくださいね?」
「ああ。生きて帰ってきたらな」
そう言い、スレッド=ヴァーミリオンは部屋を出る。
「さて、私にも出来ることをしましょう。まずそこのあなた、森の奥とは具体的にはどこか教えていただきますか?場所が分かり次第、事前に編成した部隊を向かわせますので」
「は、はい!」
赤の国にある森にて、ある少女が物凄い速さで走っていた。
「クリム殿、そんなに急いでしまうと体力が持ちませんよ?」
「構わないわ!一刻も早くアヤトの元へ行かないと!」
(本当、アルジンはこんなにも想われて幸せですね)
クリムの必死な顔を見て、レンカは彩人の人望の良さをしみじみと感じる。
「見えた!」
クリムの視界にある者が映る。その者は、今も生きていることが奇跡だと思うくらいの傷を負っていた。
「アヤト!」
クリムは彩人に寄り添い、回復薬を飲ませる。
「それではアヤト、少しだけ待っていてください」
クリムは魔獣達と相対する。
「私も守りたいのです。アヤトが私を守ってくれたように!」
クリムの目が赤くなる。【赤色気】が発動した時の特徴である。
「【炎拳】!」
クリムの拳がカラー種の魔獣に直撃する。
「さぁかかってきなさい!あなた達がアヤトを傷つけた分、私がしっかり返してあげるわ!」
クリムの拳の火が、更に燃えあがった。
「カラー種の数がおお、い!」
クリムは拳を炎で燃やしつつ、拳で魔獣を殴る。
クリムの周囲には絶命したカラー種が数十匹もいるが、クリムの前にはまだカラー種の魔獣が十匹以上いる。
「普通の魔獣の相手もしつつ、カラー種も倒す・・・アヤトはこんな厳しい戦いをずっとしていたのですね」
クリムは魔獣達の攻撃を拳でいなしつつ、彩人の凄さに感心する。
「!?」
魔獣の攻撃がクリムの腕を掠る。掠ったことに気づくものの、クリムはその傷を一切気にすることなく魔獣達を絶命させる。
「私達の邪魔を、するなあぁ!」
クリムは拳と共に自身の思いを込める。
「私はこの後、アヤトといっぱい戦いたいの!アヤトと一緒に過ごすと決めたの!!その為に、今ここで死ぬわけには、いかない!!!」
クリムは自身の拳で地面を殴る。すると拳の炎が地面に移り、彩人を巻き込まないよう、クリムを中心に広がる。
「【炎海】!」
「「「!!!???」」」
クリムの周囲にいた魔獣達が炎に呑みこまれ始める。炎に耐性がある魔獣は【炎海】の中動き始めるも、さきほどより動きが鈍くなっている。
「今の内に!【炎拳】!!」
クリムの【炎拳】がカラー種の魔獣達に直撃する。
「たく、これだけ倒してもまだカラー種がいるなんて・・・、」
愚痴をこぼしている様子に反応してか、魔獣達はニヤニヤと気持ち悪い笑みをクリムに向ける。
「!アヤト、見ていてください。これが、今のアヤトにはない、私達の強さです!!」
クリムがそう宣言した瞬間、クリムの後ろから何者かが出現し、ゴブリンを瞬殺する。
「待ったか?」
その男性の言葉に、
「遅過ぎますよ、お父様!」
クリムは自身の父、スレッド=ヴァーミリオンに返答する。
「悪いな。今までよく持ちこたえてくれた。後は私達に任せなさい」
「私達?」
瞬間、クリムの後ろから複数の魔法が飛び交い、魔獣達に直撃する。
「近接部隊、攻撃始め!」
誰かの号令により、クリムの後ろから複数人が武器を持って魔獣達に突撃し、応戦し始める。
「まったく、うちの国王様はどうして好戦的なのでしょうか?おかげでいつもヒヤヒヤしてしまいます」
「・・・どうしてここにいる?城で待っておくように言ったはずだが?」
「ええ、言われました。ですが無視してやりましたよ」
「無視、だと?」
「ええ。死に場所くらい、私が自由に決めても構わないでしょう?それに調べたところ、ここ以外で脅威になりえる魔獣の出現は確認出来ませんでした。要するに、」
「この魔獣の群れをなんとかすれば、この国の脅威はなくなる、というわけか」
「ええ。流石は国王様です。聡明です」
「・・・もしかしなくても馬鹿にしているな?いいぞ、喧嘩なら喜んで買うぞ?」
「買う機会があれば、ですけどね」
宰相は魔獣の群れを見る。
その魔獣はゴブリン、オーク、スケルトン等さま様々で、数えきれないほどいた。
「幸い、町の最終防衛線は確保していますので、最悪ここを抜けられても少しは耐えられます。ですが・・・、」
「分かっている!いいか皆の者!!」
ここで国王、スレッド=ヴァーミリオンは宣言する。
「誰一人、死ぬんじゃないぞ!死んだら私が許さん!王命である!」
「「「おお!!!」」」
「ま、まじか・・・、」
俺は今、とても驚いている。
何せ、いきなりクリムが現れたと思ったら、クリムの父や冒険者、兵士達がわんさか現れたのだ。
これ、一体どういう状況だ?
「みんな、アヤトの為に駆けつけてくれたんですよ?」
「な、なんだと・・・?」
そんなわけにはいかない!
これは、この戦いは俺の、俺だけの戦いなんだ!他の人を巻き込むわけには、いかない!
俺はクリムと魔獣の間に立つ。
「やめてくれ。この戦いは俺の戦いだ。みんながわざわざ戦う必要なんて、怪我する必要なんてないんだ」
「俺の戦いだからやめてくれ?本気で言っているのですか?もしかして、自分がこの世界の人じゃないからそう言っているのですか?」
「!!??」
クリムの奴、俺が地球から来たことを知っているのか!?一体どうやって・・・あ。
(モミジとレンカがばらしたのか)
既にばれてしまったからな。まぁそれはいい。いいが、
「ああ。それにセントミアさんは俺に挑んできたんだ。なら俺独りで・・・、」
「どうして私達を頼らないのですか!?」
「!?」
クリムは俺の肩を掴み、まっすぐ俺を見る。
「私達だと力不足だからですか?私がアヤトより弱いからですか?それとも・・・、」
クリムは少しためてから、次の言葉を発する。
「私達が死ぬのが、嫌ですか?」
「!?」
どうやら俺の心は筒抜けらしい。
「さっきの助力は助かった。もう十分だから後は俺に任せて・・・、」
「いい加減にしてください!」
「!?」
く、クリムさん?ちょっと肩が痛いのですが?
「確かに私独りですと、ヌル一族に勝つことは出来ないと思います」
「・・・そうだな」
俺独りでヌル一族のセントミアさんに勝てるビジョンが全く見えないのだから、俺より弱いクリムが挑んだところで敗北確定だろう。
「ですが、カラー種なら相手出来ます。それに、私は今のアヤトになくて、今の私にはある大きな強みがあります!」
「大きな強み?」
強みってなんだ?
身体能力?
魔力量?
それとも別の何かか?
(・・・もしかして・・・?)
俺はある可能性にたどり着く。だが、その可能性は口にしなかった。口にしたら、認めたことになると感じてしまったから。
今の俺に必要なもの。それは・・・、
「それは、仲間です!」
ああ。やっぱりそうか。
「今、私とアヤトが話出来ているのは、今も魔獣達と戦っているお父様や冒険者方々のおかげです。あの方々がいるから、私はこうして、アヤトと話が出来ています」
「・・・そう、だな」
俺はクリムの言葉に何一つ反論出来なかった。
だって、クリムの言う通りなのだから。
「私達一人一人はアヤトほど強くはありません。ですが、目の前の魔獣くらい、私達に任せてもらえませんか?アヤトにはまだ、やるべきことがあるのでしょう?」
俺の、やるべきこと・・・。
「この元凶を、セントミアさんを止める」
俺の言葉にクリムが頷く。
「アヤトは先に行ってください。私はお父様達と共にこの魔獣の群れをなんとかします。だから気にせず行ってください」
「だが・・・、」
魔獣の数が未だかなりいるし、カラー種だっている。クリムが【赤色気】を使ったとしても長丁場になるだろう。
「大丈夫!この世界の人達を、私を信じて!」
クリムは魔獣達に向けて、火を矢の形に変形させて放つ。放たれた火の矢は複数の魔獣を貫通し、絶命させる。
「・・・本当にいいのか?死ぬかもしれないんだぞ?」
「死にませんよ。だって私、私達は信じていますから。アヤトがなんとかしてくれるって!その為の協力は惜しまないわ!だから!!」
「すまん!そちらに魔獣がいった!」
俺とクリムの会話中に何者かが割って入ってきた。会話の内容からしてかなりまずそうだ。
俺が戦闘準備に入ろうとした時、クリムの目が赤く光り、クリムの手が炎に包まれる。
「アヤトは一人じゃない!私達がいる!!」
「!!!???」
・・・そうか。
俺は、独り、じゃないんだな。
そう考えた瞬間、俺の体、気持ちが軽くなる。
「なら、ここは任せる。いいか?」
「!?はい!!ここはお任せください!!!」
「・・・ありがとう。このお礼はいつか必ず・・・、」
「ええ。ちゃんと生きて私に、私達に返してくださいね♪」
「ああ。それじゃあここは任せる!」
それじゃあ俺は消えて、元の俺のところへ行くとしよう。
(今もこうして俺が生きているから死んではいないはずだが、出来るだけ急がないと)
元の俺は、セントミアさんのところへ向かっているはず。ただでさえ、全色魔法を使っても負ける可能性の方が高いのに、七分の一に分身しているのだ。圧倒的に戦力不足である。
(せめて死ぬ直前、とかはやめてくれよ)
「はい!」
それじゃあ元の俺のところに戻ろう。
俺はそう念じると、自分の体、意識が別の場所に移動し始めることに気づく。
「絶対、誰一人死ぬなよ」
「もちろん!」
俺はクリムのこの力強い言葉を聞き、安心して消えた。
次回予告
『7-1-27(第516話) 虹無対戦~赤の国編その6~』
赤い彩人が赤の国から去った後、クリムは赤の国で魔獣の軍勢をなんとかしようと、自身の父や兵達と協力し、立ち向かう。そんななか、更なる援軍がクリム達の元に現れる。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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