5-2-60(第447話) 従者2人の別れ、旅立ち
「お兄ちゃん、怪我、していない?」
「アヤトさん、どこか痛いところはありませんか?私の緑魔法で出来るならなんとかしますよ」
「ご主人様、誠に勝手ながら、さきほど白魔法で回復しているのですが、どこか痛い個所はありませんか?その箇所を集中的に回復させていただきますので」
どうやら、レンカの心配性がみんなに移ったらしい。
(これは心配性ではなく心配症、だな)
まるで一種の感染症である。
俺はみんなの頭を順番に撫でる。
「だから俺は本当に無事なんだって。だから心配するな。な?」
「分かった」
「分かりました」
「承知しました」
ルリ、モミジ、クロミルはすぐに理解してくれたのだが、
「・・・本当ですか?」
まだレンカは疑っていた。どこまで俺の事を信じていないのだろうか?
「ああ」
俺は一瞬だけ【六色気】を発動させ、一瞬で解除する。
「だから、もう心配しなくていい。いつも通りでいてくればいいから」
レンカは黙る。
「・・・本当、アルジンは人を心配させる天才ですよね。いつも、いつも人を心配させて、」
(う!?)
レンカの言葉が心に突き刺さる。毎度俺は死にかけているので、言い訳なんて出来るはずがない。
「・・・アルジン、自分を大切にしてくださいね?アルジンはもう、独りではないのですから」
(まったく。これはただの模擬戦なんだぞ?)
怪我はするかもしれないが、死なないようお互い力を調節しているはずだ。それを理解してここまで心配するなんて。
「忠告、感謝するよ」
「いやー。流石はアヤト殿、素晴らしい戦いでした」
グードが多くの子供達を引き連れて挨拶しに来た。
「こっちこそ、いい刺激になったよ。まさかまた【色気】を使う奴と戦うなんてな」
他に【色気】を使っていた奴は、確か黄の国にいたザッハ、だったな。あいつもかなり強かったな。
「・・・待ってください。私以外にも【色気】を使用している者がいたのですか?」
「ん?あぁ、いたぞ」
【色気】を使用する事に関して、何かおかしなことがあるのだろうか。あの魔法、非常に強力だから習得していて損がない魔法だと思うのだが・・・。
「アルジン」
「ん?なんだ?」
「普通の者は【色気】なんて危険な魔法は使用しませんし、使えません。何故か分かりますか?」
「・・・あまり知られていないから、か?」
いや、違うな。この魔法を使用するのに非常に緻密な魔力制御が必要となる。もしそれを失敗したら・・・、
「違います。一般的には禁忌、使用してはならない魔法と認定されています。その理由は、魔法の発動に失敗した場合、死ぬからです」
「やはりそっちか」
【色気】という魔法は、発動に失敗すると血が体内から噴き出る。
「ええ。過去の文献によると、何人もの冒険者が【色気】を発動させたところ、体が爆散しました。なので、【色気】を使わないよう指示が何度も行き渡ったと伝えられています。今も【色気】を使用してはならない、という指令が飛び交っていたと思うのですが、気付かなかったのですか?」
「まったく気づかんかったわ・・・、」
そういう噂の類、まったく知らないのだが?・・・もしかして、俺が普段からボッチだから、噂話をしてもらう機会がなかった、とか?もっと町の人と話をしていれば、そういう噂話を聞くことが出来たかもしれないな。
(いや、出来るだけ人の話を盗み聞ぎしていたつもりだったのだが、それでも聞いたことがないぞ?)
・・・もしかしてみんな、俺に話を聞かれたくなくて、話の一切を外でしていなかったのか?いや、そんなことはない。だって俺は聞いたんだぞ?町の人達が話を・・・話?
(ちょっと待て)
確か俺が聞いた話って、今日は晴れてよかったね~とか、その服、似合っていますねとか、そんな他愛ない話ばかり聞いていた気がする。
まさか、俺が近くにいる場合、噂話をしないようお触れでもだされていたのか?俺に噂話を聞かせないために。
(だとしたら俺、よっぽど迫害されていたんだな・・・)
いや、もちろんそんなことはなく単なる偶然だと思うのだが、それでもなんか疎外感を覚えてしまう。
「アルジン、もっと他の人と関りを持ちましょうね?」
「そう、だな・・・」
俺は人との関わりの大切さを身に沁みたのであった。
「・・・その者、【色気】を使用した者は元気でしたか?」
(ん?どういう意味だ?)
【色気】を使用している者は、ザッハのことだろう。元気でしたか、という質問はどういう意味なのだろうか?俺が黄の国にいた時、ザッハは元気だったと思う。少なくとも、常にボロボロで血反吐を吐いている、とかなかったはず。
「元気だったと思うぞ?」
おそらく、今でもヤヤ達となんやかんやしているだろう。
(は!?)
ま、まさか、兄妹で肉体関係を持って・・・、
(くだらな)
何故俺は急にありえないことを考えてしまったのだろうか。こんな俺だから、地球では友達なんて出来なかったんだろうな。
「そうか」
グードは何故か俺の言葉を聞いてどこか安心していた。
「?どうしてそんなホッとしているんだ?」
俺は気になって質問する。
「何せ【色気】は、魔力制御に失敗すると体が破裂し、死に至ると言われているからね。かくいう私も、【色気】を使おうとして亡くなった者を何度も見てきた。だから心配になって聞いてしまっただけだ。気にしないでくれ」
「・・・そうか」
グードはおそらく、【色気】を使おうとして死んでいく者をこれ以上増やさないよう気にかけていたのだろう。ザッハ程の実力者なら、【色気】を発動しようとして失敗することはないと思う。そのことを言っておくか。
「あいつはかなり強い。それほどグード、お前と同等かそれ以上の強さがあるから心配する必要もないからな」
「そうか。それなら安心だ。それと最後に、」
最後に、なんだ?
「私の我が儘を聞いてくれて、ありがとう。いい経験になったよ」
俺の右手を固く握ってきた。
「・・・こっちも、いい経験になった。あんがとな」
【色気】を使える者と模擬戦する機会なんてそうそうないからな。黄の国でザッハと戦った時以来か?
(いや、ジャルベも使っていたな)
・・・この世界には、命知らずの者が結構いるな。命大事に、これ大切。
(さて、行こうか)
これでこの国に思い残すことは無くなった。後はこの国を出るだけだ。
「?」
なんか急に疲れが取れていくな。この感覚、もしかして回復?となると、俺が無意識に白魔法で回復しているのか?
(いや、違うな)
誰かが俺を白魔法で回復させているな。もしかしてクロミルか?俺は無言でクロミルを見る。
「?どうかなされたのですか?」
「いや、なんでもない」
どうやらクロミルではなさそう。となると、
「お前か?」
俺は回復をしていると思っている者、グードに声をかける。
「ええ。不要かと思いましたが、私の我が儘でアヤト殿の体力を消耗させてしまいましたからね。これくらいはさせて下さい」
「・・・ありがたく受け取っておく」
俺はグード達に背を向ける。
「それじゃあ、俺達はこれで失礼する。世話になった」
「いえ。アヤト殿達のおかげでどれほどの未来が救われたことか!感謝してもしきれません!」
「行かないで!」
グードの言葉を合図とし、続々と子供達が俺達の足にしがみついてくる。
「やだー!」
「ずっといてー!!」
「いっしょじゃなきゃやーだー!!!」
・・・これは、時間がかかるか。
「こら!みんな、何をしているのですか!?」
シーナリの怒鳴り声が聞こえる。その声にビクッと反応し、子供達は俺達から離れる。
「だ、だって~」
「もっと、もっと大親分達と一緒にいたいんだもん!!」
「う、うぅ~~~」
「ほら、離れなさい」
「大親分に迷惑をかけちゃ駄目でしょう?」
ピクナミとスララカが子供達を俺達から離していく。
「うええぇぇーーーん!」
「行っちゃいやだーーー!!!」
「「「いやー!!!」」」
・・・なんだろう。罪悪感が半端ない。
(一応こうなることを想定して、数日前に別れの挨拶をしていたんだけどな)
別れの挨拶を事前にしていても、当日は当日で別れが惜しくなるのかね。
(・・・そういうものか)
ふと、子供のある時を思い出す。
その時は、俺の父親が仕事のために家を出る時、俺は家にいてほしい、行かないで欲しいと泣いて、何度も懇願したっけ。懐かしい。
(そういう時、何をしてもらったっけか?)
少し考えた後、俺はみんなに少し近づく。
「必ず戻ってくるから、それまでみんなで楽しく、この町を豊かにしていってくれ」
「たのしく・・・?」
「ゆたかに・・・?」
難しいことを言ったつもりはないが、少し抽象的だったかもしれないな。なら言い方を変えるか。
「みんな笑顔で過ごし続けてくれれば、それでいい」
「えがお・・・うん」
「分かった!」
「頑張る!だから必ず・・・必ず戻ってきてね!」
「ああ」
さて、これで行くとしよう。
俺は牛車に向かう。その後ろをルリ、クロミル、モミジ、レンカが続いていく。
「待って!!!」
「「「!!!???」」」
急な引き止めの声に驚き、思わず俺は歩みを止めてしまう。俺が歩みを止めてしまったからか、後ろのみんなも俺同様歩みを止める。
この声、確か・・・?
「ヴァーナ、か?」
「クロミル!」
(!?)
今、クロミルの事を敬称無しで呼ばなかったか?クロミルとヴァーナの奴、いつの間に仲良くなったんだ?
ヴァーナはクロミルの元へ駆け寄り、クロミルの両手を手に取る。
「絶対、絶対帰ってきて!ここはいつでも大親分達を・・・クロミル達を歓迎するわ!」
「ええ。必ず、必ず寄らせて・・・帰ってくるわ」
(・・・なんか、いいな)
女の子同士の友情、か。クロミルが俺を捨ててヴァーナに鞍替えしないといいな。
(ぐっ!?)
クロミルが俺を見捨てる場面を想像したら、胸に急激な痛みが!
「・・・じゃあね、クロミル」
「ええ。それではまた」
クロミルとヴァーナは互いの手を離す。
「時間をとらせて申し訳ありません。行きましょう」
「おお」
クロミルとヴァーナの間に何があったのかは分からない。だが、深く突っ込まなくていいだろう。きっとクロミルにとって、いい変化が起きたのだと俺は思う。
「よろしいので?なんならクロミル殿だけでもこの国に残られた方が・・・、」
「レンカ様、お気遣いありがとうございます。ですが、大丈夫です」
クロミルはレンカに一礼した後、俺に顔を向ける。
「私は、ご主人様の従者、ですので」
どうやら、クロミルの決意は固いらしい。
「そうか。それなら、またここに来ないとな」
「はい!」
さて、この白の国にさらばして、次の国に向かうとしよう。
(目指すは魔の国、か)
イブ達は今、何をしているのだろうか?
(ちゃんとご飯、食べているのだろうか?)
イブとクリムは一国のお姫様だから、きちんと野営出来るのだろうか?
(・・・て、俺が心配するまでもないか)
これまでみんなで散々野営してきたのだ。出来ない訳ないか。それに、リーフがいる。問題なんてあるわけないか。
(行こう)
三人は一体、どうなっていのだろうか。
(出来れば、ボディービルダーのように、筋肉ムキムキになっていないといいな)
そんなことを考えながら牛車に乗り込み、俺達は白の国を出る。
次回予告
『5-2-61(第448話) 白の国に残ったジャルベとシーナリ』
白の国で出会ったジャルベとシーナリは、彩人の旅について行かず、そのまま白の国に残る。残った2人は、大小関係なく、彩人のことを想う。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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