5-2-58(第445話) 旅立ち前のグードからのお願い
数日後。
俺は必要な食料の調達を終え、牛車のメンテナンスをしているところである。といっても、レンカが点検してくれているので、今の俺に出来る事は・・・なんだろうか。地面に木の棒で絵でも描いていようかな。
「ねーねー?これなにー?」
「美味しい美味しいホットケーキ!」
「うわー!美味しそー」
・・・もし俺が地面に絵を描き始めたら、ルリ達と同じ精神年齢、ということになるのか?・・・何か他のことでもしようかな。といっても、他のことといっても何をすればいいのか・・・。
(・・・料理、するか)
俺はいつでもホットケーキを食べられるようにするため、ホットケーキを生産することにした。
(さて、頑張るか)
俺は即席で台所を作り、ホットケーキを作り始めた。
「・・・」
「・・・じん」
「・・・」
「・・・じん。アルジン」
「・・・」
「アルジン!」
「は!?」
な、なんだ!?急に俺の耳から声が聞こえてきたぞ!?げ、幻聴か!!??いや、さっきの声はレンカに似ていたな。もしかして・・・?声が聞こえた方角に首を回すと、その先にレンカがいた。
「・・・なに、しているんだ?」
「何しているんだ、は私の言葉ですよ。私が牛車の点検をしている間、アルジンは何をしているのですか?」
「何って、ホットケーキを作っているのだが?」
見たら大体分かると思うのだが、違うのだろうか?
「・・・アルジン、それは旅を始める直前にしなければならないことなのですか?」
「まぁ、必要だな」
食料を確保するために必要なことだろう。だから俺は間違っていない、はず、だと思う。
「・・・そうですか。まぁ、アルジンがそう思っているなら別にいいです」
なんだろう。レンカが呆れているように見えるのだが、俺の気のせいだろうか?まぁ、レンカはいつも俺に呆れているから気にするだけ時間の無駄かもしれないので放っておこう。
「ところで、牛車はどうだった?どこか壊れていたか?」
壊れていたら修理する必要があるのだが、俺に牛車を修理するだけの技術力なんてない。修理する必要がないといいのだが・・・。
「いえ。どこも壊れていませんでした。とても大切に手入れされていましたからね」
「そうか。その言葉、クロミルに言ってやれ。きっと喜ぶぞ」
「そうですね。ではちょっと報告がてら、クロミル殿の元へ行ってまいります」
「おう」
レンカは報告のために、クロミルの元へ向かう。
(クロミルは確か、ヴァーナと話をしているはず)
お、いたいた。レンカの奴、クロミルと話を始めたみたいだ。これでクロミルに感謝の気持ちが伝わったはず。
「アヤト殿、ちょっといいかい?」
「ん?なんだ?」
グードから話しかけてきたな。
(・・・なんだろう?何か悪寒が・・・、)
俺の勘が言っている。これから俺にとって良くないことが起きるのだと。このままさっさと帰った方が・・・、
「私と模擬戦をしてくれないか?」
「・・・え?」
俺は、グードの言葉の意味が分からず、思わずフリーズしてしまうのだった。
(はぁ。どうしてこんなことに・・・)
俺は今、ゴーストタウンの訓練場にいる。この訓練場内なら、多少暴れても多少問題ないのである。何故暴れる前提で考えているのかというと、
「それにしてもアルジン、いきなりあのグード殿と模擬戦をするって、何をしてグード殿を怒らせたのですか?」
「だからさっきも言っただろう?俺は何もしていないって。いきなりグードから提案されたって」
「本当ですか?アルジンが失礼なことをしてグード殿を・・・、」
「怒らせていないから!」
まったく!レンカの奴、俺の事、全然信用してくれないな。一体俺のどこがそんなに信用出来ないのだろうか。
「それで、どうして俺と模擬戦したいなんて突拍子もないこと言い出したんだ?」
「なに。元冒険者として、現役冒険者として活動しているアヤト殿の実力を見てみたいと思っただけだよ」
少なくとも、俺がグードを怒らせたとか苛つかせたとか、そういう類の理由でなくて安心したわ。
「・・・どうやら、アルジンに怒りの感情があって模擬戦を挑んだわけではなさそうですね。勘違いしてしまい申し訳ありません」
「分かってくれたらいい」
レンカの誤解も解けたことだし、これでひと段落だな。
(さて、帰るか)
俺はグードを背にし、牛車に向かおうとしたのだが、
「待ちたまえ」
思いっきり肩を掴まれてしまった。
「はい?」
「いや、何を当然のように行こうとしているのかね?これからアヤト殿は、私と模擬戦をするのだよ?」
「・・・模擬戦、やっぱなしになりません?」
「・・・どうしても嫌ならしなくてもいいが、出来れば私は、アヤト殿と模擬戦をしたいと思っている」
(本当、その言い方はずるいよなぁ・・・)
その言い方の後に俺が断ると、俺が悪人みたいじゃないか。
「・・・分かった。やるよ」
俺は諦めて、グードと模擬戦をすることにした。出来ればグードと模擬戦なんてしたくなかったのだが、仕方がない。
「その代わり、負けたからといって文句とか言うなよ?」
「ほぉ?既にアヤト殿が勝つような口ぶりだね」
「気に食わないか?」
確かに、俺がグードに負ける可能性もあるな。
だが、元とはいえ、黒ランク冒険者とは以前に戦ったことがあるんだ。負けるわけにはいかない。
「ああ。元とはいえ私は黒ランク冒険者。私もそうそう負けられないのだよ」
俺とグードは見つめ合った後、模擬戦の準備をすることになった。
模擬戦の準備を終えた俺とグードは、互いに互いを見ていた。
「さてアヤト殿、準備はよろしいかね?」
「ああ」
俺とグードは互いに武器をとる。
俺の武器は当然神色剣・・・ではなく、魔銀製の剣だ。魔銀製の剣を使用する理由は特にない。なんとなく、だ。
それにしても、
「お前の武器のそれ、剣か?」
「ああ。なにかいけないのかね?」
「いや別に。ただお前も剣を使うんだなと」
まさかグードが剣を使うなんてな。
普通、聖職者の武器って、杖とか弓とかじゃないのか?
(・・・いや、俺の単なる偏見か)
よく考えてみれば、聖騎士も剣を使う。だから聖職者が剣を使用しても何の問題もないのだろう、多分。
(しかしあの盾、かなりでかいな)
剣の他に盾を持っているな。剣と盾を使う戦闘スタイルは、黄の国で出会ったヤヤと同じだと思ったのだが、盾が本当にでかい。
(もしかしてこいつの戦闘スタイルは・・・?)
「それではそろそろ始めるよ。シーナリ、審判を頼む」
「はい!」
どうやらいつの間にか俺とグードの中間にいたシーナリが審判をするらしい。
「それではこれから、グード教皇とアヤトさんの模擬戦を始めます」
この言葉を聞き、俺とグードに緊迫した空気が走る。
「それでは・・・はじめ!!」
このシーナリの言葉をきっかけとし、俺とグードの模擬戦が始まる。
次回予告
『5-2-59(第446話) 模擬戦~VSグード~』
旅立ちの前に、グードのお願いから、グードと模擬戦をすることになった彩人。
思う事はあったものの、彩人はグードとの模擬戦を始める事にした。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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