1-2-23(第49話) メイド達への恐怖。そして、ヒュドラとの昔話。
「ま、この食堂でいいや。毛布でも出して…」
「「「寝させませんよ!アヤト様!!!」」」
あ。そういえばメイドさん達のお礼の件、忘れていたな。明日でもいいだろ。
「明日でいいですよね?それではお休み…」
なさい、と言おうとしたところで、俺の毛布がメイド達に取られる。
「「「ケーキ、一緒に作りましょう?」」」
ひぃっ!?怖っ!怖いよこのメイド達!
そういえば、ケーキ作りを手伝ってもらったのは、主にデコレーションだ。スポンジ作りはほとんど俺がやっていたから、無理なのだろう。
でも、俺は今かなり疲れているから、やっぱり明日にしてもらおう。
「やっぱりあs…」
「「「つ・く・り・ま・しょう?」」」
メイド達が増えていて、俺を囲むように立ち、見下ろしていた。そして、いつの間にか近くにいた老執事が俺の体を起こし、荷物を運ぶかのように、俺を調理室へ輸送していた。
なんなのこのデジャブ?もうこの流れ嫌なんだけど…。
そして、調理室には、ケーキで使った材料と全く同じ物がある。だが、その量はさっき使った時より何倍もある。
「「「「「ケーキ、一緒に作りましょう?」」」」」
さっきからずっと聞いているこのフレーズ。最早、この人達はこれしか言えないのではと錯覚してしまうほどだ。
結局俺が折れ、この城に仕えているであろう執事やメイド達にケーキを作ることになった。それはもう地獄だった。調理室は甘い匂いで充満し、作っても作ってもメイド達が「ケーキ、ケーキ」とねだってくるのだ。その目は獲物を捕まえようとする捕食者のようだ。
やっと作り終え、メイド達がスキップしながら自室に戻り始める。俺もやっと解放されたと思い、調理室を出る。ふと、近くの窓を覗いてみると、朝日が昇り始めていた。
「うそん」
俺はどうやら、一晩中、ケーキを作っていたらしい。
「おぉアヤトか!今日は早起きだな!」
「アヤトさん。今日の朝食も頼みましたわよ」
「…アヤト、おはよ」
三人が起きてきた。誰か俺に睡眠する時間を下さい。
そうせつに願いながら、朝食を作るため、また調理室に入っていった。
朝食を食べ終え、俺はまた赤の国に向かった。
そして、赤の国の城の前に、少女が仁王立ちで待っていた。
「さてとお兄ちゃん。昨日どこに行っていたのか、話してくれるよね?」
やべ。そういや俺が魔の国に行くってこと、伝えるのを忘れていたよ。
さて、どうしようか。
………よし!この手でいこう。
「実はヒュドラにとても大事な話があるんだ!一緒にあの丘まで来てくれないか?」
「……言いたいことは山ほどあるけど、わかったよ、お兄ちゃん」
とりあえず、ごまかすことにしました。
お互い無言で丘までの道のりを歩き、丘に着く。
この丘にはほとんど人が来ないことで有名な場所だ。事前にクリム王女から教えてもらっていたのだ。
丘に生えている木の下に俺が座ると、ヒュドラもその近くに座る。
「「………」」
無言の時間が続く。この時間自体は嫌いではないのだが、この空気は嫌いだ。それでも俺から話を振らなければ。
「話って何?」
ヒュドラから聞いてきたものの、どうやら怒っているらしく、聞き方に棘がある。
「話ってのは、あの黒い一つ目巨人のことだよ」
「あの化け物のこと?」
「そうだ」
「あの化け物は確か………、そうだ!昔、会ったことがあるよ」
「なに?そんなに一つ目巨人は長生きなのか?」
「違うよ。確かあいつは、誰かの眷属だったと思う」
どうやらあの黒い一つ目巨人はただの一つ目巨人じゃないらしい。




