6-2-17(第487話) 最悪な戦いに備えて~VSモミジ&レンカその2~
「アヤトさん、これから骨の1本2本は覚悟してくださいね?」
「何を言って・・・!?」
俺が言い終える前に、モミジが俺の目の前に現れていた。
一瞬、瞬間移動したのかと思ったのだが、モミジはそんな魔法を使わない。
だとするなら、モミジは高速で俺の目の前に移動した、と考えるべきだろう。
(なんて速度だよ!?)
さっきのモミジと同一人物とは思えないほどの変貌ぶりだ。
(負けるわけにはいか、ない!)
俺はなんとかモミジの速度について行こうとした。
「これは互角・・・いや、モミジ殿の方が上手ですね」
「はぁ!」
「!?」
レンカの言う通りだった。
今の俺だと、モミジの速さに追いつけず、モミジの攻撃を受けてしまう。
「これで終わりです」
「くそ!」
俺はやけくそ気味に剣を振ってしまう。
その剣の振りで隙が出来てしまい、その隙を見逃してくれるほど、今のモミジは甘くなかった。
「!?やば!!??」
「もう遅いです」
いつの間にか手にしている細長いもので突き刺されてしまう。
「ぐ!?」
俺は痛みのあまり、突き刺された個所に手を置き、白魔法をかける。
「その痛い針みたいものはなんだ?」
「これですか?これも植物の一種で、針のように細長く、剣のような見た目をしていることから、針剣樹、なんて呼ばれているらしいですよ?」
「へ、へぇ・・・、」
地球でいう針葉樹、みたいなものか。
というより、まさか遠距離攻撃を主体としているモミジが近距離武器を持って攻撃してくるとは思わなかったな。
「ちなみにこの針剣樹には毒がありますので、早めの治療をオススメします」
「!?」
ま、まじかよ!?
俺は急いでさきほど貫かれた個所に白魔法をかけ直す。
(今度は傷だけでなく、病気も治すイメージでかけよう)
「レンカさん、力を貸してくれますか?」
「もちろん構いません。それで私は何をすればよろしいのでしょう?」
「魔力を、想いを託してくれませんか?」
「分かりました。それではモミジ殿に、私の今の魔力と想い、託させてもらいます」
レンカはモミジの背に手を当てる。
「・・・何をやろうとしているのか知らないが、好き勝手させるわけないだろう?」
俺は【毒霧】をモミジとレンカ周辺に発動させるが、
「モミジ殿の邪魔はさせませんよ」
「な!?」
レンカの奴、自身の魔力で壁を作り、【毒霧】を防いだのか!?まったく、レンカも粋なことをしてくれるものだ。
レンカの邪魔のせいで、モミジに時間を作ってしまった。
「・・・レンカさん、ありがとうございました。もう大丈夫です」
「分かりました。それで、アルジンを止める事は出来ますか?」
レンカの言葉に、モミジはただこう答える。
「止めてみせます。何が何でも」
そしてモミジは空中に飛ぶ。
「モミジ、何をする気だ?」
俺はモミジに質問するが、
「・・・」
無視されてしまった。
まぁ、いつも素直に答えてくれるとは限らないってことか。
「ヤヤちゃん、ユユちゃん、ヨヨちゃん。今だけ、今だけでいいですから、大切な人を助ける為の力をお貸しください」
なんだ?モミジの周辺に【三樹爪撃】が展開されていないか?俺の気のせいか?
「この魔法は、私独りでは放つことが出来ません。ヤヤちゃん、ユユちゃん、ヨヨちゃん、そしてレンカさんみんなの協力があってこその魔法です」
「・・・」
まさか、あの魔法は・・・!?
「この魔法は、今のアヤトさんには勝つことが出来ない、私達の想い、体に刻んでください!」
(モミジ殿、どうか私の今の想いも、アルジンに届けてください)
レンカが見守る中、モミジは、自身が放てる最大の魔法を放つ。
「【三樹爪無限撃】!!!」
モミジの【三樹爪無限撃】が俺に襲い掛かる。
(こりゃあ、今の俺じゃあ敵わないな)
俺がそう考えた直後、俺に【三樹爪無限撃】が直撃する。
「アヤトさんに、届けえええぇぇぇ!!!」
モミジは、彩人が見えない状況でも【三樹爪無限撃】を放ち続ける。
そして、モミジの魔力が尽きたのか、【三樹爪無限撃】が収まる。土煙は未だ晴れず、周囲に漂い続けている。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
魔力が尽きたからか、呼吸するのに肩を上下させるくらい疲弊していた。
「レンカさん、アヤトさんがどこにいるか分かりますか?」
モミジは肩で息をしながらレンカに質問する。
「おそらくあの土煙の中にいると思いますが、正確な位置までは・・・、」
「そう、ですか・・・」
モミジは再び土煙を見る。
(見たところ、立っている人影は無さそうですね。ということは・・・、)
「植物さん、あの土煙の中に倒れている人がいるかどうかの確認、お願い出来ますか?」
植物はモミジのお願いを了承したのか、自身の体を器用に上下させ、土の中に潜る。
そして、土に潜った植物はすぐにモミジの目の前に現れ、結果をモミジに報告する。
「・・・え?あ、ありがとうね」
「どうしました?」
「あの土煙の中に倒れている人はいないそうです。その代わり、立っている人がいる、とのことでした」
「立っている人・・・まさか!?」
「考えたくないです。あの魔法を使って、平然と立っていられるなんて」
土煙が少しずつ晴れると、次第に人影が現れ、少しずつ濃くなっていく。
「あの強力な魔法をまともに受けて立っていられるとは思えないのですが・・・、」
「嘘でしょ、あの人影って・・・!?」
「まったく。本当にモミジは凄いな」
「「!!??」」
突如聞こえてきたモミジでもレンカでもない第三者の声に、モミジとレンカは驚く。
「本当はここまでするつもりはなかったんだ。けど、仕方がないよな?」
どんどん土煙が晴れ、影に黒以外の色が差し込んでいく。
「あの魔法はそれほど強力だった。だから俺も諦めたんだ」
人影はモミジとレンカに近づき始める。
「さて、モミジはとうに限界を超えているはずだから、一瞬で終わらせるとするよ」
「!?そ、そんなこと出来るはずありません!だってわた・・・!?」
モミジが最後まで言葉を言いきることは無かった。
「!?あ、アルジン!?いつの間にモミジ殿の懐に!!??」
なにせ、彩人がモミジの言葉を一瞬で黙らせたのだから。
「悪いな」
「あ、アヤトさん。駄目、です」
「大丈夫。お前が起きる頃には全て終わっているから。俺が全て終わらすから。だから今はゆっくり休んでくれ」
俺がモミジに休むよう声をかけるも、まだ意識があるのか、話しかけてくる。
俺、モミジの意識を奪うつもりで攻撃したんだけどな。やはり【色気】を使っているからか、防御力も上がっていたのだろう。
「駄目。独りはもう、嫌なの・・・」
「お前はもう独りじゃない。お前にはリーフ達がいるんだ」
「違い、ます。アヤトさんが独りに・・・、」
そして、モミジの意識はここで途切れる。
「・・・まさかクロミルやルリだけでなく、モミジまで【色気】を使うなんてな」
俺はモミジに白魔法をかけた後、【毒霧】で深い眠りになるようにする。
「それでレンカ、これで俺に魔道具を渡してくれるよな?」
俺は確認の為、レンカに質問する。
「・・・私だってモミジ殿同様、今のアルジンを止めたいです。ですが、今の私には、今のアルジンを止めるだけの力はありません」
レンカはどこからか、魔道具を自身の手に持つ。
「最後にもう一度確認します。これから独りで、行くんですね?」
「ああ」
「・・・私はアルジンの魔道具です。どうか、どうか、どうか!」
俺はレンカの言葉を最後まで聞かず、レンカの肩に手を乗せる。
「大丈夫。絶対に帰ってきて、お前達の前に顔を見せるよ」
俺は出来るだけ笑ってレンカを見る。
「アルジン・・・、」
レンカは悲しそうな目で、俺に魔道具を渡してくれた。
「ありがとう。そして辛くさせて悪いな」
「そう言うなら、独りで行こうとしないでください」
「それは無理な相談だな」
「・・・本当、困ったアルジンです」
レンカは、俺に魔道具を渡し終えると、俺に背を向ける。
「・・・早く、行ってください。私の気が変わらないうちに」
「・・・ああ。行ってくる」
俺はレンカの顔を見ずに、そのまま出発したのだった。
「・・・あ~あ。行ってしまいました」
レンカは、意識を失っているモミジを見ながら深いため息をつく。
「本当なら、私がモミジ殿の代わりにアルジンを止めるべきでしたのに、出来ませんでした」
モミジを自身の膝に乗せ、頭を優しく撫でる。
「アルジン、帰り際にモミジ殿をよろしくとか、本当に自分勝手で、たまに優しいです。出来れば今回は、その優しさを自分にも向けて欲しかったです」
レンカはモミジの全身を観察し、怪我がないか確認する。
「どうやら怪我している個所は無さそうですね。流石はアルジンです」
怪我の有無を確認した後、モミジを背負い、この場から離れようと行動し始める。
「さて、これからどうしましょうかね。魔王城に戻るにしても、アルジンの件をどう伝えましょう?いえ、そもそも伝えるべきなのでしょうか?」
レンカはこの後どのように行動すればいいのか考える。
「まったく。アルジンは私をよく困らせます。本当に困ったお方です」
レンカは独り、小言をこぼしながら歩みを進めていく。
その歩みは今までのどの歩み寄り重く、遅くなっていた。
次回予告
『6-2-18(第488話) 最悪な戦いに備えて~彩人出発~』
【色気】を発動させたモミジとレンカに勝利した彩人は、レンカからモミジンという魔道具を受け取り、魔獣の軍勢とヌル一族との戦いに向けて出発する。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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