1-2-19(第45話) 赤の国と青の国の戦争 ~東編その4~
いよいよ赤の国と青の国との戦争もこれで最後です。
どう決着がつくのでしょうか。
「それじゃ、何とか防いでくれよ」
「「(はい!)」」
俺達が話している間にも、黒い一つ目巨人は、今度は両手を振り上げる。どうやら相手も本気らしい。
(黒竜帝、ヒュドラ殿。悪いが私はあれを使うから、少しでいい。時間を稼いでほしい)
「わかったっすよ!」
「私、頑張るよ!」
ん?白竜皇の言うあれってなんだ?俺がそんなことを考えていると、
(我、「白」を司りし竜なり。その力は守護。守護こそ、我の持つ力の真価なり…)
え!?なんか言っているんだけど!?もしかして、これが呪文詠唱ってやつか?そういや初めて聞いたかもしれない。
「普段、白竜皇は呪文詠唱せずにぱぱっとやっちゃうっすけど、今回は体力ないんで、詠唱してるんすよ」
俺が動揺したのを見たのか、詠唱のことについて補足してくれた。今も全力で俺達のことを守ってくれているのに。なんていい子なんだ!
ちなみに、今も黒い一つ目巨人は両手を振り下げ、さっきより何倍もの強さがある強風や勢いが増した石の礫が襲い掛かっている。これらを全部防ぐだけでも大変なのに、俺の疑問を解消してくれたのだ!…これ以上は邪魔しちゃ悪いから魔法に集中しよう。
(…我は求める。大切なものを護り、慈愛の心を持って、我が力、ここに顕現せよ!)
白竜皇は呪文詠唱をしながら、魔力を集めている。これから何をするつもりあのだろうか?
(【光翼】!)
そういった瞬間、白竜皇の白い翼が大きくなり、俺達の周りを包み、攻撃を防いでいた。だが、【光翼】の効果はそれだけでは無かった。
「暖かけぇ」
何て言うのだろうか。心がほっこりする感じだ。幼い頃、母の優しさを全身で感じたみたいだ。
「お兄ちゃん、泣いてるの?」
「え?」
頬を触る。確かに湿っていた。俺はどうやら泣いていたらしい。昔を思い出していたのかもしれないな。あの頃に戻れないと思うと、また頬を濡らしてしまう。今はそんなことをしている場合じゃないのに。
「お兄ちゃん!相手の攻撃が止んだよ!今がチャンスだよ!」
「兄貴!やっちゃってください!」
(アヤト殿。どうか私の想いを無駄にしないでください)
みんな、死亡フラグ立てすぎじゃね?でも、
「わかってる。これだけしてもらったんだ」
みんなの前に出て、深呼吸する。
「負けられっかよ!!」
こうして俺は駆け出した。
俺はあの黒い一つ目巨人の目の前にいた。
「こいつが黒い一つ目巨人…」
そういや、一つ目巨人を見るのは初めてだっけ。こん棒持ってないけど、確かに一つ目だ。だが、そんなことは後だ。準備はできてる。あとは覚悟と、相手を挑発させるだけだ。
「おい!さっさと来いよ、この…うすのろ!てめぇの攻撃なんざワンパターン過ぎて欠伸が出ちまうんだよ!」
俺が今できる精一杯の挑発をする。…もしこんなこと言われたら、俺は引きこもりそうだな…。
「ぐおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
黒い一つ目巨人は俺の言葉に激怒するかのように雄たけびをあげる。
「まだ、だ…。しかし、きついな」
この黒い一つ目巨人の放つ威圧は実に強力だった。さっきは何十メートルも離れていた上に、魔力障壁を張っていたから、体が震える程度で済んだが、今回は違う。
至近距離な上に、魔力障壁を張る余裕もない。だから、今の俺にできることは、
「ぐぅぅぅぅぅ…」
ただひたすらに耐えることだけだ。これぐらいで根をあげるわけにはいかない。これから、これとは比較にならないほど、辛く、痛い思いをするのだから。
「さぁ来いようすのろ。お前の全力なんて怖くねぇんだよ」
その言葉に反応するかのように、黒い一つ目巨人は拳を振り上げる。
よし!今だ!
「さぁ!博打と行こうか!【転移門・吸収】!」
俺が魔法名を叫ぶと、左手から、黒い渦のようなものを出現させる。
黒い一つ目巨人はその渦に吸い込まれるように、その渦に攻撃をする。
彩人が使っている魔法、【転移門・吸収】は、相手の攻撃を吸収する魔法だ。だが、黒い一つ目巨人が繰り出されたのは拳だけではない。拳を振り下ろした時に発生した強風や、それによって舞い上がっている石の礫は【転移門・吸収】では吸収できなかった。従って、
「ぐああああああぁぁぁぁぁ!!!」
彩人の全身に当たる。最早、カマイタチといっても過言ではないほど鋭い風が、風によって勢いよく飛んでくる無数の石の礫が彩人を襲う。
そして、見る人が見れば、嘔吐してしまうひどい状況だ。
彩人の体に無数の痣ができ、切り傷ができる。だが、それだけじゃない。カマイタチ同様の風で全身の皮膚が剥がれる。唯一顔の皮膚は剥がれなかったが、それでも剥がれたところは、理科室で見る人体模型のようになっていた。きっと地球でのんびり過ごしていれば、一生見ることはなかっただろう。そして、まるで間欠泉をほうふつさせるような勢いで血が噴き出る。出血多量で彩人の顔が青ざめていくが、倒れるわけにはいかなかった。
そして、彩人にとって、反撃のチャンスが訪れる。
「よし…。今が、チャンスだ!【転移門・解放】!」
最早普通に言葉を発することすらきつい状況で魔法名を言う。
【転移門・解放】、【転移門・吸収】は二つで真価を発揮する魔法だ。【転移門・吸収】で吸収したものを【転移門・解放】で解放する、という魔法だ。
今回吸収したのは、黒い一つ目巨人のあのバカみたいな威力の攻撃だ。それを吸収するのに膨大な魔力を消費したが、その分、解放時の威力もすごいはずだ。
魔法名を言った瞬間、右手から、白い渦が発生する。
そして、
ピカァァァァァァァ!!
ちゅどぉぉぉぉぉぉぉ!!
よほど高エネルギーだったのか、その光は黒い一つ目巨人を飲み込み、その光は何百メートル進み、その後は、自分の存在を消すかのように、少しずつ細くなっていき、消えた。
残ったのは、もともと黒かったのがさらに黒くなり、全身から黒い煙が立ち上っていた、黒い一つ目巨人だ。
「う、嘘だろ…」
な!?なんであれ食らって死んでないの!?もう俺、打つ手ないんですけど!?
俺がそう思っていると、
「………」
黒い一つ目巨人は最後の捨て台詞のような言葉を吐きながら、前のめりに倒れた。
…これで終わったのだろうか?だが、
「もう…、無理…」
俺も全身がボロボロだったためか、体に力が入らず、そのまま倒れていく。
その顔には、疲労や痛みでろくに動けないほどだが、どこかすっきりしていた。
これで戦争編は終了です。後は事後処理くらいでしょう。
それにしても、あの黒い一つ目巨人は何者なんでしょうか…。