6-2-10(第480話) 最悪な戦いに備えて~齟齬の正体~
今いる魔の国外から目的地までそれなりに時間がかかった。
(行くのに時間がかかりそうだと思い、事前にレンカへ報告するよう提案してくれたモミジに感謝だな)
もしかしたら帰りが遅くなるかもしれないからな。何も言わずに外泊とかしたらイブ達に怒られるだろう。誰も怒られたくないからな。
そして俺達は今どうしているのかというと、
「ここから気配を消し、慎重に行くぞ」
「はい」
潜入捜査をするように行動していた。理由は、まだ見ぬ魔獣に気づかれない為である。
(さて、俺の【魔力感知】に引っかからなかった理由を突き止めないとな)
今後も【魔力感知】を使い、相手の戦力を把握するつもりだからな。その【魔力感知】でも見つけられない相手となると、また別の魔法を考える必要があるからな。もしくは魔道具を使って対応するとか?
(まずはここで【魔力感知】を使い、魔力反応を確かめてみるか)
【魔力感知】発動。
・・・。
(やっぱ4,5個、だよなぁ)
俺の【魔力感知】に反抗期でもきたのだろうか?視力を強化して、実際に魔獣の種類と数を把握しておこう。
(・・・かなり魔獣がいるな。少なくとも十匹以上は確実にいる。モミジが言っていた通り、三十匹近くいるかもな)
魔獣の種類は・・・主にゴブリンだな。ゴブリンの中に杖、剣、槍等の武器を持っているゴブリンが結構いるな。王冠っぽいものを被っているゴブリンもいるな。
(ということは、ここはゴブリンの群れ、ということになる)
そして、ゴブリンが俺の【魔力感知】に引っかからないよう何かした、ということになる。
(一体何をしたんだ?)
・・・駄目だ。俺には分からん。
「モミジ、おそらくゴブリン達が何かをし、俺の【魔力感知】に引っかからないよう小細工をしたと思うんだが、何をしたか分かるか?」
俺には分からないので、モミジに聞いてみた。もしかしたらモミジなら何か分かるかもしれないからな。
「えーと・・・アヤトさんに何をしたのかは分かりませんが、あのゴブリンさん、何をしているのでしょう?」
モミジはあるゴブリンを指差す。
「何って、普通に笛を吹いているんじゃないか?」
村の中で笛を吹くくらい、別におかしなことはないのではないか?
(ん?)
あの笛を吹いているゴブリンもそうだが、あの笛から魔力を感じないか?てっきりゴブリンから発している魔力かと思ったが、そうではなさそうだ。
(てことは、あの笛は魔道具で、あのゴブリンが使っているという事か!?)
「モミジは、あの笛と笛を使っているゴブリンが怪しい。そう言いたいんだな?」
「多分、ですけど」
「ありがとう、モミジ。お手柄だ」
俺は最初、村の中で笛を吹いている光景があまりにも自然に見えていたからなにも疑問を抱かなかったのだが、モミジはそこに疑惑を抱いてくれた。その指摘、本当にありがたい。
(だが、あの魔道具とゴブリンをどうする?)
本当なら今すぐにも壊したいのだが、壊したことでなにか俺達に不利益なことが起きるのではないだろうか?
例えばそうだな・・・周囲を巻き込んで大爆発とか、周囲一帯を水没させるとか。
(だからといって放置も出来ない)
あの魔道具の効果が分かれば・・・て、
(こういう時こそあのメガネの出番じゃないか!?)
俺は咄嗟に鑑定効果のあるメガネを装着し、ゴブリンが持っている笛を調べ始める。
(・・・あの笛、自身と周囲の気配、魔力を隠蔽するような付与が施されているみたいだ。それとこの付与は・・・!?)
「アヤトさん」
「ん?どうした?」
俺は今、ゴブリンが持っている笛の鑑定で忙しいのだが?
「周囲の魔獣さん達がこちらに向かって来ています!」
「・・・おそらくだが、あのゴブリンが笛を吹いている影響だろうな」
「?どういうことですか?」
「あの笛を鑑定したら、あの笛は周囲の気配や魔力を隠蔽する効果と、もう一つ効果があるんだ」
「その効果が、魔獣を呼び寄せる効果、ということですか?」
「・・・ああ」
魔獣を呼び寄せ、呼び寄せた魔獣の気配や魔力を隠蔽する。
(俺達の知らぬ間に魔獣部隊の完成、ということかよ)
本当、厄介な魔道具を使ってくるな。
(周囲の魔獣も討伐したいところだが、最優先事項はあのゴブリンだ)
あの笛は間違いなく脅威だ。だから、
(速やかに排除する!)
「モミジ、俺が囮になって大暴れする。その隙にあの魔道具とゴブリンをお願いしたい。いけるか?」
「!?や、やります!」
「頼む、それじゃあ、」
俺は息を吸い、走り始める。
そしてモミジとある程度距離をとったところで、
「いくぞ!戦闘開始だ!」
ゴブリン達の視線を集中させる。
さぁ、ゴブリン狩りの時間だ!
結果、俺達の勝利だった。ゴブリン達を討伐してから、誰にも気づかれないよう【毒霧】をゴブリンの集落に充満させて討伐した方が確実だったのでは?なんて考えもしたが、倒せたのだから良いと考え、これ以上深く考えないようにした。
(それでモミジの方は大丈夫だろうか?)
モミジの方を向くと、
「これ、どうしましょう?壊していいのでしょうか?」
モミジもゴブリンの討伐は終えていたみたいだ。
ただ、笛の魔道具の扱いに困っていそうだ。
(本当は壊したいところだが、持ち帰ってレンカに解析でもしてもらおう)
後々のことを考えると、壊さずに持ち帰った方が有益だろう。解析すれば、この笛の魔道具の効果を解析出来、対策を練ることが出来るのだから。
「壊しておくのはやめておこう」
「分かりました。それでこれ、どうします?」
「俺が持っておくよ」
アイテムブレスレットの中に入れておきたいが、こんなよく分からない物を相手ブレスレットに入れたくないので、この笛の魔道具を【結界】を大量に展開し、持ち歩くとしよう。
「周辺の魔獣がここに集まってきていないか?」
俺は【魔力感知】を発動し、周辺の状況を把握する。
「そうみたいですね。植物さん達も、ここから離れた方がいいと言っています」
「急ごう」
「はい」
俺達は自分の【魔力感知】と植物達の助言を信じ、ここから離れる事にした。
少し時間が経ち、無事に俺達は魔の国に到着した。
到着した俺達はそのまま魔王城に向かい、レンカがいる部屋まで直行した。
「レンカ!」
「!?て、アルジンですか。急に大声をあげないでください。驚いて手元が狂ってしまうじゃないですか」
「そ、それは悪かった。て、今はそんな説教は後だ。とにかくこれを見てくれ」
俺は【結界】を多重に展開している笛の魔道具をレンカの前に置く。
「かなり厳重にしていますね。えと・・・アルジン、この魔道具はどこで手に入れたのですか?まさかそこら辺に落ちていた、とか言いませんよね?」
「ゴブリンが持っていたんだ。だよな、モミジ?」
「はい。笛を吹いていました」
「この笛を、ということですよね・・・」
レンカは笛の魔道具を見ながら話していく。
「?レンカ、どうした?」
「・・・もう一度確認するようで申し訳ありませんが、この魔道具は、ゴブリンが持っていて、吹いていた、ということでいいんですよね?」
「あ、ああ」
「そうですか・・・」
「?」
レンカの奴、一体どうしたんだ?何かを考えているようだが、一体何を考えている?
「この魔道具を解析するに、この笛の魔道具を吹くことで魔獣を近くに呼び寄せ、近くにいる魔獣の魔力や気配を隠蔽することが出来ます」
「そうらしいな。そのおかげで俺の【魔力感知】でも反応が無かったよ」
でも待てよ?【魔力感知】でまったく反応がないわけじゃなかったな。。あの4,5個の魔力反応は一体何だったんだ?感じたところ、あそこにいるゴブリンの反応だと思っていたのだが、もしかして違ったのか?もしくは、あの魔道具で気配や魔力を隠蔽するのに制限人数が設けられていたのだろうか?
「この魔道具を使えば、容易に魔獣の軍勢を人知れず生産することが出来そうです。ただ、それだけではありません」
「?というと?」
それだけではない、ということはどういう意味だ?この魔道具には別の効果があるのか?
「これは私の推測ですが、この魔道具はおそらく・・・デベロッパー・ヌルが作られたものかと」
「「!!??」」
デベロッパー・ヌルだと!!??ということはまさかこの件は・・・!?
「つまり、あのヌル一族が関わっているかもしれない、ということか?」
「あくまで私の推測ですが、これほどの魔道具を作るとなると、かなり腕のいい職人じゃないと作ることが出来ません」
「そうなのか」
レンカが言うならそうなのだろう。
(おそらく、この魔道具を使って魔獣の軍勢を作り、この国を襲撃させようと企てていたのだろう)
となると、あの夢の中でセントミアさんが言っていたことは本当、ということになる。
(他の5か国も同様の魔道具を使われている可能性があるな)
これは早急に他の国にも行き、確認する必要があるな。
「レンカ、魔道具の方は完成したか?」
「ひとまず、赤の国に転移出来るようにはしましたが、赤の国のどこに転移するかはまだ調整する必要がありまして・・・、」
「そうか」
つまり、まだ赤の国に行く準備が出来ない、という認識でいいか。
「なら俺達はこれから他の国に行って確認してくる」
「・・・大丈夫ですか?」
「?どういうことだ?」
別段、おかしなことは何も言っていないはず。
転移という移動手段があるのだから、移動に関してはほとんど苦労しないし、相手もゴブリン。無理な事はあまりない・・・と思いたい。
「いえ、問題なければそれでいいです。モミジ殿、アルジンはどこか問題ありませんでしたか?」
「特に問題なかったと思います」
「モミジ殿も元気そうですし、それならよかったです」
レンカが俺に笑顔を見せる。
(リーフの時も思ったが、やっぱ笑顔はいいものだな)
笑顔を視たら、俺の頑張りが認められたようで嬉しくなる。嬉しくなって、もっと頑張ろうという気持ちになる。
「それじゃあ、行ってくる。モミジ、行けるか?」
「もちろんです!それではレンカさん、行ってきます」
「もう少し休んでから行ってもいいと思うのですが・・・。いってらっしゃいませ」
レンカの言葉を最後に、俺とモミジは再び部屋を出る。
そして、魔の国の外に出てからこう思った。
(転移するんだったら、別に部屋から移動してもよかったんじゃない?)
と。
・・・もしかして俺、無駄な移動をしていたのでは?
・・・いや俺は敢えて、そう敢えて!あの部屋で転移をせずにここまで来た。理由は・・・そう!突然転移してレンカの前に現れると、レンカが驚くからな。だから俺は人目のつかないところで転移しようと、魔の国の外まで来たのだ!
(そういうことにしておこう、うん)
俺はこれ以上考えないことにした。
(さて、俺のマヌケ物語はこれくらいにしよう)
今は笛の魔道具だ。
(もし魔の国だけでなく、他の五か国付近にも同じような笛の魔道具があったら・・・、)
俺は最悪の事態を考え始める。
(大量な魔獣による、六か国一斉襲撃。ないといいな)
俺は、自身が考えた最悪の事態について、起きなければいいなと期待しながら、
「それじゃあモミジ、まずは青の国に転移するぞ」
「は、はい!」
転移をするのだった。
次回予告
『6-2-11(第481話) 最悪な戦いに備えて~六か国巡り~』
彩人とモミジは、魔獣に異変がないか確かめる為、宝珠を使用し、各国に転移する。
そして確認した結果、彩人が最も望まない結果となってしまった。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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