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色を司りし者  作者: 彩 豊
第ニ章 鉛白な国の中にある魔道具と漆黒の意志
437/546

5-2-49(第436話) 死ぬ覚悟を持った女性聖職者

「別に構いませんよ。そのようなことで、キメルム達から少しでも信頼してもらえるのであれば」

 シーナリに、ジャルベが話した条件を伝えたところ、速攻で肯定してくれた。

「本当にいいのか?下手すれば殺される可能性だって・・・、」

「殺されたのであれば、甘んじて受け入れるつもりです。何せ私達は、それほどのことをしてしまったわけですから」

 どうやら、俺が思っていた以上にシーナリの決意は固いらしい。

「・・・本当によろしいのですか?何度も言いますが、あの子達は・・・、」

「ええ。いつでも死ぬ覚悟は出来ています。それほどのことをしてしまったわけですから」

 そう言い、シーナリは、キメルム達が今も生活しているあのゴーストタウンに向けて出発した。

(なんだか心配だな)

 シーナリに死なれたら困る・・・わけではないが、気分はあまりよくないので、理不尽に殺されないよう、影ながら監視でもしてみるか。ばれないよう、自身に透明化の魔法でもかけてみようかな。

 というわけで俺は、

「みなさん初めまして。私、白の国の首都、シロネリの教会に所属している聖職者であるシーナリです」

 シーナリとキメルム達を見始めた。

「・・・」

「?どうかしたのかしら、ドーカリ―?」

「いや、なんか大親分の匂いがするような、しないような?」

「?大親分なら今頃、シロネリで冒険者活動しているはずよ。ここにいるわけないと思うわよ?」

「そう、か。ならなんでもない」

 ・・・なんだろう。既に何人かこっちを見ている気がする。もしかして俺、ばれている?

「まず初めに一言、申してもよろしいでしょうか?」

 そう言うや否や、シーナリはいきなり荷物を地面におろし、膝を地面につけて・・・て、あれはまさか!?

「みなさんにこれまで、苦しく辛い思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。もし、私を殺して気が晴れるのなら、思う存分殺してください」

 ・・・あいつ、やりやがった。

(俺達にも言っていたが、まさか本当に言うとはな)

 これだと、キメルム達にいつ殺されても文句なんて言えないぞ?それにキメルム達のことだ。日頃溜まっている恨み辛みがシーナリにふりかかる・・・、

(ん?)

 なんかキメルム達の様子が変だな。

 俺はてっきり、キメルム全員がシーナリに襲い掛かり、四肢切断し、生き地獄を体現する様な拷問でもするかと思っていたのだが、そうではなかった。

 何故か全員、お互いを見つめ合い、動きを止めていたからである。

「・・・いいか?お前が少しでも怪しい行動をすれば、容赦なくその命を刈り取るからな?」

「ええ。その時は容赦なく私の息の根を止めていただいて構いません。ただもし、私の我が儘を聞いてくださるなら、」

「?」

 シーナリは自身の手を胸に当てる。

「私という人間を見て欲しいです。他の者達のことは今考えず、ひとまず私だけのことを見て、決断してください」

「「「・・・」」」

 シーナリの言葉に、キメルム達全員が動揺する。

「・・・それじゃあみんな、急に決まったことで申し訳ないが、よろしく頼む」

「「「・・・はい」」」

 ・・・本当に大丈夫なのだろうか?幸先不安だ。


 数日経過。

「・・・ふぅ。これくらい収穫すればいいですか?」

「え、えぇ。いいわよ」

「分かりました。それでは子供達の相手、してきますね?」

「よ、よろしく。私はこの近辺の植物の様子を確認しているから、何かあったら私に言いなさい」

「分かりました、ピクナミさん」

 シーナリはすっかり、キメルム達と馴染んでいた。

(くそ!どいつもこいつもリア充なのか!?)

 この世界にいる奴ら全員、他の人達とすぐ仲良くなる才能でも持っているのか!?俺なんて、地球では何度も何度も、他の人と友達になれるよう話しかけたり雑務を手伝ったりと色々しても仲良く出来ず、何度もいじめられたというのに・・・!

(本当、羨ましい・・・)

 シーナリのコミュニケーション能力の高さに見習う点はある。

「シーナリお姉ちゃ~ん!」

「あ、モグー君!」

 このゴーストタウンに住みついているキメルムの子供達は、すっかりシーナリに懐いている。

 例えば、今シーナリに飛びついたのは、このゴーストタウンに住んでいるキメルムの一人で、モグー、と言うらしい。なんでも、モグラのキメルムなんだとか。俺も最近知った子の一人である。

「・・・うん、今日も爪、綺麗にしているね。偉い偉い」

「えへへ~♪」

 そして、すっかり心を射止めていた。

「・・・あれ?もしかしてモグー君、右足、怪我していない?」

「え?・・・あ。もしかしたらさっき走った時についたのかも?」

「そうですか。では、私の白魔法で回復しますね」

「・・・おぉ~!治ったー!」

「はい。これでもう大丈夫ですからね」

「ありがとう!シーナリお姉ちゃ~ん!」

「遊ぶのもいいですが、明日は勉強ですからね」

「うん!またね!」

 そして、続々とシーナリの近くにキメルムの子供達が集まってくる。

(あいつ、どうしてここまで子供に慣れているんだ?)

 あ。教会でも子供達の相手をしているからか。それでここまで子供達に懐かれているのか。

(子供達の方は無事に信頼関係を築いているようだが、問題は・・・、)

「「「・・・」」」

 ジャルベやヴァーナ達、つまり、ある程度成長したキメルム達のことだ。あいつらはこの世界の醜い部分を何度も見てきたし、理不尽な仕打ちだって受けてきているはず。そんなやつらの塞ぎ切った心をどうこじ開けるか、だ。

さて、シーナリはどのようにして信頼を得るつもりなのだろうか?

 その日の晩、シーナリはジャルベやヴァーナ達を呼んでいた。

「それで、俺達に何か用か?」

「はい」

 シーナリは鞄から複数の羊皮紙を机に置き、ジャルベ達に見せる。

「・・・これは?」

「これは冒険者ギルドで貼ってあった依頼の一部です」

「・・・どうしてそんなものをわざわざ俺達に見せたんだ?」

「これを、冒険者としてあなた達にやってもらいたいのです」

「・・・正気か?」

 ジャルベはシーナリを睨みつける。ジャルベの睨みに対し、シーナリは真っすぐジャルベを見る。

「はい」

「・・・目的はなんだ?俺達に仕事を与え、金だけ搾取するつもりか?」

 ジャルベの言葉の意味を理解したヴァーナは、即座に警戒し、臨戦態勢になる。

「いえ。単純に仕事をし、お金をもらって生活する。そのような、シロネリに住んでいる者達が当たり前に営んでいる生活をみなさんにもしてほしい。そう思い、提案しただけです。もちろん、依頼の報酬金は全て、依頼を受けた者のものです」

「確か冒険者になるために、冒険者ギルドに行って登録する必要があるはずです。ここにいる全員が冒険者登録をするのに、それなりの時間がかかりますし、なにより登録している間に、他の冒険者達から理不尽な仕打ちを受けませんか?」

 ヴァーナの指摘が飛ぶ。

「それは問題ありません。リーフさんに相談したところ、ここでも冒険者登録が出来るよう色々手配してくれるとのことです。それに、冒険者ランクを上げれば、みなさまの声も、気持ちも必ず届くはずです。その声と気持ちは、今のジャルベさん達だけでなく、未来のジャルベさん、そしてモグー君達にも好影響が及びます。」

「・・・具体的には、どんな好影響があると考えているんだ?」

「今はまだ難しいかもしれませんが、いずれは堂々と首都を歩き、首都の人達と笑顔で挨拶し、毎日笑顔で生活出来るようにしていきたいと考えています」

「・・・今までお前が言った言葉が、全て真意だったと仮定して、一つ、聞かせてくれ」

「もちろん構いません。なんでしょう?」

 ジャルベは息を整え、シーナリを視界に捉える。

「お前は、俺達にここまでしてくれて、俺達に利があるということは分かった。それで、お前は?」

「え?」

「お前に何の利があるんだ?俺達にここまでしておいて、お前にどんな利があるのかまったく見当がつかない」

(確かに、今までの話を聞くとただシーナリがジャルベ達に奉仕しているだけに聞こえるな)

 シーナリの真意が分からないと、ジャルベ達も素直にシーナリの提案を受け入れられない。そういうことか。もし素直にシーナリの提案を素直に受け入れた場合、シーナリの思惑通りに動く、ということだからな。シーナリの思惑が分からないと素直に頷けない。そんなところか。

「・・・利なんてそんなもの、ありません」

 え?それじゃあシーナリは一体なんの為に動いているんだ?

「私は・・・いえ。私達はこれまで、あなた達キメルムを理不尽に迫害し、苦しい思いをさせてしまいました。なのでこれは、私達があなた達キメルムに対する贖罪なのです。ですので、今の私の行動に、一切利がないのは当然だと思っています」

(そう、か)

 ・・・俺も、両親にはかなり迷惑をかけていたな。その贖罪としてなにかすべきだっただろうが、何かする前に死んでしまったからな。結果として、俺はただ親に迷惑をかけた親不孝な子供になっちまったな。シーナリの言葉を聞いて、ふと俺の両親のことを思い出してしまった。

「・・・ちなみに、どんな依頼を持ってきたんだ?」

 ジャルベは複数の羊皮紙を見ながらシーナリに問う。

「はい。キメルムのみなさんは、基本的に他の冒険者より強いので、比較的魔獣討伐の依頼が多いです。もちろん、討伐する魔獣の情報は知っている限りお伝えするつもりです」

「比較的?これ全部、魔獣討伐の依頼なんじゃないのか?」

「はい。例えば・・・、」

 シーナリは、机に散らばっている羊皮紙を見て、ある一枚を手に取る。

「ピクナミさんは、様々な植物に精通していますので、この植物の育成に関する依頼がオススメかと。後、モグー君はかなり手先が器用ですので、この衣服作成の手伝いの依頼なんかもおススメです。後・・・、」

「「・・・」」

 ジャルベとヴァーナは、その後も話し続けているシーナリの言葉を、黙々と聞いていく。

(こいつ、ちゃんとこいつらキメルム達のことを見ているな)

 シーナリの話の様子、まるで好きなものを早口で語り続けるオタクのようだ。俺だったら絶対に出来ない芸当だな。

「・・・これで、受けてくれるでしょうか?あ、もちろん、受けなくても構いませんよ?私はあくまで斡旋しているだけであって、強制しているわけではありませんから」

「分かった。それじゃあ・・・これと・・・これを受けさせてもらう」

「分かりました。それじゃあ私はひとまず、冒険者ギルドまで行って報告してきますね」

 シーナリは、ジャルベ達が受けなかった依頼書をまとめる。

「いずれ、シロネリを堂々と歩けるような、そんな地位を確立していきたいです」

「・・・そう、だな。モグー達のためにも」

「そうですけど、それだけではありませんよ?」

「?それだけじゃない、だと?それ以外に何があるんだ?」

「そんなの、決まっているじゃないですか」

 シーナリは笑顔で、ジャルベとヴァーナに伝える。

「あなた達、ジャルベさん達のためでもあります。ジャルベさん達がいずれ、笑顔でシロネリを歩けるように。シロネリに住む人々が、ジャルベさん達に優しくするような、そんな国にしていきます。だって、」

 シーナリはジャルベに近づき、口角をあげる。

「ジャルベさん達の笑顔、とっても素敵ですから。それでは」

 シーナリは少し気恥ずかしそうに、ジャルベ達の前から去っていった。

「・・・確かにあの者は、よく親分を見ているようですね」

「・・・なんだよ。何が言いたい?」

 赤くなった顔を隠したまま、口角が少し上がっているヴァーナに質問する。

「親分の笑顔はとても、とても素敵ですから」

 ヴァーナの真っすぐな言葉に、

「・・・ありがと」

 ジャルベはヴァーナの顔を見ずに、お礼の言葉を言う。その様子を見たヴァーナは、ジャルベの様子に再び口角を上げたのだった。


「・・・ふぅ」

 ジャルベとヴァーナの視界から外れたシーナリは、二人に聞こえない程度の息を吐く。

「さて、これから冒険者ギルドに向かって、これらの依頼を受注しませんと。後、ジャルベさん達が冒険者登録出来るための手配がどれほど進んでいるのか聞きませんと。それから、みなさんのために美味しい差し入れを・・・、」

(!?危ない!!??)

 シーナリが倒れそうだったので、俺は慌ててシーナリの体を支える。

「?どうして私、浮いているの?」

「俺が支えているからだよ」

 俺はシーナリに声をかけた後、姿を現す。

「!!??あ、アヤトさん!!!???」

 どうやら、俺がいきなり現れてとても驚いたらしい。それもそうか。シーナリからすれば、いきなり目の前に知り合いが現れたわけだからな。地球だったら怪談に出来そうな体験だな。

「どうしてアヤトさんがここに!!??」

「落ち着け。ジャルベ達に聞こえるぞ?」

「!?」

 シーナリは慌てて口を塞ぐも、すぐに塞いだ手をどかし、口を開ける。

「それで、どうしてアヤトさんがこちらに?」

「ちょっと心配でな」

 俺は軽く話をする。

「それでお前、寝ていないだろう?」

 俺の言葉に、シーナリは一瞬体を震わせる。

「い、いや、一体何の事ですか?見ての通り私は・・・、」

「いや、さっきぶっ倒れそうになっていただろう?そんな奴が元気なわけあるかよ」

「・・・」

 俺が冷静に返したら、シーナリは黙ってしまった。俺が図星をついてしまったからか。

「あれだけ毎日動き回っているんだから仕方がないか。小さな子供達の面倒を見て、ジャルベ達の個性を見極め、その個性に適した依頼を見繕い、冒険者ギルドと話をつける。たった一人でそこまでやるなんて無茶だろ?誰かに手伝ってもらうとか・・・、」

「いえ!これは私一人でやらなくては!」

 シーナリは自身の声量の大きさに気付き、すぐに自身の口を紡ぐ。その直後、紡いだ口を小さく開く。

「私一人でやらなくてはなりません。私が一人でやらないと、何のためにここにいるのか分からないじゃないですか。だから、」

 シーナリは俺の支えから離れる。

「私は大丈夫です」

「・・・」

 俺は無言で、シーナリに空手チョップで制裁した。

「あいた!!??ちょ、なんでいきなり私に・・・!?」

「それでお前が無茶して倒れたら、お前に懐いている奴らが悲しむだろうが」

「!?だ、大丈夫です。こう見えて私、白魔法に適性がありますから、いざという時は白魔法で・・・、」

「確かに白魔法なら回復出来るが、魔力が減り過ぎると倦怠感が出てくる上に、魔力切れで倒れる可能性だってある。それらの可能性を踏まえて言っているのか?」

「だから、魔力を使い過ぎないように調整して・・・、」

「調整出来なかったから、さっき倒れそうになったんじゃないのか?それにお前の今の魔力量からして、白魔法で回復出来るとしても何回も使えないんじゃないのか?元々の魔力量が少ないのか、使い過ぎて減っているのかまでは分からないが」

「!?そ、それは・・・、」

 どうやらシーナリに心当たりがあるらしい。分かりやすく動揺したな。

「とはいえ、シーナリの気持ちも無駄にしたくない。だから、」

 俺は白魔法で、シーナリを回復させる。

「!?これは白魔法!?アヤトさん、白魔法に適性があるのですか!?」

「ま、まぁ、今はそんなことどうでもいいじゃないか」

 急いで話題を変えよう。自分の話題になると、ちょっと気恥ずかしくなるしな。

「今回だけだ。今回は見逃す。だが、次は問答無用で・・・、」

 俺はあえて最後まで言わなかった。

「・・・あの、次は問答無用で、なんですか?」

「・・・まぁ、頑張れ」

「何故最後まで言わないのですか!?」

 さて、これで次は無茶な事はしないだろう。例えしたとしても、誰かが助けるはず。その誰かに、俺も入っているのだから。

(さて、今の内に俺は消えるとするか)

 ジャルベ達にばれたら面倒だからな。


 それからも俺は、暇を見つけてはシーナリの活動を見続けた。

 その結果、

「シーナリお姉ちゃん、おはよー!」

「シーナリさん、今日の朝ご飯はちょっと豪華だよー。楽しみにしていてねー♪」

「はーい!」

 シーナリは、みんなに話しかけ、アイドルみたいになっていた。もうね、羨ましい。俺が地球でシーナリと同じ行動をとったら、シーナリみたいな人気者になることが出来るのだろうか。そんなことを想ってしまうな。

(さて、そろそろだな)

 これから始めるとするか。

 キメルム達へのお礼のために。

 そして、キメルム達とシーナリとの関係をよりよくするために。

 俺は兼ねてから考えていたことを現実にしようと、動き始めることにした。

次回予告

『5-2-50(第437話) 仲をより深めるために』

 シーナリがキメルム達と馴染もうと頑張っている中、彩人は宴会の開催を提案する。

 その提案にクリム、イブ、リーフ、ルリ、クロミル、モミジ、レンカは賛成し、準備を始めていく。


 こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。

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