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色を司りし者  作者: 彩 豊
第ニ章 魔の国での日常、将来に鉄黒が差し込む夢
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6-2-4(第474話) ホットケーキ祭り~本選~

 本線は、予選を通過した10人のみが出場出来、予選以上に白熱した戦いが予想される。

 その証拠に、本選に出場しているの目がとても真剣で本気だ。

(片時も食材から目を離さないな)

 食材の微々たる変化も見逃さないくらい集中しているな。ものすごい集中力で、周辺の観客達は、料理している人達の邪魔にならないよう、音を出来るだけ出さず、固唾をのんで見守っている。

「…完成」

 一番早く完成させたのはイブだった。

 それを筆頭に、ほとんどの者達がホットケーキを完成させていく。

(後1人で全員完成だな)

 その1人とはモミジである。

(見た限り、モミジの手際が悪い、というわけじゃないんだよな)

 他の人と比べて、作業が丁寧・・・いや、時間をかけている、と表現すべきなのか?

(それに、作業の合間合間に目を瞑っているのはなにか意味があるのか?)

 俺の気にし過ぎなのだろうか?

 普段ホットケーキを作る時、眠りながら作っている俺が言えたセリフじゃないことを承知で言うが、あまり食材から目を離すのはよくないと思うぞ?まぁ、モミジが食材から目を離し、調理でミスをしてしまう、なんて事態は起きないと思うけど。

「・・・出来ました」

「全員のホットケーキが完成しました!それではこれから審査してもらいます!」

 審査員の方は、

「みなの者、よくぞ作ってくれた。公平な審査を約束しよう」

「私も、ですわ」

 魔王夫妻だ。

(そういえば、夫妻は2人なのだから、2人で審査するんだよな?審査って本当に、公平に行われるのか?)

 身内ひいきとかしないのだろうか?もちろん、さっきの言葉を信じないわけではないのだが、他の人は身内ひいきの可能性を考えていないのだろうか?

(・・・見たところ、身内ひいきを疑っているような視線はなさそうだ)

 じゃあ安心かな。ひとまずこのまま様子見だな。

「それでは魔王夫妻様、審査の方、よろしくお願いいたします」

「うむ」

「分かったわ」

 こうして魔王夫妻は、10人が作ったそれぞれのホットケーキを少しずつ食べていく。

(食事の所作が綺麗だな)

 流石は王族、といったところだな。食事マナーも所作も誰かから学んだのだろう。俺には食事マナーなんてものは分からない。

 魔王夫妻は、それぞれが作ったホットケーキを試食し終え、フォークとナイフを置き、口元をナフキンで拭く。

「それでは魔王ご夫妻様方、審査の結果を!」

「うむ。まずはこのホットケーキを作ってくれた全員に感謝の意を」

「ありがとうございます、ですわ」

 魔王ご夫妻は、今回ホットケーキを作った10人に頭を下げる。

「それで、審査の結果なのだが・・・、」

 魔王は少し言い辛そうにしている。男がモジモジしている姿なんてあまり見たくないのだが、一体どうしたのだろうか?

「私から一つ、案があるのだがよろしいかね?」

「は、はい!なんでしょう?」

「うむ。まず、本選に参戦している10人全員が、それぞれ作ったもらったホットケーキを食す。そして、自分が作ったホットケーキの次にホットケーキを指名してほしい。そして、最も使命があったホットケーキを作った者が、この祭りの優勝者、ということにするのはどうだろうか?」

「も、もちろんです!魔王様のご提案により、急遽、審査方向が変更になりました!」

(審査方法を勝手に変更していいのか?)

 司会の人が承認したから別にいいのか。それに、リーフ達も、観客達も異を唱える人はいなさそうだ。

「それでは、ホットケーキを作ってくださった選手のみなさま、それぞれ試食と審査の方、お願い致します」

「「「はい」」」

 こうして、本選に出場している10人によるホットケーキの試食、味の審査が始まった。

(みんな、考え込んでいるな)

 それだけホットケーキの味が拮抗しているのだろうか。俺もどのような味なのか、一口食べてみたくなったな。

「「「・・・」」」

 全員、黙々とホットケーキを食べている。味を比較するのに集中しているからだろう。

「・・・あの、決まりましたか?」

 司会の人が、10人に質問する。

 流石になにか答えないとまずいのではなかろうか?

「・・・決めた」

 最初に決めたと宣言したのは、イブだった。

 その後、続々と決めた宣言をしていく。

(そうか)

 これはあくまで俺の推測だが、イブが率先して発言することで、周囲の人達が発言しやすい雰囲気を作っていたのだろう。流石は王女。周囲の人達に気を遣う事が出来るのは流石だな。

「それではみなさん、自分が作ったホットケーキを除き、最も美味しいホットケーキを指差してください!」

 この司会の言葉を皮切りに、イブ達はホットケーキを指差す。

「え?」

 すると、あるホットケーキに9つの指先が集結した。そして、9つの指が差されたホットケーキを作った料理人は、

(そうか。おめでとう)

「9人が一斉に、モミジさんが作ったホットケーキを指差しました」

 モミジだった。

 つまりだ。

「よって、この祭りの優勝者は、モミジさんに決定いたしましたー!!!」

 この司会者の言葉に、会場にいる観客達のボルテージは急上昇していく。

「モミジさん、今の気持ちを一言」

「え?えっと・・・、」

 ま、いきなり優勝です、なんて言われても反応に困るか。俺なら・・・今のモミジと同じくらい動揺するだろうな。

「私のホットケーキが美味しいと言ってくれて嬉しいです。今後もより美味しいホットケーキを作ることが出来るよう精進します」

 このモミジの言葉に、ますます観客のボルテージは上がっていく。

(モミジ、一応言っておくが、他の人達はモミジのホットケーキを指差しただけだから、言ったわけではないぞ?)

 俺は心の中で重箱の隅をつつくような指摘をする。

「それでは今回の祭りの優勝者の特典として、魔王様からお言葉があるようです」

 ここで魔王が壇上に上がり、司会者からアイコンタクトをおくる。

「モミジ君、今回の優勝、誠におめでとう。ささやかながら、君のお願いを叶えられる範囲で叶えようと思うのだが、何か私にお願いしてみたいことでもあるかな?」

 なに!?この祭りで優勝したら、魔王がなんでもお願いを聞いてくれたのか!?だったら俺も参加して、魔王に無理難題を言って困らせることが出来たのに!!

 ・・・こういう考えだから、俺って友達が出来なかったのかもしれないな。はぁ。

「私のお願い、ですか?」

「うむ」

「え~っと・・・、」

 モミジはオロオロしている。やはりモミジは、こういった目立つ場所を苦手としているのだろう。いつも以上に慌てている気がする。

「私のお願いは・・・、」

 ここで俺は、モミジと視線が合った。別に俺から視線を合わせるつもりはなかったのだが、何故か合ってしまった。

「私の大切な人達が笑顔でい続けることです。そして、魔王様も私の大切な人達の一人です。ですから、もしお願いをするとしたら、」

 モミジは魔王を見る。

「今までもみなさんに数えきれないほどの笑顔を見せてきたと思いますが、これからもみなさんに笑顔を見せてあげてください」

「「「・・・」」」

 なんだろう?周囲の人達、急に黙ってないか?

(モミジがそれほどおかしなことを言っていないと思うけどな)

 モミジらしい考えで、とても素敵で優しいお願いだとは思うが、何故黙る?

「・・・えと、あの・・・変、でしたか?であれば別に私のお願いなんて・・・、」

「いや、とても素敵で、とても優しいお願いだ。だから、叶えてみせるよ。モミジ君のお願いであると同時に、私もこの国の者達には笑顔でい続けて欲しいからな。私の笑顔でそれが叶うなら、思う存分笑ってみせよう」

 魔王はモミジの手をとる。

 その直後、

「「「うおおおぉぉぉx―――!!!」」」

「!?」

 周囲の歓声のあがりように俺はビビってしまう。

「最高だぜー!」

「俺の嫁になってくれ、モミジちゃーん!」

「愛しているわ!」

 続々とモミジを称賛する声があげられる。モミジは、自身に勝算の声が集まっていると分かると、次第に恥ずかしくなったのかモミジの顔が赤く染まっていく。

(さしずめ、秋の紅葉かな?)

 紅葉狩りしたい気分だ。

「それではこの後のホットケーキ祭りをお楽しみくださいませ!」

 さて、祭りはまだまだ終わりじゃない!

(モミジの方は・・・リーフ達に任せるか)

 近くにいたリーフ達がモミジの近くに寄ってなにか話しているな。おそらく、優勝したことに関する賞賛の言葉でも贈っているのだろう。

(いつの間にかルリは俺の近くから離れて、モミジの近くにいるし)

 まったく。いつの間に移動したのやら。

「よろしいのですか?」

「?なにがだ?」

 急に話しかけてきたレンカに対して、俺は冷静に返答する。

「冗談を。モミジ殿に何か言うべきことがあるのではないですか?」

「言うべきこと、ねぇ・・・、」

 俺は少し離れたところからモミジを見る。

「モミジお姉ちゃん、すごーい!」

「流石はモミジ様です」

「…後でモミジが作ったホットケーキ、食べさせて欲しい。もちろん、私が作ったホットケーキも試食してみるといい」

「私も味見してみたいですね。もちろん、さきほど私が作ったホットケーキも食べていいですよ」

「本当にモミジちゃんは凄いよ。私なんか予選落ちだから・・・、」

「えと、その、あの、う~~~・・・、」

 そこには、モミジの成果を喜ぶ者と、恥ずかしがっている者がいた。

「十分だ。もうみんなが言ってくれたからな」

 だから俺からは何も言わなくていい。いいんだ。

「そうですか。アルジンから直接言えば、モミジ殿は絶対喜ぶと思いますけど、それでも、ですか?」

「それなら、今じゃない別の時に言うさ」

 いつになるかは分からないけどな。

「・・・本当にそれでいいのですか?後悔、するかもしれませんよ?」

「かもな。けど、本当にいいんだ」

 なんか俺、意地になっていないか?意地になっているような気がするけど、これでいい、と思うようにしよう。

「・・・アルジンが最終的に決めたのであれば、私はもうこれ以上言うことはありません。ですが最後に一つだけ言っておきます」

「・・・なんだ?」

 正直、聞きたくない。けど、聞かなくちゃいけないのだろう。

「言葉にしなくては伝わらない気持ちがあります。そのことはどうかお忘れなきようお願いします」

「・・・肝に命じておくよ」

 さて、俺は俺でこの祭りを楽しむとしますか。

“お前、そんなにのんびりしていていいのか?すぐに・・・が来るぞ?”

(ち!?こんな楽しい時にどうして思い出す!!??)

 俺はふと、夢の中で見た出来事が脳内によぎる。

 今見えている幸せな光景とは真逆な、不幸な言葉となんとも言えない不快な感情。

 この光景が、今の幸せな感情をぶち壊してくれた。

(一体、誰が俺に言っているのだろうな?)

 ・・・いや、分からないことをこれ以上考えていてもしょうがないか。

 その後、祭りが終わり、俺は就寝した。

「・・・やっと、話が出来る」

 この後に起きる出来事なんて一切気にせずに。

次回予告

『6-2-5(第475話) 夢の中での話し合い』

 ホットケーキ祭りが終わり、彩人は就寝する。

 就寝後、彩人は夢を見るが、その夢はやけに具体的だった。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。

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