6-1-19(第467話) 訓練場での戦い~【黒色気】を使った魔王の妻その2~
先に動いたのは、ストレガの方だ。
(俺に向かってきつつ、魔力で腕を二本形成しているな)
ここまではイブと同じだな。
(魔法でも撃って相手の様子を見てみるか)
俺は【炎槍】を発動し、ストレガに向けて放つ。
(!?)
ここで俺はある出来事に驚く。
だが、今の俺に驚いている時間の余裕はなに。何せ、すぐそこまでストレガが迫っているからである。ストレガが俺に向けて思いっきり杖を振り下ろしてくるので、俺は神色剣で防ぎにかかる。なんとかストレガの杖を防いだ俺はストレガに話しかける。
「おい。その後ろに生やしている腕はなんなんだよ?」
「あら?娘もよく使っている技なのだから、ご存知のはずでしょう?」
「腕から自動で魔法を放つなんて聞いたことがねぇぞ?」
俺が驚いたのは、魔力で形成した腕から魔法を放ち、俺の【炎槍】が消されたのだ。ストレガが腕から魔法を放ったのかと思ったが、そんな感じはしなかった。
となると、別の可能性が生まれる。
その可能性というのが、あの腕が自発的に迎撃した、という可能性である。
(にわかに信じられない。本当にそんな魔法があるのか?)
敵の攻撃を感知し、自動的に迎撃する魔法。そんな魔法の存在を疑いながら質問する。
「あら?知らないのかしら?私、こういうことも出来ますのよ!」
ストレガは魔力で形成している腕の本数を二本から四本へと増やす。そして、形成された腕の掌が俺に向けられる。
(?なんか魔力が掌に・・・まさか魔法か!?)
だが、ストレガが意識して魔法を発動している様子は見られない。一体どういうことだ?
(て、そんなこと考えている暇なんかないぞ!?)
俺は力任せにストレガを押し、この場から離れようとするが、数秒遅かった。
「や・・・!?」
俺が言い終える前に、ストレガの魔法が直撃して吹っ飛ぶ。
「・・・本当は分かっている。私のこの感情は単なる八つ当たり。この行動に決して正当性なんてないってことくらい分かっているの。だけど、」
ストレガは魔王であり自身の夫、ゾルゲムを見る。
「愛する夫を傷つけられて、ただ黙って見ているなんて出来ないわ」
そしてストレガは砂煙を見る。その先には、さきほどぶっ飛ばした青年がいる。
「その通りだよな」
「!?」
ストレガは、今も砂煙が舞っている方向を見る。そこには、ストレガの方へ動き始める影があった。
「大切な人が傷つけられたら誰だって怒るに決まっているさ。けど、」
砂煙が払われ、影から一人の男が現れる。
「無抵抗でやられるほど、俺だってお人よしじゃないんだよ」
「そうこなくては、倒しがいがないってものよ。ねぇ!」
ストレガは再び俺に向かって突撃し始める。その最中、後ろの腕から俺に向けて魔法が発射される。
(最初に見た時は驚いたが、来ることが分かっていれば、対策なんていくらでも出来るんだよ!)
俺は自身の体に【魔力障壁】を纏わせる。これでストレガの魔法を防ぐことが出来る。
(【色装】、【色気】を使う要領で【魔力障壁】を纏わせたら上手くいけたな)
【魔力障壁】って結構便利だな。そう考えるのはひとまず後だ。まずは目の前の敵に集中しないとな。
「流石はアヤトさん。もう対策してきたのですね」
「ああ。詳細は言わないがな」
流石に俺の手の内を自ら晒す真似はしない。
「なら、下手な小細工なんてしない!これでケリをつけてみせるわ!」
ストレガは自ら手に持っている杖を俺に向けて振り下ろす。
「上等!」
俺はストレガの杖を神色剣で防ぐ。
そして、俺とストレガは互いの武器をぶつけ合う。
(このままじゃあ、どっちかのスタミナが切れるまで続けるしかないのか?)
それか、二人の内、どちらかがミスをするまで、か。
(・・・ミスを誘ってみるか)
俺はストレガから少し距離を置き、魔法を発動する。
(【炎槍】!)
【炎槍】がストレガに向けて発射される。
が、
(やっぱ、そうそう隙は出来ないか)
ストレガの後ろにある腕から魔法が発射され、俺の【炎槍】が相殺された。
(あの行動を自動でしているのか。本当、どういう仕組みなんだ?)
ひとまず、遠距離からの魔法による攻撃で隙を作るのはそう簡単ではない、ということか。
「・・・そんな興が冷めるようなこと、しないでくださるかしら?」
ストレガに注意されてしまった。
(これでミスでもしてくれたら嬉しかったんだがな)
なら、ストレガの望み通りにするか。
遠距離の魔法は相殺され、自動で攻撃してくるストレガの望み通りに。
「なら、この一撃で終わらせるとしようか」
俺は力を込める。想いを込めるように。
「・・・そう。あなたのその案に乗ってあげるわ」
ストレガも俺同様、力を込め始めた。どうやら俺の提案に乗ってくれたらしい。
「・・・この一撃であなたを葬ってあげる。覚悟しなさい」
・・・さっきからこの人の発言、怖くないですか?地球で聞いていたらあまりの恐怖に泣いていたかもしれないな。
「そっちこそ、覚悟しておくんだな」
俺は地面を思いっきり蹴り、ストレガに向かう。ストレガも俺に向けて地面を蹴る。
そして、互いの武器をぶつけ合う。
「「!!??」」
さきほどのやりとりが軽いと思えるくらい、今のストレガの一撃が重く感じる。
「・・・悪いな」
俺はストレガに謝罪する。
「・・・いきなり何を言っているのかしら?」
ストレガは、いきなり謝罪してきた俺に疑問をぶつける。
「・・・本当はこれで勝ちたかったんだが、このままだと押し負けそうだからな」
「なら、このまま無様に負けて、吹っ飛ばされてくれないかしら?」
「そうはいかない。俺だって負けたくないんだ。だから俺は・・・、」
ここで俺は、魔王にも使った魔法を使う。
「!?どうして急に力が・・・!?」
「悪いな」
俺は増加した力でストレガの武器を押し始める。
そして、
「これで、俺の勝ちだ!」
武器を全力で振り、ストレガを吹っ飛ばす。
「審判!早く!!」
俺は審判に勝敗の発表を急かす。これで決着はついたようなものだからな。
「・・・勝者、アヤト!!」
この声の後、俺はすぐストレガの元へ行き、白魔法をかける。
「・・・感謝するわ」
「いや、俺も手加減が上手く出来なくて悪かった」
俺が勝てたのは【六色気】のおかげだ。さっきまで【黒色気】だったのを【六色気】に変更したのである。
「まさか、私が手加減されていたなんてね。これは、凹むわね・・・、」
ストレガは、自身が手を抜かれていたことに落ち込んでいた。別に手を抜いたわけではないのだが、ここは一つ励ましておくか。
「手加減じゃないさ」
「ですが・・・!」
「本当は【黒色気】だけで勝つつもりだった。でも、【黒色気】だけだと負けると思ったから、俺は【六色気】を使ったんだ。だから誇っていい。同じ【黒色気】でも、俺より優れていたんだ」
「・・・だとしても、結局私も負けてしまいましたわ。本当、ずるいお方」
「だな。全色魔法に適性があるとか、お主は本当に何者だ?」
ストレガに続き、ゾルゲムも俺に質問する。
(何者、ねぇ)
俺は単なる冒険者だ。それ以上でもそれ以下でもない。そのことを伝えたら、
「「「それはない」」」
「・・・え?」
全員から強い否定を返されてしまった。一体どうしてなのだろうか?
そんなやりとりをしていたら、誰かのお腹がなった。誰のお腹の音かと思ったら、
「・・・そういえば、腹、減ったな」
魔王の腹の音だった。一国の王が腹をならすなんて、なかなか聞かないな。
「ご飯にしたーい」
ルリのこの言葉に、
「そうだな」
「私もお腹が空きましたわ」
魔王夫妻も賛同した。
確かに俺もお腹が空いたし、ちょうどいいか。
「運動後の食事としようか。久々にアヤトのホットケーキ、食べてみたいしな」
「それは賛成ね!」
・・・そういえばこの二人、イブ同様ホットケーキが好きなんだっけか。
「俺も作るけど、自分達で作った方がいいんじゃないか?なぁ?」
俺がみんなに質問すると、ルリ達は頷く。
「自分で色々かけられるし~♪今日はハチミツい~っぱいかける~!」
「それじゃあ私は、ジャム、いいですか?」
ルリとモミジは自身の好みを話す。
「私にそんな時間はない!いつも公務が忙しいからな!!」
「私も夫の補佐で料理どころではないですわ!」
二人は自信満々に宣言してきた。
公務、か。それならしょうがないか。国の為に働いているのであれば俺から言う事はないな。
「それにアヤトのホットケーキはどのホットケーキより美味しいからな!」
「そうですわ!アヤトの作るホットケーキは最高ですわ!」
「そうか?・・・分かった。二人の分は、俺が作るよ」
なんか気になる言葉があった気もするが、気のせいか。
「感謝する。必要な食材は調理場にあるから、好きなだけ使うといい」
「分かった。それじゃあみんな、調理場に行ってホットケーキを作るぞ!」
「「「はい!!!」」」
さて、ホットケーキを作るか!
調理場までの道中、
「・・・あの、申し訳ありませんが、私の分までホットケーキを作ってもらえないでしょうか?もちろんお礼は致しますので」
「私が作ったホットケーキとアヤト様の作ったホットケーキ、どちらが美味しいか味比べをしてみませんか?」
「まさかあなた様が伝説のホットケーキマスター、アヤト様でいらっしゃいますか?握手してください!」
見知らぬメイドや執事達が俺に話しかけてくる。俺、この国でそこまで活動していた記憶がないのだが?俺、いつの間に有名人になったんだ?
(というか、ホットケーキマスターって何!!??)
俺、自分をそんな風に名乗った覚えなんてないぞ!!??さっきは受け流したが、詳しく聞きたい。今すぐ、詳細にお聞きしたい・・・ところだが、ホットケーキを作り、みんなで食べながら聞くとするか。腹減ったし。
というわけで俺達はホットケーキを作り始めた。
次回予告
『6-1-20(第468話) 訓練場での戦い~その後~』
訓練場で戦いを終えた彩人達は、お疲れ様、という意味を込めて、ある料理を作り始める。
その料理は、彩人が作り慣れている料理だった。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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