7-1-1(第490話) 虹無対戦~赤の国編その1~
赤の国。
赤の国では、ある国王が今も自身の研鑽に励んでいた。
「1108,1109,1110・・・、」
「国王様、いいかげん国務をしてくださいよ・・・、」
大切な仕事を放棄しながら、必死に自身を鍛え続ける。
「それなら問題ない。ほら今、俺は上腕二頭筋を鍛えながら魔獣の調査結果を見ているだろう?」
「調査報告書を見ているだけで仕事している感をださないでください」
宰相は国王の発言に呆れ、頭を抱える。
「・・・」
「?どうかされたのですか?」
「ここ最近、例年より魔獣の討伐数が減っているらしいじゃないか」
「近辺にいる魔獣の数が減っている事ではないですかね。いいことだと思うのですが・・・!?」
ここで宰相はある可能性に気づく。
「まさか国王様は、魔獣が軍を率いてこの首都に襲撃すると、そうお考えなのですか!?」
「いや、最近私は魔獣と戦闘していないなと思っていてな。せっかくだから、この機会にしっかりと戦い、戦闘の勘を取り戻そうかと」
「・・・私、本当にこの国の未来が心配になってきますよ・・・はぁ」
「おい、ため息をつくんじゃない。ため息をつくと幸せが逃げると言うじゃないか」
「ため息の一つや二つ、つきたくなりますよ。自分を鍛える事しか考えていない国王に仕える宰相の気苦労なんて知らないでしょうからね」
「自分を鍛える事しか考えていない国王か。そんな国王、本当にいるのか?」
「鏡で自分の顔を見ればいいと思います」
そんなやりとりを一通りした後、
「・・・魔獣が別の場所に向かっている?これはなんだ?」
国王は、魔獣の調査報告書で気になった個所について質問する。
「どこですか・・・・ああ、ここですね。少々お待ちください・・・」
宰相は別の報告書を探し、目線で文字を追っていく。
「この書類によりますと、魔獣が別の方向に移動しているらしいです」
「別の方向?それってどこだ?」
「この書類によりますと・・・途中で見失ったらしいです」
「見失った?それは単に、調査した者がミスをしたのか?それとも、魔獣が尾行に気づき、冒険者達を撒いたのか?」
「おそらく後者かと」
「その報告、今までどのくらいあった?」
「え~っと・・・結構ありますね。ただ、この首都からかなり遠いところで見失ったとのことで問題なしと判断したらしいです」
「そうか・・・」
国王は考え始める。
「何を考えているのですか?どうせ、魔獣を倒したいとか考えているのではないですか?」
「・・・間違ってはいないが、その言い方は少し傷つくぞ?」
「すみません。いつも国王様は自身を鍛える事、戦闘する事しか考えていない脳筋と思っていましたので」
「その言い方、ひどくないか?」
国王は小さなため息を軽くつく。
「その見失った魔獣が今後、この国の脅威になるかもしれん。何せ、冒険者達を撒くくらいだからな。私が直接出向き、様子を見ておこうと思う。脅威となるなら、その魔獣を討伐してこよう。その間の公務は任せてもいいかね?」
「それは問題ありませんが・・・まさか国王様、はなから私に丸投げするために公務を溜めていたのでは・・・?」
宰相は自身の推測を国王に述べる。
「・・・さて、私は魔獣討伐の準備でもしてこようかね。それでは、後は任せたぞ」
「あ、ちょ・・・!!??」
国王は自身の部屋を後にする。
「あの愚王め!」
そう宰相が言った後、さきほど閉まった扉が開く。
「・・・聞こえているからな?」
国王が宰相に言ったのだが、
「おっとすみません。ついうっかり本音が漏れてしまいました」
「悪びれもなくよくも本人の目の前で言えるものだね」
「国王様に仕えていると、そういう気遣いが無意味だと分かりましたので」
「・・・君とは後でよく話をする必要がありそうだな。それでは」
国王は再び扉を閉める。
「・・・」
宰相は、さきほど見ていた書類をもう一度見直す。
(冒険者を撒くほどの魔獣、ですか。報告書によると、何人もの冒険者が追跡途中で魔獣を見失ったとありますね。果たして、国王様が一人で相手出来る魔獣なのしょうか?)
宰相の心配は誰にも聞かれなかった。
次回予告
『7-1-2(第491話) 虹無対戦~青の国編その1~』
彩人が魔獣の軍勢と戦う前、青の国にいる国王、ダイモス=コンバールと女王、マリアナ=コンバールはラピスと共に魔獣の大移動についててある心配をする。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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