5-2-48(第435話) キメルム達への報告、未だ消えぬ痛み
話し合いを終えて部屋から出たら、クリム、イブ、モミジが外にいた。どうしてここにいるのか聞いてみたら、
「外で警戒していました」
「…万が一、襲撃される可能性があると思って、周囲を警戒していたんだけど、無駄だった」
「アヤトさんがご無事でよかったです」
とのことだった。
それじゃあルリ、クロミルの2人は一体どこに・・・?
「ルリちゃん、魔獣を討伐したいと言い、冒険者ギルドに向かいましたよ?」
「…ん。クロミルはルリの付き添い」
ルリはどうやら魔獣討伐に行っているらしい。ルリのやつ、マイペースだな。
「これからジャルベ達と話をしたい。今どこにいるか知っているか?」
さて、ジャルベ達はどんな反応をするだろうか。
俺は話し合いをする為、大きめの部屋を借り、そこにジャルベ、ヴァーナの二人を招いた。そして、俺達の方は、俺とリーフの二人だ。これで人数的に対等なので、物量によるいじめは起きないだろう。まぁ、俺がいじめをするなんて夢物語、絶対現実で起きないと思うが。どちらかというと、俺がいじめを受ける立場で・・・嫌な気分になってしまった。
「それで大親分、俺達に話って?」
「ああ。話というのはな・・・、」
俺は、先日グードと話した内容を伝える。
すると、ジャルベとヴァーナは苦い顔をしてきた。
「・・・大親分、あいつらが俺達にしてきたこと、忘れたわけじゃないよな?」
「ああ、もちろんだ」
「その上で、散々私達を理不尽に殺し、あらゆるものを奪ってきた者達と今までの出来事を全て忘れて過ごせと、こう仰っているのですか?」
「いや、それは違う」
俺はヴァーナの言葉を正面切って否定する。
(やっぱ否定するか)
俺が言っているのは、いじめられっ子に対して、いじめっ子と共に生活しろ、ということだ。いじめの内容は地球以上に残酷だが、大体似たようなことだろう。
(俺が同じことを言われたら、間違いなく反対するだろう)
人にやられて嫌なことはしない。そんな当たり前のことが出来ていない俺の言葉なんて聞かないかもしれない。
けど、言わなきゃな。
「もちろん、お前らには拒否権がある。嫌なら嫌と言ってくれ。そうしたら俺の方で行っておくから。その上で聞いてほしい」
俺は俺なりの言葉で、しっかりジャルベとヴァーナに伝える。
「お前らが、過去にどんな扱いを受けてきたのか多少聞いた。もちろん、俺が聞いたのは一部だけだから、お前らの苦しみ、辛さを全て聞いたわけではないし、全部聞いたところで完全に理解出来るとは思えない」
俺の言葉をジャルベとヴァーナは黙って聞いてくれている。ありがたいな。
「・・・だが俺には、似たような経験がある。俺は昔・・・、」
ここで俺は、地球での俺のことを話し始めた。
昔、俺は家族以外の人間からいじめられ続けたこと。
そのいじめをやめてもらおうと、最初は何度も話しかけてみたところ、話に応じてもらえず、結局逃げたこと。
逃げた俺を、家族が支えてくれたこと。
それらのことを、若干ぼかしながら話す。ここで俺が別の世界から来たということがばれても話がややこしくなるからな。
「・・・そしてある日、両親が死んだ」
「「「「!!!!????」」」」
まぁ、嘘だけどな。死んだのは俺の方なのだからな。
「最初、俺はもう誰とも話をしないと思い、独りで生活していた。それはもう、レンカ、リーフに会う前からな」
あの森での生活が懐かしいな。最初、魔法の使い方が分からず、自分の体を何度も傷つけてしまい、苦労したな。
「それこそ、最初はジャルベ、ヴァーナと同じような考え方をしていたんだ。俺をいじめる奴らと一緒に過ごしたくない。そんな奴らと過ごすくらいなら、ずっと独りでいようと」
「・・・それじゃあ、どうして今、ここにいるんだ?」
ジャルベが俺に質問してきたので、質問に答える。
「最初はくだらない理由だった。魚が食べたくて町に行った。ただそれだけだった。それがいつの間にか、リーフがいて、クリムがいて、イブがいて、ルリがいて、クロミルがいて、モミジがいて、レンカがいた。そして、気づいたんだ。俺は、あるものが欲しかったのだと」
「あるものとは?」
「大切にしたい仲間。もしくは家族、かな」
そう。
地球にいた時の俺にあって、この世界に来たばかりの俺になかったもの。それは家族。
地球にいたときの俺は、いじめられても、家族という存在があったから、十何年も生き続けることが出来たのだと思っている。
それに対して、この世界に来たばかりの俺は、独り。
その状況でいじめられたら、誰も俺を支えてくれず、すぐに自我を失い、暴走していただろう。
「ジャルベ、お前にはたくさんの家族がいるよな。ヴァーナとか、ピクナミとか、サキュラとか、サキュリとか」
他のキメルム達の名前は知らん。聞いたかもしれないが、これ以上は忘れてしまった。まぁ、ジャルベなら全員の名前くらい覚えているだろう。
「俺は、家族がいたからここまで頑張れた。独りだったら自分のことだけで手一杯でお前らのことなど眼中になく見捨てていただろう」
「「・・・」」
俺の言葉に、ジャルベとヴァーナは見守る。
「家族のために頑張る。それはもちろんだと思うし、凄いことだと思う。そして、ジャルベ達は自身の家族を大切にしている。なら、次の段階に進むべきなんじゃないかと思う」
「次の段階ってなんだよ?」
「・・・大切にしたい、守りたいという思いを、家族以外に向けることだ、と俺は思っている」
もちろん、間違っていることだってあるだろうし、納得なんてしないかもしれない。なにせ、これは俺の持論なのだから。
「俺は今まで、家族優先で守ってきたし、戦ってきた。その中には、大切な家族を護ることが出来ず、危険な目に遭わせてしまったこともある」
緑の国の件は、本当に思い出したくないな。俺にもっと力があれば、クリム、イブ、リーフの三人を守ることが出来たのにな。
「何が言いたいかというと、俺だけじゃあ、独りだけじゃあ守ることが出来ない時だってある。それでも守りたい時は、家族と共に協力する。それでも出来ない時がきっとくる」
「そんなことはない!俺達は今まで家族だけで過ごしてきた!他の奴らと協力するだと?そんなこと、絶対にない!してたまるか!」
家族だけで過ごしてきた、ねぇ・・・。
「・・・先日、親分が暴走した時、大親分が助けてくれましたよね?」
「そ、それは・・・、」
ヴァーナの一言に、ジャルベは固まる。
「大親分はきっと、これからのことを危惧しているのだと思います。これからも私達だけで生活出来るのか、と」
「・・・そのために、今まで裏切ってきた奴らと協力しろ、と?」
「それは違う」
ジャルベの言葉に対して、俺は否定の言葉を入れる。
「今まで裏切ってきた奴らと協力するんじゃない。信じられる奴らと協力するんだ」
「信じられる奴ら、だと?」
「ああ。お前らがその目で見て、行動を共にし、信じられると思った奴とだけ協力すればいい。どうだ?」
これで嫌なら素直に諦めるか。
「「・・・」」
・・・どうやらジャルベとヴァーナは何か考え込んでいるらしい。
が、
(どうやら、否定的みたいだな)
まぁ今回は、運が悪かったと思って諦めるか。
「あの、ちょっといいですか?」
俺が諦めていたら、リーフがジャルベ、ヴァーナに話を振る。
「お二人がどのような答えを持っているのか分かりませんが、一つ、私の言葉を聞いてください」
(一体何を言うのだろうか?)
黙って聞いておくとしよう。
「先日、あなた方はルリちゃん、そしてクロミルちゃんを助けてくれました。ですが、ルリちゃんとクロミルちゃんは、キメルムではありません。どうして、あなた方と血が繋がっていないお二人を助けてくれたのですか?」
「そんなの、大親分の仲間だからだ!大親分の仲間だから、助けなくちゃ、と思って。だから・・・!」
「私も親分の考えに同意です。私に・・・いえ。私達に手を差しのべてくれた大親分を助けたい。その一心で動きました」
「アヤトも同じです。ルリちゃんとクロミルちゃんを助けてくれたみんなに手を差しのべようと、ここまでしてくれたのです。その気持ちを、あなた方が抱いた気持ちを少しでも理解してくれると嬉しいです」
「「・・・」」
リーフの言葉を聞いたジャルベ、ヴァーナは黙り、みつめあう。
(リーフ・・・、)
まさかリーフがそこまで考えていたとは・・・。流石、いざという時は頼りになるぅ~!そこに痺れる、憧れる!
(これでいつも寝ていなければ完璧なんだけどな)
まぁ、人より寝る時間、寝る回数が多いだけだし、そこまで問題ではないか。
「・・・」
・・・なんかリーフがこちらを睨んでいるような気がする。もしかして、俺の考えが読まれたのか?いや、気のせいだ。気のせいだと思いたい。
「「・・・」」
ジャルベとヴァーナとの二人が今も互いを見つめ合い続けている。恋愛脳なら同性愛を疑いそうだ。
「・・・俺達が信じられないと判断したら、即座に切り捨てるぞ?」
「出来るだけ、寛大な対応を頼む」
「・・・条件によっては、だからな?」
「それでよろしく頼む」
少し聞いたところ、ジャルベから条件について聞いた。
その条件というのは、ジャルベ達と共に暮らす者、シーナリと事前に何日か過ごさせてもらう、とのことだった。
(お試し期間、ということだな)
事前に話を通す必要はありそうだな。
果たしてシーナリは、ジャルベが提示した条件を素直にのんでくれるだろうか。
次回予告
『5-2-49(第436話) 死ぬ覚悟を持った女性聖職者』
彩人は、ジャルベ達との話をそのままシーナリに伝える。
そしてシーナリは。死ぬのであれば死んでも構わない、と了承する。
こんな感じの次回予告となりましたが、どうでしょうか。
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