7-1-6(第495話) 虹無対戦~魔の国編その1~
魔の国。
その国内にある城の一室には、複数の女性が集められていた。
「うぅ。ごめんなさい。ごめんなさい、アヤトさん・・・、」
その中の一人、モミジは起きた時からずっと泣いていた。
起きた時、モミジは懸命に彩人を捜し、近辺にいないことが分かると、大粒の涙を流し始め、他の女性の声が一切聞こえていない状態なのである。
「それでレンカ様、説明、してくださいますか?」
明らかなモミジの異常な様子について、クロミルは説明を求める。
「そうだよそうだよ!なんでモミジお姉ちゃんがこんな泣いているの!?それに、なんだか近くにお兄ちゃんの気配がないし!」
「「「・・・」」」
クロミルだけではない。不満を言葉にしたルリや、視線で不満を表しているイブ達もまた、レンカからの説明を求めていた。
そして、説明を求められているレンカはというと、
「・・・」
待っていた。
モミジが冷静になり、説明出来る状態になるまで。
だがその時間を待つより、今説明した方がいいと判断し、説明することにした。
「実は・・・、」
レンカは一通り説明した。
・数日前、彩人がある夢を見て、その夢の中にヌル一族、セントミア・ヌルが出てきたこと
・その夢の中の話によると、セントミア・ヌルが魔の国を含む6か国に大量の魔獣をけしかけようとっ話したこと
・彩人、モミジ、レンカの三人は、その話が本当かどうか調べてみたところ、大量の魔獣をけしかける為の魔道具があったこと
・魔道具の存在を確かめる為、魔の国だけでなく、他の5か国も同様に調査した結果、魔獣の軍勢を容易に生み出す様な魔道具を発見したこと
・彩人は独りで、魔獣の軍勢とヌル一族を止めようと動き出したこと
・独りで戦わせない為、モミジとレンカが協力して彩人を止めようとしたが、アヤトの【六色気】に勝てず、止められなかったこと
・今、彩人が単独行動出来るのは、彩人専用魔道具、モミジンによるものであること
・彩人からみんなに渡したいものがあること
一通り説明した後、レンカは全員に贈り物を渡す。
「「「・・・」」」
そして全員、黙っていた。
「ごめんなさい。私が弱いばかりにアヤトさんを、大切な人を止められませんでした。本当にごめんなさい・・・」
モミジの負の感情が大きくなり、空気が重くなる。
そして、誰も言葉を発することが出来なくなってしまう。
下手に言葉を交わせるほど、事態は軽くないからである。
そんな重苦しい空気の中、
「・・・いやだ」
最初に言葉を発したのは、ルリだった。
「ルリちゃん?」
「そんなのいやだ!いやだよ!!」
事実を拒否するように言葉をあげる。
「こんなの、見たくない!」
ルリは拒絶の意思の強さが、手紙を食べるという奇行に及ばせてしまう。
「「「!!!???」」」
「ルリ様!?」
クロミルがすぐに止めようとするが、一足遅かった。
ルリは手紙を全て飲み込み終えた後だった。
「ねぇ?お兄ちゃんはどこ?クロミルお姉ちゃん、知っている?」
ルリはクロミルに質問するが、返事は帰ってこなかった。
「そっか、知らないのか。ならクリムお姉ちゃんは?」
ルリは順々に聞いていく。
「ルリ殿、アルジンは・・・、」
レンカはルリに進言しようとすると、
「いや!聞きたくない!聞きたくない!!聞きたくないの!!!」
ルリはたまらず耳を塞ぐ。
「ルリ様・・・、」
クロミルはルリを抱擁する。
「お兄ちゃん・・・、」
ルリはモミジのように泣き始めてしまう。
「助けようよ!」
クリムはみんなに同意を求めるように話す。
「…どうやって?」
「どうやってって・・・そこはほら、アヤトが・・・!?」
ここでクリムは自身の失言に気づき、慌てて口を塞ぐ。
「…アヤトなら独りで6か国同時に行く、なんて芸当が出来るかもしれない。けど、私には出来ないし、この場にいる全員、出来ないと思う」
「それは・・・、」
クリムはイブの指摘に口を閉ざしてしまう。
「本当にごめんなさい。あの時私がアヤトさんを倒すことが出来たら、止めることが出来たら、ここまでみなさんを困らせることなかったのに。本当、本当に・・・、」
「大丈夫。モミジちゃんは何も悪くない。悪くないから」
「ですね。それに私の力が及ばなかったことにも原因がありますから」
リーフとレンカはモミジを慰める。
「こんな形で、このようなものをもらいたくはありませんでしたね」
「「「???」」」
突如話だしたリーフの言葉の意味が分からず、全員が疑問符を浮かべる。
「これです」
リーフは自身に贈られた指輪をみんなに見せる。その指輪のサイズは、ちょうど左手の薬指に入るサイズだった。
「だから、みんなでアヤトの元に行き、怒ってやりましょう。女心を舐めるなと」
「・・・でも、私達じゃあヌル一族に勝つなんて・・・、」
「ええ、無理でしょうね。私独りなら」
リーフは独り、という言葉を強調する。
「だからみんなで行きましょう!アヤトを助けましょう!」
「・・・無策で行くつもり?それなら何も考えずに馬鹿な事を言うクリムと同じ」
「ちょ!?」
イブの鋭い指摘にクリムはツッコもうとするが、
「確かに私達じゃあヌル一族には勝てません。なら簡単です。独りで戦わなければいい」
「・・・!?なるほど、そういうこと」
「ええ。これならヌル一族にも勝てるかもしれません」
「?どういうこと?」
「アヤト独りで勝てなくても、この場にいる私達全員で挑めば勝機があるかもしれない、ということですよ」
「「「!!!???」」」
全員の目に一筋の光が見える。
「それに、ヌル一族じゃなくても、魔獣の相手なら私達でも出来るはずです」
「・・・それで、どうやってアヤトの元へ行くつもり?」
「あ!?そ、そうです!アヤトは今、6か国それぞれにいるって聞きました。魔の国ならまだいいですが、他の国にはどうやって行くつもりなのですか?牛車を引いて向かうとなると時間がかかり過ぎて間に合わないんじゃ・・・?」
「ええ。だから、知っている者に聞きます。ね、レンカちゃん?」
「・・・」
「レンカちゃんなら、アヤトがどうやって6か国に行ったのか。その方法と手段、使う事は出来ないかもしれませんが、どのように行ったのかはご存知のはずです」
「・・・なるほど。レンカに手段を聞き、私達全員で行く」
「ええ。それで私達がアヤトに加勢し、魔獣やヌル一族と戦う。これなら行けると思います」
「駄目です」
リーフの提案に賛成の流れが出来始めていたのだが、いつの間にか泣き止んでいたモミジはその流れを断ち切る。
「アヤトさんが向かったのは、この国を含めた6か国です。6か国全部行くとなると、全員で一か国ずつ回るより、別々の国に行った方が得策だと思います。そうなると、」
「それぞれ独りだから、結局アヤトと同じなんじゃないか。そうモミジちゃんは言いたいのよね?」
モミジはリーフの言葉を聞いたからか、しっかりと返事をする。
「大丈夫。今のアヤトにはなくて、今の私達にある強さを発揮出来ればいい」
「?強さ、ですか?」
「ええ。独りで敵わないのなら、独りじゃなく、複数で挑めばいい」
「・・・なるほど。他の冒険者達に応援を要請する。そういうこと?」
「ええ。すぐに動いてくれないかもしれませんので、そこはもどかしいですが、それでも、独りで戦うよりずっといいはずです」
「・・・それならいけるかも」
「いけるかも、ではなく、いかなくちゃ、です」
「・・・確かに」
「なんかよく分からないけど、お兄ちゃん、助かるの?」
「私達が頑張れば、ですけど。ルリちゃんはどうします?このままこの国で舞っていますか?それとも、」
リーフの言葉にルリは激しく首を横に振る。
「ううん!助ける!お兄ちゃんは絶対にルリが助ける!!」
その言葉に、
「もちろん!」
「・・・ん!」
「ええ!」
「はっ!」
「アヤトさん、今度は絶対、助けてみせます!」
「・・・アルジンを助ける前に一つ、みな様にお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「?どうしたの?」
ここでレンカは、改めて全員を見る。
既に覚悟を決めたような目をしている者達。
だが、既に覚悟を決めていたとしても、聞かずにはいられなかった。
「もしかしたら、何もせずとも、事態が収拾するかもしれません。また、アルジンの元に行ったら、死ぬかもしれません。それでもみな様は行かれるのですか?」
「「「・・・」」」
このレンカの言葉に答えたのは、
「もちろんだよ!お兄ちゃんが助けてくれたように、今度はルリが助ける!」
ルリだった。
「このクロミル、今まで何度もたすけてくださったこの命、次はこの命で必ずご主人様を助けてみせます。もう、後悔なんてしたくありません」
クロミルは、自身が持っている大剣を一度掲げてからしまう。
「私、まだまだアヤトと一緒にいたい。そして、毎日クタクタになるまでアヤトと模擬戦をして汗を流していたい。だから私は行く。行かなかったらこの先ずっと、アヤトと模擬戦が出来なくなるかもしれないなら」
クリムは自身の拳を見つめる。
「ここで何もしなかったら、アヤトと一生会えなくなるかもしれません。このまま生きて一生会えなくなるくらいなら、一緒にいながら死ぬことを選ぶわ」
リーフは自身の胸に手を当てる。
「・・・これ以上、アヤトだけに負担を強いらせない。共に生きて、これからも一緒に食卓を囲む」
イブはレンカに自身の意思を真っすぐに伝える。
「・・・そう、ですか」
レンカは一通り見る。
「モミジ殿はどうです?」
レンカの一言で、全員の視線がモミジに集中する。
「私は、私、は・・・、」
モミジは自身の胸に手を当て、目を閉ざす。
「独りで苦しんでいるアヤトさんを放っておくことなんて出来ません!もう二度と、アヤトさんを独りにさせません!」
「そうですか・・・、」
「「「!!!???」」」
みんな、レンカの変化に驚きを隠せな。
何せ、レンカの目から涙が出ているのだから。
「アルジンは幸せ者ですね。これほど想ってくれる方々がいるのですから。それなのにアルジンは・・・、」
「大丈夫」
リーフはレンカを抱き寄せる。
「辛かったら、いつでも私達に頼ってくれていいのよ?共に協力して、アヤトを助けに行きましょう、ね?」
「はい」
レンカは再度、全員を見る。
「ではこれから、私は転移用の魔道具を作ります。その魔道具で各国に飛んでもらいます」
「・・・ん」
「ではみなさん、私がアルジンに会うまでの道を示します。だからどうか、アルジンに手を貸してください!」
レンカは出来る限り頭を下げる。
「必ず、助けましょう」
リーフはレンカの肩に手を置く。
「「「みんなで!!!」」」
そして、全員でレンカに声をかける。
「ええ。ええ・・・、」
そして、リーフ達は決意する。
例え彩人より弱くても、絶対に助けると。
次回予告
『7-1-7(第496話) 虹無対戦~赤の国編その2~』
赤の国の深夜。
彩人は無数の魔獣の軍勢を見つけ、奇襲を仕掛ける。
ここから、彩人の孤独で熱い戦いが始まる。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
感想、評価、ブックマーク等、よろしくお願いいたします。




