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色を司りし者  作者: 彩 豊
第ニ章 鉛白な国の中にある魔道具と漆黒の意志
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5-2-54(第441話) 三人だけの旅立ち

 キメルムの子供達と孤児院の子供達との共同生活を始めて十日ほど経過した。共同生活は順調にいき、子供達も少しずついろんなことをやり始めている。武器を振って見たり、魔法に触れてみたりと、終始興奮しているように見えた。もしかして、初めて触れるものだから興奮しているのだろうか?だとしたらその気持ち、よく分かるな。

 職場体験の方も、既に複数の箇所で色々体験させてもらっているらしい。

 冒険者ギルドの初心者講座に料理屋での料理研修等、子供達のために時間を割いてくれて申し訳ないな。後でお金を落とすために寄っていこうかね。

(子供達も、まだ数人だがやりたいことを見つけて動き始めていたな)

 早くも成果が現れてよかった。このまま順風満帆だといいな。

 そう思っていた時もありました。

 だがある時、変化の時が俺に訪れたのです。


「アヤト、質問があります」

「ん?なんだ?」

 冒険者ギルドで依頼をこなした帰り、俺はリーフから質問された。一体なんの質問なのだろうか?

「・・・次はどの国に向かうとか決めていますか?」

「どの国、かぁ・・・、」

 そういえば、この国に近い国はなんの国なのだろうか?それを聞いてから決めてみるか。

「この国から黄の国以外に近い国に行こうかと思う」

 まぁ、具体的にはどの国なのかは知らないのだが。

「なるほど。ということは魔の国に行くのですね」

(魔の国、か)

 確か、イブの生まれ故郷の国だな。そうか、あの国が近いのか。

「ああ」

「・・・であれば一つ、我が儘を言ってもいいでしょうか?」

「我が儘?」

 我が儘とは一体どういう類の我が儘だろうか?君の腕を切り刻みたいとか、そういう残虐な我が儘じゃないといいのだが。・・・て、そんなわけないか。

「ええ。我が儘というのは・・・、」

 ん?なんかかなり言い辛そうだな。そんなに頼み辛い我が儘なのだろうか?なんか聞くのが怖いな。話、逸らそうかな。

(・・・いや、やめておくか)

 大人しく、素直に話しくれるまで待つとしよう。

「私達三人だけで、先に間の国に行こうと思っているのですが、よろしいでしょうか?」

「・・・・・・え?」

 リーフの我が儘は、俺を驚かせるのに十分だった。


「それで、さっきの話は本当なのか、リーフ?」

 俺はさっきの話の真相を聞くため、みんなを集めてリーフから話を聞いていた。みんなというのは、俺、クリム、イブ、リーフ、ルリ、クロミル、モミジ、レンカのことだ。

「ええ。後数日したら、私、クリム、イブの三人はここ白の国を発ち、魔の国に向かうつもりです」

「・・・本当、なのか?」

 俺は確認の為に、リーフに聞く。

「はい」

 俺はリーフの目を見る。・・・どうやら本気、みたいだな。

「クリム、イブはどうなんだ?」

「私は本気です」

「…ん」

 ・・・クリムとイブも同じ、か。

(俺が今更何を言っても、決意は固そうだ)

「お姉ちゃん達、行っちゃうのー?」

 ルリは悲しそうな声で三人に聞く。

(無理もないか)

 ルリの精神年齢はまだ子供で、ずっとクリム達と一緒だったからな。寂しく感じるのは当然かもしれないな。

「ええ。ですが、一生の別れというわけではありませんよ?」

 リーフはルリに近づき、頭を優しく撫でて抱き寄せる。

「私達はすぐに再開します。もっと強くなって、ルリちゃん達を守れるくらい、強くなってみせるわ」

 リーフの言葉に続くように、クリムとイブも後を続ける。

「私はまだまだ弱いです。もっと強くなって、アヤトの助けになります」

「…アヤトだけじゃない。ルリもクロミルもモミジもレンカも、みんなを守れるくらいに強くなる。そのために必要」

「うぅ・・・、」

「ルリ様、駄々をこねてはいけませんよ?リーフ様方の決意はとても強固のようですので、ここは笑顔で見送るべきです」

「寂しくなりますね。また、会えますよね?」

 モミジの言葉に、

「もちろんです!」

「はい!一生の別れなんて、私だって嫌です!」

「…当然」

 三人の力強い返事が返ってくる。

「それで御三方は既に、ジャルベ殿達にこのこと、伝えたのですか?」

 レンカは既に受け入れたのか、これからのことについて聞く。

「これから数日かけて伝えて、旅の準備をして、出発します」

「そうですか。なら旅の準備、手伝わせていただきますよ」

「!?ルリもルリもー!」

「リーフ様方、微力ながら私も協力させていただきます」

「私程度の力であれば、いつでも力をお貸ししますね」

「みんな・・・ありがとう」

「後でいっぱいお礼しないと、ですね」

「…私特製の料理、振る舞う」

(・・・どうやらみんな、前向きみたいだな)

 確かにリーフ達三人と別れるのは寂しい。

 けど、一生離れ離れという訳じゃない。

(なにより、三人の門出を祝えないほど心の狭い奴はここにはいない、ということだな)

 三人が実りある旅となるよう、しっかり祝わないとな。

 数日かけてリーフ達は様々な人に、この国を出ていくことを話していった。

「いーやー!」

「リーフの姉御、どうかお元気で」

「また、会えるよね?」

「寂しくなるわ」

 みんな、それぞれ悲しんでいたが、三人を引き止めるようなことはしなかった。

(みんなも、リーフ達の門出を祝ってくれているんだな)

 本当、ありがたいな。自分のことではないのに、自分のことのように嬉しく感じてしまう。


 リーフ、イブ、クリムの三人の旅の準備が終わり、数日経過。

(いよいよ今日、か)

 今日は、リーフ、イブ、クリムが旅立つ日だ。

「・・・本当に三人だけで大丈夫か?」

 俺は心配なので、改めて三人だけで大丈夫なのか質問する。

「平気ですよ。道中の魔獣の情報はあらかた把握しましたし、出てきたとしても私達だけで対処可能です」

「そう、か」

 なんとなく、お前は用済みだ、と言われている気がしてしまう。俺の勘違いだと思うけど、それでも考えてしまうな。

「それじゃあ、元気でな」

「ええ。先に魔の国でお待ちしておりますね」

「…絶対、来て」

「約束、ですからね!」

 三人は元気に手を振った後、俺達に背中を見せる。

「・・・」

「ルリ様、これを」

 涙で顔をぬらさないよう、クロミルがルリにハンカチを渡す。

(ここで三人を引き止めないあたり、ルリなりに頑張ったんだろうな)

「・・・」

 俺は無言でルリの頭を撫でる。

「・・・三人とも、どうかご無事で」

「御三方なら大丈夫ですよ。アルジンよりしっかりしていますから」

「・・・おい。それはどういう意味だ、レンカ?」

 レンカよ。モミジを慰めるのはいいが、俺を引き合いに出すのは辞めて欲しい。

「それにしても、お前達は何も言わなくてよかったのか?」

 俺はただ後ろで見守っていたキメルム達に視線を向けて質問する。

「いいんだ。俺達は既に、十分くらい言ったから」

「最後の別れは大親分に譲ると決めましたので」

「俺達は十分言ったから」

「模擬戦もしてくれたし!」

 なるほど。別れの言葉は既に伝え済み、というわけか。それにしても模擬戦か。絶対クリムだな。

「そうか。ならいいんだ」

「・・・ちなみに大親分も、すぐに出て行っちまうのか?」

 ジャルベの言葉を皮切りに、周囲のキメルム達の雰囲気が変わる。

「俺は・・・もう少し残るつもりだ」

 俺のこの言葉を皮切りに、周囲のキメルム達が喜ぶ。

「ルリ達もそれでいいか?」

「うん!」

「全てはご主人様の御心のままに」

「アヤトさんがそう言うなら私は別に構いませんよ?」

「私はアルジンの魔道具ですので、アルジンに従います」

 どうやらみんな、俺の考えに賛成のようだ。

「それじゃあ、もう少しだけお世話になろうかね」

「大親分達なら、いくらでもいていいからな?なぁそうだろう、みんな?」

「「「うん!!!」」」

「そうか・・・ありがとう」

 俺の感謝の言葉に、キメルム達は笑ってくれた。

「この町にいる間、出来るだけこの町の再建、復興に手を貸すつもりだから」

「!?ありがとう、大親分!」

 ジャルベが俺に抱きついてきた。どうやら、俺がこの町に残ることが嬉しいようだ。俺に抱きつくほど嬉しいのだろうか。なら残ってよかったかもな。

「あー!?親分が大親分に抱きついているー!」

「私も抱きつくー!」

「俺も俺もー!」

「あ、おい・・・!?」

 ジャルベを皮切りに、どんどんキメルム達が俺に抱きつき始める。支えられなくなった俺は倒れる。

「ぷっ」

「「「あははは!!!」」」

 誰かが吹いた直後、みんな笑い始めた。

「さぁみんな!今日も頑張って働くぞ!」

「「「はい!!!」」」

 いつまでもリーフ達との別れを惜しむわけにはいかないからな。ここでしっかり働いて、リーフ達の恥にならないよう頑張るっていこう!


 一方、

「…本当に、私達だけでよかったの?」

 イブは二人に聞く。

「・・・どうしてそのようなことを聞くの?」

「…もしかしたら二人とも、本当はアヤトと一緒に・・・、」

「それは行きたいですよ。今更何を言っているのですか?」

 リーフはイブの問いに、当たり前のように答える。

「ですがそれですと、アヤトに甘えてしまいますからね。アヤトやルリちゃん、クロミルちゃんの強さに」

「「・・・」」

 リーフの言葉に、イブとクリムは黙って聞く。

「だから、アヤト達に頼られるくらい強くならないと、アヤトの隣にいられるように」

 リーフは持っている魔銀製の細剣を抜き、空に掲げる。

「私も今回、ルリちゃんと戦って自身の弱さを痛感しましたからね。一緒に強くなりましょう!・・・それでイブ、あなたはどうなんです?愛しい愛しいアヤトのところへ戻ります?」

 クリムの挑発的な問いに、少し不機嫌になりながらも答える。

「…私はもう、ただ守られるだけのお姫様は嫌。時に守られ、時に守る。そんなお姫様になる」

「ふふ。お姫様、ですか」

「!?」

 リーフがイブの言葉に笑う。リーフの笑いにより、自身が恥ずかしいことを言ったことに気付き、赤面する。

「・・・常にご飯を食べ続け、太って捨てられるお姫様、の間違いでなくて?」

「・・・そんなに死にたいのなら言えばよかったのに。今すぐ私が殺してあげる。この脳筋が」

「「・・・」」

 イブとクリムが互いを睨みつける。

「まぁまぁ、これから三人で魔の国に行くのですから、言い合いはこれくらいで・・・ね?」

 リーフは互いの肩を抱き寄せ、笑顔を見せる。

「・・・そう、ですね。ごめんなさい、イブ」

「…ん。さっきは言い過ぎた。謝罪する」

 二人は仲直りの握手を交わす。

「さ、これから強くなっていきますよ!」

「はい!アヤトと肩を並べられるくらい、強くなりましょう!」

「…ん!」

 こうして、三人は魔の国に向けて旅を始める。

 強くなって、ある男の助けになるために。

次回予告

『5-2-55(第442話) 三人の旅立ち後』

 リーフ、クリム、イブの三人が旅立った後、彩人、ルリ、クロミル、モミジ、レンカの五人は白の国に残っていた。そんな中、グードとシーナリが首都シロネリからゴーストタウンに来訪する。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。

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